わしには,センス・オブ・ワンダーがないのか?

翻訳もののSF短編を主に,あらすじや感想など、気ままにぼちぼちと書き連ねています。

死者登録~ジョー・ホールドマン②

2022-10-31 22:08:11 | 海外SF短編
 「わたしにはしつっこい睡眠障害があり、生きていくにはなかなか辛いが、これは大事に持っていたいと思う。そりゃあ、大事にしたいとも。もとをただせば二十年も昔、ヴェトナムへとさかのぼるものだ。グレイヴズへと。」

 ヴェトナム戦争時、米軍の戦死者の、なかにはバラバラとなった遺体は、それなりに縫い合わせ、遺品を整理して、棺に封印し、一定数たまると、飛行場へトラック輸送するという業務を担当する「死者登録所」にいた「わたし」。

 あるとき、現場死体を見に来てほしいという要請に、ヘリコプターで現地に向かう、わたしと上官のフレンチ大尉。
 そこには、乾いた皮膚が骨格に張り付き、歯をやすりで削られた、現地の山岳民族とおぼしき奇妙な遺体があり、ヴェトコンによる拷問によるものではないかとの疑念があるとのこと。死体を検分している最中、敵襲があり、わたしとフレンチ大尉は、銃弾が飛び交う、阿鼻叫喚の混乱に巻き込まれてしまいます。


 殺戮と死があまりにも身近すぎて、感覚がマヒしてしまい、生存本能(かといって生を望んでいるのか疑問のある行動もあるのですが)と、なかば狂気に満ちた、泥沼のような戦線の状況が、実に乾いた視線で描かれます。
 また、怖いのは、それぞれの危機的状況が、ブラックなユーモアを交えて語られているところです。

 恐怖と笑いは紙一重とは、よく言われるところですが、実に居心地の悪いユーモアめいた表現が、切羽詰まった現場との強烈な違和感があり、そのことが、凄惨な状況の描写に加えて、より非現実的、非人間的な怖さを醸し出している感じがします。

 あちらのユーモアはどうもサービス過剰で、なじめないという向きも多いと思いますが、さすがに、ホールドマンだけあって、適度な加減をよく心得ておられると思います。ホラー仕立てで、きれいにまとめられており、この職人的な手際よさを感じてしまうくらいですが。(夜襲部隊~ロバート・R・マキャモン とも共通する主題ですが、本作と比較すると、かなり生真面目さを感じますね。

 戦争のトラウマと強迫観念が、拭い去ることのできない重荷となって永続的にのしかかることに対して、「当事者」でない読者は、このような物語をどう読み、どう共感するのでしょうか。

 1992年発表。1993年度ネビュラ賞と世界幻想文学大賞受賞作。
 「SFマガジン」1996年9月号掲載。
 この号は、「硝煙」~戦争SF特集(伊藤典夫監修)で、名作ぞろいの充実号の一つです。

ラッキー・ストライク~キム・スタンリー・ロビンスン②
戦争記念碑~アレン・スティール
⇒パワースーツを着て、戦場に一人取り残された男の何とも気の毒で悲惨なお話です。

フェルミと冬~フレデリック・ポール
⇒核戦争後に生き残りをかける人々の姿と、そこからの希望の未来を切望するお話です。これも名作。国書刊行会の「海の鎖」にも収録。
  

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