浮遊脳内

思い付きを書いて見ます

グローサーフント イン アクション 12

2011-08-18 01:06:11 | Weblog
12

 轟音が弾けた。いくつもの爆発が乾いた丘に巻き起こり、飛び散る弾片が装甲戦闘服に跳ねる。
「第一小隊、損害報告」
 チャペック軍曹は伏せたまま怒鳴った。胸元のマルチディスプレイには重損傷を受けたという自動報告は無い。率いる5機のグローサーフントからは損傷の報告は送られてきていない。だが人間の精神の方はそうはゆかない。無事であることを確かめ、またその呼びかけに答えることは重要なことだ。
『ドナート、異常なし。バーダー、どうだ』
『バーダー上等兵異常ありません』
 だがその声は震えている。敵の戦車、ドールハウスの撃ち込んでくるロケット弾は威力もかなりのものだが、何より数をまとめて投げ込んでくるのが恐ろしい。そうすることで地域をまとめて制圧するのだ。適切に分散していなければ、こちらが一掃されてしまう。敵にあの戦車があるかぎり。
「前方注意!近接攻撃に備えろ」
 爆砕掘削されたきりの壕だが、十分に役割を果たしている。まだ砂埃がおさまらないうちに、チャペック軍曹は身を起こす。赤外線シーカーの防護蓋を開く。敵の近接攻撃パターンは、このロケット弾の火力を基盤にして数の優位を生かしてくるものだ。要するに波状攻撃をしかけてくる。当面の敵はロケット戦車であるドールハウスではなく、近接攻撃を仕掛けてくるスーパーAFS部隊のほうだ。
 敵部隊はまずナッツロッカーの戦車大隊を退けていた。退くことはこちらの防御計画の一部だ。敵は最小限の消耗しかしなかったが、同時に時間を失っている。そして敵は前進を再会し、まっすぐにこの丘へと攻撃を仕掛けた。それがこの周囲を制圧する最も良い手段だからだ。高地を制圧し、俯瞰して周囲を観測し、より優位に指揮する。それがここを通過して前進するという敵の目的を果たすために一番適切だからだ。もちろん予想していたし、準備もしていた。
「注意!左右から分かれてくるぞ!ドナート伍長、バーダーと右は任せる」
『了解、小隊陣地右を担当する』
 赤外線画像がゴーグルの中に浮かび上がる。丸みある装甲戦闘服の姿はもはやおなじみだ。陣地の弱点を狙うのもまた定石だ。近接戦闘に巻き込まれれば数の多い側が有利になる。だがもちろんこちらにも準備がある。
「パンツァーシュレック、ようい」
 いつもは一本、多くて二本しか携行できない携帯対装甲ロケット弾が、この壕だけでも各機二本ずつが準備されている。もっともグローサーフントは背部に二本ずつの発射筒を備えている。5機のグローサーフントは爆砕壕で身をかがめ、それを前へと向ける。
「撃て!」
 ようやく収まりつつある砂塵を突いて5本のパンツァーシュレックが伸びてゆく。低い丘を登りくる姿に吸い込まれ、弾ける。弾さえ十分にあれば、一機の敵に集中攻撃を行って確実につぶすことも定石だ。かつてのパンツァーファストは射程も短く弾道性能も悪かった。今のパンツァーシュレックは、ずっと高速で弾道も伸びる。チャペック軍曹は使い捨ての発射筒を捨て、次のパンツァーシュレックを機械腕にとる。
「グローサーフント、各個に撃て!」
 その異形の身をかがめて再びパンツァーシュレックを向ける。白煙と発射炎が噴き出す。噴射の尾を引いて、丘の斜面を低く飛びぬける。一発は、ひょいと身をかがめたスーパーAFSを飛びぬけて背後の地面に突き刺さる。爆発と吹き払われる砂埃を蹴って駆ける。だが次の一弾は避けられなかった。パンツァーシュレックが突き刺さり、爆発がはじける。残りの敵からレーザが放たれ、爆削壕のふちに突き刺さって石くれをはねとばす。
「中隊長、第一小隊は後退する」
 この爆削壕も、この丘さえも、どうしても守らなければならないものではない。戦力を失う前に後退すべきというようなところだ。それもまた予定の行動だ。中隊長の応答は少し遅れた。
『支援が急行中、現状維持』
「支援?」
 思わずいぶかしく独り語ちる。こんなところに引きとどめて、かつ支援をよこしてくる。その意味がチャペック軍曹には納得しかねた。だが命令となれば守るしかない。
「近接戦闘に備えろ!側面に回りこませるな」
 敵のほうが数は多い。展開されて異方向から射撃されたら、つまり十字砲火の体制に入られたら対応できない。だがその口頭命令はグローサーフントにはあいまいすぎる。
「グローサーフント12から15号機は正面60度の標的を射撃、11号は第一小隊長の射撃に追従射撃を実施せよ」
 激しくレーザが放たれ応射も撃ちかけられてくる。先のパンツァーシュレック攻撃が効いたらしい。丘の斜面の小さな凹凸に上手く潜みく、敵は無理押しを避けている。丘の下で敵の戦車が動いた。4両、おそらく小隊なのだろう。戦車というには小さく、背が高い。幅広に見えるのは前後の長さが短いからだ。その低い車体の上に円筒型の砲塔が膨らむようにある。その砲塔の両脇に四角いロケットランチャーボックスを抱えている。そのランチャーが装甲蓋を上下に開く。白煙がほとばしった。
「警報!ミサイル!」
 叫んで軍曹は伏せた。ひとつ、ふたつ、と爆発が巻き起こり、ざあと音を立てて砂埃が押し寄せる。爆発が絶えるとともにチャペック軍曹は身を起こしレーザを放った。支援射撃で麻痺させ、押し込むのもまた定石だ。
「撃ちかえせ!」
 グローサーフントへの口頭命令としてはふさわしくはない。だが言い換えている暇などない。グローサーフントたちも身を起こし左腕のレーザガンを伸ばす。閃光の火箭を続けざまにほとばしり、列となって叩きつける。
『中隊長より各小隊へ、支援到着が通知された』
 だが今必要なのは、正面の敵を阻止し、撃退する火力だ。無ければ接近戦に引きずり込まれてしまう。そうなれば離脱がむずかしくなる。しかも、グローサーフントの一機が、棒立ちに立ち尽くしている。被弾して機能を喪失したのかと思った。だが機能状況表示に異常は無い。支援通信中と示している。それは他の無人機のための行動支援のひとつだ。
 直接戦闘中の無人機が、直接の戦闘以外の何を要求されているというのだ。
 外部から強制中断させようとしたとき、チャペック軍曹は気づいた。丘の右手の裾を、砂埃の筋が走っている。すぐにわかった。ホバークラフトだ。だがナッツロッカーではない。ナッツロッカーより小型のものの群れだ。
 そんなものは戦闘団のどの部隊も装備していないはず・・・・・・そう思いかけて違うことに気づいた。輸送飛行船によって運ばれてきたケーニヒスクレーテと、それが直接統制する無人機群だ。その中にナッツロッカーより小型の戦闘ホバークラフトがあった。ノイスポッターと同系のシーカーヘッドを搭載し、反重力装置の代わりにホバークラフト車台を持ち、さらにパンツァーシュレックをその左右に搭載している。その機材をオスカルと呼称したはずだ。
 4両のオスカルは、丘を巡って行われている戦いなど見もせずに丘の裾を駆け抜けてゆく。登坂力に欠けるホバークラフトが丘に乗り込んできてもその機動性を生かせない。そして軍曹にもわかった。オスカルは丘のふもとの敵戦車を狙っている。
 そのドールハウスらはようやく気づいたらしい。履帯がめぐり砂を蹴って向きを変える。大きな砲塔が旋回して装甲ランチャーの蓋を開く。
 白煙がほとばしり、尾を引いてロケット弾が飛び出す。応じるようにオスカルの群れもパンツァーシュレックを放つ。
『中隊、後退する。第二小隊は先行して後退せよ』
 命じる中隊長の声が無線に響く。これが支援だったのかと軍曹は思った。いや、支援などではない。敵の有力な戦力を直接撃破するために、囮をしていたようなものだ。
 戦理としては、ただしい。それは戦争の中で何よりただしいということだ。その戦争の中に、軍曹はいて、その戦争はこれからも続く。

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