放射線治療と医学物理

放射線治療、特に医学物理に関する個人的記録

AAAの検証(TG53勧告を用いて)

2008年09月26日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第42号

Karen Breitman, et al.: Experimental validation of the Eclipse AAA algorithm, Am Coll Med Phys, 8, 2007

Varian Medical Systemsから販売されているEclipseに搭載されているアルゴリズムAAAの包括的な評価です。ここでは工場にてコミッショニングされたゴールデンデータを用いて、測定による検証を2施設で行っています。水における基本的なデータ測定からランドファントムによる不均質補正の効果まで幅広く行っており、AAAに限らずTPSの検証の際には役立つ論文です。ここではCriteriaの設定にはAAPM TG53のレポートを使用しています。

装置: Varian Clinac 21 EX. 6MV / 15MV. 120対MLC

検討している内容は以下の3点です。
1. 比較測定
2. 絶対測定
3. ランドファントムを用いた測定

比較測定ではOpen field、拡張SSD下、矩形照射、ウェッジ使用下、コリメータ回転下、マントル照射、斜入、MLC使用下、そして種々の照射野に対してクロスライン、インライン方向にプロファイルを測定しています。(CC13)

絶対測定ではCC13を用いてTotal scatter factorを測定し、AAAとの比較を行っています。
ランドファントムを用いた検討では、ピンポイントチェンバーおよびガラス線量計を使用してファントム内の測定を行っています。

結果はoverall resultsとして表記されており、全てのテストを通過したケース数を全テストケース数で除して評価しており、AAAにおいて良好なモデリングの結果が報告されています。

しかし、絶対測定の項目において、ウェッジ使用下ではエラーが比較的大きく、2%程度のエラーが出ています。この原因として筆者はwedge自身の影響や電離箱の位置精度、そしてエネルギーを変えた際の加速器の焦点の位置も悪化の原因であろうと推測しています。

また、ランドファントムにおけるデータではTG53のCriteriaの7%以下には全て入っているものの、AAAよりもPinacleのCCCアルゴリズムの方が不均質により対応していると報告しています。

最後にVarianから提供されるゴールデンデータはinner beam部分においてTG53のCriteriaには準拠しない可能性があり、測定による検証が重要であると記しています。

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本報告は16枚におよび論文として読むには少々長い。しかし、包括的に記載されており、Criteriaも明らかであるので検証の際には参考になると思われる。

詳細は論文で。










治療計画における電子輸送コードの影響

2008年09月26日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第41号

Mark R Arnfield, et al.: The impact of electron transport on the accuracy of computed dose, Med Phys, 27, 2000

放射線治療領域における空気、肺、骨や他の高い密度を有する不均質領域における線量評価はいまだ議論が続き、線量分布の正確性向上のための努力が続いている。このアルゴリズムの正確性は患者内の不均一性、幾何学的分布、ビームエネルギー、照射野等に影響し、不正確の主な要因は不均一物質の近く及び不均質内の側方電子輸送を適切に扱えるかどうかである。

現在導入されているSuperpositionモデルでは巨視的な電子輸送についてのみ考慮しているにすぎず、電子の輸送は直線的であるという暗黙の想定が行われている。ゆえに正確性においてまだ十分ではなく、異なった密度間においてはエラーを起こす。

本研究の目的は空気や肺等価材質を含んだ自作ファントムにおいてBatho法、Collapsed cone convolution(CCC)法、モンテカルロ法の計算精度を比較することである。

方法
LINAC: 6 and 18MV photon. Varian C12100加速器
Phantom: 1. 水等価材質3cm + 空気2cm + 水等価材質10cm
Phantom: 2. 水等価材質3cm + 肺等価材質8cm + 水等価材質10cm
Detector: 平行平板型電離箱(PTW Markus chamber), TLD(TLD-700), フィルム(Kodac XV-2)
測定によって得られる値は各々のポイントで複数取得し、かつ平均。
測定は異なった日に繰り返し、統計的不確かさは±1%以内(1SD)。
ターゲットに近い面の境界の測定にはMarkus電離箱は逆向けに設置して測定。
(事前にこの逆向け配置の正確性は調査済み。6MV. 2%,18MV. 1%)
Markus電離箱による空気との境界値での測定は側壁からの2次電子の散乱によりエラーが発生するため、その点での検討を行うためにTLDを使用。

測定は水等価材質3cm内、空気と水等価材質との境界(上下)、水等価材質10cm内で行われているが、特に論文において重きをおいているのは境界領域。
結果
Phantom.1(空気)の場合、使用エネルギー6MV, 照射野4 x 4
境界値の値(上: buid-down). TLD 72.5cGy, Ion 79.0cGy, モンテカルロ 72.3cGy, CCC 86.7cGy, Batho 86.5cGy
境界値の値(下: re-buildup). TLD 51.4cGy, Ion 60.3cGy, モンテカルロ 51.0cGy, CCC 68.0cGy, Batho 78.2cGy
電離箱の値はTLDに比較して大きく、またモンテカルロの値はBathoやCCCに比較して随分と小さい。Bathoはほぼ不均質に関して対応できていない。
境界値(下)におけるOCRはモンテカルロとフィルムがほぼ同等の値を示している。CCCはBatho法に比較するとまだ不均質を考慮しているといえるが、それでもかなり不正確である。
TLDに比較してMarkus電離箱の境界値の値は、上で8%、下で15%高い。

Phantom.2(肺等価)の場合、使用エネルギー6MV, 照射野 4 x 4および10 x10
4 x 4 境界値の値(下: re-buildup). TLD 63.0cGy, Ion 63.5cGy, モンテカルロ 63.6cGy, CCC 63.6cGy, Batho 64.1cGy
10 x 10 境界値の値(下: re-buildup). TLD 72.8cGy, Ion 73.5cGy, モンテカルロ 72.8cGy, CCC 73.1cGy, Batho 72.2cGy
CCCとモンテカルロ法に数%の誤差はあるもの良好な結果を示している。Bathoも空気に比較すると測定データに近い。

Phantom.2(肺等価)の場合、使用エネルギー18MV, 照射野 4 x 4
4 x 4 境界値の値(下: re-buildup). TLD 61.0cGy, Ion 63.1cGy, モンテカルロ 62.4cGy, CCC 63.0cGy, Batho 70.6cGy
10 x 10 境界値の値(下: re-buildup). TLD 79.6cGy, Ion 82.6cGy, モンテカルロ 81.5cGy, CCC 83.3cGy, Batho 79.4cGy
高エネルギーかつ小照射野であり、最も荷電粒子平衡が成り立たない状況。
Bathoは不均質に関してまったく対応できていない。
CCCは水等価-肺等価ファントムの境界において過大評価を示し、肺において深くなればなるほど正確となるものの誤差は大きい。
モンテカルロ法は肺野において電子の飛程が伸びることにも対応している。また、そのモンテカルロの結果はTLDの結果とよく一致している。

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本報告では6MV以上のエネルギーにおいてre-buildupは問題となると記載がある。臨床上空気を含む領域でのre-buildupを考慮しなくてはならない状況は少なくない。その際の参考としたい。

詳細は論文で。

モンテカルロ/AAA/PBC-MBPLの比較(Elekta)

2008年09月21日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第40号

E Sterpin, et al.: Monte Carlo evaluation of the AAA treatment planning algorithm in a heterogeneous multiplayer phantom and IMRT clinical treatments for an Elekta SL25 linear accelerqator, Med Phys, 34, 2007

IMRTは3D CRTに比べターゲットへの線量集中性および正常組織への線量低下において非常に優れている。しかし、小照射野や空気のように荷電粒子平衡が成り立たない領域においては、特に優れた線量計算アルゴリズムが必要となる。

従来から使用されてきたアルゴリズムは上記の荷電粒子平衡の成立を前提に計算が行われており、大きなエラーが確認されている。
(本論文ではEclipseのsingle pencil beam convolutoin with modified Batho power lawを指している)
それに対し、AAAは無限かつ均等な物質との光子の相互作用(エネルギー付与)についての関数をモンテカルロ法にて作成して計算に用いており、不均質物質や小照射野においても正確な計算が可能であると報告されている。
一方でモンテカルロ計算はLINACを使用した放射線の挙動を計算することに対して最も有効な手段とされている。

よって本論文ではAAAとPBC-modified batho power law、モンテカルロ計算(BEAMnrc, EGSnrc)との比較である。Varian LINACによるAAAの妥当性の確認は多々報告されているが、ここではElekta LINACでのモデリングについて評価している。

LINAC: Elekta SL25, 6MV (and 25MV), MLC 1cm, backscatter plate有り。
Monte Carlo: BEAMnrc / EGSnrc

測定に用いられた環境は以下である。
1. 水ファントムによるPDD, OCR, Output
 CC13(0.13cc) / NAC microionization chamber(0.007cc)
2. Polystyrene, cork, PMMA, teflonを複合させた自作ファントムによるPDD, OCR
 (2×2cm^2, 6×6cm^2, 10×10cm^2) MU:200(300MU-2×2cm^2),
 OCRはfilm(EDR-2)
3. CTデータ(頭頸部、肺)を用いたIMRTプランの比較

結果
1. depth doseとOCR
AAA: 2×2cm^2の照射野を除いて1%/1mm以内(測定に対して)
モンテカルロ: 2%/1mm以内(測定に対して)
2. output
AAA: 測定に対して1%以内
モンテカルロ: 測定に対して0.5%より良い結果
3. 不均質ファントムでの検討: PDD
AAAは全ての照射野において2%/1mm以内
2×2cm^2の照射野において、肺の線量の計算精度:
   AAA > PBC-modified Batho power law
肺との境界領域において過大評価(2-4%)
4. 不均質ファントムでの検討: OCR
測定データとモンテカルロのデータは2%/1mm以内
6×6cm^2, 10×10cm^2においてAAAは正確だが、Modified Batho Power Lawは過小評価している。
2×2cm^2においてはAAAにおいても過小評価をしている。
5. 臨床における検討
CTデータを水に置き換えて計算した場合、一部Modified Batho power lawは過大評価をしている。
  モンテカルロは忠実に線量分布を表現するが、ノイズが大きくなる。
  肺の臨床例においてモンテカルロのDVHに比べModified Batho power lawは急に線量が下がりすぎる。
  肺の臨床例において、AAAはモンテカルロと同様の形状の線量分布を計算しているが、3%程度過小評価している。

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AAAは線量計算において少々過小評価することが報告されています。またPBC-Modified Batho power lawは不均質に対しては良好な結果をしめしていません。やはりEclipseにおいてもモンテカルロ法を利用した光子の線量計算アルゴリズムの導入を期待したいと思います。

詳細は論文で。


IMRTプランにおけるAAAとPBCの比較

2008年09月19日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第39号

Christopher M Bragg, et al.: Clinical implications of the anisotropic analytical algorithm for IMRT treatment planning and verification, Radiother Oncol, 86, 2008

 Eclipseに搭載されている線量計算アルゴリズムであるPBCとAAAの比較をIMRTのプランにおいて検討した論文です。PBCは肺等の不均一領域や小照射野等の電子平衡が成り立たない状況下において良好なモデリングができないとされています。それに比較し、AAAは電子の輸送コードが優れているため、上記の肺等の不均一領域や小照射野等のモデリングも優れていると報告されています。
 IMRTは側方荷電粒子平衡が成り立たない小照射野の集まりであり、電子輸送コードの正確性が要求されます。そこで本論分ではIMRTプランにおけるAAAとPBCの比較を行っています。

 ここで対象として考えられているのは前立腺、頭頸部、肺の3箇所であり、各々のプランはInverse planningを用いてICRU report 62のtarget coverageを処方の95%-107%の間に適合させ、かつOARの線量を最小にするように設定している。線量計算のアルゴリズムはPBC-eTAR、2.5mm計算グリッドにて行い、その後に同様のMUにてAAAを用いてに計算している(さらにrenormalization後再度AAAで再計算)。

 検討している項目は、PTV dose: minimum, maximum, 95%を受けるPTVの体積率、臨床上重要なOARである。また、conformity index(CI)を採用し、結果を示している。
CI = V(PTV95) / V(PTV) × V(PTV95) / V(T)
V(PTV95): 処方線量の95% 線量を受けるPTVの体積
V(PTV): PTV線量の体積
V(T): 処方線量の95%線量を受ける体積

 線量の検証はanthropomorphic phantomを用いて、各々のプランにおいて3から6ポイント測定し、AAAにて計算した結果との比較を行っています。またDTAの評価はEclipseにて行っています。

結果は以下です。
1. 前立腺や耳下腺において、同じMUの時AAAはPBCに比較してPTVのDmin(%), Dmax(%), V95%(%)がわずかに低い値となる。
2. 前立腺や耳下腺に比較し、同じMUの時咽頭のAAAはPTV. V95%(%)の減少が5%と大きい。
3. 肺のAAAはPTV. V95%(%)が同じMUの時9%減少しているが、脊椎や正常肺の線量は大きく変わらない。
4. 肺のCIはAAAに変更することで大きく減少する=poorer coverage
5. 電離箱による検証の結果により、前立腺、耳下腺プランにおいては3%以内の差、もしくは線量の急勾配部において1.6mmの差であった。同様に肺や咽頭においては3%もしくは3.5mmの差であった。

筆者は結論として、前立腺、耳下腺、咽頭のIMRTのプランにおいて、AAAはPBCと大きく異ならない。しかし、肺においては電子輸送コードの正確性の問題から、PBCに優先してAAAを使用することを推奨している。

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AAAが電子輸送コードにおいて優れていることについては種々報告がなされている。本研究ではAAAを肺の線量計算に使用することを勧めているが、やはり2種類のアルゴリズムを理解し、比較しながら使用することがより安全な方法のように感じた。

詳細は論文で。


医学物理士とは

2008年09月19日 | Weblog
地域がん診療連携拠点病院および都道府県がん診療連携拠点病院の指定要件
「専任の放射線治療における機器の精度管理、照射計画の検証、照射計画補助作業等に携わる常勤の技術者等を1人以上配置すること。」

また、この技術者は平成20年度診療報酬改定に係る通知、疑義解釈において「医学物理士、放射線治療品質管理士等を指す」とされています。

最近放射線治療関連学会および研究会において、病院内におけるこの技術者は如何にあるべきか、が語られていました。

1. 上記に携わる医学物理士とは、IMRT等の医科点数の関係からも、専従の従事者である必要がある。
2. 医学物理士とは、上記の専従(もしくは専任)従事者であり、医学物理士等として雇用(任用)されている必要がある。

国家資格という面では医学物理士とは少々異なるが、文部科学大臣が許可する放射線取扱主任者という資格が存在する。この資格は放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律に基づき、放射線障害の防止について監督を行う者のことであり、使用者、販売業者、賃貸業者及び廃棄業者は、放射線障害の防止について監督を行わせるため、その取扱区分により放射線取扱主任者免状を有する者のうちから放射線取扱主任者として1事業所につき1名以上選任し、届出しなければならない。

つまり、放射線取扱主任者免許を有している -> 放射線取扱主任者 ではなく、
    放射線取扱主任者免許を有しており、選任・届出されている -> 放射線取扱主任者

となるのである。

この考え方は医学物理士にも当てはまる。

医学物理士の試験合格 -> 医学物理士ではない
医学物理士の認定 -> 医学物理士認定を有しているのみ
医学物理士として雇用(任用) -> 医学物理士

医学物理士として雇用されている場合にのみ、「医学物理士」が病院にいることを公言すべきであるとの見解である。

同種の従事者の中には反対意見もあるかもしれないが、個人的には非常に妥当な考え方であると共感している。

強度変調全身照射の臨床結果

2008年09月11日 | TBI
放射線治療と医学物理 第38号

Ralf A Schneider, et al.: Long-term outcome after static intensity-modulated total body radiotherapy using compensators stratified by pediatric and adult cohorts, Int J Radiation Oncology Biol Phys, 70, 2008

 骨髄移植および幹細胞移植は成人および小児における血液悪性疾患の治療に用いられています。その際全身照射や抗癌剤治療にて体内の血液悪性疾患を根絶し、かつ免疫不全状態を作り出すことが不可欠です。
 照射方法はさまざまな論文で報告されているように数々の方法があります。本論文では補償体を用いた強度変調全身照射の長期結果報告です。
 全身に放射線を照射する際には、全身が不均一な物体であることから、線量分布上でcold spotおよびhot spotを可能な限り少なくし、またOARの線量を制限することが重要です。そこで著者らは補償体にて強度を変調させた全身照射(sIMRT)を施行しています。この方法は1983年に開発され、論文作成時までに500例以上治療をおこなったと記述されています。

 方法は以下です。
 全身のCTスキャンを行います。その後Styrodur材質をくりぬき、Sn granulesを流し込みます(完成まで300min)。
 測定は以下の6ステップです。
1. 補償体のX線撮影
2. 水ファントムにおける透過測定(中央線上の数々のポイントにおいて測定を行い、一致したdepthにおけるPDDの検討)
3. 中央および肺野における吸収線量および線量率の測定
4. 中央かつ中心線上の交差点における1Gyに相当するMUの計算
5. 電離箱を大腿部の間に挟み、in-vivo測定
6. 補償体に対する患者の正確なポジションをフィルムにて確認

患者のセットアップは臥位で行い、焦点-患者中心までの距離は390cm。焦点-補償体間距離は80cm-100cm。コリメータは最大開口かつ45度回転、15MV X線を用いて12-15cGy/min、12Gyを3日間で6分割されている。45人の患者には全身が均一となるよう工夫した上で12Gyを照射、212人の患者には肺野での線量を11Gyに減少させるような強度変調を行っている。

 本論分の趣旨はoutcomeであるため医学物理の内容からは少しずれていくため割愛するが、肺の線量を12Gyから11Gyに減少させることでinterstitial pneumonitisの発生率を大幅に減少させることができ、TBIの成功につながると報告している。その他、veno-occlusive disease, Nephrotoxity, GVHD, central nervous system, bone and joint injures, thyroid gland disorders, growth retardation, sterility, secondary malignanciesについても記述されている。

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単純な補償体を使用することは従来からも良く行われた方法ですが、補償体を患者毎に作成するIMRTはすごいですね。
非常に素晴らしい線量管理の手法だと思います。

詳細は論文で。


LINACを用いた線減弱係数の測定

2008年08月29日 | QA for TPS
放射線治療と医学物理 第37号

J Van Dyk, et al.: Broad beam attenuation of cobalt-60 gamma rays and 6-, 18-, and 25-MV x rays by lead, Med Phys, 13, 1986

X線やγ線に対する物質の吸収係数(or HVL)の測定には細いビームが用いられています。これは正確な測定のために必須な項目ですが、一方で放射線治療の状況では理想的な細いビームでの治療はほぼ皆無であり、広めのビームの吸収係数が求められます。特にTBI等で使用する補償体の吸収係数の算出は、均一な照射を考慮するうえで必要な厚さを計算するために必須です。本論分は吸収係数を理論的に計算し、また実測することでその差異を確認しています。

 理論
単一エネルギーの放射線であり、細いビームの場合
I = I0 e^(-μx)
ここで吸収体の存在する場合の強度をI、吸収体の存在しない場合の強度をI0、μは線減弱係数、xは吸収体の厚みです。
広めのビームの場合、散乱が多くなるため複雑になり、散乱線と直線線の強度比は、
S/I = Ne x X0 x σ0
で表すことができます。ここでNeは吸収体中の電子数、X0は吸収体の厚み、σ0は0度と最大散乱角の間の散乱光子の断面積である。この式において、σ0は入射エネルギーと最大散乱角との複雑な関数であり、本論分では詳細には述べられていない。
また、広いビームの吸収は以下に示すことができます。
Ib = I0 x e^(-μbx)
ここで、Ibは吸収体を通過後の強度、μbは広いビームジオメトリーにおける実効線減弱係数であり、
μb = μ + 1/x ln[1/(1 + S/I)]
と表すことができます。
また、スペクトルが正確に把握できている場合、
μb’ = (∫μb N E dE) / (∫N E dE)
ここでNは光子数、Eは光子のエネルギーであり、μb’は加重平均された広いビームの線減弱係数である。

 測定
 上記理論を確認するために実測が行われている。実測の方法は以下である。
1. 細いビーム, focused collimatorを使用(X線のみ), Source-absorber distance. 90cm, SCD. 130cm,
2. 細いビーム, 遠距離法, Source-absorber distance. 90cm, SCD. 170cm
3. 広いビーム, Source-absorber distance. 90cm, SCD. 130cm

Co-60においては、ビルドアップキャップ使用下の空気中での測定, 6, 18, 25MV X線では30cm x 30cm x 30cmのポリスチレンファントムを用いて5cm深での測定を行っている。また用いられているabsorberは鉛である。

結果
1. 全てのエネルギーにおいて、細いビームに比較し、広いビームの透過率が低いことが明らかである。
2. 求められた質量減弱係数は照射野の関数としてleast squares fitにてよい結果が得られている。
3. 理論から計算された結果と比較し、細いビームにおける吸収係数は2.4%の差異が認められた。
4. Co-60において2種類の細いビームでのジオメトリーでの結果は0.5%以内の差であった。
5. 広いビームにおいて測定結果と計算結果との差はフィールドサイズが大きくなるにつれて大きくなる。
6. 40cm x 40cmの広いビームと細いビームの吸収係数の測定結果より、エネルギーに依存して14% - 16%の差が認められた。

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TBIにおける補償体の吸収係数を把握し、適切な厚さを検討することはTBIの成功のために必須である。上記理論式は現場ですぐに使うことのできるものではないが、測定方法および解析手法は非常に役に立つと思われる。測定の際の参考としたい。

詳細は論文で。


CTを用いたTBIの線量分布

2008年08月26日 | TBI
放射線治療と医学物理 第36号

Susanta K. Hui, et al.: CT-based analysis of dose homogeneity in total body irradiation using lateral beam, J Appl Clin Med Phys, 5, 2004

TBIは従来TPSを使用せずに処方線量を計算し、体幹部線量の不均一性を補償体にて調節、かつ水晶体および肺の防護に遮蔽体を挿入するという手法が用いられてきました。その後さまざまな手法が開発され、生存率の増加が可能となり、同時に短期および長期副作用の評価やQOLが研究対象として重要な項目となっています。骨髄幹細胞に対する不十分な線量もしくはcritical organにおける過剰な線量、その他の線量の不均一性はTBIの失敗に起因しうる項目です。なかでも肺炎は重要な線量の制限となっており、CTを用いてTBI時の臓器線量を把握することは重要との主張です。

 本論分において、CT密度データを用いたTPSの線量比較はRando Phantomを用いて行われています。Rando Phantom内にTLDを挿入し、10MeV, SSD.300cm, 照射野全開(40cmx40cm)、コリメータ45度、側方ビームにて照射、TLDでの測定結果とTPSでの計算結果を比較しています。

 TLDの測定結果から上胸部(肩部入射)や肺の線量は処方(臍の位置)に比較して25%程度の線量の低下が認められています。またこのTLDの結果はTPSにて計算された臓器線量との比較にて非常によい一致が認められています。

 Rando Phantomの検討により、処方に比較し上胸部(肩部入射)は20%以上の低下、肺の線量は25%程度の低下(腕で遮蔽されている)、その他は5-10%以内で照射されている。しかし、腕で隠されていない部分の肺野は非常に高い線量(30%程度)を受けている他、頭部におけるアクリルの補償体にも関わらず水晶体の位置で10%程度高い線量が照射されており、やはり補償体、遮蔽体の有効活用は必要である。

 肺の線量を補償体や遮蔽体で制御する際に、骨髄線量が減少してしまうことを防ぐため、また種々のcritical organの線量、線量分布およびDVHの評価は重要である。

詳細は論文で。


立位ポジションでのTBI

2008年08月21日 | TBI
放射線治療と医学物理 第35号

S V Harden, et al.: Total body irradiation using a modified standing technique: a single institution 7 year experience, Br J Radiol, 74, 2001

Long SSD法を用いた全身照射法を立位ポジションで行った場合、setupに時間がかからず、他の患者に対する通常の治療に迷惑をかけることなく行うことができることを示した論文です。

TBIの照射方法は種々提案されていますが、線量の均一性、正確な照射、再現性、setupの容易さ、照射野の限界、部屋の大きさ、使用する装置がTBI専用装置であるか否かが重要な項目となります。この施設では1991より前、側方向ビーム(臥位)にて治療がなされていたようですが、setupに時間がかかり、ボーラスバッグが必要、線量の均一性のために注意深いポジショニングが必要であり、また肺の線量を正確に測定することが難しいという難点を抱えていました。そこで照射をAP方向とすることで肺の正確な測定が可能となり、また線量の均一性も向上したと記しています。

 治療装置はスウェーデン製の直線加速器(Asea Brown Boveri LA20)、アイソセンターにて40cm x 40cmの照射野を作成することができ、患者のポジショニング位置(5m)にておよそ2.0m x 2.0mの照射野を得ることができます。治療エネルギーは16MV、線量率は300cGy/min at 1m、5mにて12cGy/minとなっています。

 患者のポジショニング位置の前には2cmのPMMA衝立、肺には鉛の補償体、首の前側にボーラスを配置する以外には、特に目立った工夫は行われていません。肺の補償体は0.5mm厚の鉛シートを重ね合わせることで作成され、ポータブルフィルムを参考に補償体の大きさを決定しています。その際、患者の動き、心臓や腹部の吸収効果を加味しつつ、最も必要な部分で7mm程度、その外側は4.5mmの鉛で作成されています。その後照射時にTLDを貼り付けることで線量を把握し、処方量の確認と鉛の量を調整しています。

 この方法によるSetup時間はおよそ10分、全ての工程が25分で終了すると記載されています。また、TLDによる様々な位置の測定から頭部および体幹部において処方線量の±6%以内、踵の領域において処方線量の10%増、首の部分において5%増、肺は処方線量の±5%で照射されていることを確認しています。

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 容易なsetupにて正確な線量が把握でき、またそれが良好な再現性、均一性の優れた照射ができるのであればその方法に切り替えることを躊躇うことはないのですが、いずれにしても自施設での確認は不可欠であると思います。照射時の参考としたい。

詳細は論文で。


郵送用IMRT線量検証ファントムの作成

2008年08月11日 | QA for IMRT
放射線治療と医学物理 第34号

Youngyih Han, et al.: Dosimetry in an IMRT phantom designed for a remote monitoring program, Med Phys, 35, 2008

IMRTの結果をclinical trial等で比較する際、その強度変調された処方を各施設で正確に実施する必要性があります。しかし、各々の施設で有する装置や環境が異なるため、施設間で照射の正確性に差がないことを確認することが重要です。本論文では韓国食料医薬品局(KFDA)がIMRTの質を調査するための頭頸部ファントムを作成し、その線量測定システムの妥当性を調査したものです。

 作成されたファントムは頭頸部治療を模擬して直径17cm、高さが25cm、PMMAで作成されています。上記ファントム(cylinder)にはTLDと小容積電離箱が設置できる4つのROI(ターゲット、OARとして唾液腺2カ所、脊髄1カ所)、空気の穴(気管を模擬)、骨組織(テフロン)も作成されています。この空気の穴と骨組織は均一ファントムでの測定を可能とするため、均一物質と入れ替えられるようになっています。また、フィルムも挟めるようになっており、線量分布の評価も可能です。

 線量測定は上記の電離箱(0.03cc)、TLDを用いて4つのプランを測定しています。また、同プランにおいてモンテカルロ(BEAMnrc, DOSXYZnrc6.0)も評価しています。4つのプランは以下です。
1. 均一ファントム使用。AP方向の照射。照射野20cm X 20cm。SAD.100cm
2. 不均一ファントム使用。AP方向の照射。照射野20cm X 20cm。SAD.100cm
3. 均一ファントム使用。AP, RPO, LPO方向の照射。照射野10cm X 10cm SAD.100cm
4. 均一ファントム使用。7 field IMRT。SAD.100cm
不確かさを減少させるために、TLDの測定は16回の測定を4日間で、電離箱の測定は3回測定を1日で行っている。

結果
上記1-3のプランにおいて、モンテカルロ、治療計画、測定は±2%以内であった。電離箱の値は常にモンテカルロの値よりも低い値となり、TLDの値は治療計画よりも大、またTLDの値は電離箱の値よりも2%-3%大きい。不均一による測定線量の不確かさは増加しない。
IMRTのプランにおいて、TLDの値は電離箱の値に2%程度の乖離、治療計画と電離箱の値は3%以内で一致している。しかしOARは線量の勾配がきつい部分が多いため、測定結果に5-7%の差が生じている。
電離箱値の標準偏差はかなり小さいが、TLD値は大きい。
ガフクロミックフィルムでのγ評価は良好。しかし、EBTフィルムでは処方線量(100%)領域および低線量(-30%)領域にノイズが認められた。

この結果は単純なものであり、またターゲットやOARのポイント線量を確立させるため、今後韓国では数施設でのpilot studyが開始されると記載されている。

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IMRTの精度確保において、同一のファントムを用いてプランニングを行い、systematic errorを把握する試みは、特にclinical trial等の場合に有用であると考えられる。

詳細は論文で。