ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

3 度 の 盗 難

2024-05-25 11:53:13 | あの頃
 幸いなことに、今まで大きな災難にはあってこなかった。
全く運がいい。
 だが、思い起こせば盗難に3度もあっている。

 「2度あることは3度ある」と言う。
「だからもうあうことはない!」と安心している・・訳じゃない。
 「もう懲り懲り」と願いつつ、記憶をたどってみる。 

  ① 最初の盗難
 二男がまだヨチヨチ歩きの頃、分譲団地に転居した。
5階建て団地の1階だった。

 小さい子供が2人だ。
保育所から帰ると、3日に1回は洗濯が必要だった。
 家内が夕食の準備をしている間、
洗濯はもっぱら私の仕事だった。

 当時は、まだ全自動洗濯機ではなく二槽式だ。
洗剤で洗った後に脱水槽へ移し、
脱水後、再び洗濯槽に入れて、すすぎ洗い。
 その後、再び脱水槽へ移動して脱水。
すすぎ洗いの行程は2度繰り返した気がする。
 とにかく手間がかかった。

洗った後は、1つ1つ物干しハンガーに干した。
 夜はそのままベランダの竿竹にぶら下げ、
悪天候でなければ、
翌日の夜まで干したままにした。

 さて、団地の1階ベランダだが、
普通のアパートに比べると床面が高かった。
 簡単には侵入できない。
しかも、周囲は芝生の広場で見通しがきいた。
 
 それでも、もしものためにとベランダへの出入口は施錠した。
干した洗濯物への警戒は、全くしていなかった。

 ところが、帰宅後いつものようにベランダへ、
昨夜の洗濯物を取り込みに行った。

 違和感があった。
確か物干しハンガーの全ての洗濯バサミに、
4人の下着と靴下をつるしたはずだ。
 なのに、ところどころ歯抜け状態になっていた。
もう1つの物干しハンガーも同じだった。 
 
 「もしかして下着泥棒!」
そう思って見ると、
家内のものが全て無くなっていた。

 「やられた!
夜中か、それとも日中か!?」
 怒りがふつふつとこみ上げた。

 私の知らせを聞いて、家内もベランダへ飛び出した。
そして、物干しハンガーを確かめながら、
「私のだけじゃないわよ。
あなたの色柄のブリーフも無くなっている!」。

 「そっか! きっと俺のブリーフも女物と思ったんだ。
男物と気づいて、今ごろガッカリしてるさ。
 馬鹿なやつだ!!」。
そう言い放つと、怒りが一気に消えた。


  ② 空き巣の善意
 子ども達1人に1部屋をと、
同じ団地だが部屋数の多い間取りへ転居した。
 今度は、2階にした。

 やがて2人には、ここから高校、大学へと
通ってもらうつもりでいた。
 しかし、現実は違った。

 長男が、京都の大学へ合格した。
胸を張って、京都暮らしを始めた。
 友人が、
「それを、合法的家出と言うんだよ」
と教えてくれた。
 それから3年後、二男までが同じように
「合法的家出」をした。

 そんなことがあった年の夏休みだった。
父の墓参りにと、家を空けた。

 1週間後、職場や知り合いへのお土産を買い込み、
帰路についた。

 団地2階の鉄扉にキーを刺した。
施錠したはずなのに、音もなく軽くカギが回った。
 不思議な気持ちのままノブを回し、玄関の扉を開けた。
室内から風が外へ流れた。  

 違和感が増した。
何かがいつもと違っていた。
 まさかと思いつつも、
もしものことを想像し家内を玄関口に残した。
 私だけ靴を脱ぎ、室内へ入った。

 テレビを置いた台と周辺の収納棚の引き出しが、
全て外され、積み重なっていた。
 「ねぇ、やられた。泥棒だ!」
家内へ叫んだ。

 キッチンの部屋、和室、私の机がある部屋。
そして、息子らがいた部屋と次々に回った。
 どの部屋も、引き出しの全てが外され、
部屋ごとに綺麗に積み重ねられていた。
 
 クローゼットや押し入れも、物色した形跡があった。
タンスの大きな引き出しも外され、横に重ねてあった。
 被害がどの程度か不安になった。 
 
 「まずは警察!」と連絡した。
しばらくして数人の刑事さんらが来た。
 私達への聞き取りの後、
足跡や指紋の採取を始め、
侵入経路など泥棒の行動を捜索した。
 私達には、盗まれた物を確認するようにと指示があった。

 部屋とベランダの間のガラス窓が、
施錠部分だけ割れていた。
 泥棒は、何らかの方法で2階のベランダに上った。
そして、窓ガラスを小さく割ってカギを開け、部屋へ入ったのだ。
   
 きっと犯行は夜だったに違いない。
数日は戻らないと知ってか、
侵入後は時間をかけて全部屋を丁寧に物色した。
 それは、きれいに積み上げた引き出しから、
私にも推測ができた。

 被害は、それぞれの引き出しにあった現金だけだった。
さほどの額ではなかった。
 タンスの引き出しには、数冊の預金通帳も印鑑もあった。
でも、それには手を出さずそのままだった。
 衣類も装飾品も、1つとして盗まれていなかった。

 それどころか、捜査した刑事さんも思わず、
「律儀な泥棒だ」とつぶやいたが、
食器棚の引き出しにあった封筒の現金だけは、
そのままになっていた。 

 その封筒には、毎月私の母と
家内の両親に送る1万円札が数枚入っていた。
 封筒の表には家内の字で
「お母さんと私の父母へ送るお金」と書いてあった。

 「きっと泥棒は、封筒の表書きを見て盗みをためらった」
私もそう思った。
 泥棒なのに善良な人のように思え、
怒りを一瞬飲み込んだ。


 ③ 酔いが覚める
 その日は、S区による監査委員監査があった。
主に教頭先生と事務職員の仕事内容が、
厳格にチェックを受けた。
 不備があれば、当然監督責任を校長の私が負うことになる。
結果は大きな指摘もなく、無事終えることができた。

 その夜、駅前で教頭さんと2人でお酒を酌み交わした。
お酒の勢いもあって、
その後、彼の好きなカラオケへ足を伸ばした。
 珍しく酒量も進んだ。
時間も遅くなった。

 彼とは駅で別れ、電車に乗った。
車内はガラガラで、空席があった。
 座るとすぐに、寝てしまった。

 電車が、駅に停止したのに気づいて、目が覚めた。
私が降りる1つ前の駅だった。
 このまま座っていたら、また寝るような気がした。

 寝過ごさないようにと立ち上がり、
ドア近くの手すりまで移動した。
 いつの間にか手すりにもたれ、立ったまま寝入ってしまった。

 電車が止まった揺れで、目覚めた。
幸いなことに、私の降車駅だった。
 カバンを持っているのを確認し、ホームに降りた。
ゆっくりと階段へと歩き出した。

 急に、異変を感じた。
いつも二つ折り財布のあるスーツの内ポケットが軽い。
 ポケットを、手で触ってみた。
「財布がない!」

 立ち止まって、スーツを広げ内ポケットを見た。
一気に酔いが覚めた。
 内ポケットの入口ボタンはしっかり止まっていた。
ところが、ポケット下の裏地がスッと切られ、
口を開けていた。
 そこから財布は抜き取られたのだ。

 手すりにもたれて眠った間のことだろう。
まんまとやられてしまった。
 それにしても、裏地を一直線に切るなんて、
あまりにも危険な手口だ。
 気づかずに寝入っていたのが、幸運だったかも。

 駅からのタクシー代もないまま、
しばらくは冷静さを失っていた。




 クリンソウと言うらしい ~だて歴史の杜『野草園』

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