人生をひらく東洋思想からの伝言

東洋思想の言葉やその精神を通じて、ともに学びながら人生や経営をひらいていけたら嬉しいです。

第45回 「木鶏(もくけい)」(荘子)

2022年07月15日 | 日記

【人生をひらく東洋思想からの伝言】

第45回

「木鶏(もくけい)」(荘子)

この言葉の出典は、荘子(そうじ)という書物にあります。

この話は様々な方々によって語り継がれてきた話なので、

お聞きになった方もいられるかも知れませんが、私も大好きなお話のひとつです。

それでは、ご紹介いたします。


私も大相撲は大好きですが、今までの力士の最高峰といえば、

往年の名横綱と呼ばれた「双葉山」ではないでしょうか。

この双葉山が師事をしていた方が、昭和の時代において、

歴代首相のご意見番と呼ばれた安岡正篤(やすおかまさひろ)先生でした。

安岡先生に関しては、このブログでも何度かご紹介しておりますが、

私も大変尊敬する先生の一人です。

昭和における政財界の要人が師事をしており、精神的支柱でもあり、

国民的教育者でもありました。

双葉山が横綱になる前、連勝して人気が抜群だったそうで、

ある時にひいきの友人が安岡先生を紹介したそうです。

先生は一言、「関取、おごってはいかんよ。きみはまだまだだよ」といったそうです。

むかっとするかと思ったら、双葉山は少しも怒らずに

「先生、どういうところがまだまだなんでしょうか?」と丁寧に尋ねたところ、

先生はこのような話をされたそうです。


昔、中国に闘鶏の好きな王がいた。王は一番強い軍鶏(しゃも)を養成しようと、

紀省子(きせいし)という男に調教を命じた。10日ばかり経って、

「どうだ、そろそろ戦わせてもよいかな?」と尋ねると、

紀省子は、「いや、まだです。まだ、オレがオレがという態度で空威張りしていますから

戦ってもすぐにやられてしまいます」と答えた。

また、10日ほど経って、「どうだ、もういいか?」

「まだ、駄目です。他の軍鶏を見たり鳴き声を聞いたりすると興奮しますから、

いざ戦いになると、アガってしまいます。」

仕方なくまた10日ほど待った。「そろそろいいだろう?」と王がやきもきして尋ねると、

「まだですね。他の軍鶏を見ると、にらみつけて威圧しようとします。

これは実力じゃありませんから、もう少し教育しましょう。」と答える。

また10日が経った。「まだ、駄目かな?」と聞くと、

「もう大丈夫です。他の軍鶏の鳴き声を聞いても、姿をみても平気です。

まるで木で彫った鶏のようです。この分なら、敵はこちらをみただけでも逃げ出します。」

と答えたという。


これを聞いた双葉山は、すっかり感心して、先生に『木鶏』という色紙を書いてもらって

大切にし、その場で瞑想していたそうです。

おかげで大横綱になった双葉山は、69連勝をしたそうです。

(この記録は未だに破られておらず、平成の大横綱と呼ばれた白鵬でも63連勝です。)


そのころ安岡先生は、船でヨーロッパへ航海していたそうで、

船がインド洋に差し掛かったころ、双葉山から先生に電報が入りました。

ボーイが持ってきた電報には、

「イマダモッケイニオヨバズ(未だ木鶏には及ばず)」とあったそうです。



昔の達人、偉人同士の交流やふれあい、そして師弟関係には、謙虚さ、そして愛があり、

その奥にユーモアがありますよね。とても、粋な世界があるように感じます。

そこに、こういった東洋思想的な教養が通い合っていて、

その時にでてくる言葉が心にズシリとくるような感じがあり、

たまらなく惹かれます。


参考文献『仏教の知恵』大栗道榮著 日本文芸社

 

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