
年始は赤岳展望荘(2722m)で寝正月。

凍り付いた扉1枚を隔てて中はまるで別世界。

スタッフの方から、「お疲れ様〜 寒かったでしょう」と暖かいおしるこをいただきました。
冷えた身体をじわりじわりと暖めてくれます。
宿泊者は、暖かいお茶とコーヒーも無料飲み放題だそうで、これはうれしいですね!

宿泊棟には、冷え冷えの凍てついたトンネルを抜けていきます。

この日は空いているとのことで、個室に宿泊することにしました。料金は2食付きで1万円しないのはうれしい。
これは赤岳鉱泉の素泊まり個室よりも安く、それでいておもてなし度は展望小屋のほうが断然に格上。
鉱泉小屋では、チェックイン時の事務的な手続きでしか言葉を交わすことがなく、ペッパー君あたりでもこなせそうなホスピタリティで少しがっかりでした。
女性客の増加傾向を受けてパウダールームの導入とかハード面で色々な改善を施しておられるようですが、ソフト面でのおもてなし感は年々気薄化してきてるように自分は感じてなりません。
例えば、今回の宿泊ではチェックイン時に、お疲れ様でしたとか、記述した山行予定を見て天気が良くてよかったですね、とかたわいもない言葉を交わすこともなく、宿泊簿に書いてお金を支払って終わり。言葉を交わしたのは確か、お名前は?、こちらに記入ください、個室料を追加でいただきます、ちょうどいただきます、部屋の位置の説明、消灯は9時です、だけだったかな。必要最低限のコミュニケーションはさながらビジネスホテルですね。
宿泊人数が展望荘とは比較にならないほど多いでしょうから、宿泊者1人1人に費やせる時間もおもてなしも希薄化するのはわからないわけでもないですが、、。
山小屋もビジネスとして利益獲得拡大を捉えるとするならば、いっそのこと今の無機質で事務的なチェックインをペッパーくんなり自動受付機にまかせて、スタッフの労力をもっと人でしか成し得ない別のバリューへとシフトしたほうがいいのでは?なんても思います。

展望小屋に話しを戻して、部屋からの眺望は最高。赤岳稜線の向こうに雄大な富士山を眺めることができます。日中、暖かい日差しが入ってきて快適そのもの。
夜はずっとストーブがついていて、備え付けの布団だけで十分。寝袋いらずで、せっかく持ってきたけれど、圧縮袋から出さないままでした。

お正月に富士山、なんだかご利益ありそうなシチュエーションに日の出でもないのに思わず手をあわせてしまいます。どうか年末ジャンボが当たってますように〜

夕食はバイキング。いやぁ〜うまい! 同じく単独行の方と一緒にわいわいと山談義しながら楽しくいただくことができました。毎年の常連さんが多く、来年またココで再会しましょう!と約束を交わして。

な、なんと日本酒飲み放題付き。そして、「皆さん、生ハム食べてくださいね〜」とお皿一杯に生ハムが!
(写真はすでに無くなった状態です。)

この生ハム、なんと骨付きブロックから削り落とすやつ。イタリアンバルによく見かけるやつですね。これはインパクト大やわ。
ここは物資の調達がままならない冬場の稜線にある小屋です。

参考までに、こちらが鉱泉小屋名物のステーキ。
山深い中で、この分厚く大きな肉はインパクト大ですね。
これは赤身の肉に脂肪を人工的に注入した成形肉、いわゆるインジェクションミートで、こだわりのポイントが展望荘とやや異なることが見てとれます。

展望小屋に話しを戻して、朝食もバイキングでした。寿袋のお箸がうれしい。そしてお雑煮がいただけるなんて、有り難い。
さて、お腹も一杯になったところで、今日の予定は硫黄岳へ向かい、赤岳鉱泉小屋を経て美濃戸へという予定♪
小屋の皆様、そして夕食朝食でご一緒させていただいた皆様、楽しいひとときをありがとうございました。
出発準備をして、いざ、扉を開けましたら。。

風雪がすさまじく耳がいたい。。
この状況からして、硫黄岳辺りの吹き上げはもっと凄まじいだろうと、とっさの判断で硫黄岳に行くのは断念、でも赤岳山頂を経て来た道を辿って帰るには、頂上直下での滑落リスクが普段以上に高いと思い、
展望荘からすぐ近くの地蔵尾根を通じて行者小屋へと通じる難所を避けた最短ルートで下山することにしました。
ただ、地蔵尾根から下るのはなにせ20年ぶりくらいで記憶がほとんどない。そして、あれれ、あるはずのトレースがない。。
尾根の分岐点はわかるのだけど、そこから1歩進むとまったくトレースがなく、すぐ近くにあるはずの目印になるお地蔵さんが視認できない、、(汗
そして、見渡す限り、先行者も後続者もなく、自分独りしかいない。
そんな状況でどっちだったっけな、、なんて悠長なことをいってられないわけで。。そうしてるうちに自分がたどってきた踏み跡も一瞬で消されてゆく。トレースがないところを方向見失ったらもう小屋にも戻れない。
ヤバい、滑落をしたり雪屁を踏み抜いたりしなくても、迷いさまようことで低体温症にやられてしまう。
このときはさすがに身震いしました。寒いからではなく、あ、今日もしかしたら死ぬかもしれない、という恐怖からの身震い。小槍から滑落し宙ぶらりんになった時の身震いと同じ。

そして、お地蔵さんを探しまわること10分くらいでしょうか、かなり長く感じた10分でしたが、右にいったり左にいったりして、ようやくお地蔵さんに辿り着くことができました。死なずにすんだ!
あと10分も迷い、そしてホワイトアウトにでもなれば、、今思い返すだけでもゾッとします。
でも、一方で、もしも迷って小屋に帰れなかったらスコップで雪洞作って、、あ、でもこの雪だと固めるの時間がかかるなぁ、風上はどっちだろう、なんてことを頭に想い浮かべながらお地蔵さん探しをする妙に冷静なところもありました。万一のため、冬用寝袋にマット、ツェルトにローソクを担いでいたので、雪洞でどうにかなるという少しの余裕が、お地蔵さんへと導いてくれたのかもしれません。
これがもしもビバークに必要なものを何も持たず空身で来てたら多分、パニックになり冷静に行動できず、お地蔵さんまで辿りつけなかったと思います。
ほんの昨日まで、小屋の布団で十分、寝袋はいらないから次来るときは空身で、なんて考えてましたから、この浅はかさを猛反省です。ほんと持ってきてたからこそ命拾いした。
あと、単独行でよかった。もし、連れを伴ってたら互いに気遣いしすぎて判断を誤ってたかもしれません。

ほどなくして無事、行者小屋に到着。
下山してからニュースで知ったのですが、同日に八ヶ岳でお一人、低体温症でお亡くなりになられたとのこと。
この時期に独りで山を登られるということは、山がとても好きだった方でしょう。故人のご冥福をお祈り致します。