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ユニットメーカーのパーツ内製化について

2008年03月27日 23時39分56秒 | オーディオ

さて前回はスピーカーメーカーについて簡単に書きましたが、今回はユニットメーカーとパーツメーカーについて少し書いてみたいと思います。

実はおもしろい話があって書いてみたのですが、書き上げたものを見てみてやはりちょっと公開するのはきついかなぁと考え直し、あらためておとなしい範囲で書き直すことにしました。今日の話も一応メーカーの名前は出さないことにします。

スピーカーユニットでボイスコイルや振動板等のキーパーツをどこで調達するかは非常に重要なテーマですが、これに対する考え方はメーカーによって大きく2つのグループに分かれています。

一つは、内製を基本に考えていくというパターン。大手ユニット専業メーカーにこのグループが多いようですが、どこまで内製に拘るかで若干温度差があります。特にA社に関しては、キーパーツの内製化についての拘りは非常に強く、どちらかと言えばそれは拘りを超えて犯してはならない聖域といってもよいくらいきついものでした。私もA社とは以前仕事を一緒にしたことがありますが、こちらが**の振動板を使いたいと希望しても、社内規制のため簡単には使うことが出来ず、本当に苦労したことがあります。最後はユーザー(つまり私)の指定(希望ではなく)ということで何とか押し通しましたが、個人的にはそこまで規制をかけるのが本当にそのメーカーにとって良いことかどうかはちょっと疑問を感じました。実際担当していたエンジニア自身も私の指定した振動板の良さを知っており、本音では使いたいともらしており、結果的に使えるようになって喜んでいたくらいです。

もちろん内製化のメリットもあります。最大のメリットは社内にそのパーツに関する技術やノウハウが蓄積できるということ。これは非常に重要で、たとえ内製せずに外注メーカー製を使う場合でも、その設計者自身がそのパーツについての設計ノウハウを持っていないと結局パーツメーカーをうまくコントロールすることが出来ず、本当に良いものは出来ないのです。実はパーツ自体の仕様決定する場合も、それを使うユニットとの関係をよく把握していないと最終的には良いものにならないことも多く、専業のパーツメーカーに全てを任せるだけで良いかというとかなり微妙なところがあるのです。

その面で他のメーカーのように内容やレベルによって社内外をうまく使い分けているメーカーは個人的には理想ではないかと思います。一部のユニットメーカーで特定のパーツについては専業メーカー以上のものを内製しているところもあります。ただ、内製化だけにあまり拘り過ぎると、井の中の蛙状態になることがあり、その辺のバランスは本当に重要です。実際のところ、A社の内製コーンははっきり言って専業メーカーのコーン紙に比べ性能的に勝っているとはとても思えませんので。

ちょっと話が飛びますが、例えば本格的なノンプレスコーン(コーン紙でも最も高性能な製法)を製造できるメーカーは日本でも2社しかありません。そのうちの1社は、JBLをはじめ大手有名スピーカーメーカー向けの多くのコーン紙を製造しており、世界的にもこのクラスのコーン紙を製造できるコーン紙メーカーはほとんどありません。80年代以前のJBLの全盛期に使われていた米国ホーレー社も今は以前の面影はなく、その当時のコーン紙を抜くものは今でも作られていません。この辺のところは話すと長くなるので、また別の機会にしましょう。まぁ言いたいのは、内製化にはどうしても限界があり、自社でトップクラスの性能を持ったキーパーツを全て作るというのは限界があるということなのです。

もう一つのグループは、内製は基本的に行わずもっぱら専業パーツメーカーから購入するという考え方。この考え方を持つユニット専業メーカーはどちらかと言えば少数派かも知れませんが、規模が小さなところは経営的にこの方式を取らざるを得ません。経営的な効率という意味ではこの方式は最高ですが、最大の弱点は社内にノウハウが残らないということ。オーディオが全盛期のころは国内にも優秀なパーツメーカーが沢山あり、そこに行けばいろいろな事が実験できましたし、社内になくてもそれなりに経験を持つこともできましたが、最近は国内のパーツメーカーはほとんどのところが廃業か中国等の海外へ進出しており、国内で簡単に工場でサンプルを見ながら打ち合わせなんていうことはほとんどできなくなっているので、最近の若い設計者は本当に可哀想だと思います。そういえば、先日訪問した数少ない国内パーツメーカーの社長さんが「最近のエンジニアは電話やメールだけで、本当に打ち合わせに来なくなったねぇ」とポツリと言っていたのが印象的でした。これは設計者本人の意識の問題なのか、その上司がそういう意識が無いのかは分かりませんが、いずれにしても今後のスピーカー業界がちょっと不安になります。ちなみに私の若いころは、上司からとにかく何かあったら現場に行って自分で確認して来いというのが常識でしたから・・・・。

パーツメーカーといえば最近はほとんどのメーカーが中国に進出しており、今や中国に行って入手できないパーツは非常に少なくなってきています。それどころか、その圧倒的に安い価格を考慮すると、なかなか国内製パーツの優位性を出すのは簡単ではなく、一部の特殊振動板や、特殊ボイスコイルくらいになってきているのではないでしょうか。私自身も、本音で言えば全パーツを国内調達したいところですが、なかなかそうはいかないのが現実です。でも中国で流通しているパーツもそのルーツをたどるとほとんどのものは日本メーカーを起源としているものが多いのも事実で、なかなか日本メーカーの底力というのはすごいなぁとつくづく思います。

では今日はこの辺で。


 


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4 コメント

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内製化 (盛田)
2008-03-28 20:30:27
 工業製品のみならず、食糧自給率の問題とも相通じるところがあるのでしょうね。逆に言えば、特定のメーカーが技術の独占をするより色々なメーカーがそれぞれ秀でている方が業界全体としてはより発展していくのでしょうね。吸収合併が激しい陰で優秀なエンジニアや技術が埋もれてしまうことのある米国よりも健全な気がします。
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Unknown (PARC)
2008-03-28 22:13:28
おっしゃるように日本のスピーカー業界も、沢山の優秀なパーツメーカーがユニットメーカーを支えながら業界全体が発展してきたのだと思います。
ただその関係も最近は変わってしまい、国内は本当にさびしくなってしまいました。今後大手国内メーカーが奮起して、また業界全体を盛り上げるようなことになってくれることを心から願っています。
PARC Audioも微力ながら、国内スピーカーユニットの灯を絶やさないように頑張っていきたいと思います。
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内製化 (うぇのーけん)
2008-03-29 12:41:57
個人的には、内製化と言うのはあまり好きではありません。
製造上のノウハウという部分はありますが、元機械設計者としては、業者の人に頼みたい。
理由は簡単で、設計図に元づいて「できる」、「できない」をはっきりさせてくれること。設計者としては、図面は設計者個人の理想が詰め込まれたものではありますが、実際機能的な部分にかんしては、全体の半分程度ではないでしょうか。そして、内製の最大の短所である「なぁなぁ」が発生することが、一番製品の価値を下げると思います。業者は生き残りをかけて、頑張っているところがたくさんあります。
そういったところと仕事をすると、設計者も気が引き締まり、緊張感のある、また達成感のある製品作りが出来てよいと思います。
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Unknown (PARC)
2008-03-29 23:33:42
ブログにも書きましたが、パーツの内製化についての私の意見は、良い面もあれば悪い面もあり一概にどちらが良いとは言えないということです。

確かにうぇのーけんさんのおっしゃるように、安直に内製化をやっていると「なぁなぁ」ということも無いとは言えませんね。またパーツ専業でやっているメーカーはそれに全てをかけているので、ユニットメーカーの内製化に比べて必死さでは確かに上回っているかも知れません。内製化をやっているメーカーで井の中の蛙になっているところもあるように感じます。

ただ、では一概に内製化がダメかというと私はそうは思いません。PARC Audioのようなちっぽけな会社ではやりたくても到底無理ですが、大手メーカーが内製化をやる場合、ある時は採算を度外視してでも開発や量産を行うことがあります。例えばソニーのバイオセルロース振動板などはそれの良い例ではないかと感じています。ところがパーツ専業メーカーが採算を度外視してできるかというと、逆にそれは非常に厳しいものがあります。

それから設計図について「できる」「できない」をはっきりさせてくれるというご指摘がありましたが、自分たちである程度内製化を通してそのパーツについてのいろいろな事を経験していないと、何故ダメなのかさえ理解できないということさえ起こりえます。

これは実際にあった話ですが、ある若い設計者がパーツメーカーに**のような仕様でサンプルを作って欲しいと依頼したところ、相手のエンジニアからそんな試作をしても全く意味が無いですよ、と相手にされなかったという笑えない話もあります。こんな話は本来はあってはならない話であり、いかに自分自身で経験をすることが重要かを証明している事象だと私は考えています。いくら人からいろいろな事を聞いたり教えてもらったりしても、本当に自分自身である程度経験したことでないとやはり本当の自分の身には付かないし理解も出来ないのでは、というのが私自身の考え方です。

ちょっと長くなってしまいましたが、内製化についてはとにかくバランスが重要だというのが私の結論です。またこれについては今後機会があれば話をしてみたいと思います。
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