新潟久紀ブログ版retrospective

病院局総務課11「病院へ泊りがけで視察に行く(その3)」編

●病院へ泊りがけで視察に行く(その3)

 更に趣向をこらしたのが、患者さん達の目線でその病院を感じ取ることだ。本局から視察といえば、患者さんに迷惑を掛けないように外来や待合空間などはできるだけ避け、病棟も看護の邪魔にならないように立ち入りは最小限とし、病院施設のバックヤードから各セクションを見て回るというのが普通なのだが、県立病院は民間企業と同様に医療サービスを売っているのだから、顧客満足という観点で各々の病院がどうなのかを肌で感じたかった。
 そこで、仕事用のスーツにネクタイではなく、カジュアルな服装で病院を訪問し、事務長への到着挨拶の前に、表玄関から受付を通り普通の外来患者さんに紛れて診療室前の待合室に座って周囲を見渡すことにした。例えばチェックのボタンダウンでノータイにチノパンという姿で待合室に座ると自分が外来で訪れたような気持ちになる。混み具合や患者さん達と医療スタッフの行き交う姿に、人の動線として問題は無いかとか、診療室への呼び込み方や応対は適切かなどが見えてくる。今までの視察のように、立ち寄ってさらりと眺めて通り過ぎるだけではなく、待合室椅子に座してしばらくの時間じっくり眺めてみると患者さんにとっての様々な善し悪しが肌感覚で伝わってくるのだ。
 さらに、私は、どこの病院に行ったときも必ず、隣で待つ患者さんにも恐る恐る声を掛けてみた。病院利用者がどのように感じているのか生の声を聞きたかったのだ。
 「おはようございます」「暑いですね」などといった挨拶で口火を切って、一般的な世間話から、この病院をどう思うか、医者や看護師などに感じている不満などはないかなどをやんわりと聞き出していく。私の身分を明かすと本音が聞けなくなるので、例えば「この地に引っ越してきて初めてこの病院を利用するのでアドバイスを…」といった体で語りかけてみる。いきなり見知らぬ中年男が声を掛けてくるのだから、警戒されるのが当然であり、そう簡単に話を続けられる人は少なかったが、人の良さそうな高齢の男性や話し好きの女性などからは「〇〇医師はこんなところが評判が良い」とか「検査室との行き来がわかりにくい」など色々な話が聞けた。
 病院職員から聞き取れる話は供給サイドの視点が強いので、需要側から見た思いがけない切り口などを知り得て大変に参考となり、本当に有り難かった。ただ、中にはあまりに親しく話し込んでいくうちに、妻の付き添いで来て診察中に待合室にて待機していた初老の男性から奥様の深刻な症状と見守る立場の辛さを嘆かれる話に及んだときなどは、切ない思いにさせられたものだ。
 外来待合室での患者さんとの交流を各病院とも大体30分前後で終えた後、病院の事務室に向かい、事務長に予定の訪問視察に来たのでよろしくと挨拶をした。カジュアルな服装なので最初はびっくりしていたが、その意図と、実は今まで外来待合室で状況を見させてもらってきたと告げると、私がただの冷やかし気分で来たわけではないのだなと理解を深めてもらえたようだ。ついさっき患者さん達から聞いたばかりの病院についての善し悪しの声などを伝えると、事務長も普段本局に報告している建前的な話だけでなく、「実は…」と本音話を交えてくれはじめる。課長補佐程度の役職の私がただ一人で訪問した病院では、"サシ"で話す上での気安さもあったと思う。

(「病院局総務課11「病院へ泊りがけで視察に行く(その3)」編」終わり。「病院局総務課12「病院へ泊りがけで視察に行く(その4)」編」に続きます。)
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