昔の望遠鏡で見ています

一台の望遠鏡を使うということ

 鏡面のコーティングをやり直したというので、その取り付けの手伝いに行ってきた。先に仲間が到着していて、駐車場が一杯だったので、どうしようか迷っていると、庭仕事をしていた奥さんが玄関前の鉢を動かし、そこに停めるよう合図してくれた。門柱の間をそろりそろりとバックしたのだが、陰にいた犬に一声吠えられた。そういえば、だいぶ前に犬を連れて散歩していると聞いたことがある。帰りに通った際にはおとなしくしていたので、この時は知らない車が迫ってきたので驚いたのだろう。庭にある天文台の近くには、すでに数人の仲間たちが集まっていた。鏡面を取り付ける望遠鏡は30cmのニュートン反射で、自作の天文台に収まっている。ドームは、高さ3mはあるであろう4本の鉄骨で支えられている。もちろん望遠鏡の基礎も、太いコンクリート柱で独立している本格的なものだ。

 天文台に入ると、友人が鏡面を段ボール箱から取り出し床に置いた。名人によって磨かれた稀にみる高精度と言われる鏡は、既にセルに入っている。初めに斜鏡と主鏡の中心にマークを付けるのだが、近くを見るのに難儀する人たちの集まりなので、手元での作業は一苦労であった。このマークは、レーザーを使って光軸修正をする際に利用する。昔の方法は、接眼部から覗いて、斜鏡・主鏡が同心円状に見えるように調節するというものだったが、最近は道具が進歩し、レーザーを使ってより正確に調節出来るようになってきた。鏡の取り付けは、まず斜鏡からだ。これは、主鏡を取り付けた後に斜鏡を取り付けると、万が一誤って落下させた際に大事な主鏡に傷を付けてしまうからである。次に、主鏡に取り掛かる。落下防止のため二人で所定の位置にセットし、別の一人がねじ止めを行った。次に行うべきは、光軸修正だが、接眼部を覗いている人が、修正する人にその方向や量を伝えるのが簡単なことではないことが判った。また初めに斜鏡の調節を行うのだが、接眼部から覗きながら、どうにか斜鏡金具に手が届くことも判ったので、皆で行う作業はここまでとした。その後の光軸修正は、友人が一人でコツコツ行うということであった。

 その後、天文台脇の日陰に椅子を出し、休憩することにした。ドーム内で汗をかいたので、冷たいお茶がおいしかった。この日は、自分の望遠鏡でなくとも、その存在に触れられたので、皆楽しかったのであろう、話も弾んだ。
 その際に、友人から古くからの知り合いという方を紹介された。なんでも、高校生の頃に入手した6.5cm屈折以来の二台目の望遠鏡を、最近購入したとのことであった。それは、TOA130という最新鋭のもので、良いものを長く使いたいということで選定したそうだ。

 それを聞いて、一台の天体望遠鏡を、とことん使うというのは、とてもスマートだと思った。置き場所にも困らないし、地球環境にも優しいし、愛着も湧いてくるだろう。しかし一台にするのであるから、その性能は、ある程度のものが求められ、価格も比較的高価なものになるように思う。ただし、揃えるべき接眼鏡などの付属品も限られてくるため、考えようによっては経済的とも言えるのではないか。そしてこれができる人は、計画的に物事を運ぶことができる、そして自制心のある人だと思った。きっと、自分の好みを整理し、家族の理解や費用の調達のための準備もしっかり行っているのだろう。
 こういうことも悪くないなと思ったが、良く考えてみると「何台の望遠鏡を持つべきか」などと常日頃から悩んでいる自分には、とうてい出来ることではないということに気付いて、一人苦笑してしまった。





 
 画像は、タカハシのMT100という10cmニュートン反射鏡筒である。小口径だが手抜きは無く、より大型の望遠鏡と同じ造りであることが判る。

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