放射線治療と医学物理

放射線治療、特に医学物理に関する個人的記録

Arc中のMLC動作不良

2008年06月09日 | Adverse event
第14号

U.S. Food and Drug Administration.: Adverse Event Report: BrainLAB M3 (Micro-multileaf collimator) Radiotherapy Equipment, 2006

 2006年1月5日に報告された定位放射線治療装置に装着するmicro-multileaf collimator M3のコリメータ情報伝達ミスの報告です。Conformal arc治療中にガントリー回転に伴うMLCの移動が見られず、最後の0.1度までstart時の形状を保持していたというもの。
 結果的には計画通りには照射されなかったものの、病院内部の調査によると照射された線量は処方変動内であり、臨床上の範囲内であったと報告しています。
 本インシデントは4DワークステーションとMLCコントローラ間のソフトウェアの不備が原因と特定されたようです。

 治療前にQAを実施し、機器が正常動作することを確認することの重要性が最近特に言われていますが、本内容もしっかりとしたQAがなされていれば防げたものだと思われます。

詳細はFDA報告で。 

IMRT MatriXXの臨床線量評価

2008年06月05日 | QA for IMRT
第13号

J Herzen, et al.: Dosimetric evaluation of a 2D pixel ionization chamber for implementation in clinical routine, Phys. Med Biol, 52, 2007

臨床現場でQAするときに使用する2次元電離箱アレイ(IMRT MatriXX)の線量評価です。一般的に治療計画によって計算されたIMRTの3次元線量分布を線量測定として評価、検証することは不可欠であり、主にこれらの行為は治療計画によって計算される2次元線量分布と測定データを比較することによって行われます。従来から行われてきたフィルムは時間が非常にかかるため、これらの2D電離箱は大きな期待が寄せられています。

トリノ大学によってデザインされたIMRT MatriXXは、1020個の平行平板型電離箱から成っており、高さ0.55cm, 直径0.4cm、線量計中央間距離0.76cm、有感体積0.07ccmで最大24cm x 24cmのfieldを測定することができます。また、2つのカウンターが設置されており、dead timeなしで測定することができます。最小読取時間は20msであり、ダイナミック照射の検証にも使用できると解説されています。

実効測定点の測定には、PDDが用いられています。Solid Phantomおよび0.6cc電離箱を使用してPDDを取得し、さらにMatriXXを用いて同様の測定を行うことによって実効測定点を得ており、3.6mm±0.1mmという値が導かれています。

線量、エネルギー依存性の確認として、10cm x 10cmのfieldかつ4MV, 6MV, 15MVのエネルギーにて実験が行われており、全てのエネルギーにおいて線量の直線性、エネルギー非依存性が確認されています。

ウォームアップ時間調査として、100MU, 10cm x 10cm field size, 6MV X線を用いて20回照射し、線量計の振る舞いが調査されています(製造メーカからは電源ONしてから15分以降に照射することが推奨されています)。電源をOFFしてしまえば再度照射してウォームアップしなくてはならないが、電源を切らなければ測定値は安定していると報告されています。ここからMatriXXが安定化するためには10Gy程度のpre-irradiationが必要であろうと記載されています。

MatirXX内電離箱1つの側方レスポンス関数および空間分解能
タングステンで作成された細いスリット(1mm)を利用してLSF(line-spread function)を取得し、側方レスポンスを評価しています。ここではdiagonal方向、cross plane方向各々で値がほとんど変わらないことが示されています。

XiOにて計算された線量分布とMatriXX測定値との比較
上側に5cm, 下側に10cmのsolid waterにてMatriXXを挟み込み、CTを撮影し、そのCTデータに基づき、20 x 20, 15 x 15, 10 x 10, 5 x 5, 4 x 4, 3 x 3, 2 x 2, 1 x 1cm2、各々のフィールドで50MU照射するプランを作成し、ピラミッド型の線量分布で評価しています。測定値および補正された計算プロファイルは最大偏差1%であり非常に良い一致を示しています。
また、IMRTの7つのフィールドでも検証されていますが、ここではガントリー角度0度にて行われています。補正されたプロファイルにおいて、最大の偏差は傾斜のきつい領域において8.4%、傾斜の少ない領域において4.5%であったと報告されています(Gamma indexでの評価はなし)。

 本報告には含まれていないものの、呼吸同期照射の際にはスタートアップの性能評価が不可欠であり、このIMRT MatriXXが有効である可能性が示されています。

MatriXXのような2D 検出器はフィルムでの検証作業の一部に置き換わりつつあります。線量計自体が大きいため自由性は少ないものの、時間浪費の観点から非常に魅力的な線量計であり今後の普及が期待されます。

詳細は論文で。




定位放射線治療用コリメータの設定位置検証

2008年06月05日 | QA for Stereotactic Radiosurgery
第12号

T Falco, et al.: Setup verification in linac-based radiosurgery, Med Phys, 26(9), 1999

定位放射線治療用円形コリメータを装着したLINACにおいて、a-Seおよびフィルムを用いて天井レーザに対するコリメータを補正する方法。また補正後に回転儀(gyroscopic device)を用いてアイソセンターからのガントリーおよびカウチ回転軸の変位を決定する方法の紹介です。

Collimator alignment 
電離放射線および赤色レーザに感度のあるa-Seプレートもしくはフィルムをカウチ上(アイソセンター)に配置し、定位放射線治療用円形コリメータを装着して照射。その後ガントリーを回転させ、天井レーザを照射する。その解析結果(変位)を利用して、コリメータを調整する。調整にはコリメータに取り付けられたマイクロメータにて行っている。
Alignmentの変位をみるアルゴリズムは
① レーザの交差点を計算する。
② 円形ビームにて照射された領域における中央を計算する。
③ 上記①と②の変位量を計算する。
となっている。

Gyroscopic deviceを用いたガントリーテスト
 Gyroscopic device(ガントリーおよびカウチがいかなる角度となっても、アイソセンターにおいて、ビームに垂直となるようにフィルムが配置できる)を用いて、7つのガントリー角度(30, 90, 135, 180, 225, 270, 330度:カウチ0度)時の円形コリメータ中央とレーザ交差点との変位を調べている。その際90度および270度のみ壁付レーザにて行い、他のレーザ焼付は天井レーザにて行い、その変位量を算出している。

Couch rotationテスト
 カウチ上に水平に検出器を置き、カウチ回転軸に伴う安定性を見る試験で、カウチ角度-80度、-15度、0度、35度、60度時に天井レーザにて焼き付ける。クロスヘアの交差点のブレがカウチ回転軸のシフトを示す。

LINACアイソセンター直径
 Gyroscopic deviceにフィルムを装着し、実際に使用する放射線照射および、天井、壁レーザにて焼付けされた交差点との変位量を見ている。また、フィルムの黒化領域のFWHMを測定することによって、ガントリーおよびカウチのぐらつきがあることを証明している。

a-Seおよびフィルムはレーザの位置と放射線フィールドのズレを判定するのに有用であると報告しているが、やはり簡便さからCR(IP)が便利かもしれない。

詳細は論文で。

OBI systemの包括的QA

2008年06月03日 | QA for IGRT
第11号

Sua Yoo, et al.: A quality assurance program for the on-board imager, Med Phys, 33(11), 2006

Varian社から発売されているOBI systemのQuality assurance programです。正直かなり良く考えられた方法で、かつ簡単に施行することができます。また、各々のテストに許容値およびテストの頻度が記載されており、OBI systemのQA入門編といえそうです。

<Safety and functionality QA>
1. Doorインターロック
2. 警告表示
3. 警告音
4. 衝突検出およびインターロック
5. ペンダントの動作チェック
6. X線管のウォーミングアップ
7. 機能チェック

<Geometrical accuracy QA>
 Geometrical accuracy QAはソフトおよびハードウェアの安定性を見るために行います。
1. OBIアプリケーションにて得られるアイソセンターとMVアイソセンターの正確性
2. 2D2D match and couch シフトの正確性
3. SAD, SIDを変更した際の正確性
4. アーム移動における正確性
5. ガントリー回転に伴うOBIアイソセンターの正確性

<Image quality QA>
1. 撮影におけるimage quality (コントラスト分解能、空間分解能)
2. CBCT画像評価
2-1 HUの直線性
2-2 低コントラスト分解能試験
2-3 高コントラスト分解能試験
2-4 HUの均一性
2-5 スライス内空間の直線性
2-6 スライス厚

 筆者はこれらのテストの結果から、OBI systemは機械的に信頼性があり、また安定していると報告しています。上記QAの方法、頻度、推奨許容値は個々の施設に依存するものの、このガイドラインは重要であると締めています。

OBI systemを用いた位置あわせは、照射したい領域と実際の位置ずれが生じている場合に、その位置ずれを少なくするために使用されます。正確に動作しないと、照射したい場所ではなく、正常組織やリスク臓器が含まれる領域にカウチが誘導されることもありえます。やはりIGRTのQAは他のQAと同様重要な項目です。

詳細は論文を。






ウェブカメラを用いたアイソセンターチェック

2008年06月03日 | QA for Stereotactic Radiosurgery
第10号

M. K. Woo, A personal-computer-based method to obtain “star-shots” of mechanical and optical isocenters for gantry rotation of linear accelerators, Med Phys, 29(12), 2002

ウェブカメラを用いてメカニカルポインター(ブロックトレイ部分に取り付ける)、ブロックトレイの中央およびカウンターウェイト付近に取り付けたアルミニウム製のアームに通したナイロン製の紐、古典的なスターショットの比較です。

①メカニカルポインターをウェブカメラで撮像して、スケーリングをポインター直径で行います。種々のガントリー角度に対する取得画像から、アイソセンターの変位を求めています。

②アイセンターを通過するように、ブロックトレイの中央およびカウンターウェイト付近に取り付けたアルミニウム製のアームに通したナイロン製の紐を同様の手技でウェブカメラにて撮影し、同様にアイソセンターの変位を求めています。

③古典的なスターショットを撮影し、①、②、③をPhotoshop version 6にて重ね合わせて評価しています。

 筆者は理想のアイソセンターと放射線の軌跡としてのアイソセンターの一致は非常に重要であり、またテストが容易かつ実際的であることから、この重ね合わせによる方法は有益であると述べています。

詳細は論文で。

遺伝子検査によって肺癌の進展を識別できる可能性

2008年05月30日 | Weblog
非常に興味深い報道が出ていました。

遺伝子検査によって肺癌の進展を識別できる可能性

トロント大学の研究者達が肺癌の患者において、癌が進展拡大するかどうか、遺伝子検査により診断できると米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表するようです。

このツールを利用すれば、多くの低侵襲性の早期肺癌患者において化学療法を受けなくてすみ、副作用に苦しまないで済むかもしれないとのこと。

このような動きは大歓迎です。
早く、かつ問題なく臨床に取り入れられれば良いですね。


Split-field testを用いたQA

2008年05月30日 | QA for Stereotactic Radiosurgery
第9号
Eric C Ford, et al.: A block design for split-fields tests of accelerator alignment, Med Phys, 31(8), 2004

AAPM TG 40ではjaw symmetry checkについて1月に1回、mechanical isocenter checkについて1年に1回行うよう勧告しています。

Split-field testsではjawの非対称性、コリメータ回転軸に伴うビームスポットの変位、コリメータ回転軸に伴うガントリー回転軸の変位、ガントリーのたわみが判定できます。

本報告はLutzらが開発したdouble exposure法のmodified versionであり、ブロックの形状に工夫をしています。

1. Collimator rotation test
本テストはX、Y JAWの対称性を見るテストであり、他の起こりうる変位は無視することができる。ここではcollimator 90度および270度での10cm×10cmの照射で評価している。Fig 5に参考写真が掲載されているが、変位があることが明確に判断できる。

2. Gantry rotation test
本テストではJAWの非対称性、ビーム焦点の変位、回転軸の変位、ガントリーのたわみを判定することができる。ここではガントリー角度0度および180度を用いて評価している。ここで重要なことは、X jaw edgeの変位はcollimator rotationの変位、collimator rotationに対する焦点の変位、JAWの非対称性が原因で起こるが、Y jaw edgeの変位はガントリーのたわみのみに依存していることである。しかし、collimator rotationの変位とcollimator rotationに対する焦点の変位等は同時に起こりうるため、本テストのみでは変位が見られた場合の原因特定は困難である。

 本報告は簡便に行うことができるため、参考になると思われる。
詳細は論文を。

EPIDを用いたアイソセンターの確認

2008年05月29日 | QA for Stereotactic Radiosurgery
Lei Dong, et Al: Verification of radiosurgery target point alignment with an electronic portal imaging device (EPID), Med Phys, 24(2), 1997

 アイソセンターのズレを検出するための方法としてW Lutzのタングステンボールを用いた方法が有名ですが、フィルムを使用することなくEPIDを用いて行い、かつ自動で解析するソフトを開発したという趣旨の報告です。

 驚くべきことに、筆者は本テストにおいて0.3mmのアイソセンターのズレが生じればlateral, longitudinal方向に補正を行い、このガントリー角度、カウチ角度および調整量を記録しておき、実際の治療において同様の角度で補正を行うと記載しています。一方でタングステンボールの中心と、照射野中心のずれが0.5mm以内であることを確認するためのテストであると記載しており、この方法はBrainLAB推奨のW.LutzテストのCriteriaと同じです。

 利点としては時間節約でしょうか。欠点としては筆者も問題点としてあげているように、EPIDを使用すると確認できない角度が存在します。たとえば、ガントリー角度90度、カウチ角度90度等ですが、この角度はRadiosurgeryでは有用と考えられています。また、EPIDを用いた際の精度は0.2mm程度であると報告していますが、EPIDがある場合とない場合でのガントリーのsagに関する考察はありません。

詳細は論文確認。

LINACアイソセンターサイズの決定方法(star-shot)

2008年05月29日 | QA for Stereotactic Radiosurgery
A Gonzalez, et al.: A procedure to determine the radiation isocenter size in a linear accelerator, Med Phys, 31(6), 2004

LINACを用いた放射線治療ではアイソセンターのズレを定期的に確認することは必須項目です。方法論は多々あると思いますが、今回はstar-shotを使用した方法の紹介です。

理想のアイソセンターとは、ガントリー回転軸、コリメータ回転軸、カウチ回転軸の交差点であるといわれており、筆者は5枚のフィルムを用いて、アイソセンターポジション、たわみ解析を試みています。
① フィルムAxial配置+Gantry 0, 90, 225, 315deg
② フィルムCoronal配置+Gantry 0, 180deg, Collimator 0, 90deg (vertically up) , Collimator 10, 350deg (Vertically down)
③ フィルムCoronal配置+Couch 0, 45, 90, 315deg
④ フィルムAxial配置にてレーザをマークし(Couch 0deg)、Couch , Gantry 90deg + collimator 0, 90deg、およびCouch, Gantry 270deg + collimator 80, 100deg
⑤ フィルムCoronal配置 + Collimator 0, 90, 225, 315deg

レーザとの交差点までの距離として、x方向に-0.6±0.2mm, y方向に-0.1±0.3mm, z方向に-0.4±0.3mm、アイソセンターの大きさとして1.0mm±0.2mmという結果であった(不確かさは2 standard deviations)。

少々アイソセンターのたわみが大きい気がするが、3次元的な解析は試みたことがないのでこの程度なのかもしれない。

詳細は論文確認。

体幹部(主に肺)の定位放射線治療

2008年05月27日 | Stereotactic Body Radiosurgery
大西洋, 体幹部(主に肺)の定位放射線治療, 日本放射線技術学会誌, 62(5), 2006

体幹部定位放射線治療の実際について、詳細かつわかりやすく記された報告です。

ここで、高精度外部放射線治療研究会にて推奨されている照射方法の記載があります。
1. 4-6MV X-ray
2. 非同一平面上の三次元照射
3. 10門以上の固定多門(1日5門以上)
      または5アーク以上(1日1アーク以上)の運動照射
4. 原体照射が望ましい(必須ではない)
5. 1回線量は6-12Gy
6. 総線量: JCOGでのT1N0M0非小細胞肺癌における治験: 12Gy×4

 また、特に参考となるのは線量計算アルゴリズムの違いによる計算線量の差でしょうか。
Clarkson, Convolution, Superpositionと最新のアルゴリズムになるに従ってより肺補正が忠実に行われるようになった結果、同一のMUでは最新のアルゴリズムほど少ない計算線量(cGy)になっています。また、過去に報告された線量と結果はClarksonのような旧式のアルゴリズムで計算されたもので評価されています。線量分布の精度は上位のアルゴリズムの方が高いため、各施設で所有している治療計画装置に搭載された最上位の計算アルゴリズムも併用して結果を残してことを推奨しています。

 効果判定は、1回のCT所見では放射線肺炎との鑑別が難しいが、6ヶ月以上増大する腫瘤様陰影は再発腫瘍である可能性が高いと判定するようです。

 優れた施設・スタッフが行えば、定位照射は手術に比べ、低侵襲で安全な治療といわれています。普及していくか、廃れていくか、今後の動向に注目されますね。