10月21日(水)ギドン・クレーメル(Vn)/クレメラータ・バルティカ
サントリーホール
【曲目】
1.ラスカトフ/『四季』からのダイジェスト(チャイコフスキー『四季』Op.37aによる)

~1月:炉端にて、5月:白夜、12月:クリスマス
2. グラス/ヴァイオリン協奏曲第2番 「アメリカの四季」

3.梅林茂/日本の四季<委嘱新作>
4.ピアソラ/ブエノスアイレスの四季


【アンコール】
1.ピアソラ/オヴリビオン
2.ワインベルク:ボニファッチホリデイズ
以前は度々コンサートを聴きに行くヴァイオリニストの一人だったクレーメルを11年ぶりに聴いた。たまたま FM で聴いて気に入って以来、ちゃんと聴いてみたいと思っていた「ブエノスアイレスの四季」をやるというので聴きに行くことにした。
クレメラータ・バルティカと言えば、鋭い感性でアグレッシブに斬り込んでくる演奏スタイルをイメージするが、最初の「 1 月:炉端にて」で歌いかけてきたメロディーはなんとも温かくノスタルジックで、柔らかな響きが心に溶け込んでくるようだった。このアンサンブルは、こういう語り口も絶品だということを認識した。
ラスカトフの「《四季》からのダイジェスト」はチャイコフスキーの同名のピアノ曲を現代風にアレンジした作品ということだが、キーボードやおもちゃの笛なども用い、意外なハーモニーやリズムが薬味としてピリッと効いていて、斬新なイメージを与えて面白い。クレメラータ・バルティカ持ち前のキビキビした感性と、チャイコフスキーならではの匂いのある歌が調和して、魅力的な音風景を作り出していた。これは是非全曲を聴いてみたい。
続いてはクレーメルが登場して、フィリップ・グラスのコンチェルト。グラスはミニマルミュージックの作曲家のイメージだが、プログラムノートによるとこの曲は「ミニマリストと呼ばれるのを嫌うように」なった後に書かれたとのこと。確かにミニマルミュージックではないが、比較的長い同じフレーズを調や響きに変化を与えつつ繋げて行き、聴き手を瞑想的な気分に浸らせるという意味では、ミニマルミュージックの要素が入っていると言えなくもない。ただ、ミニマルミュージックのような執拗な固執やメカニックな構成がないため、自由度が高く、それが異次元の世界へ引き込むエネルギーとして働いている。
クレメラータ・バルティカの弦楽合奏はウィットと抒情性とファンタジーに富み、豊かな響きと表情を作り出し、そこにクレーメルのヴァイオリンの旋律がくっきりと浮かび上がる。 11 年ぶりに聴いたクレーメルのヴァイオリンは、変わることのない能動性と即興性を具え、細く研ぎ澄まされたラインで斬り込んできて、音楽全体に「命」を与えていた。
後半の最初は、先月ドイツで世界初演されたという梅林茂という日本人作曲家による委嘱新作。何だか時代劇の劇伴を聴いている印象。弦楽合奏では、メンバーが掛け声をかけたり、シュニトケ風の切れ味のある弦の動きがあったりして目新しさもあったが、ソロ・ヴァイオリンのメロディーはちょっと陳腐。ソロもトゥッティもこの日本的な匂いのする音楽を消化しきれていないように思える部分があった。
最後はお待ちかねのピアソラ!颯爽としたタンゴのリズムが冴え、スリリングで熱く、そしてある時は歌に溢れ、粋なメロディーを紡いでゆく。ヴァイオリン・ソロとストリングスの合奏がお互いにインスピレーションを与え合い、両者がまさに一体となって、白熱のコラボレーションを聴かせた。
度々来日しているクレーメルを11年も聴かなかったのは、大いに刺激的ではあるけれど、しあわせ感に浸れるタイプではないクレーメルより、もっと幸せのオーラを発してくるヴァイオリニストを聴くようになったという理由があるが、「ブエノスアイレスの四季」では、刺激的であると同時に理屈抜きで楽しくワクワクする瞬間をたくさん味わい、クレーメルのチャーミングな面にも触れ、音楽を聴く喜びを堪能した。これは間違いなく幸せな時間だった。
拡散希望記事!STOP!エスカレーターの片側空け
サントリーホール
【曲目】
1.ラスカトフ/『四季』からのダイジェスト(チャイコフスキー『四季』Op.37aによる)


~1月:炉端にて、5月:白夜、12月:クリスマス
2. グラス/ヴァイオリン協奏曲第2番 「アメリカの四季」


3.梅林茂/日本の四季<委嘱新作>
4.ピアソラ/ブエノスアイレスの四季



【アンコール】
1.ピアソラ/オヴリビオン

2.ワインベルク:ボニファッチホリデイズ

以前は度々コンサートを聴きに行くヴァイオリニストの一人だったクレーメルを11年ぶりに聴いた。たまたま FM で聴いて気に入って以来、ちゃんと聴いてみたいと思っていた「ブエノスアイレスの四季」をやるというので聴きに行くことにした。
クレメラータ・バルティカと言えば、鋭い感性でアグレッシブに斬り込んでくる演奏スタイルをイメージするが、最初の「 1 月:炉端にて」で歌いかけてきたメロディーはなんとも温かくノスタルジックで、柔らかな響きが心に溶け込んでくるようだった。このアンサンブルは、こういう語り口も絶品だということを認識した。
ラスカトフの「《四季》からのダイジェスト」はチャイコフスキーの同名のピアノ曲を現代風にアレンジした作品ということだが、キーボードやおもちゃの笛なども用い、意外なハーモニーやリズムが薬味としてピリッと効いていて、斬新なイメージを与えて面白い。クレメラータ・バルティカ持ち前のキビキビした感性と、チャイコフスキーならではの匂いのある歌が調和して、魅力的な音風景を作り出していた。これは是非全曲を聴いてみたい。
続いてはクレーメルが登場して、フィリップ・グラスのコンチェルト。グラスはミニマルミュージックの作曲家のイメージだが、プログラムノートによるとこの曲は「ミニマリストと呼ばれるのを嫌うように」なった後に書かれたとのこと。確かにミニマルミュージックではないが、比較的長い同じフレーズを調や響きに変化を与えつつ繋げて行き、聴き手を瞑想的な気分に浸らせるという意味では、ミニマルミュージックの要素が入っていると言えなくもない。ただ、ミニマルミュージックのような執拗な固執やメカニックな構成がないため、自由度が高く、それが異次元の世界へ引き込むエネルギーとして働いている。
クレメラータ・バルティカの弦楽合奏はウィットと抒情性とファンタジーに富み、豊かな響きと表情を作り出し、そこにクレーメルのヴァイオリンの旋律がくっきりと浮かび上がる。 11 年ぶりに聴いたクレーメルのヴァイオリンは、変わることのない能動性と即興性を具え、細く研ぎ澄まされたラインで斬り込んできて、音楽全体に「命」を与えていた。
後半の最初は、先月ドイツで世界初演されたという梅林茂という日本人作曲家による委嘱新作。何だか時代劇の劇伴を聴いている印象。弦楽合奏では、メンバーが掛け声をかけたり、シュニトケ風の切れ味のある弦の動きがあったりして目新しさもあったが、ソロ・ヴァイオリンのメロディーはちょっと陳腐。ソロもトゥッティもこの日本的な匂いのする音楽を消化しきれていないように思える部分があった。
最後はお待ちかねのピアソラ!颯爽としたタンゴのリズムが冴え、スリリングで熱く、そしてある時は歌に溢れ、粋なメロディーを紡いでゆく。ヴァイオリン・ソロとストリングスの合奏がお互いにインスピレーションを与え合い、両者がまさに一体となって、白熱のコラボレーションを聴かせた。
度々来日しているクレーメルを11年も聴かなかったのは、大いに刺激的ではあるけれど、しあわせ感に浸れるタイプではないクレーメルより、もっと幸せのオーラを発してくるヴァイオリニストを聴くようになったという理由があるが、「ブエノスアイレスの四季」では、刺激的であると同時に理屈抜きで楽しくワクワクする瞬間をたくさん味わい、クレーメルのチャーミングな面にも触れ、音楽を聴く喜びを堪能した。これは間違いなく幸せな時間だった。
拡散希望記事!STOP!エスカレーターの片側空け
