ネット通販の急成長と歩調を合わせるように、消費者の発言力や影響力が増している。背景にあるのがアフィリエイト(成功報酬型広告)プログラムを活用した商品お薦めサイトや、個人のブログの急速な普及だ。独自のセンスで商品を選び、分かりやすく紹介して消費のリーダー役を務める個人が台頭し、企業のネットマーケティング戦略をも左右し始めた。普段は画面の舞台裏にいる“カリスマ消費者”3人の素顔をのぞいた。(1面参照)
▼アフィリエイト ネットの閲覧者を特定のECサイトに誘導するネット広告。個人のホームページやブログ(日記風の簡易型ホームページ)上の商品の紹介記事の写真や商品名をクリックすると、ECサイトの通販ページに接続する。商品が売れるとECサイトは売上金額の数%などを報酬として支払う仕組み。個人でも簡単に運営でき、企業も低リスクで販促できるため急速に広がっている。
「モダンな食卓を演出☆」「ナチュラルなウッドベースがおしゃれ!」。約1000点の家具やデザイン家電をカテゴリーや値段、ブランドごとに細かく分類し、写真と簡潔な解説を添えて紹介するサイト「インテリアの街」。1日平均1400人が訪れ、1カ月に500点の商品購入を仲介する。サイトを運営するのは、都内在住のウェブデザイナー、otoさん(28)だ。
「1脚のイスを買うのにも数十軒の家具店をまわる」ほど家具やインテリアが好きなotoさん。IT系企業に勤めていたこともあり、ノウハウを活用して趣味を実益にも結びつけようと2003年9月にサイトを開いた。
「好きなことだからこそ地道な努力も苦にならない」。毎日書店に足を運び、インテリアやファッション雑誌を読みあさる。家具店や通販サイトが発行する100以上のメールマガジンも購読して、掲載する家具を探す。サイトのデザインは「原宿や青山にあるカフェのような」落ち着いた色調で統一した。
「見に来るたびに新しいことがあるサイトでないと、リピート率は高まらない」といい、月に60点前後の商品を入れ替える。商品カテゴリーも随時追加しており、11日には「フロアライト」と「テーブルランプ」のコーナーを新設した。家具店や雑貨店のセール情報も逐一掲載する。自らの足で稼いだ情報と「どんなに他サイトで人気でも、センスに合わないものは紹介しない」という姿勢が消費者の信頼を集める。サイト内のブログは、人気ランキング上位に常に顔を出す。
「アフィリエイトの最大の魅力は、一消費者でしかない自分のセンスがビジネスにつながる点」とotoさんは語る。「インテリアの街がもっと認知されれば、リアルのお店もいつか持ちたい」と期待する。
水フィルター掃除機、視力回復手術(レーシック)、君島十和子さん愛用のコスメ――。一見して脈絡のない商品・サービスだが、いずれも「エイジ」こと志賀路紀さん(34、神奈川県藤沢市)のアフィリエイトサイトが消費者の購入指針になっているところが共通する。実体験を小説仕立てにした独自のコンテンツが読み手の「買う気」を触発。志賀さんのサイトを経由して毎月少なくとも10人以上が掃除機を購入する。
「あまりに強烈な体験だったので忘れないうちに書いておこうと」。志賀さんが掃除機の訪問販売で高額契約を結ばされそうになったいきさつを「アフィリエイト小説」にまとめ、ネットで公開したのは2003年の夏。読者を引き込む迫真の筋立てにアフィリエイト広告を織り込んだところ反響は大きく、サイト内で紹介した別の製造元の機種が安定的に売れる状況が続いている。
サイト運営を通じて肌で感じているのが消費者意識の変化。掃除機を例にとれば、どんなに高性能でも販売目的を隠すなど消費者に対するうそが少しでもあれば購買には結びつかない。だから「消費者の立場から欲しい情報を実際に試し、伝えられる真実はこれだけ、と提示する」。
そんな姿勢は昨秋、自ら実際に試した手術とその後の経過をまとめた現在進行形のブログ「レーシック体験談★Blog」にも通じる。水晶体にレーザーメスを入れる手術だが、志賀さんの体験談をきっかけに手術に踏み切った読者が大勢いるほどの影響力がある。
志賀さんが運営するサイトでも異色なのが、女性に人気の“美のカリスマ”の情報を伝える「〔君島十和子さん〕最新情報!」だ。君島さんが登場する雑誌などをこまめにチェックし、彼女が誌面で勧める化粧品などの販売サイトとアフィリエイトで結ぶ。君島さん御用達のブランドを入手できるサイトを網羅したリンク集的な機能も持つわけだ。雑誌記事を手際よく要約して掲載してあり、詳しく知りたければ掲載誌の、君島さんの著書が欲しければオンライン書店のサイトもたどれる。
販売価格の把握にとどまらず、購買行動そのものもネット情報を元に決める消費者が台頭する中で、魅力的なコンテンツで引き付ける志賀さんの存在感はさらに増しそうだ。
普通の主婦が、いつの間にか月収50万円近くを稼ぎ出す、すご腕アフィリエイターに。こんなシンデレラストーリーを地でゆくのが、神奈川県相模原市に住む「藍玉」こと、小林智子さん(37)だ。その「発言力」は広告主である企業側も一目置く存在となっている。
出産を機に退社し育児に追われる毎日。そんな日常生活の変化を求め家族を紹介するホームページや懸賞サイトへの応募など趣味でインターネットに触れだした。趣味が今につながったのはひょんなことから参加したホームページ作りのコンテスト。入賞作をネット上に公開したところ予想外の反響があり「これはいけそう」と、事業化に目覚めた。その時のテーマは「いびき」。これをヒントに、健康上の悩み解消グッズを集めアフィリエイトと連動したサイト「悩みドットジェイピー(http://www.nayami.jp/)を2年前に立ち上げた。
健康や悩みといったテーマの絞り込みが当たり、アクセスは右肩上がり。そうした体験やノウハウもネットで公開し、「主婦もかせげるアフィリエイトで月収50万円」(祥伝社)といった著書も出版した。最近はアフィリエイター志望者向け通信教育の講師も務める。
軌道に乗ってからも“店”の鮮度維持はかかさない。季節ごとに取り扱う商品はがらりと入れ替え、はやりの商品は特設ページを設ける。ただ、売り上げだけを追求しているわけではないという。「最近は月収30―40万円程度」。むしろ主婦では得られにくいネットを通じた人との交流が財産という。
そんな小林さんに広告主も注目し、バナー広告のデザインや取り扱う商品などにアドバイスを求めてくるようになった。「飛んだ先の企業サイトが貧弱では、自らの信頼も損なう」と、小林さんも企業側に積極的に注文を付ける。8月に特定非営利活動法人(NPO法人)化したアフィリエイトマーケティング協会理事としても活躍する。
日経MJが約1000人のネット利用者を対象に10月初旬に実施した、ネット通販の利用に関する消費者調査でも、消費者が発信する情報が購買行動に大きな影響を持ち始めた実態が浮かび上がった。
パソコンによるネット通販で商品を選ぶ際に最も重視する情報を聞いたところ、トップは企業の公式サイトで37.7%、次いで価格比較など専門企業サイトが35.4%と企業発信の情報が上位を占めた。
ただ、ネット上の掲示板などの書き込みも20.4%と3位を占めた。ネット上での個人発信の情報を重視するというその他の回答も合計すると、比率は29.8%に達し、企業発信の情報に迫りつつある。
▼アフィリエイト ネットの閲覧者を特定のECサイトに誘導するネット広告。個人のホームページやブログ(日記風の簡易型ホームページ)上の商品の紹介記事の写真や商品名をクリックすると、ECサイトの通販ページに接続する。商品が売れるとECサイトは売上金額の数%などを報酬として支払う仕組み。個人でも簡単に運営でき、企業も低リスクで販促できるため急速に広がっている。
「モダンな食卓を演出☆」「ナチュラルなウッドベースがおしゃれ!」。約1000点の家具やデザイン家電をカテゴリーや値段、ブランドごとに細かく分類し、写真と簡潔な解説を添えて紹介するサイト「インテリアの街」。1日平均1400人が訪れ、1カ月に500点の商品購入を仲介する。サイトを運営するのは、都内在住のウェブデザイナー、otoさん(28)だ。
「1脚のイスを買うのにも数十軒の家具店をまわる」ほど家具やインテリアが好きなotoさん。IT系企業に勤めていたこともあり、ノウハウを活用して趣味を実益にも結びつけようと2003年9月にサイトを開いた。
「好きなことだからこそ地道な努力も苦にならない」。毎日書店に足を運び、インテリアやファッション雑誌を読みあさる。家具店や通販サイトが発行する100以上のメールマガジンも購読して、掲載する家具を探す。サイトのデザインは「原宿や青山にあるカフェのような」落ち着いた色調で統一した。
「見に来るたびに新しいことがあるサイトでないと、リピート率は高まらない」といい、月に60点前後の商品を入れ替える。商品カテゴリーも随時追加しており、11日には「フロアライト」と「テーブルランプ」のコーナーを新設した。家具店や雑貨店のセール情報も逐一掲載する。自らの足で稼いだ情報と「どんなに他サイトで人気でも、センスに合わないものは紹介しない」という姿勢が消費者の信頼を集める。サイト内のブログは、人気ランキング上位に常に顔を出す。
「アフィリエイトの最大の魅力は、一消費者でしかない自分のセンスがビジネスにつながる点」とotoさんは語る。「インテリアの街がもっと認知されれば、リアルのお店もいつか持ちたい」と期待する。
水フィルター掃除機、視力回復手術(レーシック)、君島十和子さん愛用のコスメ――。一見して脈絡のない商品・サービスだが、いずれも「エイジ」こと志賀路紀さん(34、神奈川県藤沢市)のアフィリエイトサイトが消費者の購入指針になっているところが共通する。実体験を小説仕立てにした独自のコンテンツが読み手の「買う気」を触発。志賀さんのサイトを経由して毎月少なくとも10人以上が掃除機を購入する。
「あまりに強烈な体験だったので忘れないうちに書いておこうと」。志賀さんが掃除機の訪問販売で高額契約を結ばされそうになったいきさつを「アフィリエイト小説」にまとめ、ネットで公開したのは2003年の夏。読者を引き込む迫真の筋立てにアフィリエイト広告を織り込んだところ反響は大きく、サイト内で紹介した別の製造元の機種が安定的に売れる状況が続いている。
サイト運営を通じて肌で感じているのが消費者意識の変化。掃除機を例にとれば、どんなに高性能でも販売目的を隠すなど消費者に対するうそが少しでもあれば購買には結びつかない。だから「消費者の立場から欲しい情報を実際に試し、伝えられる真実はこれだけ、と提示する」。
そんな姿勢は昨秋、自ら実際に試した手術とその後の経過をまとめた現在進行形のブログ「レーシック体験談★Blog」にも通じる。水晶体にレーザーメスを入れる手術だが、志賀さんの体験談をきっかけに手術に踏み切った読者が大勢いるほどの影響力がある。
志賀さんが運営するサイトでも異色なのが、女性に人気の“美のカリスマ”の情報を伝える「〔君島十和子さん〕最新情報!」だ。君島さんが登場する雑誌などをこまめにチェックし、彼女が誌面で勧める化粧品などの販売サイトとアフィリエイトで結ぶ。君島さん御用達のブランドを入手できるサイトを網羅したリンク集的な機能も持つわけだ。雑誌記事を手際よく要約して掲載してあり、詳しく知りたければ掲載誌の、君島さんの著書が欲しければオンライン書店のサイトもたどれる。
販売価格の把握にとどまらず、購買行動そのものもネット情報を元に決める消費者が台頭する中で、魅力的なコンテンツで引き付ける志賀さんの存在感はさらに増しそうだ。
普通の主婦が、いつの間にか月収50万円近くを稼ぎ出す、すご腕アフィリエイターに。こんなシンデレラストーリーを地でゆくのが、神奈川県相模原市に住む「藍玉」こと、小林智子さん(37)だ。その「発言力」は広告主である企業側も一目置く存在となっている。
出産を機に退社し育児に追われる毎日。そんな日常生活の変化を求め家族を紹介するホームページや懸賞サイトへの応募など趣味でインターネットに触れだした。趣味が今につながったのはひょんなことから参加したホームページ作りのコンテスト。入賞作をネット上に公開したところ予想外の反響があり「これはいけそう」と、事業化に目覚めた。その時のテーマは「いびき」。これをヒントに、健康上の悩み解消グッズを集めアフィリエイトと連動したサイト「悩みドットジェイピー(http://www.nayami.jp/)を2年前に立ち上げた。
健康や悩みといったテーマの絞り込みが当たり、アクセスは右肩上がり。そうした体験やノウハウもネットで公開し、「主婦もかせげるアフィリエイトで月収50万円」(祥伝社)といった著書も出版した。最近はアフィリエイター志望者向け通信教育の講師も務める。
軌道に乗ってからも“店”の鮮度維持はかかさない。季節ごとに取り扱う商品はがらりと入れ替え、はやりの商品は特設ページを設ける。ただ、売り上げだけを追求しているわけではないという。「最近は月収30―40万円程度」。むしろ主婦では得られにくいネットを通じた人との交流が財産という。
そんな小林さんに広告主も注目し、バナー広告のデザインや取り扱う商品などにアドバイスを求めてくるようになった。「飛んだ先の企業サイトが貧弱では、自らの信頼も損なう」と、小林さんも企業側に積極的に注文を付ける。8月に特定非営利活動法人(NPO法人)化したアフィリエイトマーケティング協会理事としても活躍する。
日経MJが約1000人のネット利用者を対象に10月初旬に実施した、ネット通販の利用に関する消費者調査でも、消費者が発信する情報が購買行動に大きな影響を持ち始めた実態が浮かび上がった。
パソコンによるネット通販で商品を選ぶ際に最も重視する情報を聞いたところ、トップは企業の公式サイトで37.7%、次いで価格比較など専門企業サイトが35.4%と企業発信の情報が上位を占めた。
ただ、ネット上の掲示板などの書き込みも20.4%と3位を占めた。ネット上での個人発信の情報を重視するというその他の回答も合計すると、比率は29.8%に達し、企業発信の情報に迫りつつある。