第353話 「思い出の記憶」

この前ですね、荒川でまったりしましてですね帰り道をちょいと
違う道を行こうかなと思いましてですね久しぶりの道を通ったんです。
そしたら見覚えのある建物が工事中の雰囲気がありまして
看板を見たらその建物は解体するらしいんです。
その建物とは私が高校を卒業して就職したときに住んでた会社の寮だったんです。

高校を卒業間近になると就職活動なるものをするんですが
私は当時仕事はなんでも良かったんです。ただ東京に行きたい。
東京でバンドをやりたい。親元を離れて一人で住んでみたい。
そんな思いだったんですね。

まぁ、どーいう訳か私の就職先は某大手印刷会社。
就職試験を受けに東京へ。東京なんて中学の修学旅行以来でした。
憶えてるのは寮に案内され「明日の試験まではこの部屋を使ってください」と、
とある一室に入る。TVがあったんでTVをつけてみる。
TVでは「夕やけニャンニャン」が放送されており、私の実家ではフジテレビは
ほぼ見れない田舎だったので「あ～東京だなぁ～」なんて思ったりした。

そして晴れて就職試験に合格し高校も卒業して東京へ。
先輩と相部屋つーのが嫌だったけど全てが新鮮でした。同期は20人位いたのですが
夜中まで同僚と騒いだり屋上で花火をして怒られたりして。
そして部屋変えがあって今度は後輩と相部屋になったりして。
後輩の親がわざわざ私にご挨拶しにきたりしましたね。
東京で初めて彼女ができたときは寮にこっそりと連れてきた事もありました。

結局、私はこの会社は1年ちょいしか居ませんでした。
まだ仕事のなんたるかを知らないガキだったんでしょうね。
ボーナスで部屋を借り初めての一人暮らしを体験。
家賃3万2千円、風呂無し。でも四畳半が2部屋あった。
コンビニでバイトを始め本格的にバンド活動。
でも会社は辞めても寮にはしょっちゅう行ってました。風呂借りに行ったり、
同僚の部屋に遊びに行ったり。洗濯しに行ったりもしました。

あれから数年・・・私はもう長いこと東京に住んでる。
測量関係の仕事をもう8年くらいやってる。
現在のワンルームの風呂付きの部屋にも長い事住んでます。
色んな思い出があった寮にはもう誰も住んでなく解体の準備がしてあります。
「なんかあっけないなぁ・・」そんな思いですね。

上京してきた当時は全てが新鮮で全てが楽しかった。
初めて給料を貰ったときは凄い嬉しかった。
時代は流れてる。昔良く行ってた店とかも無くなったりしてでかいビルが
建ったりしてる。でも環境が変わってもあの頃の思いや体験は自分の胸の中にある。
当時は人が沢山いた寮も今は静かにたたずんでいます。
そんな切ない思いを感じながら誰もいない寮を見上げたんです。