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ボイスコイルについて(2)

2008年02月11日 00時36分41秒 | オーディオ

今日は、ボイスコイルについての実践編です。
実際にスピーカーユニットを設計する際、一般には口径は商品企画で決まっていることが多いので、振動板の材質の次に設計者が考えることはボイスコイルのサイズをどうするかということです。

ボイスコイルのサイズ(内径)は下記のようにいろいろなことに関係しており、そのスピーカーユニットの仕様を決定付ける重要パーツと言えます。

1)コスト
 サイズが大きくなればボイスコイルそのものの価格が上がりますが、それに加えて磁気回路も当然大きくなりますので、むしろそちらの方の影響が大きいと言えます。

2)耐パワー
 基本的に同じ線材とボビン材では、ボイスコイルの大きさに比例してそのスピーカユニットの耐パワー能力は向上します。それは主に磁気回路内のボイスコイル線材の長さが増えることや磁気回路の面積が増えることにより放熱効果が上がるためです。

3)周波数レンジ
 大きなサイズのボイスコイルにすれば、それに比例して線材の長さが増え、結果としてボイスコイルのL分が増えるため、そのスピーカーユニットの高域は出にくくなります。ネットワークで大きなコイルを使った時と考えてください。

 もちろんこれを防ぐために磁気回路でショートリングを使ってL分をキャンセルしたり、意図的に巻き幅の狭いボイスコイルにする等の方法はありますが、一般的に言えばサイズの大きいボイスコイルを使うということは高域が出にくくなります。

4)能率
 ボイスコイルのサイズが大きくなれば、磁気回路内の線材の有効長さは増えますが、その重量も比例して大きくなるので、能率も低くなることがあります。

5)振動板の形状
 スピーカーユニットのサイズ(外径)が決まっていて、ボイスコイルのサイズが大きくなれば、結果として振動板のカーブも影響を受けます。単純に言えば、ボイスコイルのサイズが小さくなるほど振動板のネック部は角度が浅くなってくるので同じカーブなら強度が弱くなり高域は出にくくなります。
これを防ぐために、一般に小口径のボイスコイルの場合はネック部のカーブが少しきつくなるようにした複合Rの振動板が多いようです。


上記を見てもお分かりのように、ボイスコイルのサイズというのはいろいろな要素と密接な関係があり、設計としては非常に悩むところなのです。

例えば、小口径のボイスコイルを使えばコストは安く、周波数レンジも有利で、ボイスコイルの重量も軽く出来るので能率も高くできフルレンジにはうってつけですが、反面耐パワー的には非常に厳しくなります。

ウーファーユニットの方がフルレンジユニットよりも高耐パワーのものが多いのは、このような事情があります。


またこれに加えて厄介なのが、部品メーカーの標準サイズの問題です。
実は、スピーカー部品の中で部品業界で最も標準化できていない部品がボイスコイルなのです。私も会社に入ってボイスコイルのサイズ(内径)の種類の多さには本当に驚きました。先輩から大昔に聞いた話では、関西の松下系と、関東のフォスター、パイオニア系等の元の流れがあり、各社がそのボイスコイルに合わせて製造治具やその他の磁気回路等のパーツも設計していたため、その後どれかのサイズに合わせるという事が業界でできなかったそうですが、その理由についての真偽は定かではありません。

特に1インチ(25mm)と呼ばれるサイズは本当に細かくサイズが分かれており、Φ25.xxは丸線しか巻き治具が無いとか、Φ25.xxにするとこの振動板のネック径が微妙に違うので使えないとか、流用部品で設計をしようとすると制約条件がかなり多いことがあります。

もちろん企画台数が何十万台もあるようなモデルでは、金型や治工具を新規に作ることも可能なので問題にはなりませんが、普通のモデルでは流用できるパーツが限られるというのは結構しんどいものです。まぁこれは私が今まで企画台数の少ない高級モデルの設計が多かった事がきいているのかも知れませんが・・・・。

 

さてボイスコイルのサイズが決まると、次は線材と線径の決定です。
これもサイズと同様にコスト、耐パワー、周波数レンジ、能率に効いてきますので求められるスペックに合わせて選んでいきます。

丸線の場合はそのユニットのXmax(有効ストロークと考えてください)が決まれば簡単に線径は決まるのですが、リボン線やスリット線の場合は自由度がある分非常に悩むところです。ただこの場合も、やはり欲しいサイズのワイヤー在庫があるとは限らないので、またここでもいろいろと調整が必要となります。

スピーカーの場合、インピーダンス(ボイスコイルで言えばDCR)は商品企画で最初から決まっていますから、線径を大きく(太く)することで巻き幅が増え、Xmaxを増やすことができます。

もちろん、この時に何層巻きにするかも決定します。一部の高級モデルを除けば2層巻きが一般的ですが、スーパーウーファー等に対して4層巻きのような多層巻きも行われています。

線材については、前回の説明でお話したとおりですが、これはメーカーや設計者によって微妙に考え方や好みが違うように感じます。特にアルミ線についてはほとんど使わないメーカーもあり、かなり差を感じます。
私は個人的にはウーファーは銅線、トゥイーターにはアルミ線がベストで、フルレンジは出来るだけ銅線でまとめたいと考えています。


最後に、ボビン材の選定となります。これも各社の設計手法が出て非常に興味深いですが、スペック重視になりがちのOEMメーカーでは耐パワーに有利なアルミボビンを使うことが多いような感じがします。
まぁ一番無難なところがTIL等のガラスイミド系だと思いますが、私は音色的にあまり好きではないので、PARC Audioのユニットでは出来るだけ使わないようにしています。

スピーカーユニットの仕様書では、一般的にボイスコイルのこのような重要な情報はあまり表記しないことが多く、ユーザーの方にはあまりなじみが無いかも知れませんね。



蛇足ですが、私見として私は良いスピーカーユニットメーカーはボイスコイルを内製しているメーカーだと思っています。有名な例ではJBLがその代表例で、巻き線後に後からボビンを接着する彼らの製法は国内ではあまりやられていない独特のものです。

国内でも大手のユニットメーカーはほとんどが内製をしており、ヤマハやビクター等でもかつては小規模ながら内製をしていました。もちろん、ボイスコイル専業のパーツメーカーでも非常に優れたところがあり、一概に内製していないから悪いということではありませんが、自社で例え一部でも内製しているところはボイスコイルというキーパーツについての技術の蓄積があり、結果的にそれはスピーカーユニットの完成度にも影響しているように感じるのです。

今まで新しいユニットメーカーの採用を検討する場合は、私は必ずこの点を確認するようにしていました。もちろん現在PARC Audioのウッドコーンモデルを製造依託している中国のメーカーもボイスコイルを内製しています。



あと経験的な事を言えば、ボイスコイルのサイズ(径)を大きくすればそのユニットの音質も良い意味で太めでしっかりとした方向になります。これは径が大きくなることで使用する線材の径も太くなることが影響しているのでは感じていますが、例外もあるので参考としてください。



さて一応簡単にボイスコイルについて述べましたが、今回は少し内容が専門的なところもあったため、皆様にうまく分かっていただけたかどうかちょっと不安です。皆様の感想等、お待ちしております。
是非、率直なコメントをいただければ今後の参考になり、うれしいのですが・・・・・。

では今回はこの辺で。

 


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4 コメント

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なるほど (KEN)
2008-02-11 18:19:42
ボイスコイルについてこれほど詳しく解説しているホームページは無かったので、とてもためになりました。

「コイル巻き数が多いと、Xmaxが増加して振幅が大きく取れて低域までレンジが延びるが、高音は出にくい。」ということなので、フルレンジスピーカーは非常に細かい調整が必要なのですね。
ウッドコーンスピーカーはどうやら太めのコイルのようなので、Xmaxが大きいですね。コーンを押してみるとよくわかります。多少ウーファー寄りのユニットなのでしょうか?
FOSTEXはボイスコイルが細いので、Xmaxがかなり小さく、高域がよく伸びるユニットですね。

これからも是非とも様々な解説をお願いします!
Xmaxについて (PARC)
2008-02-11 22:11:17
KEN 様

コメントありがとうございました。
ブログの記事が少しは皆様のお役に立てているようで一安心いたしました。

当社というか私の音に対しての設計ポリシーについては別のエントリーで近いうちにお話したいと考えていますので、ここでは簡単に言ってしまうと、「音の中で一番重要なのは中低域であり、特に声の基音のところだ」と考えています。

そのため、高域と中低域(時には低域も)を比べてどちらを取るかと聞かれれば、私は迷わず高域を捨てます。

もちろん、両方とも満点のバランスが出ることを目指して日々奮闘しているわけですが、フルレンジというのはスピーカーユニットとして究極の形であり、設計者としては最も厳しいカテゴリーなのです。

今回ウッドコーンモデルが全体にウーファーよりのバランスになっているのは、最初からウーファーよりを目指しているわけではなく、あくまで上記の私の音に対してのプライオリティ(優先度)の関係で結果的にそうなったということなのです。

この辺の割り切りというのは設計者としては非常に悩むところで、各社それぞれの考え方やポリシーがあるのではと思います。

Xmaxについては正直なところ、「最初からこのモデルはXmaxはいくらにするぞ」とかは決めずに、「最低限これ位のXmaxは必要だなぁ」というところから設計をスタートして、後は全体の音のバランスを聞きながらボイスコイルの調整を行っています。他のメーカーでは違う設計手法を取っているところもあるかも知れませんね。
実際の設計では、最後は1ターン巻きほぐしたりして最終調整するようなこともあるほど、ボイスコイルは本当にシビアな世界ですね。ただ最近は開発期間が段々短くなっていて、各社昔のようにそこまでの微調整をやっている時間がなかなか取れないという事情もあるようです。

ちなみにXmaxを十分に取りながら高域を出す方法としては、ボイスコイルの線材をCCA線(アルミ線は高いのであまり使えない)を使うということがありますが、先にも書いたように私はCCA線の音質があまり好きではないので、使用することは少ないです。私の場合は主に振動板のキャラクターとの関係で線材の種類を決めています。他社でのCCA線の使用例はかなり多いように感じますね。

ボイスコイルについては、まだまだ書き忘れたことがあるようで、また思い出した時に、断片的にでも追記していきたいと思います。

それでは、今後ともよろしくお願いいたします。



Unknown (IPPEI)
2016-12-03 10:05:56
疑問を検索してこちらに辿りつきました

すご~~く分かり易く、興味深い内容でした。
Unknown (PARC)
2016-12-10 10:38:29
IPPEI様

コメントありがとうございました。ブログにも記載していますが、現在このブログは下記のところに移行しています。
今後はそちらをご覧いただけると幸いです。

http://www.parc-audio.com/blog/

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