8
日韓新時代アジェンダ21
日韓関係国際政治国際経済
9
I.日韓関係
1.歴史問題への新たな努力
日韓新時代とは、過去と断絶したり、過去を忘却したりする時代ではない。日韓両国は、
不幸であった過去の一時期を直視しつつ、両国が共有している価値観や体制、共通の理念
と目標に基づき、現在の緊密な協力関係を新しい段階へと一層発展させるべきである。
振り返って見ると、過去の歴史に関する日韓間の認識の溝は、両国関係発展の最大の障
害であった。しかし、脱冷戦と民主化の流れの中で、1990年代以降の日韓関係に歴史問題
をめぐる新たな展開があったことに注目すべきである。細川護煕首相は、1993年11月に慶
州からテレビ中継もされた記者会見で、韓国の国民に対して、創氏改名、慰安婦、徴用な
どで「耐えがたい苦しみと悲しみ」を与えたことを「心より反省し、陳謝したい」と直接
語りかけたし、村山富市首相(1995年)と小渕恵三首相(1998年)は、植民地支配に対し
て「痛切な反省と心からのお詫び」を表明し、韓国政府もそれに一定の評価を与えた。
最近では、韓国併合100年の機会に、菅直人首相が「その意に反して行われた植民地支配」
によって、韓国の人々が「国と文化を奪われ、民族の誇りを深く傷付けられた」との認識
を表明して、改めて反省と謝罪の意を表明した。また、在サハリン韓国人支援、朝鮮半島
出身者の遺骨返還支援などの人道的協力の継続的な実施や日本政府が保管する朝鮮王朝儀
軌などの引渡しを約束した。これに対して、李明博大統領も「歴史を決して忘れずに記憶
しつつも、ともに新しい未来を開拓することこそ、韓国と日本が行かなければならない正
しい道だと考えます」と言明した。これらは高く評価されるべきである。
しかし、周知のとおり、これらの日本政府首脳の談話やそれに対する韓国側の反応は、
いずれも両国の国内政治の微妙なバランスの上に成立したものである。過去にも両国指導
者が踏み込んだ姿勢を示す度に、それに反対する政治勢力などの厳しい反発が表面化し、
それがさらなる論争を招来することが少なくなかった。
そのような多くの例が示すように、日韓間の歴史摩擦は、支配・被支配の記憶にのみ執
着する過去回帰的な発想によっても、また未来の明るい協力のみを強調するアプローチに
よっても克服されない。それは成熟した市民社会の相互交流に支えられる日韓関係の土台
10
のうえで解消されなければならないし、両国政府は歴史摩擦の発生を未然に防ぐために最
大限努力し、それが日韓関係の全面的な悪化に拡大しないように積極的に協議しなければ
ならない。
そのような観点から、両国の志ある市民や学生を中心に、それぞれの歴史と文化につい
ての相互理解を深めるために多様で重層的な努力を傾ける必要がある。たとえば、両国の
教員による相互訪問、討議、研究のための研修プログラムを充実させる。さらに、今後も
引き続き、学校間の姉妹関係の締結を推奨し、修学旅行などの機会を利用した学生による
相互訪問の機会を拡充する。
日韓新時代アジェンダ21
日韓関係国際政治国際経済
9
I.日韓関係
1.歴史問題への新たな努力
日韓新時代とは、過去と断絶したり、過去を忘却したりする時代ではない。日韓両国は、
不幸であった過去の一時期を直視しつつ、両国が共有している価値観や体制、共通の理念
と目標に基づき、現在の緊密な協力関係を新しい段階へと一層発展させるべきである。
振り返って見ると、過去の歴史に関する日韓間の認識の溝は、両国関係発展の最大の障
害であった。しかし、脱冷戦と民主化の流れの中で、1990年代以降の日韓関係に歴史問題
をめぐる新たな展開があったことに注目すべきである。細川護煕首相は、1993年11月に慶
州からテレビ中継もされた記者会見で、韓国の国民に対して、創氏改名、慰安婦、徴用な
どで「耐えがたい苦しみと悲しみ」を与えたことを「心より反省し、陳謝したい」と直接
語りかけたし、村山富市首相(1995年)と小渕恵三首相(1998年)は、植民地支配に対し
て「痛切な反省と心からのお詫び」を表明し、韓国政府もそれに一定の評価を与えた。
最近では、韓国併合100年の機会に、菅直人首相が「その意に反して行われた植民地支配」
によって、韓国の人々が「国と文化を奪われ、民族の誇りを深く傷付けられた」との認識
を表明して、改めて反省と謝罪の意を表明した。また、在サハリン韓国人支援、朝鮮半島
出身者の遺骨返還支援などの人道的協力の継続的な実施や日本政府が保管する朝鮮王朝儀
軌などの引渡しを約束した。これに対して、李明博大統領も「歴史を決して忘れずに記憶
しつつも、ともに新しい未来を開拓することこそ、韓国と日本が行かなければならない正
しい道だと考えます」と言明した。これらは高く評価されるべきである。
しかし、周知のとおり、これらの日本政府首脳の談話やそれに対する韓国側の反応は、
いずれも両国の国内政治の微妙なバランスの上に成立したものである。過去にも両国指導
者が踏み込んだ姿勢を示す度に、それに反対する政治勢力などの厳しい反発が表面化し、
それがさらなる論争を招来することが少なくなかった。
そのような多くの例が示すように、日韓間の歴史摩擦は、支配・被支配の記憶にのみ執
着する過去回帰的な発想によっても、また未来の明るい協力のみを強調するアプローチに
よっても克服されない。それは成熟した市民社会の相互交流に支えられる日韓関係の土台
10
のうえで解消されなければならないし、両国政府は歴史摩擦の発生を未然に防ぐために最
大限努力し、それが日韓関係の全面的な悪化に拡大しないように積極的に協議しなければ
ならない。
そのような観点から、両国の志ある市民や学生を中心に、それぞれの歴史と文化につい
ての相互理解を深めるために多様で重層的な努力を傾ける必要がある。たとえば、両国の
教員による相互訪問、討議、研究のための研修プログラムを充実させる。さらに、今後も
引き続き、学校間の姉妹関係の締結を推奨し、修学旅行などの機会を利用した学生による
相互訪問の機会を拡充する。