【心に残る短編小説】
1 レイ-ブラッドベリ
2 万華鏡
3 万華鏡 レイブラッドベリ自選傑作短編集
4 サンリオSF文庫
訳 川本三郎
まずこの短編を紹介するには別の傑作マンガから話を始めねばならない 大いにネタバレ、引用するので書評とは異なるファンによるネタバレ大会になるのでご注意ください。
そのマンガとはサイボーグ009、地下帝国ヨミ編である。
ラストで地下帝国のラスボスを宇宙船となった神像の中で倒して宇宙空間に投げ出された009。
一人取り残された009を002が助けに行くが、ジェットの燃料が尽きてしまい二人は地球の成層圏に突入。
最後は、燃え尽きてしまう
この時002ジェット・リンクが最後に言ったセリフが
「ジョー、きみはどこにおちたい?」である。
これを俗に「ドコ落ち」と呼ぶ。
この時、地上で流れ星と間違えた
姉妹が願いをかける
「世界中の人が平和で仲良く暮らせますように」と…
この、あまりに切ないラストに多くの009ファンが涙した。石森正太郎の神がかったコマ構成とカット割の絶頂期の名シーンであった。
後に、この名シーンについてSFの平井和正先生がアトガキでブラッドベリの「万華鏡」のラストシーンの再現だった事を書くのである。その中で、平井先生は言った
「これを表現できるマンガ家は石森章太郎以外にいない」と
その原本、万華鏡の内容は、というより本歌取り、リスペクト作品であり、ネタのパクリとは全く別の石森先生の創作だと確信しているのだが、こんな内容です。モロ、ネタバレです。
航行中のロケットが爆発し、乗組員たちは
真っ暗な宇宙空間に投げ出される。
密閉された宇宙服に守られ、通信機で交信をしながら
別々の星に向かって漂流していくホリスと仲間たち。
万華鏡のかけらのように、
一人は月へ、
一人は流星群の中へ、
一人は母なる地球へ。
みんな孤独だった。
彼らの声は、星の深淵にひびいていく神の言葉のこだまのように消えていった。
隊長は月に落ちていく。ストーンは流星群と一緒だ。
あそこをいくスティムソンとアプルゲイトは冥王星の方向だ。
あそこのスミスとターナーとアンダーウッドの三人は、子どものころ、これはなんの形だろうと長いこと考えて遊んだ、
あの万華鏡のかけらのように遠くに散らばっていく。
そして俺は? とホリスは思った。俺には何ができる? ぱっとしない、むなしい人生をつぐなうためにいま何ができるというのか?
俺が長年かかって集めてきて、それでいて自分のなかにそんなものがあるとは気がつきもしなかった、あのいやしい心。
それを償うために、
なにかひとつでもひとによいことをすることができたなら!
だがここには自分しかいない。
ひとりきりで、どうしてひとによいことができる!
だめだ。明日の夜、俺は地球の大気圏にぶつかるだろう。
おれは燃えるだろう、と彼は思った。
燃えつきて灰になり大陸にばらまかれるのだ。
その時、おれは役に立つだろう。
小さな灰でも灰には変わりない。
大地の一部になるのだ。
彼は、弾丸のように、小石のように、鉄のおもりのように、
勢いよく落ちていった。もはや彼は一個のものだった。
悲しいとも嬉しいともなんとも思わない。
ただ、すべてが終わったいま彼はひとつでもいいことをしたかった、自分ひとりにしかわからないいいことを。
それだけが願いだった。
大気圏にぶつかったら、俺は流星のように燃えるだろう。
「ああ」と彼はいった。「だれか俺を見てくれるだろうか」
田舎道を歩いていた小さな少年が空を見あげて叫んだ。
「お母さん、見て! 流れ星だ!」
輝く白い星がイリノイ州のたそがれの空を落ちていった。
「願いごとをするのよ」と母親がいった。
「願いごとを」
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