こんばんは。前回お約束したように、今日は久しぶりに技術ネタを書いてみようと思います。今回のテーマはちょっと重いので、数回に分けて書かせていただきます。なお今回のテーマに関しては出来るだけ客観的な内容を中心に書きますが、一部私的な印象や意見も含まれますのでご了承ください。
スピーカーユニットで最も基本となるパーツの一つにマグネット(永久磁石)があります。一部特殊なスピーカーで、電磁石を使ったフィールド型(励磁式)のものや、圧電型、コンデンサースピーカーのようにマグネットを使わないものはありますが、これは非常に少数で、多くのものはマグネットのお世話になっています。
スピーカーで実際に使われているマグネットについてお話しする前に、先ずマグネットについての基本知識について先に書いてみましょう。取り合えずこれを簡単に説明しておかないと、後の説明が理解しにくいかと思いますので、ちょっと専門用語が出てきますが我慢してくださいね。なおマグネットに関しての詳しい技術情報がお知りになりたい方は、ネットで検索していただければいろいろなメーカーや販売店のホームページで詳しく解説されていますので、そちらをご覧ください。最近は本当に便利になったものです。
先ずマグネットの基本的な特性を示すデータとして、残留磁束密度(Br)と保磁力(Hcj)があります。簡単に言えばBrはそのマグネットの磁力の強さを示すもので、Hcjは外部の磁界に対してその磁力を保持する力(つまり減磁しにくい)を示しています。(減磁については、別途解説します。)そのため、理想のマグネットとしてはBr、Hcj共に高いものということになります。これらの特性を示す図としてB-Hカーブというものがあり、この図がマグネットの基本的な特性を示しすことになります。
スピーカーに使われているマグネットの材質としては、大きく分けてフェライト、ネオジム、サマリウム・コバルト、アルニコがありますが、これらのB-Hカーブがこちらにありますので見てください。こちらのHPは著作権とかの表記があったので、ちょっと不便ではありますがリンクにて見ていただきます。(リンクはフリーとのこと) これを見てお分かりのように、(1)ネオジムマグネットは現在全てのマグネットの中で最強であり、いろいろなグレードがあるもののBr,Hcjともに最も優れています。ただネオジムが最強で無敵かと言えば、大きな欠点もあるのですが、それはまた後で詳しく書きたいと思います。
このB-Hカーブを見て非常に特徴的なのが、(6)のアルニコマグネットです。他のマグネットと比べて明らかに形が違う(グラフが非常に縦長になっている)ことがお分かりかと思います。このB-Hカーブが立っているマグネットは断面積よりも高さを必要とするマグネットで、スピーカーの磁気回路で言えば圧倒的に内磁型に向いているタイプであり、保磁力が弱いため、磁気回路の寸法で決まるパーミアンス係数(これはちょっと専門的な説明が必要なので省きます)も計算して確認しておかないと簡単にパワー減磁してしまうので要注意なのです。昔のアルニコ使用モデルが簡単にパワー減磁するものがあったのはこのためです。後述で詳しく書きますが、B-Hカーブから見ても、アルニコをわざわざ外磁型の磁気回路で使うことには私はかなり疑問を感じています。(そういうモデルも世の中にはありますが) 同じ理由で、カーブがねているそれ以外のマグネットは高さよりも断面積でかせげるタイプなので基本的に薄型の外磁型に向いています。皆さんもフェライトの内磁型なんて見たことないでしょう。ただ例外としてネオジムに関しては、Brも非常に高いので効率は落ちますが内磁型でも使用できます。これも別途解説します。
ちなみに大昔新人のころには、磁気回路のパーミアンス係数の計算などを勉強の一環としてやったことがありましたが、正直なことを言えばアルニコ以外のフェライトやネオジムではこのような計算をする必要は殆どありません。なぜかと言うと、標準で使われている磁気回路パーツを使っていれば、先ず問題になることは無いからです。おそらく最近のユニットエンジニアの中にはこの手の磁気計算(もちろん手計算)などやったことがない人も多いのではないでしょうか。そういう私もだいぶ忘れてしまいましたが・・・。(笑)
さてマグネットの強さを示す基本特性についての説明が終わったところで、それ以外の重要なファクターについて説明しましょう。
先ず、温度特性です。これは上記B-H特性が温度によってどのように変化するかということを示しますが、可逆(元に戻る)ものと不可逆のものがあります。どちらも問題ですが、特に不可逆の領域は非常に大きな問題となります。この温度特性について非常に優れているのは、アルニコとサマコバで、逆にフェライトは低温で、ネオジムは高温で問題があります。特にネオジムの高温での温度特性の悪さはスピーカーのような温度が上がる使用例(スピーカーは音の出る電気コンロです)ではマグネットグレードの選定や放熱構造で非常に気を使う必要があります。ウーファー(特に大型の)でネオジムの使用例が非常に少ない理由はこのためです。
それ以外のスペックで特徴的なのは、電気比抵抗の値で、フェライトだけは非常に高く、殆ど電流が流れないため、スピーカーのボイスコイルの動きに対して流れる渦電流との関係が指摘されたりしていました。(フェライトの音が悪いのはこれが原因ではないかと) 私が新人の頃(随分大昔ですが)、国内の某大手マグネットメーカーが音質のいいフェライトマグネットを作るために電気比抵抗の少ないタイプを開発していましたが、確かにそのサンプルの音は少し良かった感じがします。ただ結局コストや需要との関係で、このタイプは結局日の目を見ることはありませんでした。それにしても音質対策のために新しいマグネットを開発するなど今では考えられないことですが、スピーカー関連業界が非常に元気があった良い時代でした。
ということで基本編はこのくらいにして、次回は各マグネット材質についてもう少し詳しく書いてみましょう。では今日はこの辺で。
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興味深い連載が始まりましたね。たしか、この分野の研究開発では、日本は「お家芸」といわれるほど得意で、ネオジウム・マグネットも住友金属の開発だったし、サマリウムコバルトを広く使えるようにしたのも日本メーカーだったと記憶しています。
かつてはスピーカー関連業界も元気があって、とおっしゃっていますが、「今ではパーミアンス係数の計算も少し忘れかけていて……」と苦笑なさっていますように、そういった計算も必要ないような使いやすく理想的な磁性材料の研究開発は今日も倦まず弛まず続けられているんでしょうね。
もちろん、磁石は大は核融合炉から小はナノマシンのモーターまで使われるものですから、すべてがスピーカー用、というわけではないでしょうけれども。
楽しみにしていますね。
どうも理科や物理は苦手なので、基本的なことを教えて欲しいのですが、
この表では右肩上がりのグラフに成っていますが、
残留磁束密度が高いほど、保磁力は弱いと読んでいいのでしょうか?
また、磁石製作時に磁力を抑えて保持力を高く保つ、というような製造加減が出来るということなのでしょうか?
>B-Hカーブが立っているマグネットは断面積よりも高さを必要とする。
>カーブが寝ている、それ以外のマグネットは高さよりも断面積でかせげるタイプ。
フェライトは円盤状だしアルニコは円筒状ですので、おっしゃることは良く分かるのですが、
カーブが立っている材質のものはコーン振動方向の磁力抵抗が小さいから?なのでしょうか?
磁石の断面積と高さの関係についてご教授願えれば幸いです。
色々初歩的な質問でお手間を取らせます。
素人ゆえお許しを。
以前学校の授業で教わったことを思い出しながら読んでいます。
ウーハーでネオジウムの採用例が少ない理由は温度でしたか。以前から「パワーが要るべきなのはウーハーなのになぜ?」という疑問がありましたが、これでスッキリしました。JBLのウーハーは排熱特性まで考えているようですし。
そう考えていくと、超電導コイルを使ったスピーカーが出てきてもおかしくなさそうです。でも、先端技術=音の良さにならないのは楽器と同じで、スピーカの難しいところですね。
>ネオジウム・マグネットも住友金属の開発だったし、
そうなんですよね、私も昔はネオジウムって言っていました。でも最近ネットで検索してみるとどれもネオジムとしか書いてないんですよ。ちょっと驚きました。住友金属(正式には住友特殊金属)も今や日立と合併して社名が変わり、時代の流れを感じます。
>JBLのウーハーは排熱特性まで考えているようですし。
そうですね。JBLのプロ用WFでは、ポール上に一部穴を開けるという放熱構造を採用し、かなりの効果を上げていました。実は私も最初はこの構造を少しバカにしていたのですが、実際にテストして確認してみると、シンプルな構造のわりに放熱効果が高いことが分かり感心したことがありました。ただ不均一な磁気GAPになることが気になって、ソニーでは磁気回路内に放熱のための迷路を作るという全く違う方式で磁気回路の放熱をやりました。でもこの方式は性能は良いものの複雑な構造のためコスト的に高かったのが難点でした。
>超電導コイルを使ったスピーカーが出てきてもおかしくなさそうです。
超伝導が言われ始めた当時、各社から沢山のアイデア特許が出されていましたね。まぁコストを考えると市販製品に採用されることは無いように感じますが・・・・。
>そうなんですよね、私も昔はネオジウムって言っていました。
>でも最近ネットで検索してみるとどれもネオジムとしか書いて
>ないんですよ。
ややっこしいことに、英語表記だとneodimium(ネオディミウム)ドイツ語表記だとNeodym(ネオディム)となっていますが、発見者がオーストリアの科学者だったこともあってか、手元の世界大百科事典も、学校教科書の周期律表も「ネオジム」になってますね……その意味では、英語でもなければドイツ語でもない日本語になってるのかもしれません。
実際、あっちこっちの磁石屋さんの中には「ネオジム/ネオジウム磁石販売」なんてのまでありますから、「通称」として日本語表記にはそんなのもある、くらいにしておいた方がいいんじゃないかと思います。いつのまにか「クラッカー」も「ハッカー」に「格上げ(?)」されちゃったくらいですし。
だいたい、「サマコバ」で通用するのも日本だけでしょ?(いいわけにはならんか……(笑))
今回からの連載も期待しております。
昔から「フェライトか、アルニコか」といった議論は多いですね。 もっとも個人的には、と前置きしたうえでの直感的な見方ですが磁石の素材そのものが音に影響している部分はさほど大きくないのでは?と思ったりしています。 むしろ磁気回路の外形が影響しているような。
ユニット背面のフレーム形状やバッフル取付位置のザグリ加工、はてはダンパー部のフレームに息抜きを入れることですら音が変わるのに磁気回路部分のように音が抜ける方向にこんなデカいものを置いて、その直径が巨大になったら変わらないわけがないだろ、といったレベルでの見方に過ぎないのですが。
そういう意味ではネオジム外磁回路+デッドマス、みたいなユニットがあると比較対象としては面白いなと思っていたのですがこうまで高温特性が悪いとそれもままならず、まったく神様というのは悩みが尽きないようによくも手間を掛けてくれるもんだと思いますね(笑)
ネオジムの表記についての経緯はたしか wikipedia にけっこう詳しく書かれていた気がします。私も以前にどう表記するのが正しいのかわからなくなって読んだ記憶があります。
>実際、あっちこっちの磁石屋さんの中には「ネオジム/ネオジウム磁石販売」なんてのまでありますから、「通称」として日本語表記にはそんなのもある、くらいにしておいた方がいいんじゃないかと思います。
私も最初はネオジムって何?と思いましたし、ネオジウムの方が言いやすくて好きなんです。でもどうしてネオジムという言い方に変わったのかちょっと気になりますね。
>むしろ磁気回路の外形が影響しているような。
そういう要素も少しありますね。これについては次回のアルニコの解説の時に書きたいと思います。
>ネオジムの表記についての経緯はたしか wikipedia にけっこう詳しく書かれていた気がします。
今見てみました。「なお、ネオジウムと呼ばれることもあるが、これは間違った呼称である。」だそうです。
う~ん、でも開発した住友特殊金属の人も当時はネオジウムって言っていたんだけどなぁ・・・。