音楽家ピアニスト瀬川玄「ひたすら音楽」

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◆tr.(トリル)は下から?上から?ベートーヴェンの場合

2008年06月26日 | ベートーヴェン Beethoven

「trill」(トリル、略して「tr.」と表記すること多)
独語では「Triller」
伊語では「trillo」は、
クラシック音楽用語の装飾音のひとつで、
日本語では顫音(せんおん)と呼ばれるそうです。


具体的には、
「れみれみれみれみれみれみれみ・・・・etc」
など、
ふたつの隣り合った音を交互に素早く(ゆったり目のこともありますが)
弾く、という指示を意味します。


このトリルが楽譜に出てくるにあたって、
我々は常にある問題に頭を悩ませられるのではないでしょうか?
それは、
「トリルの始まりの音を、上から弾き始めるか、下から弾き始めるか」
という判断・・・
もう少し具体的な用語で問題定義しますと、
「トリルの始まりの音を、主音から始めるか、それとも
主音の上部にある装飾された音から始めるか」
という問題と言えましょうか。


このトリルの開始音については、
「作曲家それぞれによって解釈が違う」と言われることがあります。

これについて、
ふたつの具体例を取り出して、
それぞれの作曲家が自分の書いた曲の「トリル」を
どのように思っていたかを検証・ご紹介してみたいと思います。


ベートーヴェンのトリルは「主音から・下から」とよく言われます。

その証拠に、
《ピアノソナタ 第21番 C-Durハ長調 op.53“ワルトシュタイン”》の
第III楽章のあるトリルを見てみますと、



このように、
トリルの横に、前打音として、上の音が書かれていることが注目されます。
すなわち、
ここでは、トリルは上の音「ラ」から始めてもらいたいことが
書き示されていると解釈できます。
(ついでに、これは「ラ♭」ではなく「ラ」で弾いてもらいたい
という意思の現われであることも補足いたします)
(さらについでに、この小さく書かれた「ラ」は「前打音」だからといって、
拍よりも前に弾かれてはなりません。「前打音」にも二種類あって、
「拍の上で弾く」か「拍の前に出して弾く」かの判断が迫られます)


ここで、逆説的に考えて見ましょう。


もしもここにベートーヴェンが前打音「ラ」を書かなかったとしたら?
恐らくは、このトリルは主音「ソ」の音から弾かれることとなりましょう。

そして、
他のベートーヴェンの書いたトリルの多くは、そのほとんどが
前打音の指示のないトリルが書かれているはずです。
ゆえに、
この《ワルトシュタイン3楽章》における前打音付きのトリルは
「例外」ということになります。


すなわち、これが「例外」であるとなると、
ベートーヴェンにとって、
トリルは「下から・主音から」と普段から考えていたのではないか
という事実が浮かび上がってくるのではないでしょうか?


さて、次回は
今度はショパンの場合を見てみたいと思います。



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1 コメント

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Unknown (ぴー)
2021-11-06 12:47:32
バロックからの流れを考えると、その前打音は上からのトリルの最初の音を長くするって意味だと思います。
ベートーベンと同じ時代に生きたテュルクが書いた教則本に、トリルは上からとなっています。
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