この私にあるのだろうか?忘れがたきわが友自身,世間からひたすら隠しつづけた秘密,広く知らしめたところで悪意と愚劣さにみちた曲解を誘発するばかりにちがいない秘密を明かす権利が? . . . 本文を読む
五百年の歴史は問うまい。されど,本邦未だ皇位を保つならば,南朝正統にして,まことの神器を持す朕こそは,まことの帝たるは当然のこと,既往はあえてとわずとも,現帝ただちに退位して,朕をして,大日本国正統第102代天皇の御高座につかしめよ! . . . 本文を読む
無名のまま,貧窮の中で亡くなった伝説の画家,ファン・ドールン。
彼の創造した肖像画や風景画は,従来の絵とはあまりにもかけはなれており,あまりにも革新的であった。
そのため,彼の生きた時代の人々,評論家にさえ認められず,その挫折がノイローゼを生み出し,自らを傷つけるに至る。
死後,30年を経て,彼の天才は認められた。
これは,とおり一辺のファン・ドールンの“伝記”であるが,彼の絵 . . . 本文を読む
先日,わが子供たちが,「ケロロ軍曹」なるものを食い入るように見ておりまして,何がそこまで彼らを惹きつけるのかと覗いてみると,物質転送機のネタで,ケロロさんが,知らずにいっしょに入ってしまった“蚊”と融合してしまうという内容でありました。
子供たちに,「こいつは,有名な怪奇小説のパクリだ」と大人気なく言い放った私に,もとのお話はどんなのかという問いを受けまして,久々に,「蠅」を読み直しました。 . . . 本文を読む
北緯68度,淋しいノルウェイはロフォデン地方の近海で発生する大渦巻。
この物語は,未曾有の嵐に巻き込まれ,それがために生まれた巨大渦巻に飲み込まれながらも辛うじて生還した漁師の体験談であります。
私の読んだのは,新潮文庫「猫・黄金蟲」(佐々木直次郎訳 昭和50年 44刷)。
「」でわかるように,旧漢字・旧仮名遣いでありますが,これが実に雰囲気を出しているんですな。
当時,読んだと . . . 本文を読む
7月19日のその夜,メイン州西部の全域がかつてない激しい嵐に見舞われた後,濃霧が町を覆いつくす。
誰も経験したことがない忌まわしい濃霧。
霧の中から,何か得体の知れないものが,人々を狩りはじめるのである…。
スティーヴン・キング。
いわずと知れたホラーの帝王であるが,この作品も実に見事な作品である。
この世のものとも思えない不気味な怪物に襲われる恐怖をリアルに描きながら,すべてが幻 . . . 本文を読む
バーナム博物館には,いくつ部屋があるのか,考えれば考えるほどわからなくなってくる。
迷宮のごとく,全容の判然としない摩訶不思議な空間。
人魚の池,空飛ぶ絨緞,透明人間の森…夢・物語の世界がここにはある。
学術的価値のあるものの展示という枠組みを超えた,興味をそそる,あやしげで,実に魅力的な,幻想の玩具箱のような博物館。
「崩れかけた階段をさらに下ると地下三階に出る。ここまで来る . . . 本文を読む
初老の女教師が,押し寄せてくる死者の群れを撃退するというスプラッター・ホラーでありながら,生徒への無条件の愛情と教職の尊さに感動を呼び起こさせる話でもあるといえば,訳わかりませんよねえ。それを力技で結びつけたのが,この作品である。 . . . 本文を読む
アラバマ州南部,州間高速道路沿いの辺鄙な場所に見える看板―<ビッグ・ボブの店!給油とお食事>。
その晩は,トルネード警報が出ており,雨がたたきつけ,雷鳴が轟く,大荒れの天候。
主人のボビーとウェイトレスのシェリル,常連のアラバマ警察のデニス,そして風雨の中,高速道路から避難してきた家族連れ,それから,歩く死人のような男が店に入ってきた。
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作者は,「悪魔の辞典」のアンブローズ・ビアス。数ある短編の中でも,際立って異様な作品が,この「犬油」である。主人公の父親は,大釜で犬を煮て,その油を採取することを生業としている。こんな不気味な油,何に使うのかいなと思うのだが,どうも,医者が,違うものと偽って使用するらしい。
母親は,歓迎されない嬰児を処理するという,これまた,父親の上手をいく仕事をしている。
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筒井康隆編集の現代恐怖小説アンソロジー「異形の白昼」の中の一編。
筒井氏が,不朽の名作と称える作品であり,大いに期待して読んだのであるが,激賞に違わぬ名品であった。
舞台は,霧深い北国の首都(ロンドン)。
石造りの家に暮らす,主人公の石山とその7歳の息子の光之。
この地の気候,街の雰囲気,光之がやってきた事情…。
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