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海に帰りたい~@″
 

タンバリン族の遊び歌

2021年05月14日 | 日本画・お絵描き
タンバリン族の最後の生き残りと云われている二人の老人は寄り添うように路面店の椅子の上に座り、ぎこちない微笑みのような表情を浮かべていた。

いつもは店の裏のストックルームやレストルームで人目につかないように働いているが、今夜のカルテットが昔、タンバリン族の住む街で暮らしていたと聞き、演奏が終わりお客が帰りはじめてからソーダ水を飲みながら店の表の路面の椅子に座っていた。

ゆっくり暮れる初夏の夜風が吹く。

カルテットの演奏が終わり、二人の隣で男の子を連れた母親たちが遅い食事をしていた。

二人のタンバリン族はベースマンに言われて思い出せる故郷の歌を口ずさむ

子どもの頃に歌ったきりでほとんど歌詞が出てこなかった

ベースマンは息漏れのような旋律を聞き取ろうと何度も促しては

「やあ!それは遊びの歌だろ?道に石を置いて転がす遊び」

「別れの詩だね、子どもが死んでしまった時の別れの詩」

聞き取っては掌でケースを叩きリズムを取りながら自分の記憶を辿って覚えている歌詞と旋律で歌う

すると、それを聞いた二人にすっかり忘れて消えていた筈の記憶が蘇ってきた。

二人は早口言葉のような、テープロールを早送りするような音の会話を交わし始めた

どちらかがいずれ亡くなり話す相手が居なくなると世界から消える言葉の歌

ベースマンはそれを知ってか根気よく二人に歌詞を教えるのだがそれはベースマンの世界の言葉二人はその歌詞をまたタンバリン族の言葉に置き換えて歌う

微笑みの表情を最初より少し笑顔した二人はベースマンに「さあ次は何を歌うのか」と促す

男の子二人は今夜だけのスペシャルパフェを食べ終えて路面店の横の空き地をぐるぐる走りまわっている

ピックアップトラックを出してそろそろ帰りたいのだが少しアルコールの入った母親たちはもう少し酔いを醒ますかどうか迷っていた

片づけ終わったドラムを車に積みはじめていた女がベースマンに声を掛けたのをきっかけに、二人のタンバリン族はさっき思い出したばかりの歌を歌いながら、空き地の前の歩道で生まれて初めて遊ぶタンバリン族の男の子の遊びを飽きることなく続けた

早口言葉のような歌はどんどん速くなり、ぐるぐる回っていた二人は風に溶け込んで灰色の霞になり走り回る空き地の男の子たちの影のようにしばらく回っていたが、少ししたらもう消えて見えなくなっていた

ようやく酔いが醒めた母親たちが息子の名前を呼んでいる声がブロック塀の路地の奥でこだまして目が覚めた

追い焚きの湯船に浸かりながら湯船を磨いて換気して朝が始まった

三月の最後の朝

ダブリンの密造酒

2021年02月16日 | 日本画・お絵描き
東南アジアの島へ来ていた。

首都のある本島より栄えている小さな島。

島の若者たちは椰子酒を作る。椰子酒は「政府」からは禁止されているけど「祭り」の期間中だけ特例で許される。だが売ったり買ったりするのは駄目だという。

「ココ岩の島ネッ」とガイドの若者が椰子酒をすすめながら教えてくれた。

「ココじゃないのシマは珊瑚。ココ岩の山ネッ。ぼるけーの。珊瑚ジャナイ。あとのシマみんな珊瑚。ここだけほんとのシマ」

外海に面していて波も荒くシュノーケルには向かないこの島で泳げる海岸は少ないという。

「ホテル」のプライベートビーチだけで泳げるという

「ホテル」のプライベートビーチは海へ続く芝生の岸壁から降りていく。岸壁には小さな小屋が海へはみ出すように建っている。
大きな波がきたら土台の土地ごと海へさらわれてしまいそうな場所だ。

実際、何度も流されている。流されるたびに後退して建て直されている。
ガイドはまるで良いことのように笑いながら言った。

「シマのものは流されてウミへ帰る。ウミからシマへ魚になって帰ってくる。最近アナタガタも帰ってきた」

アナタガタと言われびっくりして辺りを見回すが客は私ひとり。

「アナタガタ」を丁寧語だと間違って覚えたガイドに連れられ島の「パブ」へ行く。
坂道を上がっていくと、地元の若者たちが6人ほども折り重なって窮屈そうにバイクに相乗りして坂を降りてきた。

「坂道はベンリィ。ガソリンいらない」

なるほどタイヤの回る音が聞こえるだけで静かにバイクは山羊畑の方角に降りていく。

坂の上の「パブ」に入ると島の若者たちは押し潰されるんじゃないかと心配するくらい窮屈そうに窓際の長椅子で椰子酒を飲んでいる。それはまるでブリューゲルの『子どもの遊戯』の一場面のようだった。店内の他の椅子には誰も座っていない。

「みんなギュっと集まるの島のハヤり。アナタガタの国サミシい」

そういうとガイドは長椅子に跨がり前の若者を押しつぶすように座り込んだ。

呆れて外に出て他の店を覗いてみてもどの店もみんな窮屈そうにぎゅっと押しつぶされながら楽しそうに「祭り」の密造酒を飲んでいる。

おかしな島に来てしまった。

最近は目が醒めてもなかなか起き上がれなくて夢ばかりみる。

先週はダブリンへ行って密造酒を飲み、今週は島に帰ってきた。

空豆の笛

2021年01月27日 | 日本画・お絵描き
ふっくら茹で上がった大きな空豆を口に含んでる大人を見て「大人は薄皮も食べるのか」と小学生の自分は驚いていた。すると次に篠笛より細い筒を口に含んだ空豆にスッと突き刺す。途端に鋭い音が扇風機の風に揺れて空気を震わせた。

父方の祖母の妹の二番目の娘だと紹介された辻が花を仕立て直したロングコートをゆったりと羽織って小さい箱座りした老嬢が空豆の笛で始まりを告げる。
天井の高い畳の大広間に集まった親族係累およそ三十人が一斉にわたしを見るので緊張して固くなっていると従兄弟が「なんでもいいから弾かなきゃ」と急かした。
左横に置かれた平べったい真四角のピアノの鍵盤に指を置き、空豆の笛に合わせて月の歌を、さて弾き始めようとすると「鍵盤全部が三度左にズレている」と耳打ちされた。
汗が引いていき髪の毛穴が全部開くのを感じたから胸を縮め目を閉じて音に集中する。
恐々弾いているのにピアノはどの楽器よりも鳴り響きそれが怖くもあり誇らしくもある。
気がつくと従兄弟は大きなエレキベースを抱え低く重い音を奏でていた。
今まで聴いたことのない低音を長く伸ばし空豆の笛とピアノを支える。
空気のひと粒ひと粒がくっきり輪郭を持って音になるのが目で見え、耳を震わせる。
子どものわたしに誰かが「まだ耳が若いからこの音は聞き取れない」と嘲るように囁いた。悔しくて「従兄弟だって小学生じゃないか」と思っていると「僕だって聞こえてないんだ。手探りで教えられた型を真似してるだけ」
彼はいつもきちんとしていて迷いがない。
本当に悩まなければならないときも決して迷わない。
「わたしには聞こえてるよ」と叫びたくなったとき誰かが「あれテルちゃんいないじゃないか」と騒ぎだした。
祖母の本名は「かな」なのだけど祖母は「かなは仮名に通じるから嫌いだ。テルがよい。お陽気に暮らっしゃせるテル!」と小さな頃から「テルちゃん」で通っていて、みんな口々に「テルちゃんの歌がないと終わらなあみゃ」とざわつく。
おばあちゃんが死んじゃったから集まったのにおばあちゃんを探してるのは変な話だ。
「此処にいる人たちはみんな死んじゃった人だよ」と従兄弟に教ええなくちゃと焦っていると「それは内緒」と空豆の薄い皮をペロンと剥がして出てきた真みどり色の翡翠を丁寧に保水ティッシュにくるんで「乾燥させると駄目なの」と箱座りを崩して前脚をぐんと伸ばし大きく欠伸をしてからスタスタ歩き出した三毛はもう何年も前に死んでしまった会いたかった猫。

鉋にかけられた話

2021年01月27日 | 日本画・お絵描き
駅の構内で車椅子に乗って電車の到着を待っていた。駅員に車椅子に荷物を乗せねばならんから降りてくれと言われる。
なすすべもなく呆然と立ち尽くしていると、荷物はどんどん積み込まれ予定通り列車が入っきて乗客が一斉に降りてくる。通勤客。
階段に殺到する人波に削られ身体は薄い破片になりあっという間に散らばってしまう。
舞い散る破片になった身体を拾い集め車椅子に積みあげる。
一枚の特別薄い身体が突風に吹かれ電車の架線に引っかかってしまった。
車椅子の上に立ち上がり手を伸ばし引っ張りおろす時に軽い火傷を感じる。
脇腹をかばいながら車椅子に乗ったまま構内の高架を渡れば誰かが大声でボートボートと叫んでいる。
「ボート」
何を言ってるんだと訝しく思う間もなく鋭く熱い刺激に気を失うと真っ白な冷たいシーツの上に横たわり規則正しい空調の音を聞いていた。
「もう大丈夫」と声が聞こえ頭の上を見ようとすると「動かない!お腹の赤ちゃんも助かった安心しなさい」と言われお腹をさすると痛みはもう消えて傷もない。

赤ちゃんはお腹にも何処にももう居なかった。

欠損とJazz Night

2020年10月17日 | 日本画・お絵描き

死んでいくのは、まあ仕方ない。、


知り合いに死なれると身体のちょっとが、もぎ取られて死んでいってしまう。

生きている方は死んだ人に纏わるアレコレ思い出を持ち続けている。
それは、本人の知らないことも、忘れてしまったことも含まれていてソコには死んだ人が確かに居る。

ところが、生きている方は死んだ人が持っていた自分への記憶を全て失う。

それは、埋葬された生け贄、土偶のようなもの。

もう永遠に失われた自分を自分の中に抱えて生きていくことが、これから先はだんだん増えてくんですね。





はい、そうみたいよ。


湖岸

2019年08月29日 | 日記

雨。一日中、雨。

湖岸沿いの道路を走っていたら、ひとかたまりの競技用自転車(おそらく)が前からやってきて、すれ違った。

小雨模様で、先頭の自転車は顔を真っ直ぐ前に向けて目を見据えて真剣な表情で走っていた。

真ん中後方の自転車が何か笑い声で叫ぶと手を離して踊るような仕草を見せて、後ろの自転車を振り返って見た。

魚の群れのようだ。
真ん中あたりは守られていて気楽だ。前と後ろはサメに食べられないように警戒しなくちゃならない。

加計呂麻島のカレー屋さんは去年の台風で屋根を飛ばされた後、青色のビニールシートで間に合わせていた。
今年の台風はどうだったのだろうか。

ヒロさんが言うには、カレー屋さんはああ見えてA級選手だった、たいした人だ。
高松宮杯を知ってるかと、カレー屋さんにたずねたら懐かしそうだった。

「賞金はあぶく。あぶく銭だからパーッとね」

奄美大島の連絡船に乗るとき、桟橋からカレー屋さんが真向かいに見えた。
四角い建物の青色の屋根。

湖岸沿い雨がヒドくなって風もヒドくなって、トンビが向かい風に煽られて進めなくなっていた。

自転車の一群とすれ違った辺りの空の上には、10羽ほどのトンビが風に乗って曲線を描いていた。
風の具合なのか、トンビの吹き溜まりなのか。トンビが始祖鳥のように飛ぶ様子は、子ども用の恐竜図鑑のような光景だった。


金を蒔く

2019年05月27日 | 日本画・お絵描き
錆漆の上に白漆
50番で研ぎ出し

この上から弁柄漆でコーティング
粉金を蒔く

コップの内側、死んだ
底が微妙に膨れていて筆が入らないのつらかった




次は外。

エナガ(1) 日本画

2019年05月24日 | 日本画・お絵描き

青墨で骨描きの上に
軽く胡粉

下塗り【花白緑】【濃口鼠】  

雲紋紙の表面も生かしたい

色を置いていくと、線描の大切さを実感

白絵までは遠い道のりだなあ

 

 

風颱風の次の日に落ちていたエナガ

 

台風のたびに、鳥の半数は死んでしまうんだよと、教えてくれた人がいた。

 

 

 

 

 

本当なのかどうか。

 


両替

2019年01月20日 | S-カル号(でんちゃん)
無限のベッド海岸を泳ぎ疲れて、岸辺のシャワーを浴びようと千円札を売店のオバチャンに交換お願いしたら空港のユニセフ透明ボックスの中みたいに、さまざまな種類の硬貨をジャラジャラジャラっと渡されて途方に暮れていた。








今朝。

ちゃーちゃん記念日

2019年01月13日 | S-カル号(でんちゃん)
3年前?4年前…の大雪の日に、ふーちゃんがにゃーにゃーにゃーにゃー大声でにゃーにゃー
ふーちゃんは声が大きいなあ。
あれれ?そのこは誰?
にゃーにゃーにゃーにゃー
そればっかりでは、わからないよとガリガリに痩せた土色のくしゃみをしては鼻水をとばして、この子はもう駄目かもしれないね。
でも、温かくして大切に育てたら、


この子、噛む

三白眼でにらむ

もう、ふーちゃんも近寄らない。

ガツガツ食べてにゃーの鳴かず、物陰からいきなり飛び出して必殺…やめて…



今夜、初めて胸の上で箱猫座り

O.K.…このまま

重くなったね、ちゃーちゃん




ちゃーちゃん記念日




座る方向が間違っていて尻尾で鼻をパタパタされた



幸せ…なのか?

わからん

猫なんか飼うもんじゃないと解っているんだ。水産資源の無駄使いで環境汚染の矛先で在来種保護の真逆でただの甘ったるいヒューマン感情移入で垂れ流して猫なんかわざわざ飼うんじゃなかったわざわざちゃうけど胸の上苦しいけど箱座りしてくれてありがとうねちゃーちゃん





ちゃうちゃうけど