音楽家ピアニスト瀬川玄「ひたすら音楽」

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◆夢と現実の狭間 ~ ラヴェル《高雅で感傷的なワルツ》

2008年04月22日 | ラヴェル Maurice Ravel
フランス印象派の作曲家

Maurice Ravelモーリス・ラヴェルのピアノ独奏作品
《Valses nobles et sentimentales高雅で感傷的なワルツ》


いくつものワルツが折り重なって出来ている
この曲の最後をしめるのは

《エピローグEpilogue》

という終曲です。
今まで現れたワルツたちの片鱗が
・・・ちらり・・・ちらり・・・
と顔をのぞかせる、幻想的な世界・・・


まさに、この曲の題名が語るところの
人間の、複雑でいて単純でもある
あのなんとも言えない心の状態を
音楽として現しているかのような・・・


いやはや・・・
とても私の貧困な言葉では言い表すことの出来ない
世界が、この音楽《高雅で感傷的なワルツ》には
あります。


それにしても、
ラヴェルという作曲家は、同時代のパリに活躍した
巨匠ロシア人作曲家ストラヴィンスキーに
「ラヴェルは、スイスの時計職人のような精密な音楽を書く」
と言わしめた作曲家、この
《高雅で感傷的なワルツ》とて例外ではなく、いや、
その典型とすら言えましょう、楽譜に細部にわたって書き込まれる
数多くの指示に、類まれない深い・高い・音楽性を我々は見出すのです。


例えばこれ。




楽譜の下段に注目していただきたいのですが、
「ppピアニシモ」という音量の中で、
大きな「 < > 」(クレッシェンド・デクレッシェンド)で
まとまっているひとつのフレーズ。


そしてそこに
このただならぬ天才が五線譜の下に更に
書き込んでいるのが、

「sordine」 「3cordes」

という指示・・・



この「sordine」という指示は具体的には、
ピアノという楽器の「左ペダル(弱音ペダル)を使う」
という指示を意味します。

「3cordes」とはその逆で、
左ペダル(弱音ペダル)を使わないという指示、
すなわちここでは、踏んでいた弱音ペダルを離す
ということになるわけですが・・・


この「弱音ペダル」というのが、
ピアノという楽器においての音楽表現の幅を
数倍にも広げてくれる効果があるのです。

(★グランドピアノにおいては、このペダルを踏むことで、
鍵盤からハンマーまで連結されたアクションと呼ばれる
楽器の内部の大きなグループが全体的に右へ数ミリ動き、
結果として、
ハンマーが弦を打鍵する際の位置が微妙にずれて、
普段とは微妙に違った音色となる、
そのようなシステムになっています。よって、
基本的には、ピアノの弦は一音につき三つの弦が張られているため、
「3cordes」(三つの弦)とは、ハンマーが弦を打つ
通常の位置を意味していることとなります、すなわち
「弱音ペダルは使わない」という意味になります)


簡単に言ってしまえば、
音が少々弱くなり、場合によっては多少「もやっ」
とした音にもなるのです。


音の魔術師ラヴェルは当然、この
ピアノという楽器の効果を巧みに音楽に用います。


上にも記しましたとおり、この《高雅で感傷的なワルツ》の最後は
「エピローグ」として、今までの楽曲達の思い出の片鱗が
ふと立ち現れるような幻想の世界、
そして、その一方で待ち受けているのが、



「この世界」



考えてみれば・・・・我々の日常とは、逆ですね、
我々は「この世界」に生きていて、そして、
時に向こうの「幻想の世界」が垣間見られるようなことがある・・・


この《高雅で感傷的なワルツ》は、
長い長い踊り(ワルツ)の幻想の果てに
こちらの世界へと戻ってくる、
そんな音楽なのかもしれません。


「sordine」と「3cordes」を行き来する上のフレーズは、
弱音ペダルの幻想の世界から、
「pp」という夢見心地の音量のまま、
長い松葉印の「 < 」(クレッシェンド)に誘われて
こちらの世界(3cordesの音色)へと戻ってくる・・・


このようなフレーズが幾度となく繰り返され、
我々はふたつの世界を、絶え間なく行き来するのです



音と幻想の融合した、高い音楽的境地が
ここに垣間見られる気がしたのでした。




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