ネット競売、企業の出品増――リーン経営、新段階に

2005年11月14日 | 通販/モール
 ネットオークション(競売)で企業の利用が増えている。担保や在庫を効率的に処分できるためで、ムダを削る「リーン(lean=細い、簡潔な、の意)経営」が新たな段階に入ったといえそうだ。
▼ネット大手ヤフーの競売コーナーで、企業の参加が急増している。十月末で約四千八百社と一年前から五割強、前の月と比べても七%増加した。
 数百万人とされる個人の会員数と比べるとまだ少ないが、メーカーから流通まで、上場から個人事業主までと出品者は幅広い。多くは在庫品の処分で、例えば富士通は昨年末からパソコンを出品、数百台を販売した。「ヤフーはユーザー数が多く売れ残りもあまり出ないので利用している」(富士通広報IR室)
 匿名の個人同士の取引が多いイメージのあるネットオークション市場にあって、企業の出品は信頼できるとして人気が高い。「初心者は企業の出品しているものにアクセスすることが多く、サイトの人気に貢献してくれている」とヤフーの斉藤昇オークション事業部ビジネスサポートチームチームリーダーは話す。
 三井住友銀リースや興銀リースなど大手リース四社は、リース期間が終了した事務用品などの物件を販売する企業向けネットオークションを今年の八月から共同のサイトで始めた。
 対象は契約が更新されなかったために処分する必要があるパソコン、カメラなど。これまでの二回の競売ではほぼ九割が落札されたという。
 入札数も一回あたり三百五十件と当初の予想を大きく上回った。「従来は個別に売却していたディーラーとしか接点がなかったが、一般の企業からの落札が多くなって顧客のすそ野が広がった」と三井住友銀リースの大久保利治リース資産営業部次長は話す。
 りそな銀行も、焦げ付いた個人住宅ローンの担保不動産の処分にネットを活用することを決めた。不動産関連会社のアイディーユーと提携して年内にも開始、年間五百件程度を出品できるとみている。
▼ネット競売の活用で、担保・在庫処分の負担は大幅に軽減できる。
 経済産業省などによると、二〇〇四年度の個人間ネット競売の市場規模は七千八百四十億円で、前年度から三五%伸びた。企業のネット競売利用も「不動産などの処理を反映し、順調に伸びている」と野村総合研究所の上田恵陶奈コンサルタントは話す。
 不要な営業用資産をネット競売にかける利点の一つは、売却価格が上がること。在庫処分品や不良債権の担保などはまとめて二束三文で買いたたかれていたが、これは買い手が限られていたため。リース会社の場合、リース後の機械の売却先は数十社の中古販売業者しかなかった。
 銀行の場合も「借り手の地元の不動産業者に任せるケースが増え、売却物件を見る人が限られてしまうのが悩みだった」(りそなの喜沢弘幸常務執行役員)。一つ一つの価値を判断する個人の目にさらせば価格は上昇しやすい。二年前に担保不動産をネット競売してみたところ予想より二割程度高く売却できたという。
 さらに処理時間も短縮できる。銀行の不良債権の担保の任意売却では一つの不動産に複数の債権者が抵当権を設定するのが普通で、権利関係の整理に手間がかかる。その上買い手を探すのに担当者が歩き回らなくてはならなかった。ネットの利用で任意売却にかかる期間は三カ月以上から一カ月に短縮できるとみている。
 これまで企業は、トヨタ自動車の「かんばん方式」のように徹底的に在庫を削るリーン経営を追求してきた。しかし従来は生産や販売という正面の事業プロセスが対象で、用済みの商品、担保など後ろ向きの在庫には十分手が回らなかった。ネット競売の登場で効率化が可能になり、今後は「リーン化」の範囲が大幅に広がることになる。
 同時に、後ろ向きのコストが低下、損失も想定しやすくなることの効果は前向きの分野にも及ぶ。例えばリースでは使用後の残価を高めに設定、当初のリース契約料を引き下げることが可能。りそな銀では「担当部署の生産性が上がるだけでなく、貸し出しの競争力も強化できる」(喜沢氏)という。
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 ネット競売については、参加者数にばらつきがあり価格がぶれやすいなどの不満もある。ただ「販売機会の多様化と不良資産の適正化という利点は大きい」(NTTデータ経営研究所の田村直樹シニアコンサルタント)。活用する企業はさらに増えそうだ。