しばらく新機種や参考出品等のモデル紹介が続いていたので、今日は少し趣向を変えて、日本のスピーカー業界についてちょっと話をしてみたいと思います。あまりやばい話は書けませんが、比較的差しさわりのない範囲で先ずは書いてみます。
一言にスピーカーメーカーと言っても、大きく分けるとスピーカーユニットメーカーと、スピーカーユニットを使ってシステムを作るシステム(完成品)メーカーの2つのグループになります。日本の場合、スピーカーユニットの一般市場は非常に小さいので、これだけでビジネスをやっていくのは楽ではなく、ほとんどのユニットメーカーはOEM中心のいわゆる部品メーカーとなっています。
現在国内のスピーカーユニットメーカーの大手としては、皆さんもよくご存知のフォスターをはじめ、ミネベア音響、松下電子部品、東北パイオニア、オンキョー、三洋電機等がありますが、この中でOEM比率が低いのは東北パイオニアくらいではと思います。東北パイオニアの自社ブランド比率が高いのは、パイオニアのカースピーカーのシェアが高いためです。ドリームクリエーション(PARC Audio)も弱小ながら一応このスピーカーユニットメーカーの中に入ります。
(ここ数年の最新情報は私も詳しくないので、少しくらいは変わっているかもしれませんが、大きな違いは無いかと思います。)
一昔前のオーディオ市場が元気だったころは、かなりのシステムメーカーがハイエンドモデル用を中心にスピーカーユニットの自社開発や自社生産をしていましたが、現在はほとんどのメーカーが自社生産は止め、自社開発のユニットでも専業OEMユニットメーカーに製造依託しているケースが非常に多くなったと思います。スピーカーユニットの内製化に各社が消極的になったのは、オーディオ市場がハイエンドや単品スピーカーを中心に減少していき、製造設備を維持して製品でその費用を回収をすることが難しくなったことが最大の要因かと思います。また中国やその他のアジア圏を中心とした海外生産比率が急速に高まり、コスト的に国内生産することが困難となったことも背景にあります。その意味では、パイオニアのようにユニット開発から量産まで一貫して行い、いまだに国内に製造拠点が残っているのは非常にまれな例と言えるかも知れません。さすがにもともとスピーカーメーカーから起業しただけのことはありますね。海外では、JBLやBOSE等がこれにあたります。ただしJBLでも下位のモデルは以前からユニットメーカーへOEM依託をしており、天下のJBLを買ったと思ってありがたがっていたら実は日本の某メーカー製のOEMだったなんていう笑えない話もあったりします。
ちなみに、ソニーのスピーカーやマイクを製造していた子会社のオーディオリサーチは、80年代にミニチュアベアリングのトップメーカーであるミネベア㈱に売却されました。今だから言えることですが、ソニーの子会社が売却されるということは当時非常にセンセーショナルな出来事で、設計をやっている当事者の我々にも発表の直前まで何も知らされず、運の悪いことにちょうどオーディオフェアの開催中の新聞発表だったため、多くの来場者から「ソニーはスピーカーから撤退するのですか?」との質問を受け、非常に困惑したことを今でも覚えています。
ただソニーの場合はその後もスピーカー開発にはかなりの予算を投入し、いろいろな開発を継続して行っており、私がいた当時はビクターの昔の仲間からその予算の多さを羨ましがられたものです。以前私が開発をした業務用ユニットのSUP-T11やSUP-L11の開発では、ちょっと人には言えないような多額の開発予算をかけていましたので、もうあのようなユニットが商品化されることは無いかも知れませんね。でも最近はさすがにスピーカーユニットの開発規模も縮小しており、スピーカーユニットの試作を自分でしたことの無いようなエンジニアが増えてきているのも事実で、このような状況は他のシステムメーカーでも大きくは変わらないと思います。
実はあまり知られていませんが、ソニーはその後もう一度ユニットの内製化にトライしたこともありました。ただこの時の目的は、ハイエンドモデルのような技術的にレベルの高いものを内製化して技術を社内に残すというようなものではなく、量産モデルの数の多いものをガンガン流してコストダウンをするということだったので、予定していた程のコストメリットもなく、結局は短期間で自然消滅となってしまいました。
スピーカーの完成品を扱うシステムメーカーについては説明の必要はあまり無いと思いますが、一般の皆さんがご存知のスピーカーメーカーと言えば殆どのこのGpになるかと思います。少なくとも開発費用や難易度という点では、スピーカーユニットを外部に依託してしまえば材料開発等の開発費用は大幅に削減できるので、スピーカーシステムだけを商品化することに徹すれば経営的には非常に身軽になります。ただその反面、スピーカーの中で最もその性能を左右し、また個性を発揮するスピーカーユニットを他社に依託するということは、キャビネットやネットワークだけで他社との差別化をする必要があり、設計としては非常にきついことにもなります。まぁこれは私がユニット屋ゆえの感想なので、生粋のシステム屋さんはそんなことは無いとおっしゃるかも知れませんが・・・・。
さてここまでの話でざっくりとは雰囲気がお分かりいただけたかと思いますが、次回はユニットメーカーとそれに関連する部品メーカーについてもう少し詳しく書いてみたいと思います。では、今日はこの辺で。
よろしければ、今後はそちらの方にコメントをいただければ幸いです。
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