音楽家ピアニスト瀬川玄「ひたすら音楽」

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【曲解説】ドビュッシー《バラード》 ~ショパンからの影響、同時期作曲の《選ばれし乙女》

2013年04月07日 | ドビュッシー Claude Debussy
ドビュッシー作曲《バラード》

この作品も、ドビュッシーの初期ピアノ作品群のひとつで、
正確な作曲年は分からないのですが、《夢Reverie》などと同じく、1890年前後のものと思われるそうです。
より詳しい題名としては《バラード(スラヴ風バラード)Ballade(Ballade slave)》という副題がついていますが、
何をして「スラヴ風」なのか、その確証は残念ながらまだ掴めてはおりません・・・


「バラード」という曲名を使った作品はドビュッシーのピアノ曲においては、この一作だけです。
若かりし頃のドビュッシーがショパンの影響を受けつつ《バラード》を自分でも書いたと推察できましょうか。

他にもショパンの影響が見られる曲名として《マズルカ》や《ノクターン》もあります。
時期はずっと後ですが、《前奏曲集》や《練習曲集》などもショパンあってこその曲名といえましょう。
《練習曲集》にいたっては、作曲者がこれをショパンに捧げている(初版に記載有)という事実からしても、
ドビュッシーのショパンに対する意識の高さは確かなものとみることができましょう。


他にも、ドビュッシーとショパンの関係についての事例を挙げると、ドビュッシーの少年期に、
彼が音楽院コンセルヴァトワールに入学(1872年)するまで、その受験の成功へと導いたピアノの先生が
モーテ・ド・フルールヴィル夫人

この女性は、ショパンの生徒であったらしく(その確証は残念ながらないのだそうですが)
ドビュッシー自身が後年、「モーテ夫人の指導、特にバッハやショパンについての教えは
終生忘れず、手紙等でくり返し感謝の念を述べている」のだそうです。
(青柳いづみこ著『ドビュッシー 想念のエクトプラズム』より)


もうひとつ、
具体的にこのドビュッシーの《バラード》のことに触れる前に、
若かりし頃のドビュッシーにとっての大事な側面を現していると思われるピアノ以外の
ある楽曲について、ちょっとご紹介してみたく思います。

それは《カンタータ「選ばれし(祝福されし)乙女La damoiselle élue」》という1893年4月に
初演されたという曲。作曲はそれ以前、1888年前後とも言われているそうですが、要するに、
初期ピアノ作品を書いている時期とこのカンタータに取り組んでいる時期は重なっており、
ドビュッシーの頭の中で、両者が共存していたと推察することが出来るよう思われるのです。

ダンテ・ガブリエル・ロセッティD.G.Rossettiというイギリスの詩人でもあり画家でもあるこの人の作品に
ドビュッシーが感銘をうけて、これを自身の作曲に取り入れるまでになっているこの事実は大事と思われます。
《カンタータ》と《バラード》が、音楽的にどこまで一致するか、その詳細に立ち入る余裕は今はないのですが、
若きドビュッシー28歳前後の頃の、ドビュッシーが夢中になっていたであろう、その頭の中の世界観にせまる
貴重な情報として、《選ばれし乙女La damoiselle élue(英語ではThe Blessed Damozel)》の詩が書いてある
素敵なホームページを見つけましたので、ご興味おありの方はどうぞご覧下さい。

この詩や絵に触れることで、若きドビュッシーが思い描いていた世界(恋愛観!?)を
知り・感じることができるのではないでしょうか。
http://rosa.yumenogotoshi.com/blessed_damozel1.html



♪♪♪♪♪♪♪

以下、具体的な楽曲について少々。

ドビュッシー作曲《バラード》は、♭フラットが一つのヘ長調F-Durの音楽です。この点からしても、
ショパンの《バラード 第2番 ヘ長調 op.38》との共通点が見い出されましょうか。
しかし冒頭はヘ長調F-Durではない、第V音ドミナントの「ド」の音で音楽が始まります。
「ファ・ラ・ド」という主和音は、曲の始まりからちょっと経った第7小節目にわずかに、そして
第11小節では明らかになります。そこまでのあいまいな調性感は、ドビュッシー作曲の特徴と
いうことができましょう。


曲の主旋律・テーマは第6小節からソプラノで現れますが、既にその前の前奏、第2・第4小節にて
オクターヴ低い声部でその断片が現れていて、これらを二つの声部ととらえ、このバラードにおける
登場人物が少なくとも2人いる!?と解釈するのは、面白いことと思われます。

第24小節からは、右手のオクターヴでこの二声部がデュエットしながら「fフォルテ」まで盛り上がって
いるようでもあります。(下の声部が「男声」なのか、あるいは《選ばれし乙女》のことを考えると、
語り部の役をする「アルト(低い女声)」とも思われ、どちらなのか今の私は分からなくなってきて迷っています・・・)

主に、高い声部ソプラノの歌が曲の始まりから長く4ページに渡って続いているのが、
《カンタータ》の「乙女」のモノローグを連想させなくもありません。

そして、メロディーの下では左手による数多のアルペジオ伴奏、
風か、はたまたさざ波か、
この音楽の美しさを引き立たせています。


中間部といってよいのかどうか、第46小節からは、雰囲気が変わって暗く低い声部(バス?バリトン?)の
新しい旋律が現れます。「レ」の音を主音とした「ドリア調」という「旋法」が「古(いにしえ)の響き」
というイメージを彷彿させましょうか。

この新しい旋律にソプラノも応え、音楽は盛り上がり、第63小節では♯シャープが4つとなりホ長調E-Durに転調、
ここにある「Molto calmato(とても静かに[静謐?])」という指示は、名曲《月の光》や、さらには
《カンタータ「選ばれし乙女」》の冒頭にも同じ記載が(Moltoは除いて)見られます。

ドビュッシーがどういう時にこの「Calmato」を書くのか、
研究し甲斐のあるテーマかもしれません。

さらには、
ドビュッシーにとってのこの調性「ホ長調E-Dur」がどんな時に使われているのか、
これもとても興味深いところで、大事な研究課題となるかもしれません。


第79小節でテーマが戻ってくるときは、
実に高い声部で「ppピアニシモ」で静かに・・・

その後も「pppピアニシシモ」であったり
最高でも「pピアノ」を超えることはなく、
音楽は静かに静かに、終わりに向かってゆきます。











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