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わしには,センス・オブ・ワンダーがないのか?

翻訳もののSF短編を主に,あらすじや感想など、気ままにぼちぼちと書き連ねています。

薄明の朝食~フィリップ・K・デイック⑨

2023-10-10 21:35:29 | 海外SF短編
 何でもない、いつもどおりの朝の食卓を囲んでいたティム一家。  その場へ、ドアを蹴破り、ものものしい雰囲気の兵士たちが踏み込んできます。  驚くティムですが、兵士たちは、家族が平穏にいっしょに暮らしていること、コーヒーを飲み、豊かな食事をし、冷蔵庫やバンケットには食材がたっぷりと詰まっていること、兵士たちが生きる荒廃した世界からは考えられないティムたちの姿に仰天します。  尋問を受けたティムは、こ . . . 本文を読む

進化~ナンシー・クレス②

2023-09-26 21:10:30 | 海外SF短編
 あらゆる抗生物質に耐性ができた細菌が蔓延。唯一、「エンドジン」だけが、かろうじてまだ効果があるものの、細菌が耐性を獲得することを防止するために、「エンドジン」による治療をさせまいと、過激な集団が、病院の爆破を繰り返し実行するという、暗澹とした物騒な社会が物語の舞台です。  主人公のエリザベスは、ブルーカラー・ワーカーである夫のジャックと、息子のショーン、娘のジャッキーの4人家族で暮らしています . . . 本文を読む

「壊れやすいもの」~ニール・ゲイマン

2023-08-28 21:22:37 | 海外SF短編
 ニール・ゲイマンの短篇集「壊れやすいもの」は、ゲイマンの多才さ、多彩さを味わえ、また、ヒューゴー賞、ローカス賞を受賞した作品が多く含まれる高品質の作品集です。  いくつかの作品をご紹介します。 「翠色の習作」(2004年ヒューゴー賞、ローカス賞受賞)  シャーロック・ホームズの「クトゥルー」ものという、下手するとせっかくのキャラクターを台無しにしてしまいそうな、リスキーな企画ものですが、稀代の . . . 本文を読む

ローグ・ファーム~チャールズ・ストロス

2023-08-07 20:54:58 | 海外SF短編
 宇宙への植民による人口減少や、バイオテクノロジーの進展によって「光合成」で自足できる人々の出現などにより、農業経営が成り立たなくなり、農村が徐々に崩壊していく中で、放棄された農地と取り残された廃屋に、いつしか、過剰なテクノロジーとストレスやトラウマに苛まれ、逃れてきた人々が住み着くようになっていました。  そんな一人であるジョーは、パートナーのマディ、知能増進犬のボブとともに、何とか、農畜により . . . 本文を読む

「時の娘」~ロマンティック時間SF傑作選

2023-05-23 23:22:39 | 海外SF短編
「時間」を超える物語は、SFの定番・鉄板の分野で、膨大な作品とともに、数多のアンソロジーが編まれています。 このアンソロジーは、SFマガジンなどに掲載されたきりで埋もれていたワンヒットワンダーの名作にスポットをあてた、オールドファンにとって、嬉しい企画ものです。 . . . 本文を読む

「宇宙飛行士ピルクス物語」~「審問」「運命の女神」~スタニスワフ・レム①

2023-04-27 23:37:05 | 海外SF短編
「要約: レムの小説観は非常に狭苦しくとんちんかんであり、おそらくそれはかれの社会性の欠如からきている。レムの作品に一貫するのは人間嫌いと社会の不在であり、それはかれのぶっとんだ小説のおもしろさの源泉であると同時に一つの限界でもある。 感情なき宇宙的必然の中で:スタニスワフ・レムを読む(季刊『InterCommunication』2006年夏号)山形浩生」  スタニスワフ・レムは、知能指数がえ . . . 本文を読む

ペトラ~グレッグ・ベア②

2023-02-01 21:13:48 | 海外SF短編
「わたしは醜い石と肉の子であり、それを否定することはできない。母のことは覚えていない。わたしが生まれてすぐに蒸発したのかもしれない。どうせ死んでいるのだろう。わたしは父の姿も―息子と似ているとすれば、くちばしがあり、翼もどきのものがついた醜い代物のはずだ―見たことがない。」  77年前にモルデュー(神死)が起こり、あらゆる存在がぐらつき、世界は、混沌に飲み込まれてしまいます。妄想が実体あるものの . . . 本文を読む

「中国・アメリカ 謎SF」~王諾諾の二題

2023-01-25 20:47:07 | 海外SF短編
『改良人類』  「「どのぐらい寝てたんだい?」  「六一七年と三か月になります」  「は?600年?なんで起こしてくれなかったんだよ!」  ALSを患っていた主人公の劉海南は、治療法が確立されているであろう未来に希望を託して冷凍睡眠に入っていました。彼が、600年後に目覚めたとき、遺伝子改変の技術が極度に進み、遺伝子に関わる病気はもちろんのこと、性格や容姿に至るまでコントロールできるようになり . . . 本文を読む

分離~サム・J・ミラー

2023-01-20 21:38:58 | 海外SF短編
「(おれの息子を返してくれ。)と叫びたかった。(おれを愛してくれる息子を。あの子はどこにいるんだ。あの子になにをした。この不機嫌そうな生き物は、どこのどいつだ。)眼下に張りめぐらされた、クアナークの二百万におよぶ命をささえている鋼鉄の格子を通して、黒いグリーンランドの水が、われらが洋上都市の水門に打ち寄せていた。」  環境破壊と地球温暖化が進み、居住できる土地、工作できる土地が水没し、激減した近 . . . 本文を読む

エンパイア・スター~サミュエル・R・ディレイニー②

2023-01-03 20:30:21 | 海外SF短編
「わたしは"宝石"。わたしは多観(マルチプレックス)な意識を持つ。これはつまり、さまざまな視点からものごとを見られるということである。わたしの内部構造における振動パターンの倍音列。それが持つ働きのひとつこそは、この多観性にほかならない。ゆえに、これよりわたしは、文学の世界でいうところの<全知の観察者>の視点から、この物語をじっくりと語っていくことにしたい。」  植民惑星テュロスの農夫、コメット・ . . . 本文を読む

死者登録~ジョー・ホールドマン②

2022-10-31 22:08:11 | 海外SF短編
 「わたしにはしつっこい睡眠障害があり、生きていくにはなかなか辛いが、これは大事に持っていたいと思う。そりゃあ、大事にしたいとも。もとをただせば二十年も昔、ヴェトナムへとさかのぼるものだ。グレイヴズへと。」  ヴェトナム戦争時、米軍の戦死者の、なかにはバラバラとなった遺体は、それなりに縫い合わせ、遺品を整理して、棺に封印し、一定数たまると、飛行場へトラック輸送するという業務を担当する「死者登録所 . . . 本文を読む

征たれざる国~ジェフ・ライマン②

2022-10-18 22:10:12 | 海外SF短編
「みんな<死者>なんだ、と彼女は思った。みんな彼岸へわたろうとしているのよ。そう思うと、平和でくつろいだ気分になった。彼女の親しい人はみんな<死者>だった。背後の街では、茶色い煙がもくもくと立ちのぼっていた。上空では、鳥たちがあいかわらず気流に乗って輪を描き、空はあいかわらず微妙に形を変え、光を散らして、それを通して巨大な影を落としている。空では、昼間の星のように、ちっぽけな白い光が動いていた。天 . . . 本文を読む

26モンキーズ、そして時の裂け目~キジ・ジョンスン①

2022-09-27 20:51:30 | 海外SF短編
 「この一団を手に入れて三年になる。エイミーはかつて、ソルトレイク・シティ空港の離発着機の空路下にある月極めの家具付きアパートメントで暮らしていた。うつろだった。何かに身体を噛まれて穴が空き、その穴が感染してしまったかのようだった。  ユタ州特産市で猿の出し物があった。まったく彼女らしからぬことだったが、エイミーはふいにどうしても見たいと感じた。ショーが終わると、理由もわからぬままにオーナーに近づ . . . 本文を読む

初めはうまくいかなくても、何度でも挑戦すればいい〜ゼン・チョー

2022-09-18 21:15:26 | 海外SF短編
「ひとりになると、バイアムは服を脱ぎ、きちんとたたんで岩の上に置いた。そして何年も自分自身にかけていた術を解いた。  地下鉄から地上に出て新鮮な空気を深々と吸い込んだときのようだ。バイアムは初めて、不完全な自分に対する愛情がこみ上げてくるのを感じたー脚がなく、角もなく、如意宝珠も持っていない、ありのままの自分。自分はできるかぎりのことをした。」  龍になる一歩手前の大蛇(イムギ)であるバイアム . . . 本文を読む