goo blog サービス終了のお知らせ 

集まれ スピーカー好き!

スピーカーやオーディオに興味がある方に、いろいろな情報を発信していきたいと思っています。

良い音とは(2)

2009年06月08日 23時52分04秒 | オーディオ

こんばんは。
今日は前回に引き続き、「良い音とは」の2回目です。正直ちょっと重過ぎるテーマだったかなぁとも思いつつ、頑張って続きを書いてみたいと思います。

ソニーへ入社後、私が自分の上司にソニーの音について聞いた時の答えが「それはあなたが作ってください」ということだったことは前回書きましたが、このことは良くも悪くもソニーをよく表していると思います。これは私の印象ですが、ソニーという会社は非常にオープンで、外部から良いところを積極的に取り入れることがうまく、これがソニー流だからこうしろと強制するようなことが非常に少ない会社だったと思います。当時の人事の担当者が、「冨宅さん、ソニーは中途入社の方が過半数の会社なので、心配することは全くないですよ。やりたいことをがんがんやってください。」と言っていましたが、正にそのとおりでした。そのため音に関しても「ソニーの音はこうだから、こうしてくれ」というようなことは、当時のスピーカー(少なくとも私の周り)では無かったのですが、このことが逆にソニー(スピーカー)の弱点でもあったのではと私は感じています。音というのは非常に抽象的で、一言で良い音と言ってもいろんなアプローチがあり、それを各人が自由にやるというのはなかなか難しいところがあると思うのです。その点、ビクターの場合は目指す音の方向がはっきりしていたということでは恵まれていましたね。世間ではよくソニートーンという言い方をされますが、私自身はこの言い方には非常に違和感を感じていました。何故ならソニー社内でこれがソニートーンだからというような会話を聞いたことは無かったですし、スピーカーでも設計者(特にシステム担当者)によってずいぶんと音の感じが変わった印象を持っています。これと対照的なのが、当時のダイヤトーン(三菱)だと思いますね。好き嫌いは別として、ダイヤトーンのスピーカーはどれを聴いても同じトーンポリシーで統一されていたと思います。(ただ私自身が好きだったかというとちょっと話は別ですが、トーンポリシーを決めてぶれないということはすごく大事だと思います。)

ちなみに他のカテゴリーでは、個人のユニークな発想を自由に商品化に生かすことができる点が大きなメリットとなり、ここがソニーの強みでもあったと思います。スピーカーの場合は、アイデアも大事ですが、それ以上に経験からくるものも非常に多いので、ちょっと状況が違うように感じます。蛇足ですが、ソニー入社後非常に驚いたことは、新しいテーマが出た時に希望者がいればたとえ新人であっても自由にやらせてみるということでした。こんなことはビクターではあまり無かったことで、これはソニーの強みだったとも思います。こんな時、前述の人事担当者が「うちにはソニージャングル論というのがありまして~」と言っていたのを思い出しました。これは、ソニーはジャングルと一緒で元気のある大木はどんどん育つが、その影に隠れた小さな木や雑草は大木の陰になって日が当たらなくなり、ますます育たなくなるんですよと。

さてちょっと前置きが長くなってしまいましたが、こんな状況だったこともあり、入社後しばらくの間私は音に関してはいろいろ迷いながら進めていたというのが正直なところでした。当時スピーカーGpにはいろいろなタイプのエンジニアがいて、中には人間BK(BKとは当時多くのオーディオメーカーが使っていたヨーロッパ製の高級測定器のメーカー名で、測定器の代名詞のようなもの)のように超人的に耳のいい人もいて何Hzにピークがあるとか細かい調整をしていましたが、でもその音がいいかと言えばまとまってはいるものの何かつまらないというか心に響かないなんていうこともありました。あと私が入社した当時は平板スピーカーがはやり始めた頃で、ソニーも独自方式のAPMという四角い平板スピーカーを中心にやっていたこともあり、ビクターに比べ理論先行型というか特性重視ということも私にとってはちょっと不幸なことであり、実はこの時の経験が私のその後に少なからず影響を与えていたりします。つまり理論や特性がいくら良くても、スピーカーはいい音(言い換えれば多くの人から評価を得られるもの)を出してなんぼではないかと。そう言えば当時のソニーには白衣を着てユニットを試作している人もいたりしましたね。(ビクターでは考えられないことですが)

私にとって音的にはあまりハッピーではなかったそんな期間が過ぎていき、大きなターニングポイントとなったのはSS-A5というモデル開発が始まった時でした。この時スピーカーGp自体が大きな組織変更があり、今までカテゴリー単位であった組織を単品コンポーネントを担当する設計者がカテゴリーに関係なく同じひとつの組織にまとまるという、ソニー初めての試みが行われたのでした。この時期、ソニーとしては記録的な大ヒットとなった333や555のアンプシリーズなども商品化されています。この組織変更によってアンプやCDプレーヤー等の設計担当者と同じGpになり、音に関しての交流が行われたことも新鮮な刺激となりましたが、それ以上に衝撃を受けたのは今は亡き伝説のMさんとの出会いでした。この辺のことはこちらに少し書いてあるので、気になる方はちょっと見てみてください。

Mさんは当時プロ用機器を担当していた厚木テックから鳴り物入りでオーディオ事業部に戻ってきた方(以前は名機G7なんかも担当された方です)で、とにかく執念のかたまりで音に対してのこだわり(悪く言えばひつこさ)では右に出る者はなく、一緒に仕事をやるにはほんと根性がいりました。(私がその後研究所に異動したのも少し関係があったりします。) ただ、本当に音の細かいことに関してはいい勉強をさせていただいたと今でも感謝しています。今までのスピーカーGpのメンバーとMさんの一番の違いは、ぶれないということと、自分の音について絶対の自信を持っているということ。これは一緒に仕事をやるユニット屋にとってはものすごく大事なことなのです。ただこれは場合によってはまれに暴君的なことになることもあり、ほんと執念とチームワークとのバランス取りというのは難しいものであるのも事実ではあります。

あとMさんの音のまとめ方の中で、声にこだわりをもたれていて、「冨宅さん、マイクで喋って自分の声を聴きながら調整するとすごく分かりやすいんだよ」というようなユニークな調整法も印象的でしたね。そんなMさんではありますが、やはりソニー時代にお世話になった音の恩師と言える数少ない方の一人です。私のシステム関係についての細かいノウハウはMさんと一緒に仕事をした数年の間に習得したことが本当に多いのです。今あの当時のような細かい検討をじっくりとできる環境はどこのメーカーもなかなか無いでしょうから、本当に私は恵まれていたとつくづく思います。

で良い音とは何かを悟れたかと言うと、当時はすっかり分かったつもりだったのですが、後でまだまだだったということを痛感させられることになるのです。それは研究所に異動後、ある方との出会いによるのですが、その辺のことは次回にまた。

お~い、こんだけ話して結論無しかい!! なんてきつ~い突っ込みはご容赦を。次回は更に本質に迫りますので・・・。なんちゃって。


コメント (12)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 良い音とは(1) | トップ | コアキシャル用ネットワーク... »
最新の画像もっと見る

12 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

コメント日が  古い順  |   新しい順
おもしろいです! (GX333+25)
2009-06-09 00:37:32
 外からはわからないいろいろなお話、本当に興味深いものがあります。

 ぜひぜひ、ごゆるりと気の向くままにお書き留めください。私は私なりに御異見を拝聴しつつ、あれこれと無益なことを考えつつ、安らかな気持ちで音楽を楽しみたいと思っていますので。
返信する
Unknown (UTP)
2009-06-09 14:56:21
>白衣を着て試作
凄゛いですね~。白い髭かなんか生やしていたら、ほとんどSF映画ですね。

20数年前、某医学部の公衆衛生学講座に在籍していた時分、教授以下医者は全員『非白衣』で、訪ねてきた人が驚いていました。
ちなみに、唯一、技官の女性だけが白衣を着ていました(理由は、ポケットが役立つからと)。
返信する
その頃の SONYのスピーカー (せきぐち@館林)
2009-06-09 21:37:58
その当時、私のスピーカは ビクター:SX-5Ⅱでした。
三菱の DS-251MKⅡ、ヤマハのNS-1000なんかを競って聞いていたのを 懐かしく想います。

残念ながら、SONYのスピーカは、あんまり覚えていません。
返信する
Unknown (PARC)
2009-06-10 00:14:40
GX333+25様

>外からはわからないいろいろなお話、本当に興味深いものがあります。

今回はちょっとテーマから外れて、ソニーの裏話的な感じになりましたが、まぁ楽しんでいただければそれはそれでいいかなぁと。
返信する
Unknown (PARC)
2009-06-10 00:18:01
UTP様

白衣にはほんと私も驚きました。ちなみに白衣を着ていたその方は、「今日はユニット試作は3個で終了」などと言っていましたが、ビクターで何十個も試作をするのが当たり前だった私はこれにも驚きました。
さすがソニー?
返信する
Unknown (PARC)
2009-06-10 00:21:15
せきぐち@館林様

>三菱の DS-251MKⅡ、ヤマハのNS-1000

懐かしいですね。私も1ユーザーとして聴いた覚えがあります。


>残念ながら、SONYのスピーカは、あんまり覚えていません。

大きな声では言えませんが、私も当時はソニーで印象に残ったスピーカーはあまりなく、G7くらいでしょうか。でもあのG7は惜しげもなく物量を投入した本当にCPの高い名機でした。なんせアルニコマグネットに、絶品ホーレーコーンですから、いい音がして当たり前です。
返信する
懐かしいスピーカーたち (GX333+25)
2009-06-10 12:12:31
「にぃ・ごぉ・いち」とか1000Mとか、懐かしい名前が出てきました。でも、一番印象に残るのはSS-G7です。

 いろいろ言われましたが、堂々たる姿から「豪快」という評判が一般的だったと記憶していますが、私はむしろ意外なほど(失礼)繊細なところを感じていて、当時もてはやされたLo-D HMA-9500との組み合わせには違和感を覚えていました。一言で言えば、やはり「まじめな音」という印象でしょうか。それだけに「個性がない」とも言われるのか、と思いますが。

 とはいえ、今も昔も貧乏所帯、狭い部屋には置くスペースがなく、その後現れたG5,G4,G3といった弟分には今ひとつ興味がわかず、兄貴分のG9となると置く場所も何もあったものではない、というありさまでご縁がありませんでした。

 今、オークションや中古販売で、お値段はかなり手頃になっていますが、肝心のユニットがへたっていたり、ユニットは健常に見えても売り物のアルニコマグネットの減磁は確かめようもなく、さりとて、一部のオーディオショップが手がけているコーン紙やエッジ交換、磁石の再着磁等々のチューニングは、システムとしてのバランス取りに不安があって、やはり手が出ません。

 G7で思い出したのですが、ふと「なんだかアタゴ山の音と親和性が高いなぁ」と思ったことがあります。後に、NHKからヘッドハンティングされた中島平太郎氏が在籍していらっしゃったことを知りましたが、関係あるんでしょうか。

「NHKといえばダイヤトーンだよ」というのが通年ですし、代表のおっしゃる「社風」からすると、あんまり関係なさそうな気もしますが。
返信する
Unknown (倉田 有大)
2009-06-10 23:04:02
なるほど、SONYの音は無いですか。
おもしろいですねー

一般のメーカーは、スピーカー、アンプ、CDプレーヤー、どれもそのメーカーの音がするなーと思っていました。

そういえば、SONYのアンプがなかなか手に入りませんー
アンプは昔の人気機種はいまでも人気がありますね。
返信する
Unknown (PARC)
2009-06-10 23:40:38
GX333+25様

>アルニコマグネットの減磁は確かめようもなく、さりとて、一部のオーディオショップが手がけているコーン紙やエッジ交換、磁石の再着磁等々のチューニングは、システムとしてのバランス取りに不安があって

今度マグネットのことも書こうと思っていますが、アルニコの減磁はパワー減磁なので、再着磁をしてもパワーを入れればすぐに減磁しますのであまり意味がないのではと思います。以前プロ用でパワー減磁のテストをした時は、許容以上のパワーを入れると2秒で簡単に減磁したことがあります。もちろんプロ用ユニットですので、KWのオーダーでしたが・・・。


>中島平太郎氏が在籍していらっしゃったことを知りましたが、関係あるんでしょうか。

G7は私がソニーに入社前なので中島さんとの関係は知りませんが、中島さんはソニー在籍当時はオーディオ全体のご意見番として貴重な存在だったと思います。非常に穏やかな方で、部下からの信頼も非常に厚い方でした。私も何度か会議等でご一緒したことはありましたが、スピーカーに関して個々のモデルで細かいことまで意見をおっしゃるようなことはなかったと思います。
返信する
Unknown (PARC)
2009-06-10 23:46:29
倉田様

>なるほど、SONYの音は無いですか。

無いとは言いませんが、個人的には少ないですね。特に平板SPKは・・・。でも自分で言うのも何ですが、A5は名機だったと思います。


>一般のメーカーは、スピーカー、アンプ、CDプレーヤー、どれもそのメーカーの音がするなーと思っていました。

以前あるオーディオメーカーの音がある時期から急に変わって、そのメーカーの設計者もあせっていたら、原因は今まで使っていた試聴室を新しいものに変えたことが原因だったという話を聞いたことがありますが、同じメーカーの音がある傾向になるひとつの要因として試聴室を含めた試聴環境の影響もあるのかも知れません。



返信する

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。

オーディオ」カテゴリの最新記事