「trill」(トリル、略して「tr.」と表記すること多)
独語では「Triller」
伊語では「trillo」は、
クラシック音楽用語の装飾音のひとつで、
日本語では顫音(せんおん)と呼ばれるそうです。
具体的には、
「れみれみれみれみれみれみれみ・・・・etc」
など、
ふたつの隣り合った音を交互に素早く(ゆったり目のこともありますが)
弾く、という指示を意味します。
このトリルが楽譜に出てくるにあたって、
我々は常にある問題に頭を悩ませられるのではないでしょうか?
それは、
「トリルの始まりの音を、上から弾き始めるか、下から弾き始めるか」
という判断・・・
もう少し具体的な用語で問題定義しますと、
「トリルの始まりの音を、主音から始めるか、それとも
主音の上部にある装飾された音から始めるか」
という問題と言えましょうか。
このトリルの開始音については、
「作曲家それぞれによって解釈が違う」と言われることがあります。
これについて、
ふたつの具体例を取り出して、
それぞれの作曲家が自分の書いた曲の「トリル」を
どのように思っていたかを検証・ご紹介してみたいと思います。
ベートーヴェンのトリルは「主音から・下から」とよく言われます。
その証拠に、
《ピアノソナタ 第21番 C-Durハ長調 op.53“ワルトシュタイン”》の
第III楽章のあるトリルを見てみますと、
このように、
トリルの横に、前打音として、上の音が書かれていることが注目されます。
すなわち、
ここでは、トリルは上の音「ラ」から始めてもらいたいことが
書き示されていると解釈できます。
(ついでに、これは「ラ♭」ではなく「ラ」で弾いてもらいたい
という意思の現われであることも補足いたします)
(さらについでに、この小さく書かれた「ラ」は「前打音」だからといって、
拍よりも前に弾かれてはなりません。「前打音」にも二種類あって、
「拍の上で弾く」か「拍の前に出して弾く」かの判断が迫られます)
ここで、逆説的に考えて見ましょう。
もしもここにベートーヴェンが前打音「ラ」を書かなかったとしたら?
恐らくは、このトリルは主音「ソ」の音から弾かれることとなりましょう。
そして、
他のベートーヴェンの書いたトリルの多くは、そのほとんどが
前打音の指示のないトリルが書かれているはずです。
ゆえに、
この《ワルトシュタイン3楽章》における前打音付きのトリルは
「例外」ということになります。
すなわち、これが「例外」であるとなると、
ベートーヴェンにとって、
トリルは「下から・主音から」と普段から考えていたのではないか
という事実が浮かび上がってくるのではないでしょうか?
さて、次回は
今度はショパンの場合を見てみたいと思います。
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ベートーベンと同じ時代に生きたテュルクが書いた教則本に、トリルは上からとなっています。