小指ほどの鉛筆

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外出

2007年09月26日 21時22分48秒 | ☆小説倉庫(↓達)
##「少年時代」のように、ゼロロとクルルが出会っていることが前提です。
  クルルはすでにゼロロを意識し始めています。

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僕は病弱で、いつでも危険と隣りあわせだった。
何回も何回もお医者様と会って、そのたびに薬は増える一方で・・・。
そのときはこの病弱な体がよくなるとは思ってもいなかったんだ。
でもよくなりたかった。
幼馴染の二人と遊びたかったから・・・いつかは追いつきたかったから。
外が憧れで、窓越しの外じゃなくて、青い空の下に行きたかった。
いっそその青に浸かりたいとも思った。

―僕を連れ出してくれた、君はいったい何を思ったの?


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一旦病状が悪くなると、母はしばらく外へ出してはくれなかった。
「ねぇ、今日はすごく体調が良いの・・・外へ行っちゃダメ?」
ゼロロはその問いをもう4日も続けているのだ。
しかし母は首を横に振るだけ。
医者に至ってはもう、何ともいえないような微笑を浮かべたままで、答えてはくれなかった。
「お夕飯にまた来るから、寝てなくちゃダメよ?」
毎日毎日同じ台詞。
ゼロロにはもう、母が言うだろう次の言葉が分かってしまっていた。
「もう少しの辛抱だから。」
その言葉を何回聞いたのだろうか?
そんな言葉はもはや、気休めにもならない。
ゼロロが求めるのは高価なおもちゃでも、食べ物でもないのだから。
青い空と太陽が欲しかった。
以前幼馴染たちと外を走ったのはいつだったか?
「ケロロ君、ギロロ君・・・」
一人になった広い部屋の中で、ゼロロは現れるはずがないであろう友の名前を口走った。
「ママ・・・まだ外に出ちゃダメ?」
外はとても晴れているというのに・・・


「ん~~・・・」
いつの間にかゼロロは、座ったまま寝てしまっていた。
外がそんなに暗くなっていないところから見て、まだ2時間ほどしか経っていないのだろう。
「いつもより早く起きちゃった・・・。」
3時といえば母が見回りに来る時間。
いつもならゼロロが寝ているだろう時間だ。
―コツコツ
静かな部屋に足音がよく響く。
それが母だと分かりきっているため、ゼロロは急いで布団をかぶり、寝ているふりをした。
「よく寝てるわね・・・。」
確認を済ませれば、母はすぐに部屋から出てゆく。
あとは本当に夕飯までこの部屋にくることはない。
「・・・つまんない・・・」
ふと外を見れば、広い公園が広がっている。
はしゃいでいる同年代の子供たちは、今このときに誰かが病気で外に出られないことなんて考えてもいないことだろう。
「あれ?」
ところが走り回る子供たちの中に一人だけ、場違いな雰囲気を持つ少年がいた。
「・・・・・・クルル君?」
森でであった不思議な少年。
「何やってるんだろう?」
窓に手をついて、目を凝らしてよーく見る。
ベンチに座って何かをしている。
それがゲームや読書でないことはよく分かった。
そんな動きじゃない。
「行きたいな・・・。」
顔見知りといえばケロロかギロロしかいなかった。
そんなゼロロにとって、他の知り合いを見つけたことがどんなに嬉しいことだったことか・・・。
「大丈夫・・・だよね。」
クローゼットから適当な衣服を出して着る。
そして慎重にドアを開け、お手伝いさんに会わないよう、出来るだけ足音を消した。
エレベーターを使わなければいけないときは流石に焦ったが、なんとかばれないで済んだようだった。


久々の外は眩しく、風が心地よい空気を運んできてくれた。
「う~~ん・・・気持ち良い。」
新鮮な空気を体いっぱいに吸い込み、彼が居なくならないうちにと少し早足で公園へと向かう。
しかしその心配は無かった。
「クルル君っ!」
クルルはのんびりとベンチに腰掛、小さな機械を分解していた。
ゼロロが現れたときは少し驚いたようだったが、迷惑そうな顔はしなかった。
「お前・・・ゼロロとかいう・・・。」
「そう!覚えててくれたの!?」
「覚えてないかも知れねぇのに来たのか?」
見定めるように眺めてくる。
「うん。もう10日間も部屋から出られなかったんだもん。窓からクルル君が見えたから、がんばって抜け出してきちゃったっ。」
「抜け出す?」
「・・・隣、良い?」
「勝手にしな。」
「うん。」
ゼロロはクルルの隣に座ると、この10日間の鬱憤を晴らすかのように話し始めた。
「僕、生まれたときから病弱でね?しかも喘息持ちなの。それで、少し悪化するとママは・・・僕を部屋に閉じ込めて、『寝てなさい』って言うんだよ。薬なんてもう、食べる量より多いかもしれない。」
クルルはしばらく機械をいじっていたが、やがて興味が湧いてきたのかゼロロの話に耳を傾けた。
「もうすぐよくなるとか、もうちょっとの辛抱だとか、そういうのってずるいよね?僕はもう外に出たいんだ。僕はペットじゃないんだよ・・・。ここから見えるでしょ?あの窓・・・僕の部屋の窓だよ。」
「あそこって・・・お前大富豪の息子かよ。」
「そうみたい。でも僕にとってあの部屋は広すぎるんだ。」
指差しながら微笑むゼロロは、森で出会ったときよりもずっと儚げな少年だった。
「どうせ同じ『広い』なら、青空の下が良い。」
「へぇ。」
「クルル君がここにいてよかった。こうやって外に出られたんだもんっ!」
「そう。」
一見どうでも良いように聞こえるクルルの相槌も気にせずに、ゼロロは話し続ける。
「僕友達が少ないんだ・・・幼馴染が二人いるんだけどね?」
「森にいた?」
「うん。僕と普通に遊んでくれるんだ。」
よっぽど嬉しいのだろう、地につかない足をパタパタと動かして笑う。
けれどもまたすぐに暗い顔つきになった。
「でもたまにしか遊べない。もっともっと外のこと知りたいのにな・・・。」
「つくづく思う、俺が金持ちじゃなくてよかった。」
「そうだね。羨ましいな・・・自由なんて。」
「・・・まぁな。」
ゼロロは大きく息を吸い込んだ。
「お前、帰らなくて良いの?」
クルルが唐突に聞いてくる。
「晩ご飯の前には戻らないと、ママが戻ってきちゃう。」
「何時だ?」
「7:00くらいかな?」
今の時刻を確かめ、クルルはベンチから降りた。
「どうせ暇だから、ついてくる?」
「良いの!?」
「あぁ。」
ゼロロもベンチから降り、クルルの横に立つ。
こうしてゼロロは少しの間だけ、外の世界を堪能することが出来ることになった。
時間にして約3時間ほどの、二人だけの時間。


「まずはここだな。」
最初に来たのは狭い空き地。
「何があるの?」
「特に何があるわけじゃないんだけどな・・・」
そう言いつつクルルは周りを見渡す。
と、何かが土管の中から飛び出してきた。
「わっ!!」
「いたいた。」
クルルは慣れたようにそれを抱え、ゼロロの前に持ってきた。
「ただの猫だぜ?」
「猫?ほんとだ、可愛い。」
ゼロロは正体が分かったとたんに笑顔になり、その頭をそっと撫でた。
「クルル君の猫?」
「いや、たまたま見つけた。世話してるわけでもない。」
「へぇ・・・でも綺麗な猫。クルル君に可愛がってもらってるんだね~。」
子供に話しかけるかのように猫に話しかけるゼロロ。
クルルもそれを見ながら、猫の首を撫でた。
「あっ。」
突然猫はクルルの腕からすり抜け、またどこかへ消えてしまった。
「行っちゃったね。」
「アイツ気まぐれだから。」
「そっか。あのこも自由なんだね。」
「猫だからな。」
クルルは服についた毛を払い落とし、素っ気無くそう言った。
「次行くか。」
「うん。」
クルルの後ろをついて行く様に歩く。
空き地からそう離れていない場所に、今度は廃墟があった。
ためらいも無く入ってゆこうとするクルルの服の裾を掴み、ゼロロが一旦止める。
「クルル君、勝手に入っちゃっていいの?」
「廃墟だぜ?誰も住んでない。」
「でも・・・」
「じゃあついてこなくていい。」
一言にゼロロが固まる。
「どうする?」
「い、行く・・・。」
その返事が分かりきっていたようにクルルはニヤリと笑い、先へと進んでいった。
家の中に入ると、アンティークな家具が沢山見つかる。
クルルが手に取ったのは引き出しの中に入っていた懐中時計だった。
それをポケットの中に入れ、満足そうに微笑む。
「本当にいいのかなぁ・・・。」
「ここの住人はもう8年前に死んでて、この家はそのときの状態となんら変わりないそうだぜ。貰い手もいない。」
「誰から聞いたの?」
「向かいの家にいたおばさん。」
平然と言うクルルにゼロロは感心してしまった。
「すごーい!よく聞けたね。僕じゃきっと無理だよ。」
「そうか?」
褒められることに慣れていないのだろうか?クルルは必要以上に顔を赤らめた。
「うん!」
「それよりも・・・上にいかねぇ?俺もまだ行った事無いんだ。」
「行く!」
二人は軋む階段を上り、廊下を歩いた。
子供部屋なのだろう、名前の書かれた可愛いプレートが掛かっている。
さび付いたドアノブをまわして部屋に入る。
「わぁ・・・。」
ゼロロが思わず感嘆の声を上げた。
「何だこりゃ。」
クルルも驚きを隠せない。
その子供部屋には、数え切れないほどのビー玉が転がっていたのだ。
「綺麗・・・。」
微かに入ってくる夕日が、その輝きをいっそう際立たせていた。
ゼロロは部屋に入り、さまざまな大きさのビー玉を手に取った。
透き通ったガラス玉の中に一筋の青い線が入っているもの、大きいものに小さいもの・・・。
「ビー玉コレクターか?」
「そうかもしれない。」
クルルは足元のビー玉をいくつか掴み、ポケットに入れた。
ゼロロはビー玉の中に座り込み、夕日を見ながら人形のようにじっとしていた。
「・・・おい。」
「ん?」
そっと後ろを振り向くゼロロは、不覚にも可愛いと思ってしまう。
「そろそろ時間ヤバイかもしれねぇ。」
「そうだね・・・。」
名残惜しそうに立ち上がったゼロロは、丸い玉を踏まないように気をつけながらクルルの元にたどり着いた。
「結局2箇所しか来れなかったけどな。」
「でも楽しかったよ。」
「・・・あっそう。」
ゼロロはクルルの手をとって歩き出した。
クルルは唖然としていたが、すぐに顔を赤くして口を開いた。
「な、何で手繋いでんだよ。」
「嫌かな?」
「別に・・・」
「最後かもしれないから・・・もう外でクルル君に会えないかもしれないから。」
繋いだ手がさらに強く握られる。
クルルも抗議することはやめた。
寂しさで、抗議なんてできなかった。


来た道をずっと戻れば、すぐに公園に着いた。
「6:30か・・・セーフってところだな。」
「うん。ありがとうね。」
にっこりと笑うゼロロのその青い瞳を見て、クルルはポケットを探った。
「これ。」
さっき子供部屋で拾ったビー玉の一つをゼロロに渡す。
「え、いいの?クルル君の拾ったものじゃ?」
「あと4つはある。」
そう言ってその中の一つを手に取り、ゼロロに見せるように掲げた。
「・・・ありがとう。また会えたら・・・良いね。」
「・・・。」
「さよなら。今日はありがとう。」
小走りで家へ帰ってゆくゼロロに、クルルは出来るだけの声を張り上げた。

「またな!!ゼロロ!!!」

ゼロロが一度立ち止まり、振り返る。
けれどもその顔を見ないように、クルルはくるりと後ろを向いてしまった。
恥ずかしさと切なさでいっぱいだった。


どうにか誰にも会わずに部屋に戻ることが出来たゼロロは、パジャマに着替えてからクルルにもらったビー玉を手に取った。
「またね・・・また会えると良いね・・・。」
自分の名前を呼んでくれる人が増えたこと。
また会おうと言ってくれた人がいること。
「ちょっと疲れちゃった・・・。」
ビー玉を小さな箱の中に入れ、再び布団に入る。
後10分もしたら母が自分を起こしに来るだろう。
夕飯を食べたら、改めてこの布団に入る。

久しぶりの外だった。
新しい発見。
新しい場所。

(今度ケロロ君たちと行ってみよう・・・。)

でもやっぱり、
もう一度彼と一緒に・・・あの場所へ行きたい。

そのためにも早く元気になるんだと決意し、ゼロロは今日の薬も飲むんだと覚悟を決めた。
(また増えてるんだろうけど。)
それでもそれでよくなるのなら、また彼と探検が出来るのなら。


夢の中だけじゃ足りないよ。
また外出したい。
君と、青い空の下を走ることが出来るように・・・。


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終了ーーー。
少年時代で書こうと思っていたネタ。
上手くできていれば良いな。