9月25日(金)アンネ=ゾフィー・フォン・オッター & カミラ・ティリング デュオ・リサイタル 

東京オペラシティコンサートホール・タケイツメモリアル
【曲目】
♪ メンデルスゾーン/挨拶 p. 63-3 (Duo)
♪ リンドブラード/夏の日(T)、警告(O)、少女の朝の瞑想(Duo)
♪ グリーク/「6つの歌」Op.48 (T)
♪ シューベルト/ます、夕映えの中で、シルヴィアに、若い尼(O)
♪ メンデルスゾーン/渡り鳥の別れの歌 p.63-2、すずらんと花々 Op.63-6 (Duo)
♪ マイアベーア/シシリエンヌ(T)
♪ マイアベーア/来たれ、愛する人よ、美しい漁師の娘(O)
♪ マスネ/喜び!(Duo)
♪ フォーレ/黄金の涙(Duo)
♪ R.シュトラウス/憩えわが魂よ(O)、黄昏の夢(T)、どうやって私たち は秘密にしておけるでしょう(O)、密やかな誘い(T)、明日!(O)、チェチーリエ(T)
【アンコール】
♪ オッフェンバッハ/ホフマンの舟歌(Duo)
♪ ブラームス/姉妹(Duo)
♪ フンパーディンク/「ヘンゼルとグレーテル」~夜には眠りに行きたい(Duo)
♪ ミュージカル「クリスティーナ」~The Wonders(Duo)
【演奏】
MS:アンネ=ゾフィー・フォン・オッター/S:カミラ・ティリング/Pf:ジュリアス・ドレイク
来日を一番待ちわびているのになかなか来てくれないのが、メゾソプラノのアンネ=ゾフィー・フォン・オッター。そのオッターが9年ぶりに東京でリサイタルを行うという情報を手にした。ただ、ソロリサイタルではなく、ソプラノのカミラ・ティリングとのデュオリサイタル。ティリング?知らない… でもオッターとデュオをやるんだから期待できるし、何しろ今回オッターを聴き逃したら次は何年先に来てくれるかわからない。ということで東京オペラシティ・タケミツメモリアルに。客席には空席が目立つ。2、3階席は半分入っているかどうか。オッターが出るのに少なすぎでは?
さてそのデュオリサイタル。目当てのオッターの歌をじっくり堪能してオッターの世界に浸る、というわけにはいかなかったが、一方のティリングのソプラノも素晴らしく、一夜のコンサートで2人の名歌手の歌を楽しむことはできた。
ティリングの声は澄んで高貴な香りが漂う。スマートな声だが、しなやかな芯が通っていて、僕が座っている3階席まで真っ直ぐに届いてくる。その美しい声に乗せて演奏される歌は、歌詞が格調高く韻律を響かせる。ひとつひとつの歌が完結した小宇宙の世界を形作っているよう。
なかでもとりわけ感銘を受けたのは、グリーグの作品48の「6つの歌」。ゲーテなど複数の詩人のドイツ語で書かれた詩をまとめたこの曲集は恐らく初めて聴くが、北欧の抒情を湛えたグリーグの、ロマンティックでかつ透明感のある繊細な筆致が冴えた名品。ティリングは、これらひとつひとつの曲を丁寧に、静かな情熱を込めて扱い、生き生きとした珠玉の光沢を与えていた。6曲目の「夢」では、それまで上品なアプローチをしていたティリングが一気にテンションを上げ、生命が萌え出す春を、高らかな情熱で歌い上げて感動的なラストを飾った。
一方のオッターは、ティリングが美しい韻文の世界を描いていたとすれば、もっと現実の世界をリアルに訴えてくる散文、或いは小説の世界。表現は決してオーバーアクションではないのだが、ひとつひとつの言葉が、そこに魂が宿ったように自ら「語り」、「訴えて」きて、そこから次々と世界が広がり、聴き手を広大なイマジネーションの世界へと誘う。美しい声で滑らかに旋律線を心地よく描くだけの、当たり障りのない表現では決して終わらせない。
そこここに小さくても新鮮な驚きがあり、仕掛けを感じ、思惑が潜んでいる。シューベルトの「ます」では釣り人の腹黒い企みを露わにし、皆に誉め讃えられて魅力に溢れる「シルヴィア」に危ない誘惑の罠を感じさせ、「若い尼」に人間らしい熱い血が流れていることを訴えかけてくる。年齢を重ねた名役者の、巧みで自然で、深く核心を突いた名演技の場に居合わせている気分。これがオッターの真骨頂なのだろう。
そんな、いわば毛色の異なるティリングとオッターがデュオをやるとどんな演奏が生まれるか。正直なところ、本割りでのデュオからは、「これ」という明確な印象が伝わってこなかった。デュオではむしろ、和やかな雰囲気のなか、楽しそうに演奏してくれたアンコールでのオベレッタやミュージカルナンバーが、魅惑的でチャーミングで、興に乗っていて浮き浮き楽しく聴くことができた。
ピアノのドレイクは、様々な時代や地域の多彩で多様な音楽を、自らの個性は控え目にしつつお行儀よく、瑞々しいタッチで生き生きと柔軟に演じ分け、二人のプリマドンナと呼吸を合わせていた。
入りとしては寂しい客席だったが、アンコールを重ねるごとに盛り上がり、最後はステージと会場との熱い一体感が生まれた。
このコンサートはアスペンの主催。集客に関してはもう少し宣伝の方法を考えてはどうかとも思ったが、「さすが!」と思うことがあった。今夜のようないわば「バラバラな」選曲では有料でも歌詞対訳はないと思って、集められるものだけでも歌詞をネットで探して印刷して来たが、全ての演奏曲目のちゃんとした歌詞対訳を無料で配ってくれたことは素晴らしい。これまでに何度も書いているが、歌の演奏会で歌詞がわからなくては、楽しみは半減以下。こんなサービスをちゃんとやってくれるところで、主催者がどんな聴衆を求め、どんな演奏会にしたいかが見えてくる。
アンネ・ゾフィー・フォン・オッター リサイタル(2006.4.11 サントリーホール)
拡散希望記事!STOP!エスカレーターの片側空け


東京オペラシティコンサートホール・タケイツメモリアル
【曲目】
♪ メンデルスゾーン/挨拶 p. 63-3 (Duo)
♪ リンドブラード/夏の日(T)、警告(O)、少女の朝の瞑想(Duo)
♪ グリーク/「6つの歌」Op.48 (T)
♪ シューベルト/ます、夕映えの中で、シルヴィアに、若い尼(O)
♪ メンデルスゾーン/渡り鳥の別れの歌 p.63-2、すずらんと花々 Op.63-6 (Duo)
♪ マイアベーア/シシリエンヌ(T)
♪ マイアベーア/来たれ、愛する人よ、美しい漁師の娘(O)
♪ マスネ/喜び!(Duo)
♪ フォーレ/黄金の涙(Duo)
♪ R.シュトラウス/憩えわが魂よ(O)、黄昏の夢(T)、どうやって私たち は秘密にしておけるでしょう(O)、密やかな誘い(T)、明日!(O)、チェチーリエ(T)
【アンコール】
♪ オッフェンバッハ/ホフマンの舟歌(Duo)
♪ ブラームス/姉妹(Duo)
♪ フンパーディンク/「ヘンゼルとグレーテル」~夜には眠りに行きたい(Duo)
♪ ミュージカル「クリスティーナ」~The Wonders(Duo)
【演奏】
MS:アンネ=ゾフィー・フォン・オッター/S:カミラ・ティリング/Pf:ジュリアス・ドレイク
来日を一番待ちわびているのになかなか来てくれないのが、メゾソプラノのアンネ=ゾフィー・フォン・オッター。そのオッターが9年ぶりに東京でリサイタルを行うという情報を手にした。ただ、ソロリサイタルではなく、ソプラノのカミラ・ティリングとのデュオリサイタル。ティリング?知らない… でもオッターとデュオをやるんだから期待できるし、何しろ今回オッターを聴き逃したら次は何年先に来てくれるかわからない。ということで東京オペラシティ・タケミツメモリアルに。客席には空席が目立つ。2、3階席は半分入っているかどうか。オッターが出るのに少なすぎでは?
さてそのデュオリサイタル。目当てのオッターの歌をじっくり堪能してオッターの世界に浸る、というわけにはいかなかったが、一方のティリングのソプラノも素晴らしく、一夜のコンサートで2人の名歌手の歌を楽しむことはできた。
ティリングの声は澄んで高貴な香りが漂う。スマートな声だが、しなやかな芯が通っていて、僕が座っている3階席まで真っ直ぐに届いてくる。その美しい声に乗せて演奏される歌は、歌詞が格調高く韻律を響かせる。ひとつひとつの歌が完結した小宇宙の世界を形作っているよう。
なかでもとりわけ感銘を受けたのは、グリーグの作品48の「6つの歌」。ゲーテなど複数の詩人のドイツ語で書かれた詩をまとめたこの曲集は恐らく初めて聴くが、北欧の抒情を湛えたグリーグの、ロマンティックでかつ透明感のある繊細な筆致が冴えた名品。ティリングは、これらひとつひとつの曲を丁寧に、静かな情熱を込めて扱い、生き生きとした珠玉の光沢を与えていた。6曲目の「夢」では、それまで上品なアプローチをしていたティリングが一気にテンションを上げ、生命が萌え出す春を、高らかな情熱で歌い上げて感動的なラストを飾った。
一方のオッターは、ティリングが美しい韻文の世界を描いていたとすれば、もっと現実の世界をリアルに訴えてくる散文、或いは小説の世界。表現は決してオーバーアクションではないのだが、ひとつひとつの言葉が、そこに魂が宿ったように自ら「語り」、「訴えて」きて、そこから次々と世界が広がり、聴き手を広大なイマジネーションの世界へと誘う。美しい声で滑らかに旋律線を心地よく描くだけの、当たり障りのない表現では決して終わらせない。
そこここに小さくても新鮮な驚きがあり、仕掛けを感じ、思惑が潜んでいる。シューベルトの「ます」では釣り人の腹黒い企みを露わにし、皆に誉め讃えられて魅力に溢れる「シルヴィア」に危ない誘惑の罠を感じさせ、「若い尼」に人間らしい熱い血が流れていることを訴えかけてくる。年齢を重ねた名役者の、巧みで自然で、深く核心を突いた名演技の場に居合わせている気分。これがオッターの真骨頂なのだろう。
そんな、いわば毛色の異なるティリングとオッターがデュオをやるとどんな演奏が生まれるか。正直なところ、本割りでのデュオからは、「これ」という明確な印象が伝わってこなかった。デュオではむしろ、和やかな雰囲気のなか、楽しそうに演奏してくれたアンコールでのオベレッタやミュージカルナンバーが、魅惑的でチャーミングで、興に乗っていて浮き浮き楽しく聴くことができた。
ピアノのドレイクは、様々な時代や地域の多彩で多様な音楽を、自らの個性は控え目にしつつお行儀よく、瑞々しいタッチで生き生きと柔軟に演じ分け、二人のプリマドンナと呼吸を合わせていた。
入りとしては寂しい客席だったが、アンコールを重ねるごとに盛り上がり、最後はステージと会場との熱い一体感が生まれた。
このコンサートはアスペンの主催。集客に関してはもう少し宣伝の方法を考えてはどうかとも思ったが、「さすが!」と思うことがあった。今夜のようないわば「バラバラな」選曲では有料でも歌詞対訳はないと思って、集められるものだけでも歌詞をネットで探して印刷して来たが、全ての演奏曲目のちゃんとした歌詞対訳を無料で配ってくれたことは素晴らしい。これまでに何度も書いているが、歌の演奏会で歌詞がわからなくては、楽しみは半減以下。こんなサービスをちゃんとやってくれるところで、主催者がどんな聴衆を求め、どんな演奏会にしたいかが見えてくる。
アンネ・ゾフィー・フォン・オッター リサイタル(2006.4.11 サントリーホール)
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