夜明けの曳航

銀行総合職一期生、外交官配偶者等を経て大学の法学教員(ニューヨーク州弁護士でもある)に。古都の暮らしをエンジョイ中。

偏愛的三谷幸喜

2005年06月08日 | 演劇
12月の「ロミオとジュリエット」の千秋楽で席が近くで、お話させていただいた者です。その節は、プライベートな時間にお邪魔いたしまして、本当に申し訳ありませんでした。

私はある法科大学院で民法や英米法を教えております。
昨年度は、米国裁判制度との比較で日本の裁判員制度を考える、という授業を行いましたときに、映画「12人の優しい日本人」を教材として使わせていただきました。そして、そういう教育方法について、法律雑誌に論文を発表もしました。
日生劇場でお会いした際、この論文をお送りすると申し上げながら、今まで怠りましたこと、心より、お詫び申し上げます。
この授業では、この作品以外にも、映画「12人の怒れる男」「いとこのビニー」「ニューオーリンズ・トライアル」、筒井康隆の小説「12人の浮かれる男」、裁判官ネットワーク「野鳥の会に入りたい」等を用いました。それぞれ感想文を書かせたのですが、「優しい日本人」がもっとも学生の心に残ったようです。

この度、江口洋介さん主演で「12人の優しい日本人」を舞台で再演すると伺い、三谷さんが「再演の機会をうかがっていたが、今度日本でも裁判員制度が導入されると聞いて決意した」とおっしゃっているのを知り、そのきっかけに私がお話したことも100分の1くらいは貢献しているのでは、とうぬぼれたりしています。もしそうだったら大変光栄なことですので妄想に浸らせておいてください。舞台も絶対に見に行きます。

私は大学教員といっても、かわった経歴を持っています。
1987年に東大法学部を卒業し、雇用機会均等法のおかげで総合職一期生として銀行に就職し、法務部で法律関係の仕事に携わり、企業派遣留学でハーヴァード・ロー・スクールとオックスフォード大学に留学し、戻ってきてまた銀行に勤め、2001年から2年ほど領事館に転勤になった夫とともに香港に住み、その間香港大学で3つめの法学修士号を取得し、帰国して、2003年から大学に奉職しています。

職歴も変わっているのですが、実は、本当は文学関係の仕事をしたかった点も変わっているところです。中学時代から三島由紀夫のマニアで、文芸評論家になるのが夢で、大学もそういうコースに入ったのですが、自分に才能がないのを自覚して3年から法学部に移り、今はなぜか大学院で法学を教えるという立場にありますが、自分のアイデンティティとしては、文学・演劇好きということが大きな比重を占めております。

そんな私が、現役の劇作家の中で一番尊敬しているのが三谷さんです。
以下、長くなりますが、私の三谷さん歴について、書かせてください。

三谷さんと初めて出会ったのは、ご多分にもれず、留学から戻ってきて見た古畑任三郎(この名前は、時任三郎が、「笑っていいとも」に出た際、タモリに「とき にんざぶろう」といわれたことにヒントを得たそうですね)でした。その構成や登場人物の魅力に取り付かれ、「三谷幸喜という人は只者ではないな」と思っていたのですが、その頃はまだ演劇のことはあまり知らず、東京サンシャインボイーズのことも知りませんでした。

その頃、「SPA」の神足裕司のコラムで、三谷さんが「12人の優しい日本人」という舞台の作者であることを知り、映画版を入手して見て、すっかりはまりました。
1962年の私とひとつしか違わない人がこんなすごい仕事をしている、という驚きもありました。

初めて舞台で見た作品は「君となら」でした。
シチュエーション・コメディの面白さを初めて知りました。

その後、「サザエさん」「イメルダ」(演出の渡辺えり子さんがホンが遅いと怒っていましたね)等を見ました。

1996年ごろは体を壊していて、いろいろと見損なってしまったのですが、その後、「マトリョーシカ」「笑の大学」「温水夫妻」を見て、いずれも感動しました。
とくに、「マトリョーシカ」は、今まで見た舞台の中で最高傑作だと思います。
舞台の上で、登場人物がさらに芝居をうって相手を騙そうとしている、という構造が重層的になることによって、演劇の虚構性を演劇の内側から相対化して問いかけるような大変意欲的な作品だったと思います。
重層的な構造は、「オケピ!」でも取り入れられていましたね。
この作品自体がミュージカルという形式をとっているのに、設定は、ミュージカル舞台を下から見ているオーケストラピット(第一の相対化)、せりふの中に、「どうして突然歌いだすんだ」等が出てくる(第二の相対化)、というように、何重にもミュージカルという表現方法自体が、内側から相対化されているところが、この作品のもっとも注目すべき点だったと思います。

先日、歌舞伎座で野田さんの「砥辰の討たれ」を見ましたが、この作品も、それ自体歌舞伎という形式をとりながら、あだ討ちを美化する風潮、ひいては歌舞伎そのものを批判し・相対化するという同じような構造をもっていると気づきました。
野田さんは、ライバルなのに、「新選組!」で勝海舟の役を振ったり、「川、いつか海へ」で、「ヒデキ醤油」というのも、「野田醤油」のもじりというように、露出の機会を増やしているのも、フェアで素敵だと思います。
本当に演劇を愛しているからこそのことでしょうね。

2002年3月、香港に住んでいた頃、日本で中国法(当時香港大学で勉強していたので)についての講演を頼まれ、一時帰国した際、一週間しか滞在しないのに、オークションで入手したチケットで、「You are the top」「彦馬が行く」を見ました。
前者は、鹿賀丈史の降板は残念でしたけど、浅野さんという稀有な俳優が世に出るいい機会になりましたね。私は、夢の遊眠舎は、駒場にいた頃も興味がなくて見ていなくて、今本当に後悔しているのですが、1991年の大河ドラマ「太平記」で、塩冶判官の役で出ていたときから、名前を知っていました。というのも、塩冶判官はご存知のように、歌舞伎では浅野内匠頭になぞらえられた人物ですから、「浅野という俳優がこの役をやるのは本当に面白い」と思ったのです。

「彦馬」の小日向さんもそうですが、三谷さんは、優れた俳優を発掘するのもとても上手です。小日向さんは、オケピにも出ていましたが、その前に、古畑の第二シリーズで、田中美佐子演じる女流棋士に殺される夫役で出ていたのを私はしっかりチェックしていましたよ。戸田さんも、私はドラマ23の「帰っていいのよ今夜も」という樋口可南子主演の不倫ドラマで、不倫している電話交換手の役で出てきたときから、「いい女優さんだな」と思ってはいたのですが、メジャーになったのは、三谷さんが「総理と呼ばないで」で起用してからではないでしょうか。

ドラマは、舞台に比べて評判が良くないと、エッセイ等で気にされているようですが、それは、仕方ないことです。舞台はある程度観客を選びますから、焦点を絞った高度なテクニックが使えるわけですが、テレビになると、万人受けしなければならないので、ユーモアや笑いのつぼを薄めなければならない、ていうのがありますから。

でも、私は「やっぱり猫が好き」「子供、ほしいね」「女ねずみ小僧」「総務課長戦場へ行く」「振り返れば奴がいる」(鹿賀さん演じる中川医師が古畑の犯人役で出ましたね)「竜馬におまかせ」「王様のレストラン」「総理と呼ばないで」「今夜宇宙の片隅で」「合言葉は勇気」、全部好きです。

中村紘子さんに日経新聞のエッセイで「ピアニストがあんなじゃらじゃらしたアクセサリーをつけるなんてありえない」とか、木の実ナナ犯人の回をけなされたりして、いちいち落ち込んだりしているようですが、そんな必要はありません。
私も法律家ですから、いろいろつっこみどころはありますが、作品が面白ければ、そんなことは気にならないのです。

これからも、どうか、体に気をつけて、すばらしい作品を送り続けてください。

全く門外漢の仕事の私のような者さえ、三谷さんの作品を心待ちにしているということを、時々思い出していただければ、大変光栄です。


歌舞伎名作撰 野田版 研辰の討たれ [DVD]
中村勘九郎,野田秀樹,坂東三津五郎
NHKエンタープライズ
You Are The Top ~今宵の君~ [DVD]
三谷幸喜
ポニーキャニオン
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