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PPコーンについて

2008年06月24日 23時28分56秒 | オーディオ




こんばんは。

今日は前回のアルミコーンウーファーに続きケブラーコーンウーファーを書こうとおもっていたのですが、今更ながらまだPPコーンについて書いてなかったことに気がついたので、予定を変えてPPコーンユニット(DCU-F131PP)について先に書きたいと思います。

職歴にも書きましたが、私はビクター在職時にPP(ポリプロピレン)を使ったスピーカーを日本で最初に商品化しました。もちろん当時の私は新人に毛の生えたくらいの存在でしたが、経験の無い分やる気と行動力だけは誰にも負けない自信がありましたので、当時の上司K氏(この方は後にビクターのウッドコーン開発の中心的存在になった方です)があいつなら何とかやるだろうくらいの感じだったのではと思います。

さて話は前後しますが、今ではスピーカーの素材として当たり前の存在となったPP(ポリプロピレン)ですが、先ずこのPPという素材について簡単にお話をしましょう。PPは見てもお分かりのようにプラスティックの素材ですが、その最大の特徴は内部損失が非常に高いということです。この内部損失というのはその材料がどれくらい振動を吸収しやすいかを表す指標と思ってください。つまり内部損失が高い素材は一度振動した後、変な共振をせずに直ぐに振動が収まる特性があります。平たく言えば、うるさい嫌な音が出ないということです。これと逆な例が金属で、金属系は一般的に内部損失が少なく、一度振動するとなかなか振動が収まらず、特性的にもピークが出やすくなります。分かりやすい例が、金属のバケツを棒でたたくとカ~ンとうるさい音でなかなか音が止まらない感じで、プラスティックのバケツをたたくとボンという感じで直ぐに音が収まりますよね。

では何故直ぐに音が収まる方が良いかといえば、例えばスピーカーにある入力(例えばピアノの1音)が入った時、入力は一つの音だけなのにスピーカーがいつまでも振動していればそれは原音と違う再生をしていることになります。特にウーファーなどの比較的低い帯域では、この内部損失というのは非常に重要なファクターなのです。現存する各種素材の中で、PPはダントツで内部損失が優れています。

反面PPには多くの欠点もあります。音響的には、剛性が低いということ。実はPPの剛性の低さもダントツなのです。ここで、スピーカーの振動板には剛性の高さと内部損失の高さの両方を要求されるのですが、実はこの両者は一般的に相反するもので、設計者泣かせのことなのです。

さらにPPは耐熱性も非常に低く、スピーカーの使用にはボイスコイルボビンの材質等で制約がつきます。前にもお話したようにスピーカーは音の出る電気コンロですから、耐熱が低い材質は結構やばいです。さらにPPには最大の欠点があります。それは接着性が非常に悪いこと。スピーカーはほとんどのパーツを接着剤で組立てますので、この接着性が悪いというのはかなり致命的なことなのです。

ということで、PPという素材は物性だけで見ると決して素晴らしいというほどのものではなく、むしろ非常に扱いにくい鬼っ子という感じが当時の私の率直な印象でした。そんな私に
「おい冨宅君、今度PPコーンを使ったスピーカーを商品化するから、よろしく。」
なんて今から思えばわりと軽~いのりでK課長(当時)が私に言ってきたのです。このKさん、本当にいい人なのですが、結構こんな感じで重い仕事も「何とかなるよ」って感じで言ってくるので正直私にはきつかったです。でもこの時の経験がその後の私のエンジニアとしての仕事に大きく役立ったことも事実なので本当に感謝はしていますが。

KさんがPPコーンをやろうと思ったのは、当時ヨーロッパでロジャースというメーカーがPPコーンを使ったモデルを商品化してかなりの評価を得ていたことがきっかけのようでしたが、ビクター(Kさん)のすごいのはそんな初物の材料を高級な単品スピーカーではなくシステムコンポ用(今のミニコンポの少し大きなもの)として企画したことと、さらにその開発商品化を入社後間もない私のような若手にさせたことです。最初この話を聞いた時、Kさんはおそらく
「これは難易度がかなり高いから、若手にやらせておいて、もし失敗してもみんな諦めるだろう」
と思っていたのではとも感じましたが事の真偽は未だに確認できていません。

さていきなり予想も出来ない高い目標を与えられた私は、とにかく先ずはPPを成形することからトライを始めました。と言っても当時の日本ではPPといえば大型の看板(飲み屋さんの店先に置いてあるような)なんかに使われていることが多く成形ベンダーさんに行っても「スピーカー? 何それ?」という感じでしたから、「お椀のような形をしたものを成形したいのですが・・・」なんていうところから話が始まったのです。成形方法は、現在スピーカーで主流の射出成形法(材料を高温で溶かして、高い圧力をかけて一気に金型の中に押し出して冷やして固める方法)ではなく、非常に原始的な真空成形法というものです。この真空成形法とは、材料の薄いシートをヒーターで加熱し材料がとろけたところで金型の上にかぶせて金型の裏側から空気を吸って真空状態にし金型に材料をはりつけて成形するという方法です。この方法の良いところは、金型代が非常に安いということと、材料の板厚を比較的自由に変更できること、また射出成形法のように材料に圧力をかけないので成形後の材料の内部損失が維持されやすいということです。逆に欠点としては、成形コストが高いことと、成形品のバラツキが出やすいということになります。

DCU-F131PPでも今では珍しい真空成形法をあえて採用しているのは、この板厚を自由に検討できる(つまり極限の軽量化が出来る)ということと、PPの最大の良さである内部損失を出来るだけ残すということが理由なのです。実は、ソニーで私の最後のモデルとなったカーオーディオ用のあるウーファーでも、当時ソニーが大々的に推進していた射出成形法のタイプをあえて使わず、真空成形法を採用したこともありました。この時は研究所の材料開発のGpを怒らせないようにかなり気を使ったものです。

材料については当然音響用として開発されたものなど無いので、先ずは当時入手できる材料を片っ端から成形して測定と試聴を繰り返したのです。この辺の泥臭いことがスピーカーユニットの開発では非常に重要で、どちらかと言えば理論でどうというよりも先ずは実践が先という感じで、エジソンが電球用にいろいろな材料を検討して最終的に日本の竹になったというような話と同類項のような感じですね。蛇足ですが、今の電機業界はこのようなことをじっくりやる余裕があまりなく、スピーカーユニットの開発環境としては非常に厳しい感じがします。

それと並行して、接着性の悪さにどう対処するかについても、素材メーカー等と協議しながら検討を進め、最終的には現在主流となっているプライマー併用ということに決まりました。このプライマーというのは接着する材料の表面に塗布して接着性を改善するもので、今ではホームセンターなどでも普通に販売されています。

さてちょっと理屈っぽい話が続きましたが、次回はもうちょっと具体的な音の話をしたいと思います。では今日はこの辺で。

 


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14 コメント

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Unknown (倉田 有大)
2008-06-25 02:50:28
今回も面白いお話ありがとうございます。
ポリプロピレンといえば、ディナウディオのスピーカーを持っていましたね。
真ん中の形が正?角形とかっこいい形をしていた覚えがあります。これも音質に関係してくるのでしょうね。
もしPARCAudioさんでウーハーとでれば、。ウッド、ケブラー、アルミ、ポリプロピレンと、ますます選択に悩むことに。><
ディナウディオのスピーカーがいい音でしたのでポリプロピレンにも惹かれます。
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Unknown (PARC)
2008-06-25 09:49:34
倉田様

いつもコメントありがとうございます。
PARC AudioでPPコーンの単品ウーファーを発売する予定は今のところありませんが、A&Vフェスタで参考出品したコアキシャルという形での発売はあるかも知れません。現在コアキシャルについては、ウーファー部の振動板を何にするかでいろいろと悩んでいるところです。
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Unknown (さすらいのあめおとこ)
2008-06-25 09:54:31
PPコーンってロジャースで使っていたんですね。そんなこととは露知らず3/5aを8ヶ月前まで使ってました。3/5aはまた違うベクストレンという素材らしいですが・・・。
とPPでは8センチや10センチを出すお考えはないのでしょうか?
次回の音の話を聞いたらPPも買いたくなってしまうかも^^
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Unknown (PARC)
2008-06-25 09:59:04
さすらいのあめおとこ様

いつもコメントありがとうございます。
ベクストレンもいい素材でしたね。どおいうわけか、国内ではあまり採用されませんでしたが。

小口径のPPは一応検討してます。(笑)
まだ発売できるかどうかはお話できるレベルではないですが、PPコーンが13cmだけというのもちょっとねぇと感じていますので。
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DCU-F131PP購入しました (マッシ)
2008-06-25 19:44:51
ウッドコーンに続きDCU-F131PPも購入しました。
PPコーンの軽快な低音もいいですね。
欲をいえば15kHzから上のレベルがもうすこし欲しいです。
余り下を伸ばすとバランスが悪いので音道の短いハセヒロのMM-151(改)に入れています。
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Unknown (PARC)
2008-06-25 23:39:52
マッシ様

DCU-F131PPのご購入ありがとうございました。
ウッドコーンと共にPPコーンの音も気に入っていただけたようで、うれしい限りです。両モデルはかなり性格が違うかと思うのですが、それぞれのモデルがはっきりとした特徴を持っているので、その日のご気分や聴く音楽などによっていろいろと使い分けていただければおもしろいかと思います。

PPコーンでもう少し高域を出す方法もあるのですが、あまりやり過ぎるとせっかくのPPコーンの良さが無くなってしまうので、現状では今のバランスがベストかと考えています。

DCU-F131PPは、超軽量振動板を使っていることもありどちらかと言えば低域は軽めなので、比較的大き目のBOXが相性が良いと思います。バックロードも方式としては中低域が厚くなるので相性が良いかも知れませんね。
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PPの話題のところ??? (Opteron)
2008-06-27 20:01:19
結局、ケブラー突入しちゃいました。いろいろ悩んだ上の結論です。実はこいずみ無線に17cmのケブラーが置いてあったのを見て正直かなりグラッときたのですが、正直箱やらネットワークのこと考えたら、思いとどまってしまったチキン野郎です。ハイ(笑)。もし、ケプラーで15cm、1万切っていれば、わからなかったです。まあ布さんに、jatzenの安いコイルがあったのも要因でしたけど。
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文字化けしてましたね(;´ρ`) グッタリ (Opteron)
2008-06-27 22:37:03
地下鉄から携帯でメールすると文字化けしますね。^^;
すみません。今さっきウッドと交換してとりあえず鳴らしてみました。やはり音が全然違うのですね。面白いですね。ネットワーク作り直しです。
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Unknown (PARC)
2008-06-28 00:36:34
Opteron様

DCU-131K2のご購入ありがとうございます。ウッドコーンに加えてケブラーとすごいペースですね。とてもクラフトの入門層とは思えないです。今後いろいろなことがあるかと思いますが、とにかく楽しんでやってください。

15cmはサイズ的にちょっと中途半端なところがあり、今後の展開はかなり微妙ですが、皆様からのリクエストが多いようなら考えてみようかと思います。

また今後の試聴記を楽しみにしています。
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はまりやすい・・・ (Opteron)
2008-06-28 03:16:02
もうだめなんですね。ほしいと思ってしまうと、かっぱえびせん状態に(;´ρ`) 。ウッドで結構遊んでいたのですが、あれはやはりフルレンジでゆったり鳴らす方がいいような気がしてきまして。推奨の15リットル箱でですね。それでQtsが低めの他のユニット考えていたのですが、いろいろ考えたあげくケブラーになりました。まだすごくいいかげんな状態で聴いているのですが、ケブラーって現代的な音がするのですね。かなりいけてると思います。これ時間かけてセッテイングすれば、かなりなレベルになるのでしょうね。あとケブラーのほうが、自分の主に聴く曲にはあっているかもしれないです。これで12月までは遊びたいとは思っています
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