放射線治療と医学物理

放射線治療、特に医学物理に関する個人的記録

不均質計算Modified Batho Power Lawについて

2008年07月13日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第23号

Simon J. Thomas.: A modified power-law formula for inhomogeneity corrections in beams of higher-energy x rays, Med Phys, (18), 1991

 治療計画における線量計算において肺等の不均質な領域が存在する際には、不均質部分の線量の補正が必要となります。この線量補正ファクター(CF)は単純に以下に示されます。
 CF = (補正をした線量) / (補正されていない線量)
 アルゴリズムの作成および普及には計算結果の正確性も重要ですが、同時に計算時間も考慮されます。ゆえに、普及している方法には以下の方法があります。

1. 実効深アルゴリズム (effective depth algorithm)
2. べき乗アルゴリズム (power-law algorithm)

1の方法としては、
CF = TMR(d’, S) / TMR(d, S) 
d: 線量計算対象の深さ、d’: 実効深、S: 深さdにおける照射野
TMRの代わりにTARを用いることもできます。

2の方法としては、
水→不均質→水 の物質において
不均質においては、
CF = [TAR(d1, S)]^(ρ-1) → TMRは成り立たない。
2回目の水においては、
CF = [TMR(d2, S) / TMR(d2+B, S)]^(1-ρ)
B: 不均質物質の深さ, d1: 不均質内の深さ(水境界面との距離), d2: 不均質物質境界からの距離, S: dにおける照射野, ρ: 不均質物質の電子密度
上記式は伝統的に低いエネルギーに(Co-60のような)おいて使用されてきました。しかし比較的高いエネルギーになると、CFを低く見積る傾向にあります。また、側方荷電粒子平衡が無くなるような領域においては過大評価となる傾向にあります。一方でdがビルドアップの領域に入るようだと上記式の適用は難しくなります。
 Cassel等により提案されたビルドアップの領域を計算に入れるための方法は組織境界における線量とビルドアップよりも深い領域の線量をinterpolateするもので、これにより上記power-law式が使用可能となるものの、測定結果との乖離はまた存在する。

 不均質物資と水境界面においては、同じCFが予想されるために、次式が成り立つ。
[TMR(B, S)]^(ρ-1) = [TMR(0, S) / TMR(B, S)]^(1-ρ)
この式により、TMR(0, S) = 1.0となる。
たとえば8MV X線、10x10cm照射野の場合のビルドアップ領域におけるCFを考えると、深部TMRからextrapolateされたTMR(0, S) = 1.10となり、ρ=0.4であればCFは6%程度となる。この計算結果も測定結果とは乖離が存在する。そこで、本論分では
 TMR(d, S) = TMR (d + db, S)    db: ビルドアップ深
としてCFを計算するという、”Modified Batho-Power-Law”の提案である。dが0の場合、TMR(db, S) は全てのSにおいて1.0となり、深さ0における TMR(0, S) = TMR(db, S) = 1.0も成り立つ。

本論分では、上記実効深アルゴリズム (effective depth algorithm)、べき乗アルゴリズム (power-law algorithm)、そして上記のModified Batho power law法の比較を行っています。
CFを測定した結果により、筆者は以下を示しています。
1. 8MV X線, 10cm x 10cm field → Modified Batho Power Lawが最適
                 → effective depth algorithmは数%過大評価
                 → Batho power lawは数%過小評価
2. 8MV X線, 16cm x 16cm field → Modified Batho Power Lawは1%以内の差
3. 16MV X線, 10cm x 10cm field → 測定されたCFはModified Batho Power Lawとeffective depth algorithmの間に存在する。Modified Batho Power Lawは1.5%以内。
4. 16MV X線, 16cm x 16cm field →effective depth algorithmが最適。Modified Batho Power Lawは1.8%以内。
5. Co-60 γ線, 10cm x 10cm field →effective depth algorithmは3.5%以内の過大評価。Batho Power Lawが最適。Modified Batho Power Lawは最悪点において2%を超えない。
6. 16MV X線, 5cm x 5cm field →全てのアルゴリズムにおいて過大評価。

 上記結果より以下がまとめられます。
1. 測定に使用したエネルギー(Co, 8MV-X線および16MV X線)および照射野においては、Modified Batho Power Lawは2%以内の精度を有す。
2. Standard Batho Power Lawは低いエネルギーで最良の結果を示すが、高エネルギーになるとかなり過小評価する。
3. コバルトのような低エネルギー: Standard Batho Power Law、中エネルギー: Modified Batho Power Law、16MVのような高エネルギー: effective depth algorithmが最良。
4. 最適な計算結果のために、上記3つのアルゴリズムは側方荷電粒子平衡が必須である。ゆえに、これが存在しない小照射野での結果は妥当ではない。

各施設において、どのアルゴリズムをどのような状況下において使用するのかは討論の上に決定すべきであり、また決定は尊重されるべきである。しかしながら、一般論としてどのアルゴリズムがより正確な線量計算に向いているかは各施設において検証すべきであり、TPSの性能を把握しておくことは有用と思われる。

詳細は論文で。

ダイオード線量計を用いたIG-IMRTファントムの開発

2008年07月09日 | QA for IMRT
放射線治療と医学物理 第22号

Daniel Letourneau, et al.: Integral test phantom for dosimetric quality assurance of image guided and intensity modulated stereotactic radiotherapy, Med Phys, 34, 2007

CBCTが可能なLINACにおいて画像誘導システム+IMRTのQAを行うために、画像誘導パフォーマンスおよび線量評価のファントムを開発したという趣旨の論文です。

CBCTを用いた画像誘導には下記の不確かさが伴います。
1. image quality
2. 治療計画用CTとCBCTの重ね合わせの精度
3. 治療装置およびkVCTのアイソセンターの校正精度
4. カウチの機械精度

このファントムはCatPhanに取り付けられるように加工されており、10cm直径のディスクに11個のダイオード(nタイプ)を埋め込んでいます。この11個のダイオードの短期間のレスポンス再現性は6MV 58cGy – 95cGyの間において、0.1%から0.3%、1ヶ月を超えるレスポンス再現性は0.7%から1%、長期間での再現性は1.1%であると報告されています(LINAC装置の変動も含む)。また、1MUから500MUでの直線性も良好であり、360度の方向依存性も±1%以内であるとされています。

IMRT planでの検討において、MLC errorが無い状態では97.1%±1.5%(7ビーム×11ダイオード、5%以下の閾値を採用して68測定部位)が3%-2mmのcriteriaを通過、さらに厳しい3%-1mmにおいては82.4%±1.5%と少々低減したと報告しています。ここでのfail pointはおおむね半影部分に存在していたとも説明しています。

1mmのMLCエラーを起こした場合、3%-1mmのcriteriaにおいて、通過率は62.3%(-1mm MLC error)、59.8%(1mm error)と激減し、統計的(t-test, p<0.01)にも顕著であると報告しています。
しかし、筆者も認めているようにこのファントムは少々小さめであり、一般的なIMRT planには適用できないため、次のファントムの構成が始まっていると示されています。ここでは水等価のdiodeケーブルを使用して、100個のdiodeを使用することが明記されていますが、詳細は更なる研究が待たれます。

IMRTの線量分布におけるGamma criteriaはよく3%-3mmが使用されます。しかし、画像誘導装置の性能が1-2mmということを考えると誘導装置が正確に働いているとしてもさらにcriteriaの調整が必要そうです。本来、IMRTに画像誘導装置を使用する場合、本論分のように画像誘導装置およびIMRT線量検証は同時になされるべきかもしれません。

詳細は論文で。



PCでのクラークソン積分計算法の開発

2008年07月08日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第21号

K. D. Steidley, et al.: A Clarkson’s sector integration routine for personnel computers, Med Phys, 21, 1994

クラークソン積分をPC(quick basic)上で行い、irregular照射野における平均TARおよび平均SARを自動で計算するためのソフトを開発したという趣旨の論文です。

MLCにて形作られた照射野において点線量を計算する際にprimaryとsecondaryコンポーネントに分けて計算することは、Co-60 – 18MV X-rayのエネルギー領域においては正確かつ有用であると報告されています。このクラークソンにより提案されたセクター積分法は、平均SARを算出するのに有用な方法であると認識されています。

このソフトウェア開発において、下記の4項目が想定されています。
1. transverse planeにおけるprimary線量はフィールドに依存しない
2. Off-axis changeは考慮しない
3. 表面の凹凸は考慮しない
4. ブロックの透過はないものとする

 クラークソンのセクター積分法により算出される平均SARは
SARnet(d, rc – rb + ra) = SAR(d, rC) – SAR(d, rB) + SAR(d, rA) ・・・(1)
SARnetは全てのセクターにおいて合算されたSARの平均値である。
また、
TARave = TAR(d, 0x0) + SARnet ・・・(2)
の関係式が成り立ち、このTARaveを利用してTARテーブルから等価照射野を算出することもできます。

 この計算ソフトの中では、セクターとMLCの交差点を算出するためにpolygon clipping algorithmが用いられています。このアルゴリズムは2つの3次元の物体が互いに交差する点を決定するためのものですが、ここでは2次元計算に使用されています。

上記polygon clipping algorithmを用いて交差点が算出されれば、一次関数を使用して座標を得ることができます。交差点が判明すれば、交差点が照射野内かどうかを判定し、同時に評価点から交差点までの距離(半径)を求め、各々のSARを算出します。これらのSARを(1)式にて評価するとSARnetが導かれ、同様に(2)式によりTARnetが算出されます。

販売されているプログラムIRREGと比較した結果、差異は一般的なフィールドにおいて0.7%(最悪1.7%)であったと報告しており、この値であれば十分に臨床使用することができそうです。

 この考え方を利用すれば、エクセルベースでも簡易なクラークソンのセクター積分法が作成可能であると思います。

詳細は論文で。











乳房放射線照射:6週間は不要?

2008年07月07日 | Weblog
乳房温存療法後(BCT)5-6週間の放射線照射は不要?


乳房温存療法後には接線照射が用いられています。
これを行うことにより、再発を4分の1程度に低下させることができることが証明されています。

しかし、これには通常1日2Gy×25回のX線照射および必要な場合には追加の照射で2Gy×5回程度が考慮されます。

ところが最近スペインのマドリードで行われた学会において、術中照射1回のみで同様の生存率であることが報告されました。(eight-year randomized trial)

患者の方からすれば、25回病院に通うのと手術中に全て終わってしまうのでは当然1回の方が嬉しいですね。

発表者は治療時間、コスト、治療効果、美容等の面において、従来の放射線治療よりも優れていると報告しているそうですが、さらなる医療従事者の研究が必要です。

国内でこの術中電子線照射装置Mobetronを使用するには、法的な手続きを含め少々煩雑ですが、もう少し導入する施設が増えて価格が下がり、かつ診療報酬による優遇がなされれば、大きな「ブレストセンター」では導入を始めるかもしれません。

もう少し状況を見守る必要がありそうです。

大照射野におけるファントムサイズと散乱の関係

2008年07月01日 | TBI
第20号

E.B. Podgorsak, et al.: The influence of phantom size on output, peak scatter factor, and percentage depth dose in large-field photon irradiation, Med Phys, 12, 1985

TBIの基礎データを測定する際に巨大な水ファントムがあればよいのですが、実際にはそれを用意することは困難であり、多くの場では日常使用する大きさのファントムを使用して基礎データ取得が行われます(large field / small phantom)。しかし、このデータはAAPM report No. 17でも記載されているように、十分な散乱を加味したものではなく、full scatterを反映した水ファントムのデータに変換する必要があります。

本論分ではコバルトによるγ線、6MV-X線、10MV-X線の3種類の線質における出力係数およびPDDを利用して、日常使用するファントムから無限大の大きさのファントムへの換算係数を与えてくれます。

TBI測定環境における後方散乱係数の増減は重要なファクターのひとつですが、一般的にビームエネルギーの増加に伴い後方散乱の効果は少なくなります。本論分では拡張SSD(およそ4m)におけるデータとして、壁から線量計までの距離を70cmとしたと記載されています。

実際のPDD測定における換算係数の例として
照射野全開、コリメータ45度の10MV-X線、ファントムサイズ 30 x 30 cm2にてPDDを測定した際、50 x 50 cm2のファントム時の10 cmおよび20 cm深における値を推定する。
① 出力係数比: 0.997 / 0.985 =1.012
② PDD比: 84.5 / 83.8 = 1.008 (10 cm), 63.0 / 61.3 = 1.028 (20 cm)
① x ②により10cm深における換算値は1.021、20cmにおける換算値は1.040となる。

 同様に、照射野全開、コリメータ45度の10MV-X線、ファントムサイズ30 x 30cm2にてPDDを測定した際、75 x 75 cm2のファントム時の10 cmおよび20 cm深における値を推定する。
① 出力係数比: 1.000 / 0.985 =1.015
② PDD比: 84.6 / 83.8 = 1.010 (10 cm), 63.1 / 61.3 = 1.029 (20 cm)
① x ②により10cm深における換算値は1.025、20cmにおける換算値は1.045となる。

10MV-X線においては、75 x 75 cm2のファントムと無限大の大きさを持つファントムでは出力係数およびPDD値は同一であることが示されている。ゆえに、本データを使用すれば比較的大きなファントムを用意することなく測定が簡易的に行えると思われる。

詳細は論文で。


AAPMによるTBIに関する勧告

2008年07月01日 | TBI
第19号

American Association of Physicists in Medicine. The physical aspects of total and half body photon irradiation. AAPM report No. 17. Colchester, VT: American Institute of Physics, c/o AIDC, 1986.

1986年に発刊されたTBIにおける諸問題解決のためのAAPMの報告書です。
ここでは照射方法、基本的なファントムでの測定、患者での測定、および勧告が示されています。最後に勧告されている内容は非常に吟味されたものですが、実行はかなり難しい面が多く施設内での十分な議論が求められます。

1. 照射方法の選択
 もっとも重要な決定項目は、①使用するエネルギー、②治療距離、③体位(AP、LAT、またはその複合)、④線量率である。
使用するエネルギー選択の際の一助として、より高いエネルギーがより線量分布の均一化に役立ち、体位がLATの場合は特に高エネルギーが線量分布の向上に役立つ。ここではビルドアップは考慮されていないが、ビームスポイラーや電子フィルタ等のcompensatorにより線量分布の向上が可能である。また、Pulmonary toxicityと線量率に因果関係があることは証明されており、注意が必要である。

2. 基本的なファントムでの測定
 測定対象は水とし、最小サイズは30 x 30 x 30cm3とする。このような小さなファントムは散乱の欠如のために補正が必要。一般的な線量測定は次の3ステップからなる。
① 大照射野、ファントム(通常使用するような大きさ)を用いてビームの吸収線量への校正を行う。
② 全ビームが十分にカバーできるようなファントムによって得られた線量、かつ十分な散乱が得られる深いファントムでの線量に①の線量を変換する。
③ 個々の患者において、患者の厚み等を加味して補正を行う。
すべての照射野の外側に5cmのマージン、測定器配置の最大深より下に10cmのファントムを考慮すると、およそ200 x 50 x 40 cm3(400kg)となり、実際にファントムを用意することは難しい。ゆえに②を測定しようとすると、①に換算係数を用いて②を算出することとなる。
 測定器はエネルギー依存性の少ない検出器、基本的にトレーサブルな電離箱を用いる。照射野が大きい場合、照射されるケーブルも長くなり、放射線誘発電流も多くなる。この割合は、1ccの電離箱において1mのケーブルが照射された場合に、電離電流の1-2%に相当する。これを考慮するためには、照射されるケーブルを最小とすること、ケーブル内の電子平衡を十分担保するためにケーブルをビルドアップ材質でカバーすること、なるべく小容積電離箱は使用しないことがあげられる。
 線量の校正においては、
① 距離および照射野サイズは大照射野に合致させる。
② 大照射野における線量計のfactorを使用する。
③ 最小でも30 x 30 x 30cm3の水ファントムを使用する。
④ 測定値は十分な散乱状況下の値に補正する。
⑤ 遮蔽のためのトレイやcompensator、ビームスポイラーを日常使用するのであればこれらを装着して線量校正を行うべきである。
 大照射野において距離の逆二乗テストは実施すべきであり、計算値からの乖離が2%を超えるようであれば線量の校正は多くの距離で行うべきである。
 
3. In vivo測定
 In vivoでの測定はTLD等を用いておこなうべきである。その際、十分なビルドアップ材質を確保することが重要である。

 一方でFaiz M. Khanが書籍The Physics of Radiation Therapyの中でTBIの計算式を示している。
D/MU = k x TMR(d, re) x Sc(rc) x Sp(re) x (f/f’)2 x OAR(d) x TF
D: dose in cGy, k: 1cGy/MU(基準点)
TMR(d, re): 深さd, 等価照射野サイズ(re)におけるTMR
Sc(rc): アイソセンターに投影された照射野サイズにおけるコリメータ散乱係数
Sp(re): 等価照射野サイズにおけるファントム散乱係数

もちろん、アイソセンターにて取得されたTMRのデータや距離(f)の逆二乗が利用可能かどうかは検証する必要があるが、ここでは誤差が2%以内であればTBIで用いられるかもしれないと記載している。

 測定を行う際の参考としたい。

詳細は論文で。

放射線治療における呼吸移動管理の勧告(AAPM TG76)

2008年06月21日 | Stereotactic Body Radiosurgery
第18号

Paul J Keall, et al.: The management of respiratory motion in radiation oncology report of AAPM Task Group 76, Med Phys, 33, 2006

呼吸性移動による対処方法をまとめたAAPMの報告です。
ここでは、呼吸性移動の問題点、一般的な解剖や移動度合いの把握に関して簡潔に記載されており、後半では呼吸性移動に対する数種類の対処方法を述べている。
最終的には臨床における勧告、治療計画における勧告、スタッフ(特に医学物理士)の仕事配分に関する勧告、QA勧告、そして将来の研究課題を提示している。

呼吸を管理する方法として詳細されているのは下記の5種類である。
1. Motion encompassing methods: 移動範囲包容法
2. Respiratory gating techniques: 呼吸ゲート法
3. Breath hold techniques: 息止め法
4. Forced shallow breathing techniques: 強制浅呼吸法
5. Respiration synchronized techniques: 呼吸同期法
(訳:国枝悦夫, 他.: AAPM Task Group 76報告を中心に, 臨床放射線, 53, 2008を参照)

呼吸性移動に関して、観察および治療前に想定可能な呼吸性移動の一般的なパターンはない。胸壁や横隔膜等による腫瘍の位置の推測は(治療中に腫瘍を直接観察することなく、ビームゲートやトラッキングとして)腫瘍位置のシグナルとして使用されるが、そこには腫瘍や他の器官との間に位置不一致や、位相の不確かさが存在する。圧巻はFig. 4に示されたtumor motionとmarker motionのphase shiftの例である。ゆえに、治療前、治療中の患者毎の評価が不可欠であり、それ自身が重要なQAである。

 上記に示した1-5の方法について、各々のQAの考え方がレポートには記載されているが一般的なQAとして、
1. 頻度:
呼吸性移動管理に関するCT、透視装置、LINACのハードウェアおよびソフトウェアを変更した際にはQAを実施する。さらに装置により慣れるまでは、医学物理士の判断に基づき高頻度のQAが求められる。
2. 患者トレーニング:
外部モニターにより得られた情報から腫瘍の位置をより正確かつ再現性よく得るためには上記1-5の方法に共通して、呼吸の練習が重要である。
3. シミュレーション
  透視、シネCTを用いて患者を観察することにより、呼吸移動の程度、腫瘍位置と呼吸シグナルとの関係を得る必要がある。息止め法においては数回の息止めにおいて、再現性よく腫瘍位置が安定していることを検証する必要がある。
4. 治療:
  治療において、可能であれば1回の息止めでひとつの治療フィールドの照射が終了することが望ましいが、長すぎる息止めは患者負担につながるため、個々のビームに対するブレイクポイントの作成が重要である。
5. 腫瘍位置の安定性を確認するための写真撮影
治療中の腫瘍もしくは代わりとなる器官の頻繁な写真撮影は腫瘍位置の再現性確保のために不可欠な行為である。もし、撮影した写真によりシミュレーションと異なる状況が見つかった場合には、測定結果および治療は医学物理士と放射線腫瘍医により再評価が必要となる。

 移動範囲包容法においてCTの撮影方法にも重要な提言がなされているほか、IMRTに関しても記述が見られるが、呼吸器管理が適切にこなせるのであれば、肺においても応用が可能とされている。

 勧告では呼吸移動により5mm以上の腫瘍移動が見られる場合、もしくは重要な正常組織への照射量の低減が呼吸管理により達成できる場合には、呼吸管理を考慮すべきだとされている。もちろん、治療の目標、呼吸管理の困難度、患者の状態にも大きく依存する。

 Fig. 6のclinical processのチャートおよびすべての呼吸管理に関するQAを考慮し、より保証された治療となるよう心がける必要がある。また、204もの参考文献が引用されており、個々の報告について詳細に調べる際の手助けとなる。

詳細は論文で。


データベース保存ミスによる過剰照射

2008年06月09日 | Adverse event
第17号

U.S. Food and Drug Administration.: Adverse Event Report: Varian Image Systems Vision Radiological Image Processing System, 2005

 13Gy/Fr, 3Fr、総線量39Gyを頭頸部に誤って照射したという報告です。MLCの使用を意図したものでありながら、OPEN fieldで照射してしまったという、いささか信じられない内容です。物理士のQAが不足していたことに加え、2人のセラピストが治療コンソールに示されるOPEN fieldに気がつかなかったということから事故は発生した。
 照射された患者はのどの痛みや粘膜炎を含めた過剰照射の症状を訴えたが、3週間後症状は和らいだと説明している。

 MLCの使用を意図したにもかかわらず、OPEN fieldとなってしまった原因はMLCのコントロールポイントがデータベースに適切に保存されなかったことにある。保存過程で正常動作ではないプログラムの切り離しがあり、このソフトは保存が適切になされていない旨表示していた。これに気がつかなかったユーザのミスだと報告は締めくくっている。

詳細はFDA報告で。 

出力係数入力ミスによる事故

2008年06月09日 | Adverse event
第16号

U.S. Food and Drug Administration.: Adverse Event Report: BrainLAB Novalis shaped beam surgery system, 2004

 ノバリスの出力係数入力ミスによるイベント報告です。物理士が出力係数の測定を行った際に施設が保有していた出力係数よりも大きな値が示された。
 これによると、基準点において1.0cGy/MU (1Gy/100MU)の照射の調節を行った場合、実際の出力は1.5cGy/MU (1.5Gy/100MU)となっており、実に50%の過剰照射となっていたと想像される。
 
詳細はFDA報告で。 

ダイナミックMLCとスタティックMLC選択ミス

2008年06月09日 | Adverse event
第15号

U.S. Food and Drug Administration.: Adverse Event Report: Varian Medical Systems Acuity System, Simulation, Radiotherapy, 2006

 ダイナミックMLCによるプランを作成したが、不注意によりStaticプランに置き換えられてしまったという内容。この結果として、28分割中21回不適切に治療がなされた。患者に照射された線量は計画に比べておよそ8%多いと計算されたが、臨床上は問題ないと判断された。しかし、残りの7分割で超過線量を調節するのは困難であると報告されている。

 製造業者によると、病院スタッフにより2つのとても似通った名前のプランが作成され、ひとつはダイナミックMLCタイプ、もうひとつはそうではなかった。セラピストが治療のためにデータを読み出した際に、誤ったプランを選択したために発生したという内容である。

 いずれにしても、照射プランを保証することは重要であり、2つのデータが照射可能であったことにも問題があると思われる。

詳細はFDA報告で。