The Place

自分の言葉で、ゆっくり語ること

歯について 侏儒の言葉

2008-11-20 23:54:35 | 日記
今日は歯の治療に行ってきた。
神経を抜かなければならないとのことだった。
今日だけでもひどい苦痛を味わったのに、これから何度も歯医者に通うのだ。

せっかくなので、歯について少し語ろうと思う。
そんなに深い話ではないし、深い意義もない。
他にもっと語るべきことがあるのかもしれない(そう、人生とか、愛とか、自然とか)。
でも、大きな漠然としたテーマで語るよりは、限定した事柄について具体的に語る方が楽しいし、面白いと思う。

とにかく始めよう。

--------------------

今日は、歯医者のリクライニングシートに横になり、ぱっくりと顎を開き、歯を削られてきた。
轟音でうなるドリルを口につっこまれながら、こう考えた。
「昔は医療も発達していなかったから、むし歯になったら抜くしかなくて、しかも麻酔無しだから、すごく痛かっただろう。今はいい時代だ」
あとで、歯医者を出てから、もう一度よく考えてみた。
甘いお菓子が無かった時代には、むし歯もほとんどなかったのだ。
世の中って、本当によく出来ている。

 甘いものの無い世界には、歯医者も無い。
 歯医者のある世界には、甘いものがある。

--------------------

僕の上顎には、大きな八重歯がある。
コウモリの牙のようになっていて、あまり格好良いとは言えない。
小さなコンプレックスのようでもあるが、アイデンティティでもある。
私の父にも、姉にも、同じような八重歯がある。
そういう家系なのだ。
家紋のようなものだ。

--------------------

歯というのは、言うまでもなく、骨の一部だ。
考えてみると、人間の体の中で、唯一骨が露出している部分だ。
人間やサルは笑うと歯を見せるが、これは骨を見せるためであるのかもしれない。
笑顔の起源は、「服従の表現」だったらしいしね。
ハイ、チーズ。

--------------------

僕の歯は、銀の詰め物ばかりだ。
だから、僕が死んで火葬されたら、真白な骨に混じって、銀のかけらがたくさん残ることになる。
それを見て、僕の兄弟やいとこ達は、こう言うだろう。
「この子は、そういえば、甘いものが大好きだったね。」
あるいは、墓が何万年か後に発掘されて、博物館の隅に飾られるのかもしれない。
こういう解説のプレートとともに。
「歯の治療具。アジア地域に暮らしていた一民族の成人男性のもの。従属栄養生物だった人間は、食物を外界から摂る必要があり、歯は生死にかかわる重要な器官であった。」
火葬場にも博物館にも、できれば残りたくない。

--------------------

僕の虫歯の多くは、歯と歯の隙間に出来ている。
つまり、歯と歯の隙間さえ無ければ、虫歯にはならないのだ。
歯と歯の隙間を無くすには、どうしたらいいか。
歯が全部一体になっていればいいのだ。

そういう歯になったら、みんなは僕の顔を見て笑うだろうか。
それとも憐れに思って、慰めの言葉を探してくれるのだろうか。
あるいは、意外と誰も気づかないのかもしれない。
それがきっと一番つらいかも。

いや、今の虫歯の痛みの方が辛いな。