ののほんじゆうちょう

管理人nonohonが不定期にラクガキします。

鉄コン筋クリート

2006年12月26日 | マンガ・アニメ
観てきました、『鉄コン筋クリート』。

いやぁ、これはすごい!
まず驚いたのが、松本大洋の世界観の再現性。
キャラも背景も、隅々まで大洋の雰囲気そのまま。

明るいけど暗い、華やかだけど寂しい、スッキリとしながら雑然とした、どこでもないけどどこかで見たような、そんな大洋作品特有の雰囲気がカラーの背景になっても損なわれることなく、よりリアルに表現されています。
そして作品全体に漂う絶望感や焦燥感や閉塞感というのも大洋作品に共通するものですが、こちらも非常に良く表現されていました。

演出で非常に目を引いたのはその空間の捉え方。
宝町はゴミゴミして迷路のようになっているのですが、見ている側がその中でも空間を見失わないほど、しっかりとした空間力で描かれています。これはチェイスシーンなどで長回しが多用されていることなどによると思うのですが、それでも速度感や迫力を損なわない演出は見事だと思います。カメラワークが日本のアニメでよく見かけるものとは多少違い、そこも非常に面白いです。これは絵を描かないCGクリエイターで初監督のマイケル・アリアスの影響でしょうか。
それによるものか、とにかくCGで完璧に空間を取りつつ手で描く、またはCGで手書きを補完する手法が徹底されており、まさに宝町にカメラを置いて撮ってきたかのような印象を受けるほどのクオリティになっていました。

キャラの演技がすごいのはスタッフの顔ぶれからわかってはいましたが、すごかったです(笑)。また、豪華キャストと言われますが、豪華さ以上にぴったりとキャラにはまってて、なんかすごかったです。俳優起用でここまでしっくりくるのは見たことない。
背景から演出・作画、そしてキャストまで見事に大洋作品にマッチしており、その意味でものすごい作品です。

難をあげるとすると、クライマックスでの精神世界の描写が少し肌に合わなかったというところでしょうか。表現力がすごいのはよくわかったけど、前半のようにキャラの行動と空気で表現していた絶望感ほどは胸に響いてきませんでした。やはり日本人は(少なくとも私は)心理面を視覚的に変換した抽象表現よりは感情移入して『感じる』ほうが好みなのです。少なくともクライマックスのほぼ全てを抽象表現で占められてしまうと、いささかの盛り下がりを感じざるを得ません(エヴァにも言える)。

それでも一見どころか二見・三見の価値があるのは間違いありません。
私ももう一度観てこようと思います。