田中佳子 ❲うらめしい絵❳ から 甲斐荘楠音 [畜生塚]
大正時代の日本画家 甲斐荘楠音 かいのしょうことね
デロリの画風 ぼっけえぎょうてえ の 表紙でも有名
本作は老醜時の豊臣秀吉による甥関白秀次の処罰事件の中でも陰惨な大量処刑
三条河原での秀次の妻妾三十余人の斬殺直前の悲哀、慟哭を描く
畜生塚 とは処刑後の河原に掘られた穴にまとめて投げ捨てられた遺体に
塚土を盛られた上に秀次の梟首とともに置かれた石碑の銘 秀次悪逆塚 の別称
殺生塚 蓄妾塚 そして秀次の妻妾の中には母娘を含んでいた事から 畜生塚
と京都庶民は批難したという
四曲一双の屏風 未完成品ながら 未完成ゆえの異様な迫力と情動が迫る
日本画ながらルネサンスの宗教画のような肉体の群像 ピエタをモチーフとした
中央のマリアに一の台とキリストに一の台の娘おみやを配する
楠音の創作工程が判る まず 画面上に下絵として人物の肉体像をデッサンし
その上に衣服を重ね、貌かおを彩色するのだ
その貌も化粧の白粉を塗り込めた上に目鼻髪の表情を載せる
逆に言えば この絵の飽満で生命感溢れる裸体 そしてその生命が数瞬後に
ばっさりと理不尽に断ち切られる不穏さと妖しさ はこの絵の未完成の状態にこそ
我々は見ることが可能なのだ
単に戦国末期の歴史の1場面を切り取ったのではない あまねく時空に共通して
存在する 世の不安と不条理を画面上に定着させ得たのがこの楠音の畜生塚である