KDDI、サンスター、P&Gの先端事例から解く「リッチメディア」活用のポイント

2007年11月09日 | リッチコンテンツ/クロスメディア
 NETMarketing Forum 2007 Fallの専門トラックA最終パネルは、「Webマーケティングに新境地を拓く--リッチメディア活用最前線」と題して、動画やインタラクティブな仕掛けなど、リッチメディアを活用した先進のネットマーケティング事例を検証した。モデレータは日経デザイン編集長の勝尾岳彦氏。パネリストは、KDDIマーケティング本部宣伝部長の村山直樹氏、サンスターメディア・プロモーション室長の中西裕紀氏、プロクター・アンド・ギャンブル・ノースイーストアジア(P&G)マーケティング本部アシスタントブランドマネージャーの堺直樹氏の3人。KDDIの「Eye Project」、P&Gの「Herbal Essence」、サンスター「TONIC AIRWAYS」のプロジェクトの成果と今後の課題を語ってもらった。

 まず勝尾氏は、「リッチメディアの活用が提唱されているが、具体的にどう活用して、リアルとどう連動させて効果をあげているか悩んでいる企業も多い」として、先進的な事例を持つ3社の具体的な手法と成果を聞いた。

 P&Gは2007年8月の「Herbal Essence」ブランドのリニューアルに際して、リッチメディアを活用したキャンペーンを展開した。その目的は、消費者に効果的な「Buzz(ネット上のざわめき)を起こすこと」(P&G堺氏)。しかし、発売前のキャンペーン期間は1カ月と短かかったため戦略が重要だったと語った。そこで、「ターゲットを18~23歳女性と徹底して絞り込み、レポート用紙20~30枚にも及ぶ具体的なプロファイルを検証して、コンタクトポイントを絞り込んで展開先を設定していった」(堺氏)。

 キャンペーンアイデアは「パラダイストリップ!」として、クチコミの核となるストーリーを設定。あえて製品の売り込みはしない方針を固めて、ターゲット層に人気の土屋アンナをフューチャーし、「土屋アンナ失踪?」というサプライズストーリーを作った。特設サイトでは、ワイドショー仕立てのムービーを配信。視聴者であるブロガーを「アンナ捜索隊」と位置付け、参加意識を促すブログパーツを配った。大手ポータルサイトなどでのオンライン広告やタイアップサイトからも誘導しながら、リアルでは号外や商品サンプル配布などを展開した。

 飽きやすい若い女性の関心をつなぎとめるためにネタを追加投入し、リニューアル製品を発表する8月1日がピークとなるようコントロールした。当日は失踪していたアンナが記者会見をするイベントを設定し、その日を境に「アンナ本人がプロデュースした製品」へと広告内容を切り換えた。

 結果について堺氏は、「月間ページビューは昨年度比較で18倍、ブログ書き込み件数はキャンペーンについて3500件、製品については1800 件」と予想以上の効果があったことを明らかにした。この成果を得られたのは「ブロガーだけではなく、大手ポータルからの導線が機能したことが大きい」と分析している。

 次に、サンスター中西氏が「TONIC AIRWAYS」のキャンペーンを紹介した。トニックシャンプーは1968年に発売された大ヒット商品だが、「市場変化や若年層への認知低下でブランドの間口が減少している」という課題がある。そこで、イメージを刷新するために、「フライトエンターテインメント」というテーマで複数のチャネルを組み合わせたキャンペーンを設計した。コンセプトはシャンプーの爽快感。ファーストクラスのフライトのような爽快な洗髪体験をしてもらいたいということで「TONIC AIRWAYS」と名付けて、代理店も含めてディテール作りにこだわった。

 リアルでは、大型のアドトラックを用意しその中にファーストクラスのシートを2席設置、フライトアテンダントがシャンプーする。中西氏は、「難点は一度に二人しか体験できないこと。今後は小型で機動力のある展開も考えていきたい」と笑いを誘ったが、アドトラックの1カ月の走行距離は8750kmにもなったという。

 特設サイトにも、細部にこだわったコンテンツを用意した。キャプテントニックを主人公とするバイラルムービーを仕込んだが、それより話題となったのが、キャビンアテンダントがシャンプーをしてくれるというシュールな映像体験。ムービーを最初に掲載したシーディングサイトから、そのほかのCGMサイトへ広がり、CGMサイトから特設サイトへのアクセスが予想外に多かったという。

 KDDIは、投稿動画で巨大な動画を構成するサイト「Eye Project」を開設した。目的はKDDIのブランディング・アイデンティティの確立で、パッと見ただけで先進性が伝わるサイトを構築することで企業ブランドイメージを高めようと企画した。

 KDDIの村山氏は、「製品キャンペーンと異なり、企業広告というものは、1~2年は同じフレームで継続しなければならない。また、一方通行のコミュニケーションでなく継続性があり、インタラクティブで、何度もアクセスしてもらえる仕掛けを考えた」という。

 通信事業者としては、ユーザーにダウンロードだけでなくアップロードもしてもらいたいので、動画を投稿しやすい仕組みを開発した。投稿テーマを変更すれば季節感や継続性がでて、コンテンツも常に更新される。先進的なサイトに投稿する喜びまで味わえるような表現と演出を整え、2006年11月にナンバーポータビリティの開始にあわせて企業広告をうち、サイトをオープンした。

 サイトの制作費に予算をかけたこともあり、1日80万以上のページビュー(PV)があるKDDI本体の企業サイトからの誘導を中心に考え、告知は新聞広告に絞った。ネット上では、「意外にも個人ブログからのアクセスが多かった」(村山氏)という。ブロガーが撮影した動画のみで構成されるブログパーツを用意して配布したので、それを見た人がアクセスする傾向が顕著だったという。

 もう一つ予想外だったのは、サイトに対する興味が想像以上に短かったこと。「最先端のサイトでも、3カ月たつと飽きてくる。ユーザー参加で鮮度を保とうとしたが、テクニックに走ったサイトの寿命は短いということを実感した」(村山氏)。

 各社の事例を聞いた後、モデレータの勝尾氏は「サイトへの導線がそれぞれ異なるが、どう評価しているか」と質問した。

 まずP&Gの堺氏は「ポータルやテレビが強かった」と発言。「ポータルからの誘導はこれまで、商品サンプリングなどがないと難しかったが、今回はニュースだけでも十分誘導できた。コンテンツのクオリティが高ければ、大手ポータルは本来の力を発揮する」とみる。一方、サンスター中西氏は、「ニュース性があるとクリックしたくなるが、うちが打ち出したのは世界観で、それを伝えるためにはCGMが効果的だった」、KDDIの村山氏は「先進的な人にアクセスしてもらいたかったので、ブログパーツからの誘導は目的に合っていた」と、ブログなどCGMからの導線を評価した。

 勝尾氏の最後の質問は、「リッチメディアを活用する際気をつけることは何か」。

 KDDIの村山氏は「トライ&エラーを繰り返すことになるが、継続的に展開できる力を持てることが重要。クリエイティブは、自らが分析しながらフィードバックする経験を積むこと」とした。サンスターの中西氏は、「リッチコンテンツが斬新だから使われているだけで、技術が進歩すれば当たり前になる。どんな手法でも、ターゲットの脳や心に突き刺さることが大事」だと語った。P&Gの堺氏は「Webマーケティングは、コンタクトポイントが増える。ディープなコミュニケーションができるので、アイデア次第で大きな効果が望める。ただし、大きなリスクは、どのくらいの効果があるか分からないこと。経験値とデータを集めて、フローレベルを引き上げつつ取り組むべきだ」とまとめた。


http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20071109/286819/