「不可視の両刃」放射線に挑む~英国大学院博士課程留学~

英国に留学して放射線研究に取り組む日本人医師ブログ

ラングドン・ウォーナーと「ウォーナーリスト」

2018-06-08 | 雑記
明日6月9日は、考古学者・美術史学者ラングドン・ウォーナー Langdon Warnerの命日です。スピルバーグ監督の『インディアナ・ジョーンズIndiana Jones』のモデルの1人といわれ、ハーバード大学で教授をつとめた彼には、生前には瑞宝章が授与され、死後も鎌倉などでは慰霊祭が例年行われてきました。

それは所謂「ウォーナーリスト」伝説のためです。

1945年、朝日新聞が報じた『京都・奈良無疵の裏』という記事の中で、「ウォーナーが日本にある歴史的価値が高い文化財のリストを作成したおかげで、それらの文化財を守る意図が働き、京都や奈良などの日本の古都への空爆がなかったのだ」と美談風に紹介されました。
GHQによる日本統治をサポートするためもあったのかもしれませんが、「京都を空爆しなかったのは米国人学者ウォーナー教授のおかげだったんだよ、とても有り難いことだよ、感謝しなよ」という話が大した裏付けも取られずにそのまま記事にされてしまったのですから、今日的視点からすると、色々と問題があったかもしれませんね。
この話を真に受けた方々によって、京都や鎌倉の各地にはウォーナーの像が建立され、今でも彼への感謝が捧げられています。なんと勲章まであげてしまう始末です。

うわ~、ウォーナーさんのおかげで京都は無事だったんだね~。
すごいね~、感謝しなくちゃいけないね~。
ありがとう、ウォーナーさん!

そう無邪気に信じてあげられたら、どんなに良かったことでしょうか。
当然ですが、一介のインディー・ジョーンズごときに、米軍の空爆目標を変える力などあるはずもなく。現在では、様々な近現代史研究の成果もあり、ウォーナーリストにまつわる伝説を鵜呑みにすることは出来ない状態です。
私自身は信じていません。
たしかにウォーナーによって日本が保有する文化財のリストは作成されたようですが、おそらく、それは太平洋戦争による戦禍で失われることを防ぐために作ったものではなく、日本の戦後賠償能力の査定などに用いられたのではないでしょうか。ウォーナーも、一体何を思いながら、日本からの勲章を受け取ったのでしょうか。日本のために何らかの優れた貢献をしたと彼は本気で信じていたのでしょうか。

実は、私は鎌倉にある中学・高校の出身でして、鎌倉駅前にウォーナー顕彰碑が建立されているのは子供の頃から知っていました(最近までウォーナー慰霊祭が鎌倉で例年行われていることまでは知りませんでした)。とはいえ、昔から「日本が守り継承してきた歴史的文化財が戦禍で失われなかったのはウォーナー氏のおかげだからここに顕彰します」という論法には胡散臭さを感じていました。
そもそも軍事施設以外への空爆を容認したくないし、広島、長崎への原爆投下も認めたくない私には、「米軍が空爆しなかったことに感謝しろ」という話にはちょっと付き合いきれないものがありました。その顕彰活動の背後には何らかの思惑があるのではないかと疑ってしまう程度にはひねくれていましたね。大人になってから、ウォーナーリスト伝説には実は様々な異説があることを知り、なんとなく納得したものです。

個人的には、京都が大規模な空爆を(たまたま)免れたのは原爆の投下候補地だったからという説を採りたいと思っています。他人様がどうしてもウォーナーに感謝したいというのならば止めはしませんが、私自身は彼に感謝したいとは思いません。


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