放射線治療と医学物理

放射線治療、特に医学物理に関する個人的記録

LINACを用いた線減弱係数の測定

2008年08月29日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第37号

J Van Dyk, et al.: Broad beam attenuation of cobalt-60 gamma rays and 6-, 18-, and 25-MV x rays by lead, Med Phys, 13, 1986

X線やγ線に対する物質の吸収係数(or HVL)の測定には細いビームが用いられています。これは正確な測定のために必須な項目ですが、一方で放射線治療の状況では理想的な細いビームでの治療はほぼ皆無であり、広めのビームの吸収係数が求められます。特にTBI等で使用する補償体の吸収係数の算出は、均一な照射を考慮するうえで必要な厚さを計算するために必須です。本論分は吸収係数を理論的に計算し、また実測することでその差異を確認しています。

 理論
単一エネルギーの放射線であり、細いビームの場合
I = I0 e^(-μx)
ここで吸収体の存在する場合の強度をI、吸収体の存在しない場合の強度をI0、μは線減弱係数、xは吸収体の厚みです。
広めのビームの場合、散乱が多くなるため複雑になり、散乱線と直線線の強度比は、
S/I = Ne x X0 x σ0
で表すことができます。ここでNeは吸収体中の電子数、X0は吸収体の厚み、σ0は0度と最大散乱角の間の散乱光子の断面積である。この式において、σ0は入射エネルギーと最大散乱角との複雑な関数であり、本論分では詳細には述べられていない。
また、広いビームの吸収は以下に示すことができます。
Ib = I0 x e^(-μbx)
ここで、Ibは吸収体を通過後の強度、μbは広いビームジオメトリーにおける実効線減弱係数であり、
μb = μ + 1/x ln[1/(1 + S/I)]
と表すことができます。
また、スペクトルが正確に把握できている場合、
μb’ = (∫μb N E dE) / (∫N E dE)
ここでNは光子数、Eは光子のエネルギーであり、μb’は加重平均された広いビームの線減弱係数である。

 測定
 上記理論を確認するために実測が行われている。実測の方法は以下である。
1. 細いビーム, focused collimatorを使用(X線のみ), Source-absorber distance. 90cm, SCD. 130cm,
2. 細いビーム, 遠距離法, Source-absorber distance. 90cm, SCD. 170cm
3. 広いビーム, Source-absorber distance. 90cm, SCD. 130cm

Co-60においては、ビルドアップキャップ使用下の空気中での測定, 6, 18, 25MV X線では30cm x 30cm x 30cmのポリスチレンファントムを用いて5cm深での測定を行っている。また用いられているabsorberは鉛である。

結果
1. 全てのエネルギーにおいて、細いビームに比較し、広いビームの透過率が低いことが明らかである。
2. 求められた質量減弱係数は照射野の関数としてleast squares fitにてよい結果が得られている。
3. 理論から計算された結果と比較し、細いビームにおける吸収係数は2.4%の差異が認められた。
4. Co-60において2種類の細いビームでのジオメトリーでの結果は0.5%以内の差であった。
5. 広いビームにおいて測定結果と計算結果との差はフィールドサイズが大きくなるにつれて大きくなる。
6. 40cm x 40cmの広いビームと細いビームの吸収係数の測定結果より、エネルギーに依存して14% - 16%の差が認められた。

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TBIにおける補償体の吸収係数を把握し、適切な厚さを検討することはTBIの成功のために必須である。上記理論式は現場ですぐに使うことのできるものではないが、測定方法および解析手法は非常に役に立つと思われる。測定の際の参考としたい。

詳細は論文で。