時計を見たら9分経っていた。
90分じゃなくて。
仲間の狼と、困難さを克服するために、3日間、途切れることなく遠吠えを続ける治療に参加する。
一瞬の間も空けないで、音を出し続ける。
それには狼達が、それぞれの声を少しずつ、ずらして重ね合わせていかなければならない。
音の三つ編み。密なる編みもの、秘密の。
あまり最初から吠え続けても、もたないだろう。
だけど、
力の限り叫ばないと効果はない。
治癒のために吠え続けなければならない。
どのくらいの声を出せば、力の限りなのか、よくわからないけれど、手を抜いたことは確実にわかる。
自分にだけは隠せないという、ジレンマ。
限界を続けることが、治癒のためには必要なのだから。
力を抜いては意味がなくなる。
意味。
その意味を見つけるための、治癒。
意味が理解できなくなった音。
初めの始まりに、言葉はなかった。
人類の最初の発声に意味はない。
音を出すため発声。
発声のための発声。
時間が進むにつれ、発声には意味が付いて、いつしかそれが言葉に変わる。
反対に、意味のない発声は、社会的に抑制され、私の声、叫びは抑圧された。
叫んではいけない。
動物のように叫んではいけない。
騒いではいけません。
ついに叫びは、治療のためにだけ許される。
3日間以上、途切れないように叫び続けなければ。
自分の叫び声をシュミレーションしてみる。どのように叫べばよいのか。
効果。
治癒。
いくらシュミレーションしても、頭の中でだけでは、声にはならない。
先ず、声を出さなければ。
声を出す。
声は抑圧されたまま、音にならない。
喉も舌も、それどころか全身の筋肉が、自分の意思に従わないまま、沈黙を続けている。
水平になったまま気がつくと、目覚めている。
9分経っていた。
まだ、
意識界に居た。
叫べないまま、永遠に叫ぼうと固まったまま、固まり続けていた。
さぁ、
終わりの時がやってきた。
各人、各々の無機物にて、待機してください。
時は終わりに近づきました。
全員、退去します。
退去先は、無機物。
次の連絡まで、お待ちください。みたいな突然な終わりが、やってきて迷子。
想定外という暗黙の免罪符。
地震、
津波ツナミTUNAMI以外は人災。