
たぶんこの仕事をはじめて一番暇な一年だった’09年。それでも思い返せば実にたくさんの「ありえな~い!」話と遭遇した。実際には仕事がらみがほとんどだけど、そんな喜怒哀楽に満ちた話はまた別の機会に別の形で披露することに!と、これは毎度のおことわり。ただ今年最後を〆るこの話だけは、実は仕事中の出来事。考えに考えた結果、これだけは先にお披露目してもいいかなぁ…と。だってありえな~い!くらい、今思い出しても泣けてくるいい話なものだから。
ところはつい最近出かけたカンガルーの国。日本の国土の22~23倍という国に点在する街と街との移動はバスでも列車でもなく飛行機という、ただそれだけでその大きさを実感できる広大なる国。数年ぶりに訪れた街や村はいつも旅慣れたヨーロッパとはまた違った魅力いっぱい。かっての違いに時おりドキドキしながらも私自身久しぶりに楽しめた旅だった。そう、あんな失敗をしでかすまでは。
旅も中盤にさしかかろうという頃、早朝便で次の街へ移動というちょっぴりキツイ朝のことだ。朝早かったこともあってか国内線ターミナルはまだ静かで、チェックインはあっという間に終わり、これまたさっさとセキュリティーチェックを終えた私たちは小さなロビーで搭乗開始を待っていた。と、ほぼ予定通り搭乗のアナウンス。やれやれ、これで3時間近くは寝て行けるとホッとひと息。すぐ先に留まってる小さな飛行機のタラップ向けて歩いてる時だった。そうそう、携帯の電源を切らなきゃと思ったその瞬間…
「っん?ぅあぁ?な、ないぃ?私の携帯電話はどこぉ?」 場所が場所だけにいつもとは違う装いで荷物はデイパック。その編み網ポケットに入れていたはずの携帯電話がないことに気づいた。目の前にはタラップ、後ろを振り返れば空港のスタッフ。そう、私はいつものごとく最後の搭乗者。血が下がるのを感じながら今まで辿って来た道のりを思い返す。ホテル→バス→チェックインカウンター→セキュリティー→ロビーの椅子→ここ!部屋を出る時に携帯を持っていたことは確か。となるとチェックアウトした後でしばらく座っていたホテルのロビーか?はたまたバスの中か?あるいはセキュリティーチェックか?あるいはさっきまで座っていたロビーの椅子か?
まさか飛行機の出発を止めて探し回ることもできない。でもでも、携帯電話がないのはとっても困る。そんな私が取った手段はクルリと後ろを振り返り、歩いて来た空港スタッフに「携帯を落としたみたいなのぉ!」とすがること。って、それしかなかった。そんなことを訴えたからといって何がどうなるとも思えなかったけど、そうせずにもいられなかった。いつも乗ってる欧州系の会社だったら「それで?」ってな感じで手を広げて終わりだったろう。頭のどこかでそんな対応を想像していた。
ところがトランシーバーを抱えたセキュリティーのスタッフとおぼしきお兄ちゃんは「落とした場所はわかるの?」と。そして携帯のメーカー名や色形を聞きだすと、「確認して来るから席で待ってて。」と、走って搭乗口へ戻って行った。祈る思いでタラップを上り、それでも一生懸命平静を装いながら全員の搭乗を確認し席に戻ると同時にさっきのお兄ちゃんが乗り込んできた。私の(たぶん泣きそうな)顔に気づくと「セキュリティーもチェックインカウンターも確認したけど残念ながらなかったよ。後で見つかるかも知れないから、向こうに到着したら空港の遺失物センターに電話してみて。」と、幾分哀れそうな顔をして去っていった。
その後現地に着くまでの3時間の長かったこと。眠るどころか記憶を辿り→ため息の繰り返し。「到着したらホテルとバス会社にも電話してみよう。でも運よく見つかったとしてどうする?こんな場所、そうそう来る機会なんてないのに。あぁ、それより悪用されたらどうしよう。世界中どこにでもかけられるんだからぁ…」とまあ、悶え苦しみながらの地獄のような時間は果てしなく続くようにも思えた。
それでも目的地に間もなく到着という頃、機内のあちこちから眼下の素晴らしい景色へのどよめきが聞こえてくるに至り、取り合えずこの悪夢の時間が終わると思えた。扉が開き、再びタラップを降りるとそこはもうまっ茶色な別世界。強い太陽の陽射しに出迎えられていつもなら浮かれるところ、ふらふらと奥に見える小さな到着ロビーへと歩き出した。と、「携帯電話を落としたのはどなた~?」 ロビーまで誘導しているスタッフのひとりが大きな声で叫んでいる。「私、私ですぅぅ~!?」
走り寄る私にスタッフは笑顔で「携帯電話は見つかったわ。2時間後に到着する便のクルーがそれを持って来るから安心して。」 耳を疑った。「えっ、まさか?」というのが正直な思いだった。自分の名も身分さえも告げたわけではない私の携帯電話。それが空港内で見つけ出され、空港スタッフから航空会社のクルーへと手渡され、3時間もの飛行機の旅を経て私の元に届くなんて。携帯電話が手元に戻るということよりも、見ず知らずの私のために動いてくれ助けてくれた多くの人たちの暖かさに泣けた。
これを奇跡と呼ばずにいられようか。なにしろ日本とは大違いに海外では忘れ物や落し物が持ち主の元に戻ることは稀。それは仕事を通して実感していること。仕事に出れば二言目には「忘れ物、落し物のないように~!」そんな立場であろう者が。ともあれこんな奇跡のような出来事の末、大きな大陸をカンガルー便でひとり旅した携帯電話は今、私の手元にある。二度と離すまいと思いながら同時に、この時の人々のあたたかさも忘れまいと思う。人はどんな時だってひとりじゃない。いろんな人と接しいろんな人のあたたかさに助けられ生きている。そう思える今年最高のありえな~い!奇跡のような話はこれでおしまい。最後に…ご協力いただいた全てのみなさまに深く感謝いたします。本当にどうもありがとう。








