中学一年の課程を終えて迎えた春休みのある日、
一匹のワンコが家族の一員となった。
耳が大きくピンっと立ち、
周りの人にはよく、『バンビみたいだねぇ』と言われた。
警戒心が強く家族以外の人に馴れるまでには、
ちょっと時間がかかる犬だった。
家に来たのは生後2ヶ月~3ヶ月位だっただろうか。
よくある子供が犬を拾って来てしまい、
親に『絶対自分で面倒見るからぁ~飼っていいでしょ~』と、
頼み込むというパターンで一つ年上の兄が連れて帰って来たのだ。
父は大の動物好き。
コロコロと転がってしまいそうな小さな体型と
愛くるしい顔のその犬をまともに見てしまったら
『ダメだっ!元の場所に捨ててきなさいっ!』などと
言える筈もなく、
『全くしょうがないなぁ~・・・』とブツブツ言いながらも、
『じゃ、コイツの名前はコロだ!』
何とも単純明快な命名となった。
父の酒のつまみである刺身が大好物で、
貰えるまで横に座り、ヨダレを垂らして待ってたっけね。
多摩川へ自転車で出掛け、土手沿いをコロに引っ張ってもらい、
「うっほ~!楽ちぃ~~ん♪」なんてはしゃいで帰って
コロの足の裏見たら肉球がベロンと剥けちゃってたね。
車が苦手でいつも足元にベタァ~っと伏せちゃって
目的地に着くまで動かなかった臆病者のコロ。
コロが来て3年7ヶ月が経った時、
コロの大好きだった父が入院してる病院から一本の電話・・・
「血圧がかなり低下してる・・人の識別も分からなくなってる」
信じられない言葉にただただ呆然としていた。
でも、動物って不思議ですね。
本当は泣きたいのに、感情を抑え
だけど、不安にしているあたしの気持ちを察し、
ピッタリと寄り添って座ってくれたコロ。
そんなコロの優しい気持ちに、我慢していた涙が一気に溢れ出た。
そしてその涙をペロペロと舐めてくれた・・・。
無言でぎゅ~っとコロを抱きしめたら嗚咽が部屋を響かせた。
特別大きな怪我や病気もせず月日が流れ、
あたしも結婚し家を出た。
コロ、10歳の終わり。
長男が生まれ、お彼岸に実家に戻った時、
コロの様子が変だった。
元気がなく寝てばかりなのだ。
『食べる量も少ないし、散歩には行くけどすぐに帰りたがる
もう年なんだろうねぇ。』と母。
受け入れたくない事実だった。
「すぐ元気になるよ!今だけだよね?コロ!」
自分に言い聞かすように納得し実家を後にした数日後、
『コロ、旅立ったから・・・』
母からの電話。
ごめんね、コロ。
あの時会ったのに何もしてあげなかった・・・
コロの苦しい思い、察してあげることさえ出来なかった・・・
父の危篤の知らせの時、コロは優しく寄り添ってくれたのに。
後から聞くと、肺がんの末期だったそうだ。
体力的に無理がある事から手術を施す事が出来なかった。
それにもう手遅れの状態だったと。
薬で延命させ、苦しむ姿を見ながら過ごすか、
それとも安楽死の道を選び、ゆっくり眠りについてもらうか・・・
後者を選んだ母。
フルタイム勤務していた母は、日中誰もいない部屋で
一人寂しく息を引き取る可能性がある前者を選ぶのなら、
その姿を看取ってあげる事の出来る後者の方がいいと。
いずれにしても母にとって苦渋の選択だったと思う。
コロ、11歳の春。
そしてコロが旅立った日が平成6年4月4日。
もうじき丸12年が経つ。
今度実家へ帰省した時、
コロのお墓へ行き、コロに会って来ようかな。
コロ!大好きな父と天国でたっくさん遊んでますか?
つまみのお刺身、貰ってる?