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放射線治療と医学物理

放射線治療、特に医学物理に関する個人的記録

Eclipseに搭載されたAAAの計算精度

2008年07月23日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第27号

Ann Van Esch, et al.: Testing of the analytical anisotropic algorithm for photon dose calculation, Med Phys, 33, 2006

線量計算方法として使用されてきたPBC法に変わるアルゴリズムとして提案されたanalytical anisotropic algorithm(AAA)の紹介です。このアルゴリズムはEclipseに搭載され、主として肺のような不均一な領域の線量計算精度の向上が得られています。またこのアルゴリズムはPrimaryとSecondaryの光子源および含有電子の合算として計算され、各々のカーネルはモンテカルロで事前に計算されたものを使用しています。

 筆者は6MV, 15MV, 18MVの光子を使用して、種々のfieldにおけるPDD, OCR, output, wedgeの有無におけるOCR、不均一なファントム(コルク)を使用した際のPDD, OCR、またIMRT fieldを実測し、PBCおよびAAAとの比較をしています。

 検討された方法が多いため必然的に結果も多いが、まとめると以下のようになる。
1. 水ファントム中のPDDはPBCの方が良好。特にAAAはビルドアップ領域において正確な計算ができていない。この効果はエネルギーが高くなればなるほど大きくなる。
2. 水ファントム中のOCRはAAAの方が良好。特に半影領域および低線量領域においてAAAが優れている。
3. コルクを含む不均質な物質におけるPDDにおいて、肺(コルク)内の線量はAAAが良好、肺の外(コルクの後ろ側)はPBCが良好。特にコルクの後ろ側のAAAの線量計算精度は良くない。AAAは高エネルギー光子の結果が良好。
4. コルクを含む不均質な物質におけるOCRにおいて、AAAが良好。
5. AAAの計算時間はPBCに匹敵する(むしろPBCよりも早い)。

肺の放射線治療計画において、V20およびV25は副作用発現の観点からも重要視されます。PBCで計算していた施設がAAAに乗り換える際には肺のDVHが減少することに注意が必要だと記されています。

詳細は論文で。

不均質計算TAR比, Batho, equivalent TARの性能

2008年07月14日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第25号

T. R. Mackie, et al.: Lung dose corrections for 6- and 15-MV x rays, Med Phys, (12), 1985

肺等の不均質物質を含む物体でのconversion factor(CF)を算出する方法はいくつか提案されています。ここでは従来Co-60のγ線を用いて行われてきた3つの技術(the ratio of TAR, Batho power law, equivalent TAR)を比較し、測定結果と比べた結果が報告されています。また、誤差要因としてあげることのできる荷電粒子平衡のlossについて、モンテカルロコード(EGS)を用いて詳細に報告しています。

測定方法として、照射エネルギーは6MVおよび15MV X線。ファントムはポリスチレン、コルク、ポリスチレンの順番で配置し、ターゲット-線量計間距離を一定にして測定。コルク厚を増加させた(~7.8cm)場合、また追加としてポリスチレンを追加した場合(7.8cm~15.5cm)にて検討。

6MV X線、10cm X 10cm: Batho power lawが最適(ビルドアップ領域を除く)。Equivalent TARはコルク内でよい正確性を示さず、境界面で2.6%の誤差。The ratio of TARはさらに悪い結果となり8.2%の誤差。

6MV X線、5cm X 5cm: 測定された結果よりも計算されたCFは全て大きくなっている。しかしBatho power lawにより計算されたCFが近く、Equivalent TAR、The ratio of TARの順番で結果が良い。

6MV X線、35cm X 35cm: 10cm X 10cmの照射野とほぼ同じ傾向を示しているが、CFは10cm X 10cm照射野に比較して小さな値となっている。

15MV X線、10cm X 10cm: Equivalent TARが最適。Batho power lawはpoor。

15MV X線、35cm X 35cm: The ratio of TARが最適。Batho power lawはpoor。

15MV X線、5cm X 5cm: コルク内は全ての方法において大きくずれている。また6MV X線に比較してより強く荷電粒子平衡のlossが見られる。

上記CFのズレについて、コルク内の荷電粒子平衡は以下のように記されています。
平均的なlongitudinal方向の(15MV-X線による)電子の飛程が水において3.0cmであれば、コルクにおいては9.0cmと拡張される。側方向には上記の1/3から1/2程度(3-5cm)散乱する。コルクに照射した場合、照射中心における荷電粒子平衡を担保するには、この側方レンジの2倍(6-10cm)の照射野が最低必要となる。

上記内容をEGSを用いてKERMAと吸収線量に分けて再検証しています。

その結果、下記についてまとめています。
不均質補正に関する3つの方法はKERMAにおいてのみ適切な方法である。高いエネルギーのX線が低い密度の物質に入射した際には荷電粒子平衡のlossが生じ、線量が有意に下がる。

・・・・・

 照射エネルギーや照射野に関連して正確性が変化するアルゴリズムを完全に理解することは容易ではありませんが、状況に合わせたアルゴリズムの選択も重要です。

詳細は論文で。


肺不均質測定:電離箱壁の材質と厚さの関係

2008年07月13日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第24号

Thomas Mauceri, et al.: Effects of ionization chamber construction on dose measurements in a heterogeneity, Med Phys, 14, 1987

 不均質な物質を含むファントムでの測定において、電離箱の壁材質が評価線量に影響を与えるのか否かを検討した論文です。

 肺等における線量を把握する際に不均質な物質を組み合わせ、電離箱をその中に配置して測定することは日常行われています。電離箱壁は比較的薄いものが使用されていますが、測定対象の物質と電離箱壁の材質を合わせるという作業は行われていません。

 しかし、厳密にはAAPM dosimetry protocol(TG21)にも示されているように、壁材質の違いは線量測定の誤差要因になるといえます。

 筆者は肺および水等価ファントム内での測定において、電離箱壁の材質が与える影響を調べています。そのためにひとつは水等価、もうひとつは肺等価な材質から2つの平行平板型電離箱を作成しています(ionization collection volume: 2.5 cm diameter, plate separation: 0.2 cm)。(比較のために、指頭型電離箱(0.1cc)も使用しています)。

 測定対称のエネルギーはCo-60 γ線、6, 10, 20MV X線、照射野は10cm x 10cm。測定深は0.5 cmから13 cmとし、最大測定深から10cm下にSolid Phantomを設置しています。不均一物質を含むファントムは、上から5cmのSolid Phantom、13cmのLung Phantom、そして十分な厚さのSolid Phantomとなっています。

ここでのConversion Factor(CF)算出式は下記のとおりです。
CF(d) = (Q/m)lm / (Q/m)sw X (L/ρ)lm / (L/ρ)sw X (μen/ρ)lm / (μen/ρ)sw
(Q/m): 単位質量あたりの収集電荷
(L/ρ): 平均制限衝突阻止能
(μen/ρ): 質量吸収係数
ここで(L/ρ)lm / (L/ρ)sw X (μen/ρ)lm / (μen/ρ)sw = 0.998±0.005とされていることから、単位質量あたりの収集電荷の比がCFを示すことになります。

 線量計と均一、不均一ファントムでの組み合わせは
1. 均一: 指頭型電離箱, 不均一: 指頭型電離箱
2. 均一: Solid Phantom平行平板電離箱, 不均一: Solid Phantom平行平板電離箱
3. 均一: Lung材質平行平板電離箱, 不均一: Lung材質平行平板電離箱
4. 均一: Solid Phantom平行平板電離箱, 不均一: Lung材質平行平板電離箱
となっています。
4番の測定では異なる線量計が使用されるため、感度の補正が必要となります。本論文ではSolid Phantom 5.5cmから15.5cmの深さにおいて、2cmずつnormalization factorを求めることにより補正しています(各々のエネルギー毎)。

CFを測定した結果により、筆者は以下を示しています。
1. 上記線量計とファントムの組み合わせにおいてCFの違いが生じている。しかし水等価壁であり、かつ壁が薄い(~0.1 g/cm^2)電離箱においては電離箱壁およびファントム材質の違いによる影響は見られなかった。
2. 上記組み合わせ4と2の間には、Co-60 γ線、10MVおよび20MV X線のエネルギーにおいて有意なCFの違いが生じている(6MV X線は測定の不確かさ内)。これは0.4 – g/cm^2の水等価壁を有す電離箱は、Co-60においてγ線が吸収されるためにCFが低くなり、また10MV, 20MV X線においては散乱線の増加によりCFが高くなることで肺物質における測定に影響を及ぼしている。
3. サイズが小さく、水等価かつ薄い壁を有す電離箱においては、肺の不均一のCFを電離値の比から決定することができる。

肺の補正の精度確認は最近の医学物理においても重要な項目のひとつです。これはその際どのような電離箱を選択するのかを考慮する際に役に立つ論文です。

詳細は論文で。


不均質計算Modified Batho Power Lawについて

2008年07月13日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第23号

Simon J. Thomas.: A modified power-law formula for inhomogeneity corrections in beams of higher-energy x rays, Med Phys, (18), 1991

 治療計画における線量計算において肺等の不均質な領域が存在する際には、不均質部分の線量の補正が必要となります。この線量補正ファクター(CF)は単純に以下に示されます。
 CF = (補正をした線量) / (補正されていない線量)
 アルゴリズムの作成および普及には計算結果の正確性も重要ですが、同時に計算時間も考慮されます。ゆえに、普及している方法には以下の方法があります。

1. 実効深アルゴリズム (effective depth algorithm)
2. べき乗アルゴリズム (power-law algorithm)

1の方法としては、
CF = TMR(d’, S) / TMR(d, S) 
d: 線量計算対象の深さ、d’: 実効深、S: 深さdにおける照射野
TMRの代わりにTARを用いることもできます。

2の方法としては、
水→不均質→水 の物質において
不均質においては、
CF = [TAR(d1, S)]^(ρ-1) → TMRは成り立たない。
2回目の水においては、
CF = [TMR(d2, S) / TMR(d2+B, S)]^(1-ρ)
B: 不均質物質の深さ, d1: 不均質内の深さ(水境界面との距離), d2: 不均質物質境界からの距離, S: dにおける照射野, ρ: 不均質物質の電子密度
上記式は伝統的に低いエネルギーに(Co-60のような)おいて使用されてきました。しかし比較的高いエネルギーになると、CFを低く見積る傾向にあります。また、側方荷電粒子平衡が無くなるような領域においては過大評価となる傾向にあります。一方でdがビルドアップの領域に入るようだと上記式の適用は難しくなります。
 Cassel等により提案されたビルドアップの領域を計算に入れるための方法は組織境界における線量とビルドアップよりも深い領域の線量をinterpolateするもので、これにより上記power-law式が使用可能となるものの、測定結果との乖離はまた存在する。

 不均質物資と水境界面においては、同じCFが予想されるために、次式が成り立つ。
[TMR(B, S)]^(ρ-1) = [TMR(0, S) / TMR(B, S)]^(1-ρ)
この式により、TMR(0, S) = 1.0となる。
たとえば8MV X線、10x10cm照射野の場合のビルドアップ領域におけるCFを考えると、深部TMRからextrapolateされたTMR(0, S) = 1.10となり、ρ=0.4であればCFは6%程度となる。この計算結果も測定結果とは乖離が存在する。そこで、本論分では
 TMR(d, S) = TMR (d + db, S)    db: ビルドアップ深
としてCFを計算するという、”Modified Batho-Power-Law”の提案である。dが0の場合、TMR(db, S) は全てのSにおいて1.0となり、深さ0における TMR(0, S) = TMR(db, S) = 1.0も成り立つ。

本論分では、上記実効深アルゴリズム (effective depth algorithm)、べき乗アルゴリズム (power-law algorithm)、そして上記のModified Batho power law法の比較を行っています。
CFを測定した結果により、筆者は以下を示しています。
1. 8MV X線, 10cm x 10cm field → Modified Batho Power Lawが最適
                 → effective depth algorithmは数%過大評価
                 → Batho power lawは数%過小評価
2. 8MV X線, 16cm x 16cm field → Modified Batho Power Lawは1%以内の差
3. 16MV X線, 10cm x 10cm field → 測定されたCFはModified Batho Power Lawとeffective depth algorithmの間に存在する。Modified Batho Power Lawは1.5%以内。
4. 16MV X線, 16cm x 16cm field →effective depth algorithmが最適。Modified Batho Power Lawは1.8%以内。
5. Co-60 γ線, 10cm x 10cm field →effective depth algorithmは3.5%以内の過大評価。Batho Power Lawが最適。Modified Batho Power Lawは最悪点において2%を超えない。
6. 16MV X線, 5cm x 5cm field →全てのアルゴリズムにおいて過大評価。

 上記結果より以下がまとめられます。
1. 測定に使用したエネルギー(Co, 8MV-X線および16MV X線)および照射野においては、Modified Batho Power Lawは2%以内の精度を有す。
2. Standard Batho Power Lawは低いエネルギーで最良の結果を示すが、高エネルギーになるとかなり過小評価する。
3. コバルトのような低エネルギー: Standard Batho Power Law、中エネルギー: Modified Batho Power Law、16MVのような高エネルギー: effective depth algorithmが最良。
4. 最適な計算結果のために、上記3つのアルゴリズムは側方荷電粒子平衡が必須である。ゆえに、これが存在しない小照射野での結果は妥当ではない。

各施設において、どのアルゴリズムをどのような状況下において使用するのかは討論の上に決定すべきであり、また決定は尊重されるべきである。しかしながら、一般論としてどのアルゴリズムがより正確な線量計算に向いているかは各施設において検証すべきであり、TPSの性能を把握しておくことは有用と思われる。

詳細は論文で。

PCでのクラークソン積分計算法の開発

2008年07月08日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第21号

K. D. Steidley, et al.: A Clarkson’s sector integration routine for personnel computers, Med Phys, 21, 1994

クラークソン積分をPC(quick basic)上で行い、irregular照射野における平均TARおよび平均SARを自動で計算するためのソフトを開発したという趣旨の論文です。

MLCにて形作られた照射野において点線量を計算する際にprimaryとsecondaryコンポーネントに分けて計算することは、Co-60 – 18MV X-rayのエネルギー領域においては正確かつ有用であると報告されています。このクラークソンにより提案されたセクター積分法は、平均SARを算出するのに有用な方法であると認識されています。

このソフトウェア開発において、下記の4項目が想定されています。
1. transverse planeにおけるprimary線量はフィールドに依存しない
2. Off-axis changeは考慮しない
3. 表面の凹凸は考慮しない
4. ブロックの透過はないものとする

 クラークソンのセクター積分法により算出される平均SARは
SARnet(d, rc – rb + ra) = SAR(d, rC) – SAR(d, rB) + SAR(d, rA) ・・・(1)
SARnetは全てのセクターにおいて合算されたSARの平均値である。
また、
TARave = TAR(d, 0x0) + SARnet ・・・(2)
の関係式が成り立ち、このTARaveを利用してTARテーブルから等価照射野を算出することもできます。

 この計算ソフトの中では、セクターとMLCの交差点を算出するためにpolygon clipping algorithmが用いられています。このアルゴリズムは2つの3次元の物体が互いに交差する点を決定するためのものですが、ここでは2次元計算に使用されています。

上記polygon clipping algorithmを用いて交差点が算出されれば、一次関数を使用して座標を得ることができます。交差点が判明すれば、交差点が照射野内かどうかを判定し、同時に評価点から交差点までの距離(半径)を求め、各々のSARを算出します。これらのSARを(1)式にて評価するとSARnetが導かれ、同様に(2)式によりTARnetが算出されます。

販売されているプログラムIRREGと比較した結果、差異は一般的なフィールドにおいて0.7%(最悪1.7%)であったと報告しており、この値であれば十分に臨床使用することができそうです。

 この考え方を利用すれば、エクセルベースでも簡易なクラークソンのセクター積分法が作成可能であると思います。

詳細は論文で。