ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

『北の国から』 あのシーン ③

2016-12-02 22:04:59 | 北の大地
 東京の知人たちが、夏休みを利用して、
わざわざ伊達に足を運んでくれた。

 車で小1時間もかからない市内観光だが、
色々な所で下車しシャッターを切り、
風景をカメラに納めていた。

 小高い農道から、なだらかな丘陵に広がる、
色とりどりの畑を見下ろし、
大きく息をはき、つぶやいた。

 「わざわざ富良野まで行かなくても、
ここは『北の国から』と同じ。」

 私もそう思っていた。嬉しかった。
その言葉を、宝にしている。

 さて、前々回、前回に引き続き、
ドラマ『北の国から』の、生き続けている場面を綴る。


  ⑥ 大人の壁を越え

 1992年5月22日・23日、
2夜連続で放映されたのが、『‘92巣立ち』だ。
 純は、東京のガソリンスタンドで働き、
蛍は旭川の看護学校にと、
2人とも富良野を離れていた。 

 この『‘92巣立ち』のいくつもの場面に、
私は、よく立ち止まった。
 何度も、心動かされ、熱いものがあった。
私の中では、名作なのである。

 ▼ 蛍は、帯広の大学にいる
恋人・勇史に会いには行くものの、
富良野には帰らなかった。

 蛍は言う。
「お兄ちゃん、私たちは勝手よね。
あんなに独占したがっていた父さんの愛情を、
今度は、私たちがよそに、
その愛情を向けようとしている。」

 この言葉は、成長する子どもの当然の成り行きだが、
しかし、寂しさを痛感したのは私だけではないだろう。

 ▼ さて、純だが、大変な出来事が・・・。

 純は、ピザハウスで働く松田タマコと知り合いになる。
そして、2人は渋谷のラブホテルで、
大人の壁を越えた。

 しかし、れいちゃんのように、
タマコを愛している訳ではないと純は思う。

 「東京に出て、4年7か月。
不純なことが平気でできる様な、
汚れた人間になってしまった。」
 こんな純の感性が、私は好きだ。

 しかし、つまるところ、タマコは妊娠。
そして、中絶。

 その知らせを、タマコの叔父から受けた五郎が、
大きな鞄を抱えて、駆けつけた。

 早々、五郎は尋ねる。
「その娘と結婚する気があるか。」
 純は、黙っていた。

 「あやまっちゃお! 純、あやまっちゃおー!」
優しく語りかける五郎。
 そして、自分と同じようにやれと言い、
タマコの叔父の豆腐屋を訪ねる。

 五郎は、挨拶代わりにと、
鞄からカボチャを6個取り出し、並べる。
 部屋に上がると2人は、ずっと頭を下げ続けた。

 富良野は丁度、カボチャの収穫時期である。
取り急ぎ、鞄に入るだけつめてきたのだろう。
 それを差し出し、謝罪する五郎。
五郎の不器用さと真心が、心にしみ込んだ。
 切なさに、私まで包まれた。

 ▼ ところが、タマコの叔父は、
蛍が同じ状況になった時を、本気で考えるようにと言い、
「誠意とは、いったい何かね。」と、
五郎に問うのだ。

 カボチャを持ち帰るように言われた2人は、
しかたなく、いっぱいやることにする。

 五郎は、飲みながら、
草太の結婚式のこと、蛍や正吉のことを、
しきりに話した。

 純は気づいていた。
五郎は、純を叱らず、話をそらしていた。

 親として様々な思いが、五郎にはあったはずだ。
しかし、それよりも純を気遣う五郎。
 優しさと温かさに、純は泣いた。
私も涙した。

 ▼ 富良野に帰った五郎は、
タマコの叔父が口にした「誠意とは、いったい何かね。」
について考え続けた。
 そして、家を建てるために買った丸太を、
300万で売りたいと言い出した。

 「そんな大金を何に遣う?」と訊かれ、
「誠意だ。」と、答えた。

 11月末の東京、突然、純の前にタマコが現れる。
タマコは、純に封筒を差し出した。
 五郎が送った100万円が入っていた。
受け取れないから、五郎に返すようにと言う。

 その後、タマコはブランコに腰掛けながら、
あの名セリフを言って去る。

 「東京はもういい……私…卒業する!」

 この言葉は、何故か私に強く響いた。
あの頃、私は東京での充実した日々を過ごしていた。
 しかし、いつか私にも、
「東京はもういい…」と思えることがあるのでは…。
そんな思いが心を巡った。
 以来、何かにつけ、この言葉が独り歩きをした。

 ▼ 大晦日、純は約束通り、旭川空港に降り立った。
五郎が迎えた。
 2人で、喫茶店に入った。
純は、例の100万円の封筒を出した。
 ところが、五郎は言う。

 「これは…、おいらの…血の出るような金だー!
だけども、おまえにやったもんだ。
 返してほしいのはやまやまだ。
今にも手が出て、ひったくりそうだ!
 でも、おまえにやってしまった金だ!
やった以上、見栄っちゅうもんがある。」

 父親として、精一杯の正直なプライド。
それを真っすぐに通そうとする五郎。
 私は、脱帽するだけだった。
でも、そんな父親に私も近づきたいと、
密かに思っていた。

 
  ⑦ いつでも富良野に

 『‘95秘密』は、1995年9日10日に放映された。
五郎は、石で建てた家で一人暮らし。
 純は正吉と一緒に、富良野でアパート暮らしをしていた。
仕事は、ごみ収集車の作業員だ。

 このドラマで、私は純と蛍のそれぞれの苦悩と、
2人への五郎の、慈しみとも言える深い愛情に心を揺さぶられた。

 ▼ まずは、純である。

 れいちゃんとは、次第に疎遠になり、
純は、れいちゃんの花嫁姿を、
遠い道路脇からそっと見た。

 純は、新しい恋人シュウと出会う。
ところが、シュウには東京でAV出演の過去があった。
 とうとう、そのことを知ってしまった純は、苦しむ。

 そんな時、五郎は、アパートで手を洗う純に語る。
「お前の汚れは、石鹸で落ちる。
けど、石鹸で落ちない汚れってもんもある。
 人間、長くやってりゃあ、どうしたって、
そう言う汚れはついてくる。

 お前だってある。
父さんなんか、汚れだらけだ。
 そういう汚れは、どうしたらいいんだ。えっ……」

 誰にでもある後悔、人生の汚点。
人はそれを、どうにか許し合い、乗り越え、生きている。
それを、五郎らしく純に諭した。
 共感した。

 雪の舞う夕刻、純はその言葉に押されて、
シュウの待つ喫茶店に行く。
 シュウは、東京でのいきさつの全てを手紙に書いた。
それを、純の前で読み始めた。

 純に限ったことではないだろう。
五郎とシュウの、こんな心ある言動を前にして、
打ち解けない者など誰もいないと思う。

 純はシュウに向かって言う。
「今度の日曜日、山部山麓デパートに行かねぇか?」

 それでこそ純だ!

▼ 一方、札幌の病院に勤めていた蛍だが・・・。

 その病院の医師と許されない恋、そして駆け落ちする。
その2人が、落ち着いた先は、根室の落石だった。

 年が明けてからのこと、
五郎は、自宅を訪ねてきたその医師の奥さんから、
事実を知らされる。

 翌朝早く、五郎は純に、
落石まで一緒に行ってくれと頼む。

 落石に着くと、五郎を食堂に残し、純は蛍を見つける。
そして、少しお酒が入った五郎のところに案内する。

 五郎は訊いた。「今、幸せか。」
「幸せよ。」ポツリと蛍は答えた。
 少し戸惑った笑顔で、
「幸せ、そう、それが一番、なによりだぁー」
  蛍を責めたり、叱ったりしない五郎。

 持参した鮭を渡して別れた。
それから、五郎は蛍に叫んだ。
 「いつでも、富良野に帰ってくんだぞぉ!」

 たまらず、蛍は引き返して言う。
 「父さん、あたし一人のときはね、
ほんとは、毎日自分を責めてるの…、
 だけど、どうしようもないの!
…ごめんなさい。ごめんなさい!」

 傷つきながらも、想いを貫こうとする蛍の健気さ。
五郎でなくても、とがめたりなどできない。

 その後、五郎は、富良野までの8時間、
ずっと口を閉ざしたままだったと言う。
 五郎の切ない胸の内が伝わってきた。
少しでも、それを引き受けてやりたかった。

                  < 完 >


 

 だて歴史の杜公園の広場 まだ緑色! 

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