新潟久紀ブログ版retrospective

仕事観の形成と就職するまで編4「喫茶店ウエイター」

<仕事観の形成と就職するまで編4>----------------------
●喫茶店ウエイター

 昭和50年代に、新潟市中心市街地から西の果ての通称"五十嵐砂漠"と呼ばれた日本海沿岸砂丘地へと、医学部を除く大学施設のみで街づくりもなにもなく唐突に移転した新潟大学は、鉄道やバスの路線が微妙な位置関係で、雨風の日や特に風雪の冬場においては自転車や徒歩は"激"不便で、活動的に過ごすには車の所有が不可欠であった。
 中古車を買って維持していくには少し纏まった金と毎月安定した収入を得るための単価が低くても長続きできるバイトが必要だ。サークルの先輩と話していると新潟市中心市街地「古町」で純喫茶のウエーターの後釜をやってくれないかと打診が来た。
 今は無き「名画座ライフ」という名の、通好みの新旧の作品を上映する小規模映画館の二階にて、同じ経営者が併せて営業していた「純喫茶スペイン」。当時の古町は老いも若きも買い物や飲食の中心地で、同じ通りに喫茶店が数軒連ねていたが、こだわりの映画好きの鑑賞後の立ち寄りが多い渋い雰囲気がもともと気になっていた店だ。
 週3日程度、夕方からのバイト入りで閉店の夜10時まで。白シャツは自前で用意して、支給される黒いベストとスラックス、蝶タイを付けて給仕をする。夜は酒も出す。厨房1人と給仕リーダーとバイト1人。昼間のバイト1人が繁閑に即して少し時間を重複させて夕方交代する。賄いという程ではないが軽食食材の残りを使う簡単な間食がバイトへ供される。接客業未経験で好奇心もあった私は、店内の下見や支配人と面談もせずに「やります!」と即答だった。
 30歳代半ばと思しき給仕のリーダーは、小柄でオールバックに鼻下に口髭、ぎょろりとした目つきがいかにも"訳あり水商売系"の雰囲気。厨房のコックは飲食店を好き嫌いで渡り歩いくる中で一時しのぎ的に勤めているらしく、穏やかだがこだわり気質が表情に滲む30歳代前半か。新潟大学の学生ほどのレベルであれば、あれことれ言わずとも何とかやるだろうといった様子でこまごまとした指導助言など私には無いままバイトが始まった。
 夕方からのバイト入りだったので、店内の照明を暗めにして、2人向き合いの4人掛けテーブル12脚程に各々キャンドルを灯すことから仕事がスタートした。店内ではクラシックやラテン系のセンチメンタルなBGMを流していたほか、ほぼ毎晩の定時にフラメンコの生ギター演奏もあり、大人好みの寛いだ時間が過ごせる空間として、仕事帰りの常連や、1階の映画館で名画を楽しんだ後の女性客らが次々と訪れてきた。
 スマホの液晶バックライトの明かりなどは無い時代。薄暗いが品位が意識された店内の環境は、正に大人がプライベートの時間を楽しむ場であったから、接客の上で会話などは殆ど無かったが、それ故に、あまり語らぬ客の一人ひとりが何を求めているか、しようとしているか、例えば、飲み物や軽食の追加なのか、空調の強弱なのか、トイレを探しているのかなど、洞察しようという意識が鍛えられたと思う。また、幾つかのクレーム対応も経験する中で、飲食や安らぎなど原始的な欲求を満たすための空間ほど人の感情の振れ幅は大きいことも痛感できた。これらは、今でも職場内外の人との対応等において活かされている貴重な社会勉強であった。
 また、一緒に仕事した人達や、彼らから飲み会などを通じて派生した知人達からの幅広い水商売関係の経験談は、この業界の実情や裏表をリアリティを感じながら知るに十分なものであり非常に面白かった。脚色強めの話も多かったと思うが、バイト暮らしの彼らは、基本的に思うように成功していない現状であったから、大学生の私ごときに見栄や外聞を気にする必要はなく、"そんなことまで…俺なら見るのもやるのもムリ"と思うような赤裸々で露骨な"業界"の裏話まで明け透けに聴かせてくれたのだ。
 かくして、生意気ではあったが社会的に揉まれた経験が少ない世間知らずの私は、この喫茶店のバイト以前は、お客として飲食店等に行けば、接客や飲食系の仕事も楽しいかも…などと考えていたが、その裏方の仕事のリアルと、何よりもそうした業界に多いクセの強い人達の気質に少し縁遠さを感じていく中で、自分の適性とは違う世界みたいだなあ…と心の中で職業を考える上での"仕訳"ができてきたようだった。

(「仕事観の形成と就職するまで編4」終わり。「仕事観の形成と就職するまで編5「コンサート警備」」に続きます。)
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