夫婦でシネマ

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上海の伯爵夫人

2007年01月17日 | さ行の映画
Story
1936年の上海租界。トッド・ジャクソン(レイフ・ファインズ)は、かつては国際連盟最後の希望とまで言われた外交官だった。しかし、暴動で妻子と視力を失い、もはや職務に希望を無くした彼はクラブ浸りの享楽的な日々を送っていた。
一方、帝政ロシア時代の元貴族、ソフィア・ベリンスカヤ伯爵夫人(ナターシャ・リチャードソン)は、革命後の赤軍の襲撃を逃れて上海にやって来ていた。夫は既に亡くしている。狭いアパートには、娘と姑やその義姉夫妻など7人がひしめき合い、ベッドは昼夜交替で使う有様であった。ダンスクラブでホステスとして働き家計を支えるソフィアであったが、貴族の対面を汚していると疎んじられる毎日だった。そんな彼女にも、やはり迫害を逃れてやって来た階下に住むユダヤ人のサミュエル(アラン・コーデュナー)は理解を示す。そして、愛娘カティアが唯一の希望であり生き甲斐であった。
ある日、ソフィアはダンスクラブでジャクソンを暴漢から救い、それがきっかけで彼と知り合いになる。ジャクソンには、上海に理想のクラブを開業するという夢があった。彼は酒場で知り合った日本人ビジネスマンのマツダ(真田広之)にその夢を語る。一方、マツダはヴェルサイユ講和条約締結の場にいたというジャクソンに尊敬の念を表す。二人に友情が芽生え始める。その後、マツダはしばらく上海を離れることになるが、1年後にジャクソンのクラブでの再開を約束するのだった。
ある日ジャクソンは、競馬で大勝負をかけ見事大穴を当てる。クラブ開業資金を手にした彼は、ソフィアにクラブの華として勤めてくれるよう頼む。理想のスタッフを揃え、クラブ「WHITE COUNTESS」はオープン。マツダも約束通りやって来るのだった。
全てが順調かと思えたが、大きな歴史のうねりが彼等を巻き込もうとしていた・・・。
2006年/イギリス/ジェームズ・アイボリー監督作品





評価 ★★★★★

これは下手をすると2007年のベスト1になってしまうかもしれない映画です。
ロシア革命を逃れて上海へ逃亡して来た貴族、ユダヤ人、暴動で家族を失い職務に希望を失った元外交官。わけあり気の日本人。彼等が渾然一体となってドラマを形成、感動のラストへとなだれこみます。
帝政ロシアの崩壊、ベルサイユ講和条約、国共内戦、満州国建国と日本軍の侵攻、これらのドラマチックな時代背景が主人公達のバックグランドを彩り、物語に奥行きを持たせています。

脇役に至るまで人物造形がしっかりしているのはさすがです。そして、緻密なドラマ構成。例えば、ラスト。船上のソフィアの娘カティアの姿が、どうしてこれ程の感動を喚起するのでしょうか。これは、蘇州への船旅を夢見るカティアの描写がカギになっています。彼女が港で影絵を観ていた際に突如始まる空想描写としてのアニメーション、公園のブラスバンドへ駆け寄るカティア、彼女が描いたラッパを持った兵隊の絵、物語の中に一見脈絡無く挿入されたこれらのシーンが、船上でトランペットを吹く中国人の姿に収束して、ようやく結ばれたジャクソンとソフィアの幸福感が、船旅の夢が叶った少女の幸せと相俟って迫ってくるからです。

その他、何度か挿入される、舞踏会にオーバーラップする雪のシーンが儚く消えた貴族社会の栄華を思わせます。そして、日本軍の侵攻で爆撃・炎上するクラブがジャクソンの再生を予感させました。
真田広之はグレアム・グリーンの「静かなアメリカ人」にちょっと似た役柄でなかなかいい味を出していました。悪役なんですが、最後にいい所を見せています。





評価 ★★★★★

この映画は、1930年代の上海を舞台に、暴動で家族と視力を失ったアメリカ人の元外交官と、ロシア革命から逃れてきた伯爵夫人とその亡夫の家族たちの、時代のせいで希望を見失っている人々の重厚な人間ドラマを描いています。
ジャクソンとソフィアの恋愛の要素ももちろんありますが、どちらかというと人間ドラマに重点を置いているところが、この映画を薄っぺらいものにしていない感じがしました。

私が面白いなと思ったのは、ソフィアと亡夫の家族たちとの関係です。ソフィアは伯爵夫人というプライドを捨てて、毎晩家族を養うためにホステスとして働いているのに、姑と小姑からは(貴族というプライドを捨てきれないために)陰口を叩かれたり、疎んじられたりしてひどい扱いを受けています。唯一、ソフィアの娘だけがお母さんの味方で、お母さんを責めないで、とソフィアを守ろうとします。そのソフィアの娘の面倒は、小姑を中心に家族たちがみてくれているので、ソフィアは家族たちに対して何も口出しすることが出来ないのです。
こういう彼女たちのような姑、小姑といった家族間の問題は、日本だけでなくて、どこの国でも共通する問題なんですね。ただ彼女たちの場合は、ロシアでは貴族として優雅に暮らしていたのに、突然時代のせいで惨めな生活を強いられることになったので、とても気の毒ではありました。映画のなかでも、優雅だった時代を回想するシーンが何度かあって、余計に今の生活をつらく哀しいものに感じさせます。

一方、ジャクソンは外交官として中国で頑張ってきたのに、暴動で家族と視力を失い、今は自暴自棄な生活を送っています。彼の唯一の慰めは、華やかな夜の街に繰り出すことで、いつか自分の思い描いた「理想のバー」を実現させることが生き甲斐になっています。
その夢を実現させるきっかけとなったのが、ソフィアとの出会いでした。ジャクソンとソフィアは理想のバーを二人で実現させていくことで、お互いの不幸な過去から立ち直ろうとします。ソフィアがかつての伯爵夫人としてのプライドを取り戻していき、どんどん奇麗になっていく様子はとても素敵でした。ジャクソンもそれまで世間とは離れた暮らしをしていたのに、ソフィアとその娘との交流で、少しずつ生きる希望を取り戻していきます。

ソフィアが家族と上海を離れることになった時、ジャクソンとソフィアが初めて心を通わすシーンがあるのですが、このシーンはとても良いです!盲目のジャクソンがソフィアの顔を手でなぞりながら、「美しいとは思っていたけど、君がこんなに美人だとは知らなかった」と呟くシーンはとても感動的でした。レイフ・ファインズの感情的にならず抑えた演技が、切なくて涙を誘います。

そして感動のクライマックス!家族がソフィアから娘を引き離し、ソフィアだけを置き去りにして上海を発とうとします。(支度金はソフィアに都合させたのに、本当にひどい家族です。)最初は泣く泣く諦めていたソフィアも、階下に住むサミュエルの働きかけで、港へ急ぎ娘を取り戻そうとします。またジャクソンも、マツダからの働きかけで自分の本当に大切なものに気づき(真田広之もマツダをとても好演しています)、ソフィアを追って港へ急ぎます。このクライマックスのシーンが主人公たちの想いを集約する形になっていて、感動のラストへと導きます。ハッピーエンドと分かりながらも、このシーンはとてもハラハラしました。ぜひ劇場へ足を運んで、観ることをオススメします!

この映画は、監督がジェームズ・アイボリー、脚本はカズオ・イシグロで、「日の名残り」から再びタッグを組んだことになりますが、この映画も大人が楽しめる上質な作品に仕上がっています。
ちょっと気が早いけど、私も2007年のベスト1にしてもいいと思えるほど良い映画でした。

(「上海の伯爵夫人」2007年1月 長野グランドシネマにて鑑賞)

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6 コメント

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Unknown (margot2005)
2007-01-29 21:56:04
こんばんは!初めまして!コメントありがとうございました!
カズオ・イシグロ、ジェームス・アイヴォリー、レイフ・ファインズ...三拍子そろって素敵な映画となりました。
真田広之も好演したましたよね。
確かにストーリーは読めるし、絶対二人は結ばれると解ってはいるのですが、ラストまで目が離せませんでした。
こういった作品は大好きです!
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はじめまして! (nyanco)
2007-01-30 18:32:45
margot2005さん、こんばんは!
早速来て頂いて嬉しいです。
コメント&TBありがとうございました。

脚本、監督、俳優とすべて3拍子そろったことで、本当に素敵な良い映画になりましたね。
ハッピーエンドと分かりながらも、ストーリー展開が面白いので、ラストまでハラハラし通しでした。^^;
ラストの主人公たちが旅立つシーンは感動的でしたね!
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TBありがとうございました (sakurai)
2007-02-05 17:39:20
はじめまして。迷宮映画館のsakuraiと申します。
TB・コメありがとうございました。
ご夫婦で映画鑑賞、いいですね。仲良くて。
うちのは映画館に座ってられないらしく、いつも私一人です。どうぞよろしく。
レイフ・ファインズの目力(めぢから、私が勝手に作った言葉です)が好きで彼の映画はほとんど見ているのですが、見える目が見えてない。見えてるときの目の力、いやーーよかったです。そして、ソフィアの顔を優しくなぜているときの様子。素晴らしかったです。
カティアはあの小姑役した人の実の娘だそうで。彼女の気持ちも分からないでもなく、小姑以上の愛情がやけに感じられたのは、やはり実の親子、なんていうところも画面に出ちゃったのでしょうかね。
ほんと、いい映画でした。
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はじめまして! (nyanco)
2007-02-06 14:32:12
sakuraiさん、こんにちは!
はじめまして、nyancoと申します。
私がnyancoで、主人がwancoです。お互いの性格が猫と犬のような感じから、そのニックネームをつけました。(笑)

私もジャクソンがソフィアの顔を優しくなぞるシーンは大好きです!レイフ・ファインズの優しい眼差しがとてもいいですね。^^
「ナイロビの蜂」でのレイフの演技も良かったですが、この映画の彼の演技も素晴らしかったです。

カティアは小姑役した人の娘なんですか。。知らなかった!どうりで顔の雰囲気も似てるし、演技も真に迫ったものがありましたね。
たしか姑役した人とその姉も、実の姉妹だそうです。実の親子や姉妹での共演で、余計にリアルに感じられました。
アイヴォリーはキャスティングをそこまで計算していたなら凄いですね。

早速、当サイトへ来てくださってありがとうございました。
こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。
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こんばんは~☆ (kira)
2008-03-24 22:09:51
TB、有難うございます♪
古い記事だとつい遠慮してしまいますが、先に見つけて下さって飛ばしてくださり
嬉しいです~。

なんだか凄く久しぶりに観た大人の物語。大人の為の映画だった気がします。
あの時代の上海の雑多な、国籍も入り乱れて生活する人々の雰囲気もよく出ていて
全体に色あせたセピアっぽい色調もよかったですね♪

好きなシーンもほぼ皆さんと同じです!
真田さんの仕事への姿勢は相変わらずで、それが成功していますよね。
次回作も楽しみです~
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コメントありがとうございます♪ (nyanco)
2008-03-31 18:51:07
kiraさん、こんばんは!
こちらにもコメントありがとうございました。
再度、私達のレビューを読んで下さって嬉しいです。

kiraさんの仰る通り、本当に大人のための映画だったと思います。
恋愛映画としてよりも人間ドラマの部分に重点を置いてあるところが、かえって好感が持てました。(^^)
あの時代の上海の雑多な雰囲気って、なんだか魅惑的で余計に物語に惹き込まれたような気がします。

真田さんの演技も素敵でしたよね~!
最近は外国映画での活躍が目立ちますが、もっと日本映画にも出てほしいなぁと思います。
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