新潟久紀ブログ版retrospective

財政課25「県職員なのにファイナンスに腐心(その2)」編

●県職員なのにファイナンスに腐心(その2)

 日本においては自治体の信用度は安定しているので、借り入れ条件は都道府県間で相対的に大きな差が出るものではなく、交渉結果は県の上層部からも都度容認していただけるものであったが、全体としての金利上昇基調の中では、更なるコスト抑制の手立てを模索していくことになる。全国的に同様の状況であったから、足下の金利で長期的な負担変動リスクを抑える「超長期債」と呼ばれる償還期間30年ものであるとか、特殊な金融情勢になった場合に金利を上昇させるが、平時においてはむしろ金利が通常よりかなり低く抑えられるという条件付きの融資メニューなどが話題になったり、他自治体で活用されるようになってきた。
 本県でも財政負担軽減に向けてあらゆる努力が求められている中で、臆してばかりはいられない。当然ながら、そうした過去例の無い借入方法について、全てを一気に変えてしまうことまではせず、ごく一部の運用から始めてみることにした。いろいろな条件を組み合わせて全体としてコストを抑制しようという対応はポートフォリオマネジメントと言われるとおり、経営としては当然のことなのだ。
 そんな取り組みを初めて数年して、他自治体でのトラブルが大きく報道された。融資条件が変動する要件を組み込んだ借入れは「仕組債」と言われているが、殆どあり得ないと金融関係者も含め内外から思われていた特殊な経済状況になり、なんと、元本割れもする事態となったというのだ。特殊状況とはあの「リーマンショック」である。
 もとより我々は元本割れするようなリスクある条件では借入れしてはいなかったが、やはりこうした事態となって、借入残高総額から見ればごく僅かな量であるが金利が急上昇する状況となった。それでも、その資金の高金利状態が約定の上で最大期間に及んだとしても平時の超低金利が効いて償還期間全体を通じた金利負担は通常の手法で市中から借りるよりは低くなることに違いはなかった。それでも、マスコミが騒ぎ立て始めると、元本割れの有無や全体としての金利負担の程度などはお構いなしに「仕組債は悪」という世論となってしまった。
 結局、良くも悪くも保守的で横並び意識の高い地方自治体においては、金融技法を組み込んだ借入れは実質タブー扱いとなった。私個人は元本割れするような投資に手を出すつもりはないし、県をそのようなリスクに晒すつもりも毛頭無いが、物事に一度ケチがつくと詳しく中身を吟味することをせず一斉かつ全面的に否定に回る傾向になりがちな日本人の特性をここでも垣間見て、「このままでいいのかこの国は…」と考えさせられたものだ。
 "リーマンショック"とそれに伴う"仕組債"のドタバタは実質的に私が異動転出した後に本格化したのであるが、金利負担抑制に向けて新たな策をいかにすべきか、後任の担当は大いに悩むだろうな…と、陰ながら心配していたものだ。しかし、その後の経済と金融の情勢はご存じのとおりで、10年以上に亘り超低金利、しかもマイナス金利などというかつては想像だにできなかった展開となっている。昔のように例えば年利3.5%なら20年償還で元本と同額程度の利払負担が生じていたところ、今日の借金は元本の単純分割払いのような有様になっているのだ。将来のことは一寸先も分からない。何事もなるようになるということかとつくづく思うのだ。

(「財政課25「県職員なのにファイナンスに腐心(その2)」編」終わり。
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