放射線治療と医学物理

放射線治療、特に医学物理に関する個人的記録

肺不均質測定:電離箱壁の材質と厚さの関係

2008年07月13日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第24号

Thomas Mauceri, et al.: Effects of ionization chamber construction on dose measurements in a heterogeneity, Med Phys, 14, 1987

 不均質な物質を含むファントムでの測定において、電離箱の壁材質が評価線量に影響を与えるのか否かを検討した論文です。

 肺等における線量を把握する際に不均質な物質を組み合わせ、電離箱をその中に配置して測定することは日常行われています。電離箱壁は比較的薄いものが使用されていますが、測定対象の物質と電離箱壁の材質を合わせるという作業は行われていません。

 しかし、厳密にはAAPM dosimetry protocol(TG21)にも示されているように、壁材質の違いは線量測定の誤差要因になるといえます。

 筆者は肺および水等価ファントム内での測定において、電離箱壁の材質が与える影響を調べています。そのためにひとつは水等価、もうひとつは肺等価な材質から2つの平行平板型電離箱を作成しています(ionization collection volume: 2.5 cm diameter, plate separation: 0.2 cm)。(比較のために、指頭型電離箱(0.1cc)も使用しています)。

 測定対称のエネルギーはCo-60 γ線、6, 10, 20MV X線、照射野は10cm x 10cm。測定深は0.5 cmから13 cmとし、最大測定深から10cm下にSolid Phantomを設置しています。不均一物質を含むファントムは、上から5cmのSolid Phantom、13cmのLung Phantom、そして十分な厚さのSolid Phantomとなっています。

ここでのConversion Factor(CF)算出式は下記のとおりです。
CF(d) = (Q/m)lm / (Q/m)sw X (L/ρ)lm / (L/ρ)sw X (μen/ρ)lm / (μen/ρ)sw
(Q/m): 単位質量あたりの収集電荷
(L/ρ): 平均制限衝突阻止能
(μen/ρ): 質量吸収係数
ここで(L/ρ)lm / (L/ρ)sw X (μen/ρ)lm / (μen/ρ)sw = 0.998±0.005とされていることから、単位質量あたりの収集電荷の比がCFを示すことになります。

 線量計と均一、不均一ファントムでの組み合わせは
1. 均一: 指頭型電離箱, 不均一: 指頭型電離箱
2. 均一: Solid Phantom平行平板電離箱, 不均一: Solid Phantom平行平板電離箱
3. 均一: Lung材質平行平板電離箱, 不均一: Lung材質平行平板電離箱
4. 均一: Solid Phantom平行平板電離箱, 不均一: Lung材質平行平板電離箱
となっています。
4番の測定では異なる線量計が使用されるため、感度の補正が必要となります。本論文ではSolid Phantom 5.5cmから15.5cmの深さにおいて、2cmずつnormalization factorを求めることにより補正しています(各々のエネルギー毎)。

CFを測定した結果により、筆者は以下を示しています。
1. 上記線量計とファントムの組み合わせにおいてCFの違いが生じている。しかし水等価壁であり、かつ壁が薄い(~0.1 g/cm^2)電離箱においては電離箱壁およびファントム材質の違いによる影響は見られなかった。
2. 上記組み合わせ4と2の間には、Co-60 γ線、10MVおよび20MV X線のエネルギーにおいて有意なCFの違いが生じている(6MV X線は測定の不確かさ内)。これは0.4 – g/cm^2の水等価壁を有す電離箱は、Co-60においてγ線が吸収されるためにCFが低くなり、また10MV, 20MV X線においては散乱線の増加によりCFが高くなることで肺物質における測定に影響を及ぼしている。
3. サイズが小さく、水等価かつ薄い壁を有す電離箱においては、肺の不均一のCFを電離値の比から決定することができる。

肺の補正の精度確認は最近の医学物理においても重要な項目のひとつです。これはその際どのような電離箱を選択するのかを考慮する際に役に立つ論文です。

詳細は論文で。