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伊藤 恵 ピアノ・リサイタル

2014年05月02日 | pocknのコンサート感想録2014
4月29日(火)伊藤 恵 ピアノ・リサイタル 
~新・春をはこぶ8年連続コンサート Vol.Ⅶ~
紀尾井ホール


【曲目】
1.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第8番 ハ短調 Op.13 「悲 愴」
2.武満 徹/フォー・アウェイ
3.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第18番 変ホ長調 Op.31-3
4.シューベルト/ピアノ・ソナタ第18番 ト長調 D.894「幻 想」

【アンコール】
ベートーヴェン/悲愴ソナタ~第3楽章

毎年4月29日に行われる伊藤恵さんのリサイタルシリーズ「新・春をはこぶコンサート」に今年も夫婦で出かけた。

いつもは春らしい明るい色のドレスが多いが、今日の恵さんのコスチュームはシックな黒。そんな黒の重い雰囲気で、「悲愴ソナタ」のグラーヴェが始まった。じっくり、たっぷり、思いを込めて熱く語りかけてくる。その「思い」はアレグロに突入してからも続き、第1楽章のみならず、全曲に渡って恵さんの強い意思が感じられた。ウエットな情感がこもった「悲愴」だった。

続いて演奏したのは、ガラリと雰囲気が異なる武満作品。恵さんの武満を聴くのは初めてだったが、音がどれも生きていて、音そのものに意思が宿っているのを感じた。いつでも人の心に寄り添うようにピアノを奏でる恵さんは、現代の作品でも温かみのあるアットホームな雰囲気をもたらすが、キラッと光るちょっとよそ行きな美しい音色も聴こえてきた。

再びベートーヴェンのソナタ。この曲もじっくり、たっぷりと始まった。軽快な楽想でも、軽やかというより思いを確かめながら進む感じで進んで行ったが、第4楽章では自信に満ちた推進力を得て気分を盛り上げた。恵さんのベートーヴェンを聴いたことはそれほど多くないが、今日の演奏を聴いて「一途で熱いプライベートな独白」という印象を持った。

このプライベートな独白は、自分の中にあるベートーヴェン像とはぴったりと来ないところがあったのだが、後半のシューベルトのソナタでは、恵さんの思いがいつもの通りにシューベルトの詩情に乗り、優しく、哀しく、温かく訴えかけてきて、「やっぱり恵さんのシューベルトはいいな」と感じた。それは確かなのだが、今日の「幻想ソナタ」からは、以前恵さんのシューベルトの演奏を聴いて得たような陶酔感や、心の琴線に触れる深い共感にまでは至れなかった。何が理由かはうまく言えないが、豊かな楽想に溢れるシューベルトの音楽が、どこか一本調子のように聴こえてしまう気はした。

そのシューベルト晩年の傑作群をまとめて取り上げるという来年のリサイタルには期待したい。

伊藤 恵/新・春をはこぶコンサートVol.Ⅵ 2013.4.29

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