新潟久紀ブログ版retrospective

地域農政推進課2「農地保有合理化事業は清算モード」編

●農地保有合理化事業は清算モード

 私が務める事務系補佐は農業施策の企画調整に関しては基本的に関わらなくても良いという仕切りだったのだが、一つ例外があるという。毎月のように定例開催ざれる公益財団法人新潟県農林公社との打合せに担当の主任と二人で参加することなのだという。
 その主任さんから話を聞くと、農林公社との定例会議は、これまでに農地保有合理化事業により農林公社が中間保有している農地で、長きに渡り転売先が決まらず塩漬け状態になっているものの対処を検討する場なのだという。
 農地保有合理化事業と聞いて、16年前の若かりし頃に担当していた業務が脳裏に鮮やかに浮かび上がった。若い新規就農者など資金力が低い農家が農地を購入できるようになるまで、農林公社が農地を取得して中間保有し、当該農地の管理耕作などを通じて資金力がついたところで売り渡すという事業で、中間保有の間に将来の買い手が効率的に経営できるような規模に農地を集積することで農業経営者の育成と農業経営の効率化を促進するという、農業政策の目玉事業の一つであったはずだ。
  ※農地保有合理化事業の過去の話はこちら。
 ところが、私が農政から離れている十数年の間に情勢が大きく変わってしまったようで、金利の下落で資金力の無い農業者も容易に融資を得て直接相対取引で農地を都度購入していけるようになったこと、加えて、農林公社が中間保有している間の金利は政策的に負担されるのだが、地価下落が続く中でも農林公社の取得価格が売却時に減損されないという仕組み等が嫌われるようになってきたらしく、制度活用が低迷しているようだ。
 問題なのは、買い手を当て込んで一旦取得した中間保有農地が、その買い手の破産などで売り渡し先を失ってしまったものの後処理なのだ。制度的に実勢価格見合いに減損処分して売却ができないため、塩漬けのまま貸借対照表資産を肥やしているだけなのだ。これはいわば不良債権の整理。農業政策の推進ではなくて過去の清算という事務的処理なので事務系補佐の特命だというのだ。
 毎月のように農林公社と会議を重ねる中で、個別案件に関してここに詳しく書くことはできないが、一件ごとに真のやむを得なさを精査して、損切り処分に係る県の財政支援などの検討と対処を進めた。
 かつての花形事業も、社会経済の変化の中で時勢に即さなくなり、後ろ向きな後始末に追われるのは役所仕事の常なのかも知れないが、若い頃に自作マンガを入れたパンフレットまで作って制度の普及のために市町村まわりをしていたことなど思い返すと少し寂しい気持ちになるものだ。
  ※農地保有合理化を含むパンフレットはこちら
 地域農政推進課に来て1年目の晩秋。会計検査の随行員として某市役所を訪れた際に、過年度分の僅かな残存国費が検査調書に顔を出していた農地保有合理化事業の制度内容について、検査官から問われた市役所職員が、やはり昨今事業実績が無いためか説明に窮することがあった。手引書などを取りに行こうとする彼を抑止して、私は「受検者ではない立場で僭越ながら」とお断り申し上げてから農地保有合理化事業制度を詳しくそらんじて検査官へ説明させていただいた。
 私の「助け船」で受検が停滞せずに進んだことで随分と市役所職員からはお礼を言われたし、私としても古い知識が役に立って嬉しかったが、この先こんなこともなくなるのだろうなと感慨深かったものだ。しかし、思わぬ形でこの農地中間保有という仕組みが近く再脚光を浴び、私を翻弄することになろうとは、この時に気づく由もないのであった。

(「地域農政推進課2「農地保有合理化事業は清算モード」編」終わり。「地域農政推進課3「グリーン・ツーリズム」編」に続きます。)
☆ツイッターで平日ほぼ毎日の昼休みにつぶやき続けてます。
https://twitter.com/rinosahibea
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「回顧録」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事