The Place

自分の言葉で、ゆっくり語ること

Day 3 やっぱりウォーターフォールだな

2009-10-06 23:58:34 | 日記
朝は7時前に目を覚ました。
シャワーを浴びてから朝食をとりに食堂へ向かうと、途中の池でハスの花が咲いていた。
確か、昨日は咲いていなかったものだ。
今日もいい一日になりそうな予感がする。

ゲストハウスの中にある小さなレストランで、トーストと卵とベーコンの簡単な朝食を注文する。
店員の女の子がメモをとって、それをキッチンに持っていく。
よく見ると可愛い子だ。
特に愛想がいいわけではないが、表情に僕を惹きつけるものがある。
昨日も顔を合わせているはずだが、そんなことは気付かなかった。
これは持論だけど、海外に行ったときに、その国の女の子を「可愛い」と感じたら、「その国に少し馴染んだ」と言えると思う。
土地の女性に魅力を感じるには、その国の色々な物事に慣れて、気持ちに余裕がなくちゃいけないもんね。

昨日申し込んだツアーは、朝の8時出発の予定になっている。
バッグに水着やタオルを詰め、ゲストハウスの前で待っていると、一台のワゴン車が泊まった。
ツアー申込受付の書類を確認してもらい、後部座席に乗り込む。
同じツアーの参加者らしき人たちが既に乗っていたので、簡単に挨拶をする。

車が走りだしてから、今日のツアーの概要説明がある。
最初の目的地の国立公園までは、移動に1時間ほどかかるという。
移動の車中で、隣の席に座った同じくらいの年の白人と話し込む。
彼の名前は、ルー君というらしい。
ルー君は、彼の大学の話、アジアの何処の国に行ったとか、カンボジアのどこの街がよかったという話などを聞かせてくれた。
旅から帰ったあとの話になったが、彼の母国は不景気に伴う就職難で、大学卒業後の見通しはたっていないということ。
僕は試しに「日本も不景気だ」と言ってみたが、当然ながらルー君には何の慰めにもならなかった。

エラワン国立公園には9時頃に着き、それから13時までフリータイムになった。
森や川の周りを自由に散策していいという。
僕は、ルー君と一緒に森を歩くことにし、途中から、ガイ君という男も加わった。
ガイ君はあまりしゃべらない性格らしく、国籍も年齢もよく分からない。
そうかと思うと、突然樹に登り、樹の幹に腕だけでしがみついてアクロバティックなポーズをとっている。
「体操選手だったのか?」と聞くと、「軍隊に居たんだ」とのこと。
よく分からない男だ。

そんな2人と森を歩く。
僕にとっては、久しぶりの熱帯雨林だ。
ボルネオの森でコウモリ調査をしていた頃を思い出す。
懐かしさをかみしめながら、森の空気を肺いっぱいに吸い込む。
薄い靴底の裏に、樹の根っこを感じる。
森の中で、たくさんの動物に出会う。
クモ、リス、サル、オオトカゲ、アゲハチョウ、コイ。
平和で満ち足りた世界。

森の中には川が流れており、ところどころで滝になっていた。
水はあくまで透明で美しい。
滝壺では、白人達が水着になって水浴びをしている。
なんとなく「楽園」を描いた宗教画のような光景だ。
ルー君と僕も水着に着替え、滝壺の中を泳ぎまわった。
背泳ぎをすると、水しぶきの向こうに樹冠と青空が見える。
たまらなく気持ちいい瞬間だ。

フリータイムが終わり、簡単な昼食を済ませたあと、車はエラワン国立公園を離れた。
ツアーは午後も盛りだくさんで、エレファントキャンプで象に乗ったり、竹で出来たイカダで川を下ったり、戦争遺跡を見て回ったりした。
その間、僕とルー君とガイ君はずっと一緒に行動していた。
色々やっているうちに、二人の性格も少し見えてくる。
ルー君はお調子者で、滝に飛び込んだり、象に話しかけたりしている。
でも、僕にさりげなく気を使ってくれて、平易な英語で話しかけてくれたりする。
ガイ君はマイペースらしく、平気で集合時間に遅れたり、自分の荷物をガサガサといじったりしている。
その割には、かわいい女の子を見かけると、急に親しそうに話していたりする。
やはりよく分からない男だ。

ツアーの最後には、観光路線となっている鉄道に乗り、木製の橋を渡る。
橋は、切り立った崖と大きな川に挟まれて窮屈そうに伸びている。
この橋を作るために多くの戦争捕虜が動員され、建設作業中に多くの命が失われたらしい。
電車の中はキャノンやニコンの一眼カメラを構えた白人観光客がわんさか乗っている。
幸せそうなカップルもたくさん居る。
学生服を着た、地元の中学生らしき少女の集団も見かける。
物売りがやってきたので、僕はチャーン・ビールを買い、座席に座って飲む。
電車は、そんな僕らを乗せて、木製の橋の上を、ゆっくりと時間をかけて渡っていく。
遠くの空にたくさんの積乱雲が浮かんでいる。

夕方に全てのツアープログラムが終わり、僕らはワゴン車に乗ってカンチャナブリへ戻った。
外は強い雨が降っており、ワイパーが忙しそうに動いている。
みんな疲れて無言だったが、僕は少し勇気を出してルー君とガイ君に尋ねてみた。
「今日は色々なアクティビティを楽しんだね。その中で、どれが一番良かった?」
ルー君は少し考えてから、「そうだね、象も良かったし、川下りも静かで気持ち良かったけど、やっぱりウォーターフォールかな」と言った。
「俺もそう思う」とガイ君が続いた。
二人ともウォーターフォールが一番楽しかったと聞いて、僕はすごく嬉しかった。
僕もそう感じていたからだ。
やっぱり、生まれた国や文化は違っても、何を楽しいと感じ、何を気持ちいいと思うかは同じなんだ。

ツアーが解散してから、一人で夕食をとった。
今日は疲れたので、散歩はせずに、滞在しているゲストハウスの食堂で済ますことにする。
メニューは、グリーンカレー、野菜炒め、白米、ココナツシェイク。
食堂には大きなテレビが置いてあり、宿泊客がみんなでそれを眺めている。
テレビ番組の内容は、コメディドラマで、若いタイ人男女の結婚がテーマらしい。
産婦人科からロボットの赤ちゃんを借りてきて、育児体験に奮闘している。
それを見ていると、なぜだか日本の事を少し思い出した。

雨は相変わらず強く降り続いている。