小指ほどの鉛筆

日記が主になってきた小説ブログサイト。ケロロ二次創作が多数あります。今は創作とars寄り。

紅白わあぁぁ!!

2008年12月31日 23時40分34秒 | ☆Weblog
紅白、最初から最後まで見ましたよ~~^^
楽しかったです。
ポルノグラフィティ最高!!!
それにしても、皆さん衣装が素敵でしたねww
好みすぎるww

さて、カラムーチョ食べながら小説完成させるか・・・

私はついに本格的に大佐を受けにするつもりですよ、えぇ。
オリキャラまで出してめちゃくちゃにするつもりですよ。えぇ。
大好きだーー!!(笑

・色々と忘れたいことがある。3(大佐受け)

2008年12月31日 23時27分07秒 | ☆小説倉庫(↓達)
「大佐がさらわれたって本当か!!?」
大きく重い扉が開いて、暗い室内が照らされる。
息を切らせて入ってきた男は、そのまま真っ直ぐに部屋の中心へと進み出た。
「シャイン。静かにしろ。これは他の奴等には内密なんだからな。」
集まっていたのは、大佐に親しい極一部の人々。
もちろんそこには、ガルルとゾルルも含まれている。
「シャイン?」
「あぁ、コイツのあだ名だ。大佐がそう呼び始めたんだっけな。」
ケロン人らしくない名前に首をかしげたガルルも、その説明に納得する。
大佐は自分の名前を教えない代わりに、相手の名前も聞こうとはしない。
もちろん仕事上必要なときは申し訳なさ気にでも聞くのだが、それでも自分の名前を教えない限りはフェアではないからだ。
「話は聞かせてもらったが・・・マジなのか?」
「残念ながら本当だ。」
「調べた結果、特徴が吸血鬼族に酷似していることが分かった。恐らく間違いないだろう。」
問題は、どうやって彼らのいる空間に移動するか。
大切なのは慎重性。
彼らが大佐をさらった理由が分かるまでは、大きな事はしないほうが無難だろう。


「さて、新年はワインで迎えようじゃないか。」
3人にしては広く大きな食卓に、さまざまな料理とワインが並んでいた。
サファイラスにどうしてもとつれてこられた大佐は、その光景に目を細める。
無駄すぎる。
そもそも新年はワインよりも地球製の日本酒の方が似合う。
「当然最高級のものだ。私はこんなものよりも、人間の血が飲みたいところだが。」
勝手に飲んでろと、普段の自分なら絶対に言わないような言葉までもが浮かんでくる。
彼には近づきたくない。
「ルベウス。もっとこっちへ来い。」
けれどもそんな大佐の心境などお構い無しに、アダマスは手招きをする。
「嫌だね。わざわざ危険な位置になんて座らないよ。」
「ふむ、残念だ。」
アダマスから一番遠い位置に座り、サファイラスをチラリと見やる。
アダマスに近い位置、それでも大佐を視界に入れることが出来る位置が、彼の定位置のようなものだった。
それもやはり、昔から。
「まぁ良い。こうして3人揃っただけでも、十分に素晴らしい新年だ。」
目の高さまでグラスを持ち上げ、アダマスは微笑む。
その様子に、サファイラスは大佐に目配せをした。
父上に合わせて欲しいと、目がそう言っていた。
「・・・仕方ない、か。」
大佐も、よく社交辞令でするように、グラスを持ち上げた。
そして乾杯をする。
グラスは触れ合っていないものの、毒は入っていないだろう。
むしろここから脱出できるのなら、それが例えあの世行きの毒物だって構いやしない。
「お気に召してもらえたかな?」
ヤケになって一気飲みしたワインは、すんなりと喉を通った。
「・・・相変わらず面白くない味だ。」
無難すぎて、味に面白みがない。
確かに飲みやすくておいしいのだが、自分はそんな酒では楽しめない。
酒に酔わない分、違う分野で酒を楽しみたいのだ。
それを知っていての嫌味か、それとも自分への厚意か。
「良いモノだろう。お前のためだけに取り出してきた品だからな。お前が楽しまなくては意味がない。」
満足そうに自分も酒を煽り、アダマスは身を乗り出した。
「この屋敷から逃げ出した後、お前はあんなところで何をしていたんだ?」
「教える義務はない。」
「そう言うな。ずいぶんと心配したんだぞ?」
父親ぶるな。
そう悪態をつきたくなるような偽りの笑顔に、やはり酒を飲みたくなる。
ワインを注いで、大佐は再び一気に飲み干した。
そんな様子に、アダマスは溜息をつく。
そして、その鋭い視線を大佐に向けた。
「私から離れて、お前は何所で誰と過ごしていたんだ。」
それこそ言う義理はない。
逆恨みに過ぎないその質問に、答えたところでどうなるというのだ。
「・・・」
「それはお前の大切な人なのか?」
「・・・さぁ。」
大切かどうかなんて分からない。
考える暇もないほど早く、あの人は死んでしまった。
大切な人。
今思えば、確かにそうだったのかもしれないが。
「その人はお前を助けに来てはくれないのか?」
「来れないだろうね・・・空から見ていることしか、出来ないはずだ。」
その言葉で、アダマスは悟ったようだった。
哀れみの視線を向けて、優しい口調を作り上げた。
「そうか。お前の大切な人は皆いなくなってしまうな・・・その人も、実の両親も。」
お前が殺したくせに。
そう言っていいのか、分からなかった。
「大切なものは、鍵をかけてしまっておくべきだ。勝手に逃げ出さないように、鎖で繋げておくべきだ。」
「それで防げるくらいなら、とっくにしているさ。」
彼は、何が言いたい。
「出来るさ・・・契約するんだ。」
「!!」
「彼らと契約すればよかったんだ。いや、そんなことをしなくてもいいかもしれないな。お前の今の階級は大佐だったか。その権力を少しだけ利用すれば、閉じ込めておくことが出来る。逃げられないように、失わないように、綺麗なままの姿で、閉じ込めてしまえば・・・」
それは歪んだ考え方だ。
参考にもならない。
「お前がしっかりとしていれば、大切な人を失わずに済むんだ。」
「・・・バカなことを言わないで欲しい。」
「お前は臆病だな。どうしてそれだけのことが出来ない。」
それは、同時に自分の首も絞める。
大切な人を壊してしまうことにもなる。
けれども・・・
―怖い
大切なものを失うのが、怖い。
これ以上は、自分の周りの人間を殺させはしない。
「地位も権力も、脆いものだ。」
「そうかもしれないな・・・なら、その血を使え。」
契約して、鎖に繋げ。
「私はお前が大切だから、こうして契約しようとしているんだ。」
愛しているのだと、呟く。
サファイラスは、その呟きに何か言いかけて、やめた。
「貴方の愛はよく分からない。」
「全ての愛だ。親としての愛も、個人としての愛も、その血への愛も、全てを含んだものだ。」
「ふざけないで欲しい。どれだけ貴方が僕を苦しめるか・・・」
「それが、鎖なわけだよ。」
自分のものにしてしまいたい。
それはもぅ、大切なものを守るためではなく、捕らえるためだけに使われる鎖。
「私はお前と契約して、お前を一生傍に置いておきたいんだ。大切なものを失ったのなら、分かるだろう?」
失うのは怖いことだ。
寂しいことだ。
辛いことだ。
頭の中で反響する言葉が、大佐にとっては忌々しかった。
「さて、新年の儀式を終えたらとりあえずは用済みだ。書庫の本でも読めばいい。」
「帰すつもりはないわけか。」
「どうして帰らせなくてはいけないんだ。こんなに・・・これほど傍にいるのに。」
もぅどうにも手放せそうにないと、アダマスは笑った。


「クルル曹長に頼みましょう」

そう言ったのは、間違いではなかった。
ガルルはケロロ小隊に連絡し、事のあらましを伝えた。
もちろん彼らは快く調査に協力することを約束してくれ、クルルはアダマスの居場所までを捕まえてしまった。
「彼は凄いな・・・もぅここまで・・・」
アダマスの使った空間移転は、ケロン人のものと変わりない。
それならばと、ドロロの零次元を使って同じような歪みを生じさせてみたのだ。
そこから時空の歪みを計算すれば、クルルにとっては場所の特定なんて苦ではない。
ついでにと、吸血鬼族の特徴やしきたり、更には歴史まで調べてくれた。
彼もずいぶんと丸くなったものだと思う。
「結構厳しい条件にある星だな・・・ここに吸血鬼族が住んでいるのか?」
「いや、既に一族は滅びかけているそうだ。各地に散らばっているものの、純血の吸血鬼族はアダマスくらいだそうだが。」
ガルルが大佐から聞いた話と吸血鬼族の歴史を照らし合わせると、アダマスがかなり焦っているのではないかとも思う。
大佐の父親が元々吸血鬼族だったという事は、大佐には半分でもその血があるという事だ。
一族を立て直すには丁度いい人材、と言ったところだろうか。
「とりあえず、大佐の救出が先だな。考えるのは後だ。」
「全員で行くのか?」
集まっている人数は20人ほど。
この中で戦闘もこなせる人物といえば、限られてくる。
「まずゾルルには協力して欲しい。私も行く。」
ガルルは自分とゾルルを指名した。
「俺も行くぞ。」
名乗りを上げたのは、シャインだった。
「一応アイツの友達だしな。それに、兵として戦うことくらい出来る。」
「じゃあ、3人で行きましょう。少ないほうが良い。」
「アイツが解放されれば、戦えるのは4人になるしな。」
シャインの発言に、ガルルとゾルルは不思議そうな顔をする。
「大佐は、戦闘はこなせないんじゃないんですか?」
「アイツは怖いぞ。うん。」
「はぁ・・・?」
膳は急げ。
すぐにでも出発しようと言うシャインに頷いて、ガルルとゾルルも身支度を整えて船に乗った。


「愛、か・・・」
「サファイラス。あの人の言っている愛は君が思うものとは違う。少なくとも僕はそんなのゴメンだ。」
「例え歪んでいても、父上が与えてくれる愛なら俺は何でもいいさ。」
ベッドの上で本を読んでいた大佐は、サファイラスの溜息に顔を上げた。
「酷い話だよ。アダマスは目の前の獲物にしか目がないんだからね。隣にこんなに食べやすいのがいるっていうのに。」
もちろん食べられては困るがと、大佐は笑う。
「それほどに、父上はお前が好きなんだ。」
「かもね。応えるつもりもないけどさ。」
サファイラスは悲しそうに俯いた。
大佐は本に視線を戻す。
昨日から読み始めて、もぅ4冊目を読み終えてしまう。
沢山の本を持っては来たものの、これではすぐにまた書庫へと行かなくてはいけないようだ。
「せめて・・・」
「ん?」
「せめて、父上の傍にいてはくれないか?」
「は!?」
思わず大声を出してしまったが、サファイラスの目は真剣だ。
「好意に応えられなくても、せめて、傍に・・・俺達のところに、いてくれ。」
「どうしてそんな・・・」
「父上の喜びは俺の喜びでもある!それに、お前が居てくれれば、俺だって嬉しい。」
大佐は頭を抱える。
自分がここにいたところで、何が変わるというのだ。
サファイラスは胸の痛みを感じ、アダマスは欲望に忠実に動き、自分は常に警戒心を張っている。
そんな生活はゴメンだ。
「君は嫌いじゃないんだよ、サファイラス。でも・・・」
「父上は、お前をそばに置いておきたいだけだ。ここにいれば、契約なんてしなくてもいいはず!」
「甘いよサファイラス。」
大佐の冷たい声に、サファイラスは言葉を詰まらせる。
「昔から、彼は僕に契約を迫っていた。今更そんな気休めは通用しない。」
彼は貪欲なのだ。
求めたらきりがなく、与えても満足しない。
「不用意に近づいて襲われるのも勘弁だ。」
ここにいるわけにはいかない。
「でもサファイラス。君は・・・僕の兄弟でいてくれるかい?」
その問いに、サファイラスは深く頷いた。


「ルベウス・・・お前は罪な宝石だ。全ての者を虜にし、人々の欲を沸き立たせる。」
暗い室内に、怪しい灯りが揺らめく。
赤い瞳はその火を見つめ、そして笑った。
「誰にも渡しはしない。・・・永遠に、私だけのものだ・・・」


「サファイラス。ルベウスの様子は?」
「いたって普通です。特になんの変化もありません。」
アダマスの自室にサファイラスは来ていた。
扉は閉められ、他の誰にも話を聞かれる心配は無い。
「そうか・・・なら、今夜辺りにでも招待するか。この部屋に。」
椅子から立ち上がった後、サファイラスの傍らまで歩み進む。
サファイラストいえども、もちろんアダマスの指令が優先的だ。
大佐がいくら足掻いたところで、勝ち目はない。
「連れて来れるか?」
「・・・えぇ。」
「不安か。なら、私が直々に向かおう。お前は自室にいればいい。」
「申し訳ありません。父上。」
アダマスは笑う。
これから見ることが出来るだろう赤い瞳と、右耳に光る同じく赤いピアスの輝きを思って・・・
「招いてもいない客がきた場合は・・・お前に全て任せる。」
「はい。」
それだけを指示すると、アダマスはベッドに横たわった。
昼間は眠い。
それは吸血鬼族唯一の弱点。
光は闇の敵なのだから。
その姿を見届けて、サファイラスも部屋へと帰る。
どこか寂しい気がするのは、一人で歩いているからかもしれない。


部屋はまだ昼間にも関わらず、どこか薄暗かった。
流石は吸血鬼族の館、と言ったところだろうか。
光は彼らの体力を吸い取ってしまう。
けれども読書には、多少の日差しも欲しいところだ。
それに、寒い。
「そういえば、シャインには間違ったことを教えてしまったな・・・」
本のページを捲ったところで、ふと思い出す。
日当たりの悪い場所にいると寒気が襲ってくる自分を見て、彼が言った『寒がりなのか』という言葉に、頷いてしまったのだ。
別に寒がりなわけではない。
ただ、悪寒が走るのだ。
この館の、この日当たりの悪い部屋を思い出していたのかもしれない。
「シャインにも、いずれ教えておくべきかもしれないな。」
大きく伸びをして、大佐はベッドに横たわった。
彼は愛想の悪い自分に対しても、太陽のように明るい笑顔を向けてくれた。
今では親友と言っても悪い気はしない。
もしかしたら、ガルルよりも先に教えておくべきだったのかもしれない。
「彼は・・・まさかね。」
ずっと自分の傍にいる彼は、アダマスやサファイラスのような感情を持っているのだろうか。
人というのは、皆そういうものなのだろうか。
それでもそれが嫌だとは思わないのは、彼に対して多少は心を開いているからだろうか。
さまざまな問いかけをしたいのに、それを尋ねることの出来る相手がいない。
問いかけは、頭の奥でむなしく消えていくのみ。
寝返りをうつと、横に置いてあった本がぶつかった。
「・・・シャイン・・・」
無性に会いたくなったその笑顔を振り払うように、大佐はベッドから起き上がった。
水でも飲みに行こう。
途中でアダマスに会わないように、慎重に・・・
「おや、もぅ本は良いのか?」
「!!!?」
扉を開けた先に居たのは、会いたくないと思っていたその人。
会わないようにといくら注意をしたって、こんな登場の仕方をされては敵わない。
衝動的に扉を閉めようとするが、それは彼の片手が許さなかった。
人ならざる者の力がいかに強いものなのか、このときほどに感じたことはなかった。
「外に出るんじゃないのか?」
「大した用じゃない!」
「なら、私の用事に付き合ってくれるね。」
アダマスの手が伸びてきて、大佐は反射的に目を瞑った。
怖いのだ。
これほどまでに人を怖がるという事は、滅多にない。
けれども彼は例外。
かつての記憶がよみがえり、気持ちが悪くなる。
衝撃もないことに脳が覚醒し、そっと目を開くと、そこは先ほどまで自分達がいた部屋ではなかった。
「!?」
広い部屋
大きな絵画
綺麗な装飾品
カーテンの引かれた、大きな窓。
日の光も出ていないというのに、ここまで用心するものなのか。
「ようこそ。私の部屋へ。」
そうだ。思い出せ。
大佐は、混乱してきた頭を働かせて考えた。
ここは昔、よく連れて来られた場所・・・アダマスの自室に違いなかった。
何故だか傍に置かれ、自由には過ごせていたはずだ。
けれども、今回はそれと訳が違う・・・そんな気がした。
「どういうつもりだ。」
戸惑いに振り返れば、アダマスは微笑んでいた。
その笑顔に、更に嫌な予感が頭をよぎる。
自分はここに来ないように用心していたのだ。
ここに来てしまったら・・・もぅ、戻れない・・・
アダマスは大佐の腕を掴み、ずんずん奥へと進んでいく。
抵抗したくても出来ない何か大きな力が、その腕に込められていた。
「!!」
気がつけば、押し倒されていた。
衝撃が少ないことから、確かめなくともそれが彼の寝床だという事が分かる。
「アダマス!何を・・・!!」
両手が押さえつけられ、どうにも動けなくなってしまった大佐に、アダマスは妖しく笑って見せた。
その笑顔が、不安を煽る。
―怖い
―逃げたい
「綺麗な目だ・・・どうした?揺らいでいるぞ?」
至近距離に置かれたアダマスの顔に、視線が彷徨う。
―怖い
―逃げなくては
「怖がらなくても良い、と言っただろう?」
アダマスの顔が真剣なものへと代わった。
その瞬間に、大佐は呼吸が困難になる。
「っ!!」
口が口でふさがれ、息が出来ない。
そして何より酷く襲ってくるのが、不安と恐怖による眩暈。
「ん~~っ!んん~!!!」
必死に抵抗を試みるが、先ほどから分かっているように彼の力は強い。
ビクともしない体に、自分の体力の方がもたないと悟った。
「んっ・・・はぁ・・っ・・・」
無理がある。
自分はそんなに若くない。
不老不死の類である吸血鬼族の男に、ついていけるわけがないではないか。
けれどもそんなことを考えもせず、アダマスは深い口付けを繰り返す。
だんだんと力が抜けてきた身体に、大佐は警告を鳴らし続ける。
―気を抜いたらダメだ
「おやおや、ずいぶんと頑張るじゃないか。」
ようやく離れた唇を避けるように横を向き、大佐は荒い呼吸を繰り返す。
新鮮な空気は肺に入り、脳へ巡っていった。
ふざけている。なんでこんなことをされているんだ。自分は。
「っはぁ、はぁ・・・」
「息が上がってしまったか?暫く口付けはお預けだな。」
そう言って、アダマスは押さえ込んでいた大佐の両手を解放した。
今更抵抗しても勝てないことは分かっている。
よって、その右腕は眼鏡を外して目の上に。
左腕はシーツを強く握り締めて、固定した。
「覚悟は出来た、というところか?」
「冗談じゃない。」
覚悟なんて出来ていない。
ただ、頭を冷静にするためだけに両手を特定の位置に配置しただけだ。
はっきりした頭で考えれば、この腕から逃げることくらいは出来るかもしれない。
自分の武器は頭脳くらいだという事も、分かっているつもりだった。
「素直じゃないな。この点、昔の方が数倍やりやすかった。」
「こっちはいつだって必死だよ・・・最悪だ。」
「最悪、か。」
アダマスは右手で大佐の髪を梳くと、左手でシャツのボタンを外し始めた。
それには流石の大佐も落ち着いてはいられない。
「なっ・・・!」
「精一杯可愛がってあげよう。昔のように、なぁ?」
耳元に口を寄せ、アダマスは囁いた。
その声に思考が一時的に停止する。
恐怖と混乱だけが支配する頭は、心地よいものではなかった。
ボタンが全て外れたシャツは肩からスルリと滑らされ、すでにずいぶんとはだけてしまっている。
その露になった首元を見て、アダマスは舌なめずりをした。
血を求める彼にとって、魅力的なスポット。
あまり外にも出ない大佐は首筋も白く、それが彼の欲をさらに増幅させた。
「あぁ、今すぐ噛み付いてやりたいんだが・・・」
そう言いながら、アダマスは大佐の首筋を指でなぞった。
そこからピアスのある耳へ、さらに頬へと移動させていく。
目は右腕で隠れてしまっているものの、必死に唇を噛んでいる様子が伺えた。
「首と耳は嫌いだったか?それとも・・・」
大佐はそのどちらの問いかけにも首を大きく横に振った。
否定も肯定も分からない。
ただ、どうにか最低限の思考だけは残るようにと必死に耐えていることだけは分かった。
「健気だな・・・抵抗しなくなっただけマシか。」
「うるさい。いつまでもジッとしていると思わないで欲しい。」
「口減らずが。ずいぶんと喋れるようになったじゃないか。」
アダマスは再び、大佐の唇に噛み付いた。
それは再び深い口付けへと変化していく。
それがどうにも嫌なようで、大佐はこれだけには必死の抵抗を見せた。
「んんっ・・・!ん~~っ!!!」
暫くすると、アダマスは手を胸や腹部へと滑らせてきた。
それが嫌な大佐は、今までにないほどの抵抗を試みる。
けれどもどれも功を成さない。
「はぁ、ん・・・っ・・・」
このままではまずいと思いはするのだが、だからどうしろと言うのだ。
自分の頭脳に八つ当たりをした大佐は、自分の頭がだんだんとぼやけてくるのを感じ取った。
体が熱い。
くらくらする。
―コレハイッタイ、ドウスレバイイ?
昔の記憶なんて引っ張り出したくない。
どうしたらいいかなんて、知らない。
「・・・辛くなってきたか。」
「?;」
彼の言っている意味が分からない。
「そうだな・・・契約すると言えば、ここで止めてやろう。」
「・・・卑怯・・・」
「それが嫌なら、どんどん進めていこうじゃないか。ねだってくれれば、な。」
「っ・・・」
そう言いながら指を這わせるものだから、大佐もまともな判断が出来ない。
「・・・何をねだれと言うんだい?」
「どうして欲しいか。だ。」
自分は今、どうしたい?
どうして欲しい?
体が熱い。
頭がぐちゃぐちゃだ。
どうしたら良いかなんて、分からない。
どうして欲しいかなんて、そんなことを聞かないで欲しい。
「さぁ、どうする?」
意地悪く笑うアダマスにとっては、どちらにしても吉なのだろう。
大佐にとっては、どちらを選んでも大凶だ。
フェアじゃないと思う。
「最低だよ・・・」
「知っているさ。昔から、な。」
アダマスがその腹部から更に指を滑り下ろして、笑った。
まるで自分の勝利を確信したかのように。

色々と忘れたいことがある。2(大佐受け)

2008年12月30日 23時38分18秒 | ☆小説倉庫(↓達)
「新年・・・?」

アダマスの口から発せられたのは、予想外の言葉だった。
「新年は家族で祝うものだと聞く。私とサファイラスだけでは家族とは言えない・・・お前がいないからな。」
口元が怪しく歪む。
「サファイラスはお前の兄だ。私は、お前の父だろう?」
「・・・」
何も言わない大佐に、アダマスは優しい微笑を向けた。
表面上は優しく、けれども内面には鋭い牙を隠している、その笑みは大佐のものにも良く似ていた。
「さぁ、行こうじゃないか。」
立ち上がったアダマスは、手を差し出す。
幼かった、かつての大佐にそうしたように・・・
「断る。」
けれどもあのときほど彼は子供ではなく、個人としての意見を主張できるほどに強くなっていた。
よって、その勧誘は拒否される。
「何故だ。」
厳しい目を向けたアダマスに、隣にいたサファイラスは固まった。
それほどに凄まじい恐怖と、権力があった。
しかし、やはり大佐は揺らがない。
昔ほど子供ではないのだ。
血縁者などの存在を知らなかった自分にとって、彼の存在だけがあの時は救いだった。
けれども、今はそうではないのだと知っている。
人に甘えずとも一人で生きていけるし、大人として自分のすべきことも分かっているのだから。
「久々に3人で過ごすだけだ。」
「そのまま、また永久に貴方のところから逃げられなくなったりしたら嫌だからね。」
「保護してあげていただけだ。感謝して欲しいな。」
「感謝されるようなことをしたつもりか?」
「全く・・・素直じゃない。」
大佐の言葉が反発するものだということは、誰の目にも明らかだった。
しかしそんな拒絶も受け入れられることなく、アダマスは笑う。
「・・・また躾け直さなくてはいけないか?」
赤い瞳が、大佐を真っ直ぐに見据える。
その勢いと過去の出来事のフラッシュバックにより、大佐は一歩後ろへと後ずさった。
―逃げなくてはいけない
―危険だ
―同じ過ちを繰り返す
―走れ
―逃げろ
―早く・・・!!

「私から逃げるつもりかい?」

「!!」
気がつけば、アダマスは大佐の目の前に立っていた。
誰も気付かぬ間に、3メートルほどの距離を移動したのだ。
「やめ・・・」
そのとき初めて、大佐の瞳に恐怖の感情が宿った。
それをアダマスは見逃さない。
ピアスの入った箱を握り締めているままの大佐の左手を取り、そして左手でその右耳に触れた。
「アダ・・・」
「動く、な。」
これから何が起きるのかも分からない。
けれども大佐にとって不利な状況だという事だけを理解したゾルルは、アダマスの喉元に刀を突きつけた。
ゾルルの殺気は、アダマスの気を打ち消すほどに強いもの。
アサシンだからこそ動けるこの状況に、ゾルルは自分の出来ることをきちんと理解していた。
「離れ、ろ。」
「・・・君は誰だ?」
「・・・」
「綺麗な赤い目をしている・・・」
「失せろ。」
ゾルルの殺気は、やはり彼の狂気と対立しながら増していった。
「そう言うな・・・綺麗だ・・・」
「っ・・・!!」
刀を振ったゾルルに、アダマスは即座に反応して後ろへと飛びのいた。
代わりに、サファイラスが飛び出る。
手に持った短刀は、ゾルルの髪を数本宙に舞わせた。
「サファイラス!!」
「ゾルル!!」
戦闘態勢に入った2人に、大佐とガルルが叫んだ。
相手の喉元に刀を突きつけた状態で、互いに固まる。
「全く、サファイラス・・・ルベウスの声で戦意を失うとは・・・」
アダマスは残念そうに首を振った。
けれどもここから再び戦闘を開始することは出来ない。
このまま刀を振り切っても、ゾルルを倒すことが出来ないことを、サファイラスは感じ取っていた。
「止めておいた方がいい・・・サファイラス・・・私は君を憎んでいるわけじゃない。出来れば傷つけたくはない。」
「・・・ルベウス・・・」
先に刀を下ろしたのは、ゾルルだった。
ガルルの言葉に従うことを優先させたのだ。
「サファイラス・・・」
「・・・父上・・・許可を。」
「仕方ないな。彼もずいぶんな使い手らしい。不利な戦いはしたくない。」
その言葉に、サファイラスも短刀をしまう。
そして、チラリと大佐を見て、また目を逸らした。
「なるほど、お前は彼らから離れたくないのか・・・」
「そういうわけでもない。ただ、貴方が嫌いなだけだ。」
「言ってくれる・・・」
大佐はそう言っている間も少しずつ後ろへと後ずさる。
出来るだけ距離を置きたい。
動けなくなっても、彼が来るまでには時間がかかる距離くらいは欲しかった。
「もちろん、私がこの程度でお前を諦めるとは思わないだろう?」
「・・・えぇ、残念ながら。」
相変わらずニヤニヤと笑っているアダマスに、危険を感じた。
「大佐・・・とりあえず部屋へ。」
ガルルの言葉に、大佐は頷かなかった。
「大佐?」
「賢明だ。ルベウス。やはりお前は私の最高のジュエリーだ!!」
高笑いをするアダマスに、大佐は背筋が凍るのが分かった。
―怖い
彼に対する恐怖よりも、これ以上失うことの方が、怖かった。
「お前が居なければ、ここにいる奴等全員の首を断ち切ったって構わないんだ。私には、それが出来る。」
「・・・ルベウス。」
サファイラスが、呟く。
「どうしても、来ないのか。」
「どうしてそれを聞くんだい?私はとっくの昔に言ったはずだ。君たちを許さないとね。」
そうは言っても、大佐の目は厳しくはなかった。
サファイラスに対してどこか寛容なところがあることは、明らか。
2人の間にどんな絆があるのかは、他の人の知るところではない。
「父上は、お前の父にもなる・・・」
「それだけは勘弁して欲しい。頭がゴチャゴチャになりそうだ。」
ゾルルはジッと、サファイラスの瞳を見つめている。
深い青が、彼の想い人に重なった。
「サファイラス。そんなのんきな話をしている暇があるなら、ルベウスを捕らえろ。」
「!!」
驚きに、サファイラスの瞳が見開かれる。
「父上!!そんな強引な・・・」
「なら、私がやってもいいんだぞ?」
「・・・わかりました・・・」
苦しげに呟き、サファイラスは歩みだした。
大佐に向かって、真っ直ぐ。
「サファイラス・・・君はまだあの人に囚われているのか・・・」
悲しげに呟いた大佐の目は、迷っていた。
あまり大きなことにはしたくない。
休んでいる兵達を駆り出したくもない。
「大佐は下がっていてください!!」
しかし、そんな大佐の意思も関係無しに彼らは動き出す。
「ガルル君!」
サファイラスの前に躍り出たのはゾルルとガルル。
数名の兵士はアダマスの周りを取り囲む。
「またお前か・・・名は何という。」
「ゾルル・・・」
「そうか、ゾルル。お前はルベウスに忠誠を誓っているのか?」
その問いに、ゾルルは首を横に振る。
ゾルルが忠誠を誓う可能性があるとすれば、その対象となるべき人物は生涯に2人。
かつての親友であり、誰よりも強い意志を持つ、ゼロロ。
今の自分の隊長であり、誰よりも信頼している、ガルル。
そのどちらかしかないのだ。
「・・・わからないな。」
サファイラスは考える。
忠誠を誓ってもいない人のために、どうして戦おうと思えるのか。
それはただの地位のため?
「大佐!私達は大丈夫ですから、逃げてください!」
大佐の身は、完璧に狙われている。
その場しのぎでも良い。
とりあえず、この部屋から逃げ出してもらわなくてはいけない。
「出来ないよ・・・ガルル君・・・」
「大佐!!」
「僕は、もぅ・・・」
「大、佐・・・?」
―怖い
失う恐怖が、鎖となって動きを封じる。
「ハハハハハ!!!それで良い、ルベウス!!私の元に来い!!」
アダマスの瞳は、狂気に歪んでいた。
渡してはいけない。
そうは思うのに、誰一人、大佐を庇うことが出来なかった。
アダマスは目にも留まらぬ速さで大佐の目の前に現れ、そして、再び右耳に触れた。
サファイラスに邪魔され、ゾルルは助けに迎えない。
大佐は、恐怖心とはまた別の惑いで、口も開けなかった。
「ルベウス・・・私を飾る、愛しのジュエリー・・・ルビー・・・」
ガルルはハッとする。
ルベウスとは、ラテン語で赤の意味を持つ、ルビーの語源ではないか。
サファイラスはサファイアのこと。
それぞれの瞳の色とピアスの色が、その宝石を意味していた。
「た・・・」
声を発しようとしても、力が入らない。
惑う大佐のことを呼ぶことが、出来なかった。
「お前にはこれが相応しい・・・」
大佐の表情が痛みに歪む。
右耳には先ほどまでなかったルビーのピアス。
流れ出た微量の血は、アダマスの喉を潤した。
「契約は完了だ。」
微笑を湛えたその声は、死刑宣告にも聞こえた。

「我が名はアダマス!!征服されぬ者!何物にも侵されぬ者!!

そうだ、アダマスはダイヤモンドのことではないか。


久々に訪れた館は、昔となんら変わらない姿でそこに佇んでいた。
庭の赤黒い薔薇もそのままで、緑の高い樹も、相変わらずに自分を見下している。
軋むような扉の音は、今聞いても大嫌いだ。
「おかえり。我が家へ。」
あぁ、忌々しい。

「父上と、契約したのか?」
昔使っていた部屋は、そのままの姿で残っていた。
読んでいた本も、そのまま机の上に寂しく残っている。
「サファイラス・・・その話はやめてくれ。情けなくなる・・・」
椅子に座って童話集を読んでいた大佐は、溜息をついた。
結局あのまま、自分は再び連れ去られてしまった。
部下に示しがつかないというか、なんというか・・・
「そうは言っても、結果良かったじゃないか。」
「何がだ。」
一応最後に、事を大きくしないようにと捨て台詞を吐いてきた。
家族と楽しく過ごしている兵達を集めるのはあまりにも酷すぎる。
そもそも、この場所を見つけられるはずがない。
「父上が部下達を殺すこともなかった。」
「まぁ、それは・・・そうだな。」
一際大きな溜息をついて、大佐は本に視線を戻す。
よくこんな子供だましな本を読んでいたものだと、今更になって顔をしかめる。
昔は読むことが出来なかった難しい本でももってこようと、大佐は立ち上がった。
「で、契約したのか?」
「・・・食い付くね・・・」
「気になるじゃないか。」
真剣な表情の義兄に、同情も重なって口を割る破目になる。
「あれはあの人が強引にしたことだ。私は契約するなんて一言も言っていない!!そもそもあれのどこが契約だ!!互いの血を飲めば良いってものじゃないだろう!!」
「・・・ずいぶんな良い様だな・・・父上が嫌いか?」
「大嫌いだ。この世で一番、憎らしい。・・・君には悪いけどね。」
サファイラスはアダマスを敬愛している。
そんなサファイラスには悪いが、大佐からしてみれば彼は敵であり、仇でもある。
「いや、でも父上は強引過ぎた。確かにアレは契約とは言わない。そのピアスも・・・な。」
「ありがとう。」
理解をしめしてくれたサファイラスに、大佐は微笑んだ。
昔もそうだった。
彼が今つけている青いピアスを差し出したあの日から・・・彼は大佐の唯一の理解者であり、兄であり、友だった。
「それにしても、お前はもぅ『僕』とは言わないのか?」
「・・・この歳で?」
「何の問題もない。」
「私が問題あるんだけど・・・まぁ、いいや。君がそう言うなら、それでも良い。」
サファイラスは、小さな微笑を浮かべた。
元々笑うのは得意じゃない。
昔は、なんとか笑おうと努力もしたものだ。
「ルベウス。お前は、ずいぶんと笑うようになったな。」
「もしかして、僕は今、笑ってる?」
「あぁ。」
やってしまった、と、大佐は頭を抱えた。
その衝動で、手に持っていた本が落ちる。
「そうだ、書庫に行こうと思ってたんだ!じゃあ、また!」
慌てて立ち上がり、大佐は走り出す。
大きな音をたてて扉が閉まった。
大佐のいなくなった部屋で、サファイラスは静かに、落ちた本を拾って読んだ。

「全く・・・緊張感が足りない。」
書庫、と言っても、そこはちょっとした図書館並みの蔵書がある。
昔読んでみたかった本はどれだっただろうかと思い起こしながら、既に抜き出してきた数冊の本を抱え上げた。
「お、これだ。」
背伸びをして、昔読むことの出来なかった、古い本を抜き出す。
うっすらと埃が積もっているものの、それを払えば綺麗な黒が今も気品を放っていた。
「探していた本は見つかったかい?」
「!!」
後ろから聞こえた声に、驚いて本を落としかける。
それを、後ろの人物は器用に受け止めた。
けれどもその右手を伸ばしたために、後ろから抱き締められているような形になったのだが。
「アダマス・・・!?」
本棚と彼との板ばさみ。
逃げ場は、もちろん無い。
「読書がすきなのは変わっていないようだな。」
その口調も、声も、姿も、昔と何も変わっていない。
思えば、自分の方が年上に見えるほどに。
「眼鏡、かけるようになったんだな?」
耳元で聞こえる声に、どうしようもない恐怖を覚える。
抜け出したい。
抜け出せない。
―怖い。
「怯えなくても良い。とって食おうとは思っていないさ・・・ルベウス・・・」
「!!」
最後に右耳のピアスに口付けて、アダマスは大佐に背を向けた。
風のように去っていった彼の後姿を確認することさえ、大佐には出来なかった。

「あぁ、おかえり・・・って、なんか機嫌悪いな。」
大量の本を持って部屋に帰ってきた大佐を迎えたのは、童話集に頭を痛めていたサファイラスだった。
「ふーっ・・・」
ベッドに腰掛けて、大佐は溜息をつく。
本はベッドに散らばらせて、大佐を囲むように配置された。
「何に疲れてんだ?」
「そういう君こそ。」
「あぁ、俺はこの本がな・・・なんというか・・・納得いかない。」
大佐は首をひねる。
「そもそも、童話なんて納得いくものなんてないだろう。」
「そういうものか?」
「そうだよ。僕はそれが好きなんだ。あぁ、イライラする。」
目を閉じて、大佐は座っていたベッドに倒れこんだ。
眼鏡を外して本の上に置くと、前髪をかき上げる。
「ルベウス?」
サファイラスは、自分の心臓が高鳴るのを感じた。
実の兄弟じゃない。
ならば、この感情もおかしくはない?
「アダマスは、何を考えているんだい?私の頭の中を恐怖で埋め尽くして・・・それで、どうしようっていうんだい?」
「書庫で会ったのか?」
「突然来て、突然帰って行ったよ。」
ぶっきらぼうに答えた大佐に、サファイラスは神妙な顔つきで尋ねた。
「何か、されたか?」
その質問に、大佐は不思議そうな顔をする。
「なんでそんなことを君が気にするんだい?」
「え?いや・・・別に。」
「・・・何かされたって訳じゃないけどね・・・いや、されたのか?」
サファイラスはアダマスの仲間であって、自分の仲間ではない。
けれども少しくらい、信用してもいいのだろうか。
いや、信用したい。
こんなところで一人奮闘していたって、事が良い方向に向かうとは思い辛い。
「父上はお前が好きなんだろう。」
「は?」
「前に、自室で真っ赤なルビーを眺めているのを見たことがある。」
「いや、ちょっと待ってくれるかい?」
大佐は慌てて身を起こす。
「なんだいそれ。ルビーを見ていて、それで、どうして僕を・・・」
「父上のお気に入りなんだ。最近はよくルビーを持ち歩いていた。庭でも眺めていたしな。」
心から、ルベウスを求めていた。
かつて手放してしまった宝石を、何とかして取り戻そうと躍起になっていた。
「ルビーとサファイアは、セットでダイヤモンドの傍にいるべきだ。・・・父上はそう言っていた。」
けれども、どう見たってルビーのほうが好きなのだ。
「父上は今、本当に喜んでいる。」
「あんまり嬉しい話じゃない。」
「俺も、お前が戻ってきた事が嬉しい。」
「・・・すまないね。それには応えられない。」
大佐は、放り出した眼鏡をかけなおして本を拾った。
その一ページ目を捲り、そして文字を目で追っていく。
速読もできる。
けれどもそれは滅多に使わない。
趣味での読書くらい、ゆっくりと楽しみたいのだ。
何も急ぐことはない。
恐らくこの時間は暫く続く。
残念ではあるが、それが現実だ。
「今はもぅ、彼の精神も安定しているんだろう?」
「そうでもない。でも、昔と同じ手では逃げられないだろうな。」
「だろうね。」
幼い頃、少ない体力と限られた知識でこの館から抜け出すには、何か知恵を絞らなくてはいけなかった。
どんなに頑張ったところで、アダマスの手のうちから抜け出すことは出来ない。
ならば、彼の手の中にいるまま移動できる手段を考えるのが普通だろう。
そこで大佐が考えたのは、アダマスの不安定な精神を利用した、彼の能力を逆手にとった脱出劇だった。
空間移転能力を発動しているときに、彼の精神を揺さぶる。
そこで発生した歪みから、彼の知らぬ間にケロン星に移動した。
サファイラスも、その瞬間を見ていた。
この作戦は前の晩にサファイラスの部屋で話した事だったし、彼はアダマスに余計なことも喋らないと知っていた。
「本当に、お前は頭が良かった。」
「君だって、少し考えれば思いついたはずだ。」
サファイラスは頭がいい。
回転が速く、すぐに状況に応じた対処を取ることが出来るのだ。
「俺は父上から離れるつもりはないからな。」
それでも、その頭の良さはアダマスに対してしか使われることはない。
サファイラスが唯一無二の存在と称している彼が、実の父親かどうかは分からないが、それでも彼にとっては育ての親こそが父親なのだろう。
それならば、父親に忠節なのは悪いことではない。
それはサファイラスを庇うだけの正当化かもしれないが、事実だ。
「今回も良い逃げ道が見つかればいいんだけど・・・」
「簡単にはいかないと思うぞ。」
「分かっているさ。でも、出来ることならあの人の手にかかる前に逃げ出したい。」
手にかかるというのは、殺されるという意味ではない。
生きたまま苦しみを味わうような、そんな運命を強要されることだ。
「俺達と暮らすのは、そんなに嫌か?」
寂しそうなサファイラスの目は、大佐の胸を締め付ける。
一時期でも兄として接していた人物だ。しかも彼は優しくしてくれた。
嫌いな、訳がない。
「あの人の傍にいるのが嫌なんだ。何をされるか分かったものじゃない。」
「それも愛情表現だろう?俺はそんなことされたことないし・・・」
けれども彼のアダマスへの忠誠心は、呆れるほどのものがある。
いや、愛と言ったほうが正しいのだろうか?
「されたいのかい?」
「・・・それが父上の意思なら。」
「親子でそんなことしていいのかねぇ?全く。」
「兄弟なら?」
「はい?」
「いや、なんでもない。」
サファイラスの言う事は、時々突拍子もない。
親子でも兄弟でも、家族は家族。
家内であまり過激なことはしないほうがいいのではないだろうか?
それが精神的なものであろうと肉体的なものであろうと、場合によっては虐待にもなりうる。
サファイラスにそんな趣味はなかったと思うが。
「俺と父上は血が繋がっている。完璧な契約をしたからな。」
契約方法は、互いの血を口移しで与えること。
それが『吸血鬼族』のしきたり。
「だが、お前とは契約していない。」
契約をすれば、互いの血が入り混じり、いわば血が繋がることになる。
だんだんと相手の血が自分の血を侵して行き、そのうちの半分が相手の血となる。
本当の意味で、他人の血が自分の中に流れることとなるのだ。
普通の人間が吸血鬼族と契約すれば、互いが互いに血を分け与えることとなるため、中途半端な種族が出来上がってしまう。
けれども初代からの吸血鬼族の血を引いている者は、そう簡単に人間の血に侵されはしない。
よってそんなことをすれば、吸血鬼族が栄えていくだけだ。
「実の兄弟ではないと、そう言いたいんだね。」
「そうだ。だから・・・その・・・」
「あぁ、言わなくていい。その言葉は撤回してくれ。僕も困ってしまう。」
偏った告白の言葉を聞きたくはない。
出来ることなら、このまま兄弟として接していきたい。
「・・・すまない。」
謝らなくてもいいと、大佐は微笑んで見せた。
何も悪いことはない。
少なくとも彼の父親よりは、ずっと性質がいいはずだ。
「それにしても、父上の血は飲んでいるんだろう?ほぼ契約は完了なんじゃないのか?」
大佐は既に、アダマスの血を口移しで貰ってしまっている。
けれども契約が完了するのは、互いの血を与え終わった瞬間だ。
「まだだよ。それに、もぅ彼の血は効力を失ってる。だから、今更また僕を連れ出したんだろう。」
今度は完璧に契約を済ませるために。
「ケロン星で純粋な人達といるとね・・・浄化されてきちゃうんだよ。実の父親の血も、多分薄れてきてる。」
アダマスの兄であった父も、もちろん吸血鬼族。
それもやはり純潔の。
しかし母の血がまだ濃いうちに自分は産まれたのだ。
それは幸運だった。
丁度半分半分の血が、この身体には巡っている。
それを、アダマスは完璧な吸血鬼族に仕立てようとしているのだ。
アダマスの血によって契約が完了してしまえば、確実に吸血鬼族の血が濃くなる。
いずれは母の血を滅して、完璧な族の仲間入りだ。
「それじゃ困るんだよ・・・僕は、あの星に戻りたい。」
それは切実な願い。
大切な人が笑って、死んで、過ごしている星に戻りたい。

絶対に、彼の牙に捕らえられてはいけない。


色々と忘れたいことがある。1(大佐受け)

2008年12月29日 12時06分39秒 | ☆小説倉庫(↓達)
お前はダメな男だな・・・

それだけの階級を持ってしても尚、臆病だ・・・

・・・

過去に縛られるも
今に惑うも
彼らに託すも
己を貫くも
城壁を築くも

それはお前の自由だ。

だがね・・・

忘れない方が良い
目をそむけない方が良い

さもないと、大切なものは崩れ去ってしまう。

そんなのはあんまりだろう?

幸せになってもらいたいんだよ・・・

私はお前を見守っている。

いつでも
どこでも
お前の笑顔を嘲笑おう

だれでも
かれでも
お前の為だけに殺そう

さぁ
恐れるな

私のところに来い

戻ってくれば幸せにしてやろう

皆は所詮、お前を理解しない・・・

自由にすれば良い
好きなだけ足掻けば良い

そうして

最後に戻ってくるのは私のところだと

そう、信じているよ。


―我が愛しのジュエリー・・・


______


「大佐、休暇を頂きたいのですが・・・」
デスクの前で姿勢を正した部下に、大佐は溜息をついた。
今日で5人目だ。
「それは私に言う事じゃないよ、君。」
「いえ、貴方の傍で働いているからには、貴方に許可を貰わなくては。」
「真面目だね~、そんな事いちいち言わなくても休めばいいのに。年末年始の休暇くらい、自由にとっていいよ。」
年末年始。
それは無論ケロン星でも重要な時期であって、滅多に家に帰ることの出来ない軍人にとっては、特に貴重な時間だったりもする。
そして今日はそんな時間を求める部下達が、一斉に休暇届を出しに来ていた。
「すみません、人手不足になるようでしたら・・・」
「構わないよ。別にやることもないし。」
「あ、ありがとうございます!!」
明るい顔で頭を下げた部下に、笑顔で手をひらひらさせる。
どうやら上層部の大半は、こういった時期にも部下を休ませてはくれないらしい。
酷い話だと思いつつも、本来は自分もそうしなくてはいけないことくらい分かっている。
暗殺者も休暇をとっているとは限らないし、反乱なんていつだって起こる。
そういったときに能力のある者がいなくては、悲しい話ではあるが、対抗できない。
「大佐。」
代わって扉から入ってきたのは、馴染みの深い、やはり真面目な部下。
「やぁガルル君。久しぶりだね。」
つい最近まで長期任務にあたっていた彼と会うのは、どれくらいぶりだろうか。
「お久しぶりです。」
「君も休暇届かい?」
にっこりと尋ねると、渋い顔で否定された。
「違いますよ。」
「あっそう。」
「そもそも、休んでいる暇なんてありません。こうして貴方のところにファイルを届けに来なくてはいけませんし、貴方がサボっているときに他の兵士達の手を煩わせるのも申し訳ありませんから。」
それはなんの義務感だろうかと首をひねるが、それはそれで嬉しくもある。
「貴方も、ここから抜け出せないのでしょう?」
気の毒そうに顔を歪めるガルルに、大佐は極めて明るい表情で頷いた。
「そうだね~・・・もちろん抜け出すのは可能だけど、怒られるだろう?」
「でしょうね。」
思ってみれば、軍に入ってからガルルもあまり両親と顔を合わせていない。
年賀状などは送っているものの、両親にとっては自分の顔写真を送るなどという考えは無いのだろう。
「こういうときくらい、軍の機能も停止しちゃえばいいのに。」
「そういう事は思っても言わないでください。」
「ごめんごめん・・・でも、そう思わない?」
意地の悪い顔で尋ねられ、ガルルは言葉に詰まる。
確かに、こういうときくらい平和に暮らしたいものだ。
もちろんそれは、宇宙全体が許さないだろうが。
「それにしても・・・抜け出せるのに抜け出さないとは・・・貴方らしくないですね。」
考えれば、重要なときに抜け出すくせに、こういった時期には抜け出したりもしない。
両親に会いたくはないのだろうか?
「大佐、失礼ですが・・・」
「失礼は今更じゃないkイテテテテテッ!!!」
頬をつねられ、思わず涙目になる。
「うぅ・・・本当に今更だよガルル君・・・」
「大佐のご両親は、健在なのですか?」
「・・・」
途端に黙りこくった大佐に、既に亡くなったのだと悟る。
「笑顔のまま黙られると、怖いですよ。」
「そう?」
「えぇ。」
よくある話だ。
若くして親がなくなり、軍に入らざるを得ない子供は今も少なくない。
けれども大佐は、そうではないと思っていた。
特殊に思えるほどの能力と知能を買われたのだと、勝手に想像していたのだ。
けれどもその能力があったことは、幸運だった。
軍に来ても、適応できずに体調を崩したり、訓練で死んでしまうケースは多い。
そんな中で何か一つでも能力があり、しかもデスクワークを主な仕事とすることが出来たというのは、奇跡にも近い。
「・・・両親は、私が本当に小さいときに亡くなったよ・・・私がそれを理解できないほどに小さな時に、ね。」
むごい話だと思う。
「病気か何かですか?」
「毒殺。」
「え・・・?」
笑顔のまま、大佐は淡々と語る。
その表情が仮面なのではないかと思ったほどに、話しに不釣合いな笑顔だった。

「私がまだ小さくて、世界が大きく見えた頃の事だ・・・記憶はぼやけていてよく分からないが、両親は毎朝のコーヒーを飲んでいた。それは大人の日課のようなものなのだと、その頃の私は思っていたんだけどね。その日、一人の客が来たんだ。両親は笑顔で、その人を家に入れた。父親の弟だと説明を受けて、それだけで、その客と私はあいさつを交わさなくてはいけなくなった・・・子供の本能は感じ取っていたんだよ?そのとき確かに、『逃げなくては』と思ったんだ・・・」

「母はコーヒーを淹れに台所へと消えた。父はコレクションを持って来ようと部屋に消えた。そして彼と私はその場に2人きりになったわけだ。彼は口の端を吊り上げた笑い方をする男だった。私をジッと見つめてから・・・懐から、小瓶を取り出して振って見せた。青い瓶に入っているのは液体だと分かったよ・・・それが毒だとも、分かった。直感だったけれど。それを両親のコーヒーに一滴ずつ点して、彼は再び笑った。何か言おうとした私に・・・今となっては何を言おうとしたのかも覚えていないんだ・・・叫ぼうとしたのか、尋ねようとしたのか、分からないけれど・・・男は、そんな私に向かって笑い、人差し指を笑みの前に立てた。意味は・・・黙っていろ、か、静かにしろ、か、秘密だ、か・・・その辺だろうね。」

「分からなかったんだ。それが毒だとは思っても、自分のその言葉を両親が信じるかどうかも・・・それを飲んだら死んでしまうのかどうかも・・・だから、何も言えなかった。両親が戻ってきて、その男が何食わぬ顔で微笑んでいるのを、見ていることしか出来なかった。口は開かず、身体は動かず、少しの恐怖と混乱で、これほどにも自由が利かなくなるものなのかと思ったよ。本当。恐ろしい・・・。もちろん、両親はそのコーヒーを飲んだ。冷めているのも気にせず、淹れ直す事もせず、口に含んで、喉を通した。」

「それで、死んだ。」

「分かりません、大佐。」
「何が?」
首をかしげた大佐に、ガルルはズバリ言い放つ。
「どうして貴方は、笑っていられるんですか。」
それを聞いて、大佐は失笑した。
ゾクリと、背筋が凍るのが分かるほどに、ガルルは恐怖を感じた。
戦場では良くあることだ。
特にアサシンを目の前にしたときに良く感じる、この恐怖。
気まぐれと、己の欲望のために人を殺すことも出来る人間の、目。
―怖い・・・
「だってさ、怖くない?」
相手の気持ちが分かったかのように、大佐はやわらかい微笑みを湛え直した。
「笑っていたほうが、良いと思わない?」
「・・・時と場合によるでしょう。」
さっきの話は、笑ってすることじゃない。
けれども大佐は、そんなことも気にせずに微笑み続ける。
「でね・・・続きがあるんだよ・・・私の人生で最悪の時期が・・・」
そのときの顔は、笑っているというよりは、何かを憎んでいるかのように見えた。

「彼は、喉を押さえて倒れた両親に目もくれず、私の元に歩み寄ってきた。私は既に椅子からは立ち上がっていたけれど、それでも立ちすくむことしか出来なかった。恐怖は、完璧に混乱に飲み込まれていた。彼は尋ねた。『名前は?』と。私はもちろん、答えることなんて出来なかった。それよりも、兄の子供の名前も知らないのかと、どうでもいいことに疑問を持っていた。だってそうだろう?父はどうして、子供の名前も教えていない人間に、いくら兄弟だからといっても、家に上がらせたんだ。実はそれほど親しくもなかったのではないか?と、そう思った。」

「結局、私は名前を教えなかった。彼は静かに、父のコレクションである宝石を拾い上げた。赤いものと、青いものを。そして、一つのマジックをしたんだ。右手にルビーを持って、左手にサファイアを持って、尋ねた。『どっちがどっちだと思う?』とね・・・私は、首を振った。分からないという意味だったんだけどね・・・彼は満足そうに笑ったよ。大体、そう聞くという事は、なにかするつもりなんだから・・・見たとおりの状態が保たれているはずがないじゃないか。どちらの手に何が入っているかなんて、マジシャンしか知らないよ。」

「彼は、静かに両手を開いた。どちらの手にも、宝石は入っていなかった。私は溜息が出たね。昔から遊び心も子供心もない子供だったんだよ。こんな子供だまし、と、そう思っていた。そしたらね、彼は人差し指を左右に振った。まだまだこれからだと、そう言っているかのようだった。両親が死んだことに対してのショックが少なかったのは、彼が気を散らしていたからだ・・・。彼は、私の右手を指差した。きつく握っていた手を開くと・・・もぅ分かるよね。ルビーが・・・それも姿を変えて、そこにあった。」

「そのマジックは今の私にも出来ない。彼だから出来たんだ。人ならざるものだからこそ、出来たんだよ・・・。彼は私に手を差し伸べた。私はその手をとるために・・・左手を開いた。そこには、やはり姿を変えたサファイアがあった。彼は笑っていた。そして両手の中身を眺めている私を抱えて・・・窓から飛び降りたんだ。でも考えてみれば、窓といっても一階のリビングのだ。ただ地面に落ちるだけのはずなのに・・・そのときは、何所までも落ちていった。気がついたら、知らない土地に来ていた。それが他の星だと知ったのは、それから2年が経ってからだったけど。」

「彼の家・・・基、城かな。そこには、同じくらいの歳の、少年がいた。でも私のほうが少しだけ年下だったな。見つめてくる彼に、私はさっきのサファイアの化身を差し出したんだ。何かの贈り物のように・・・恭しく。彼はそれを手にとって・・・あぁ、止めておこう。これ以上は。あんまり思い出したくもないし・・・色々と忘れたいことがある。とりあえず、私の両親は、育ての父に殺されたんだ。兄のように思っていたあの人が、彼の子供だったのかはわからない。けど、私よりもずっと、彼を慕っていた。」

「今更、帰りたくはないんだよ。どちらにも。」
「そうでしたか・・・」
御伽噺のようだと、ガルルは思った。
「ねぇ、ガルル君は私をカッコイイと思う?」
「はい?」
「どうだと思う?」
唐突に聞かれ、悩んでしまう。
かっこいいとは思わない。
尊敬はしているが、それは彼の聞いている類とは違う。
「なんでしょう・・・例えようがありませんね・・・」
「うん、それが普通だと思うよ。それも理由の一つ。彼は、普通じゃない。だから接したくない。」
「どういうことです?」
「まぁ、知らないほうが良い事もあるよ。」
それっきり、大佐は喋らなくなった。
ガルルは少しの間どうしようか考えてから、傍にあるソファーに腰掛けた。
大佐はそれを横目でさり気なく確認してから、仕事を再開させる。
この珍しい光景は、今後軍の中で広まることとなる。
「時にガルル中尉。」
「は、はい。」
「君は、ファイルを渡すために来たんだよね?」
「はい。」
「他の仕事は?」
「今のところはないです。」
その言葉に、大佐は苦笑する。
なんだ、他の奴等もなかなかやるじゃないか。
「人は少ないのに、仕事も少ない・・・どういうことでしょうね・・・」
悩んでいるガルルを見ると、どうやら軍も甘くなったらしい。
恐らく上層部の他の人々も、大まかな仕事は終わらせてしまったのだ。
そして今やっている仕事は、休暇をとった兵士達のもの。
塵も積もれば山となる。
一人ひとりの持分は少ないものの、それがこの時期では山のようになる。
それを片付けるために、自分達が働く。
普段忙しく走り回っている兵士達が、今日くらいゆっくりできるように・・・
「ふ~ん。」
手元の仕事を見る。
あまり慣れてはいないが、出来る限りで頑張ろうじゃないか。
もちろん、他の人達よりは数倍早く終わるだろうけれど。
「暇なのに、実家には帰らないのかい?」
「今の話を聞いて、なんとなくその気も失せました。」
「あーあ、失敗しちゃったね。ごめん。」
「いえ。元から帰るつもりはないですよ。どうせ親父が無理するでしょうし。」
この無理というのは、現役でもないのにガルルやギロロを特訓しようとして、うっかりぎっくり腰になったりすることを言う。
「そう。」
いくつかの書類にサインをして、大佐は立ち上がった。
仕事の山はいつの間にか3分の1程度に減っていて、これならあと半日もかからずに仕事が終わることが目に見えた。
「コーヒーでも飲む?」
「お気遣いなく。」
「そう言われると気遣いたくなるね。」
笑った大佐は、背筋を伸ばす。
そして、子供のようにウィンクした。
「抜け出そう。」
「はいぃ?」
「カフェにでも行こうじゃないか。今回はお酒は無しだ。良いだろう?」
大佐がお酒を飲まないということが一番意外ではあるのだが、それでも、大佐のテンションがまず異常だ。
さきほどの話しが響いているのだろうか。
彼の大切な人は、ことごとく死んでいく。
自分ひとりが残されていく恐怖。
人を愛することへの不安・・・
そういったことを頭から離そうとしているのだろう。
「良いですよ。たまには・・・今日は特別です。」
「よしきた!!」
嬉しそうにマントを外してラフな格好になった大佐は、上にコートを着てガルルを引っ張った。
「ちょ、私も寒いんですけど!!」
「君の家に寄るよ。」
「けど家にはゾルルが・・・」
「彼はあと1時間で帰って来るかな。まだ時間はある。」
走り出した大佐に、ガルルは溜息をつくことしか出来なかった。
そしてこの逃走も、後に軍で噂されることになる。


「今日は楽しかったよ~。またいつか。」
町に明かりが灯り、空はすっかり暗くなった時間。
たわいない話でもずいぶんと場は持つようで、二人は夜の道を歩きながら家路についた。
「寒くないですか?大佐。」
「全然。なんで?」
「いえ、誰かが貴方は寒がりだと言っていたので。」
所詮は噂話ですね、と言ったガルルに、大佐は首を振る。
「そうでもないさ。多分それを言ったのはアイツだね。前にあの人のことで私にお節介を仕掛けたあの。」
「あぁ、そういえば、そうでした。」
大佐はフーっと溜息をつき、そして空を見上げた。
「アイツと会ったのは、あの人の仕事を隣で見ていたときだ。あの人は誰にでも親しく話しかける・・・私と彼が同期だと知ったのもそのときだったよ。それから、彼はしつこいほどに私の後についてきてね・・・一度本気で訴えてやろうかとも思ったんだけど。でも、まぁ、今となっては良い友人だよ。」
確かに、もう少し若い頃は割りと寒がりだった。
あの雪の日以来、あまり寒さというものは感じなくなった。
最近思うのは、自分の適応力はあまりにも優れすぎているという事。
一度雪の中で寒さを体験しただけで、こうも慣れてしまうはずがない。
一度酒に酔ったからといって、その後何本飲んでも酔わないわけがない。
なのに、自分にはそれが起こっている。
おかしな話だ。
自分の能力は頭脳だけではないという事だろうか。
だとしたら、原因はやはり、彼ら?
「大佐?」
「あぁ、すまない。ちょっといくつか考え事をね。彼の話は古いものだから、信じなくても良いんだよ。」
「今後はそうします。」
苦笑したガルルに、大佐も微笑む。
それからどうでもいい話などをして、一度軍に戻った。
でっち上げを言って大佐の執務室に入る。
すぐに秘書とゾルルがやってきた。
「今まで何所で何をしていたんです!!ゾルルさんも心配していたんですよ!?」
「心配、など・・・!!」
「してました!!」
「・・・」
秘書の剣幕に押され、大佐はいそいそとコートを脱いで椅子に腰掛けた。
ガルルはゾルルに手を合わせて謝っている。
「悪かったよ。すぐに仕事は終わらせるから。」
「それより、お客さんです。」
え?と聞き返した大佐に、秘書はもぅとり合ってはくれなかった。
「誰だい?」
「名乗りませんでした。よほど親しい人物なのかと・・・」
「いいや、外部に知り合いなんていないはずだよ?」
訝しげな顔つきになった大佐に、秘書も考え込む。
怪しい人物を招いてしまったのだろうか。
「今日のところは引き上げていただきますか?」
「・・・うん。そうしたいところだね。」
了解した秘書は、扉へ向かって歩いていく。
けれども途中で立ち止まり、もう一度戻ってきた。
「忘れていました。これを。」
「?」
彼女が懐から取り出したのは、黒くて小さな箱。
よく結婚指輪などが入っているような、あの箱だ。
けれどももちろんそんなものが入っているわけがない。
慎重に、大佐は手をかけた。
「・・・これは・・・」
ガルルが、感心したように声を上げる。
ゾルルも目を丸くしていた。
中には、小さなピアス。
それが作り物でないことくらい、分かっていた。
「ルビーですね。大した贈り物です。どうします?会ってみますか?」
秘書のその言葉は、大佐の耳に入っていなかった。
ただその赤を見つめて・・・
そして、失笑した。
「た、大佐?」
冷たい空気が流れる。
「赤い宝石・・・血の、赤・・・ルビー・・・」
途切れ途切れに、大佐は言葉を放った。
そして、秘書に向かって一言。
「彼は・・・笑っていたかい?」


「ルビーに微笑み・・・話していた、あの?」
客室への通路を歩きながら、ガルルは大佐に問いかけた。
厳しい顔になった大佐を先頭に、ガルル、ゾルル、秘書、と続く。
「多分ね。・・・最悪だ。」
「どういうことです?大佐。」
「彼の近くに、もう一人、青いピアスをした男がいなかったかい?」
秘書は驚いたように目を開いた。
「い、いました!」
「彼らは私達と同じ種族じゃない。『【闇のもの】ダーク・レイス』だろうね。」
「!!」
早足で先頭を行く大佐には、表情を見なくても皆が驚いてることが分かった。
けれども、彼らのことだけを言えるわけではない。
「多分私も・・・半分は闇の血が入っているはずだ・・・いや、今となっては半分以上かもしれない。」
彼が闇のものなら、自分の父も同じ闇のもの。
2人の性質は違うものだが、それでも血には抗えない。
「母親はケロン人だ。それは確かなんだが・・・」
正直、父親の出身を聞く前に彼に連れ去られてしまったから、詳しいことは言えない。
今もっている知識は、殆どが古い書物から得たものだ。
「それは初耳ですよ大佐!!」
「だって言ってないもん。」
見た目は母親譲り。
性質は父親譲り。
そして、育ての親の血も『入れられている』。
あまり大きな声では言えることではない。
「我々も闇の狩人から言えば闇のものに程近い。けれど、だんだんと進化を繰り返して浄化が進んでいるんだ。」
そんな中で、恐らく自分を振り分けるとしたら闇のものだろう。
「最近は色濃く感じる。自分の血が、彼らの血に変わってきている事が・・・」
「すみません、私達にはよく分かりません。」
「うん。それで良いよ。」
知っても何の徳もない。


「大佐、ようやくお越しですか!」
「彼は?」
「中でワインを。」
「・・・」
客室の扉の前、兵士と少しの会話を交わしてから、大佐は大きく深呼吸した。
あの大佐でも笑顔を失うほどの人物。
それがいったいどんな人なのか、ガルルは興味と共に恐怖を感じた。
あれほどの恐怖を感じた大佐の無表情も、今は戸惑いと不安に歪んでいるように見えた。
「どうぞ、こちらへ。」
扉が開かれ、奥へと進む。
明るい室内に見えた人影は、その一瞬に微笑んだ気がした。
肩より少し長いほどの黒髪を緩く一つに括り、赤い瞳でこちらを見る。
その人物こそが、大佐の両親を殺した張本人に違いなかった。
「やっと来たか。我が愛しのジュエリー・・・ルベウス。」
あだ名であろうルベウスというその名に、大佐は目を細める。
その手に持った正真正銘のルビーのピアスを、箱に入ったまま強く握り締めた。
「久しぶりじゃないか。サファイラスも、そう思うだろう?」
隣でワインを抱えている、短い黒髪で眼鏡をかけた男に、彼は問う。
「えぇ・・・とても久しぶりです。」
サファイラスと呼ばれた男は、大佐の目を見ずに頷いた。
「なんだ、照れているのか?」
「ち、違・・・」
「ふむ、まぁ可愛げは昔に劣るが、未だに美しい目をしているからな・・・」
「えぇ・・・って、いや、そうじゃ・・・」

「アダマス・・・何をしに来た。」

「・・・本当に可愛げがなくなったな。躾がわるい。」
「貴方以外に私を躾けようとする人なんていないさ。」
「フフフ・・・まぁ良い・・・『アダマス』か・・・覚えていてくれるとは、嬉しいよ。」
一方的に睨みつける大佐に、彼は余裕の笑みを浮かべる。
その口元から鋭い牙が覗いていることに気がついたのは、ゾルル一人だけだった。


「家族で、新年を祝おうじゃないか。」




冬休みなのに・・・

2008年12月26日 18時12分08秒 | ☆Weblog
図書委員会役員の仕事で、昨日も今日も学校でした;
でも昨日は百人一首もできて楽しかったな・・・

漫画研究部、文学部に入っていますが、それに加えて百人一首同好会にも入りましたw
凄く楽しいですね!!
百人一首大好きなのでもぅ感激ですよ・・・大会にも出れるなんて・・・
出来れば百首覚えたいです!!
課題テストにも百人一首出るしね・・・

忙しいって楽しいですね!!
でもこうしてパソコンを開いているのももちろん楽しい。


うわぁぁ!!

2008年12月23日 11時04分27秒 | ☆Weblog
今日って23日ですよね!?
ヤバイ!!
早く年賀状書かないと、間に合わない!!

25日まででしたっけ!?
あぁぁぁ!!!!

そろそろ本気出す(ぇ



そういえば、昨日はコナンを見て姉貴と話し合っていたんですが、
「OPに出てくるにっこり眼鏡さんって誰?」
って事で大捜査になりました。
姉は二階で自分のパソコンを使って、私は一階で違うパソコンを使って・・・
大捜索を始めて30分・・・
彼、「沖矢 昴」っていうんですね!!!
なにやら「赤井 秀一」と同一人物だとか何とかいう考察も出てましたが・・・
そうか、昴か・・・フフフ・・・(壊

なにやら過去とかが暗そうなので、好みです。←

これからコナンを見ていかなくてはいけないようだな!!
声も有名声優さん!!

盛り上がってきた~~vv(お前だけだ

さて、と・・・

とりあえず年賀状描くか・・・


・伸ばしても、かきすくめても、貴方にかすりもしませんね。 3(大佐メイン)

2008年12月21日 10時36分15秒 | ☆小説倉庫(↓達)
人の頭を打ち抜いたにしては、軽い音だった。
けれども倒れていく大佐の頭からは、確かに鮮血が飛び散っていて・・・
一瞬のことだった。
けれどもその一瞬に、時が止まった。
飛び出そうと思っていたのだ。
けれども、それが場違いであるかのように、あの人は優しく微笑んでいたのだ。
不思議な感覚が襲う。
部下である自分を庇ったわけではなく
ましてや後輩である自分を守ったわけでもなく
あの人はただ、そこに自分がいたからというそれだけの理由で、
雪にうずもったのだ。
以前に言った、「殺すくらいなら殺される方がマシだ」というその言葉を、
嘘にすることは無かった。
どこまでも正直で、真っ直ぐだった。
中佐が笑って去っていった後も、あの人の事を見つめ続けていた。
真っ白な雪の中で、背景も何も無い中で・・・あのひとだけが、真っ赤だった。
互いに動くことも無く、体が冷え切っていくのを、待っているだけだった。
感覚も何も機能しない自分の中でただはっきりしているはずの頭も
あの人だけしか、映さなかった。
あそこで自分が姿を現していたら、何かが変わっただろうか。
もしくは一緒に、死ぬことが出来たのだろうか。
出来ることなら守りたかった。
自分の大切なものくらい、守れるほどに強くなりたかった。


「雪を溶かす温かい血・・・血を飲み込む雪・・・雪に落ちた椿・・・美しい、赤。」
大切な人だった。
大好きな人だった。
その感情に気がついたのは、あれから大分経ってからだったけれど。
「好きな人の死を間近で見ることが出来たのは、幸運だったね。」
笑った大佐は、本気だった。
「一緒に死ねたら、もっと良かったんだけど。」
尊敬していた。
敬愛していた。
「もっともっと、学びたいことは沢山あったのに。次のチェスは絶対に勝つって言われていたのに・・・」
嘘つきと言いたい。
けれども、彼は正直すぎてそんなことは言えなかった。
「遊んでる暇があったら、仕事についても教えてもらうんだったな。」
雪に沈んだあの人を見てから、どれくらいの間そこに立ち尽くしていただろうか。
あの人の死を知らせても、中佐の罪を訴えはしなかった。
一瞬止まった思考は、その遅れを取り戻そうとするかのようにさまざまなことを考え、止まらなかった。
行動すら制限されるほどに、頭がいっぱいだった。
自分は常に何かしら考えている。
頭の中を駆け巡る、いくつもの自分の『仕事』。
こうしてゾルルを前にしていても、その会話だけが自分の脳を埋め尽くすわけではない。
それがいい加減疲れてきたわけでもあるのだが。
明日の仕事のこと
彼との会話の応え
この前読んだ本の理論の矛盾
会議資料の反芻
一度に、さまざまことを考える。
いや、考えずにはいられない。
それが自分の能力であり、最近のイライラの原因であり、自分の存在理由だった。
アサシンですら読みつくすことが出来ない、この頭脳。
望んだわけじゃない。
ただ、自分は使われる運命にあったのだ。
「あの人は私よりもずっと偉かった。有能だった。能力も何もなかったけれど、賢かった。」
分からないのだ。
どうしてあの人が彼の銃口に笑顔を向けたのか。
何を思ったのか。
分かりたい。
知りたい。
「ゾルル君は、ガルル君のことを謝りに来たみたいだけど・・・そうだね、君の考えは間違ってないよ。」
確かに自分は、あの光景を美しいものとして記憶している。
悲しかったとか
苦しかったとか
そんな気持ちはとうに忘れている。
覚えているのは、
自分の心を締め付けるのは、
あの光景だけなのだ。
「あの人は、殺すくらいなら殺されたいと言った。私には分からないんだよ。まだまだ、未熟なんだ。」
君には分かるかい?と笑った大佐に、ゾルルはワインを飲んでから答えた。
「ゼロロは、そう、思っている・・・」
「あぁ、彼か・・・そうだね・・・うん。やっぱり、殺さないと分からないんだね。」
殺さないと、殺すことの辛さは分からない。
「分からない、方が・・・幸せ・・・」
「かもしれない。」
そのほうが幸せだ。
そう思うと、ますますあの人が不憫に思えてきた。
「ガルル君には、笑顔が足りないな。」
唐突に話題を変えた大佐に、ゾルルは目を細める。
「君を助けたとき、あの人にそっくりだった。あの正義感も、見た目も・・・でも、私は笑顔が欲しかった。」
あの人に習って、自分はいつも笑顔でいる。
それが周りを幸せにすることも、自分への敵意を明確にすることも知っていたから。
「ガルル君が笑うとね・・・とても、悲しくなる。」
あの人とは違うんだ。
そう思う。
「私は結局、ガルル君を利用するだけ利用してるだけなんだよね・・・辛くなると、彼を呼び出す。それでその表情や態度があの人と違うと分かったら、すぐに仕事に戻る。これって、やっぱり卑怯なんだよね?ゾルル君に嫉妬までさせて、それで・・・あの人の代わり程度にしか思っていない。」
ゾルルはワインを煽った。
そして、立ち上がると大佐の前に立つ。
「貴方は・・・ガルルが、嫌い、か?」
「そんなことは無いよ。でも、それが好意かって聞かれたら困る。」
「好きな奴は、いないの・・・か?」
その質問には、困ったように首をかしげて大佐は唸る。
「あの人のほかに、誰も浮かんでは来ないよ。」
その答えを聞いて、ゾルルは左手を伸ばした。
鋭利な指が、大佐の喉元に添えられる。
けれどもそれにも動じず、大佐は微笑んだ。
暫くの間、室内にはいつもの沈黙が流れた。
「・・・ムカつく、な。」
「そうかい?」
「中佐も・・・そう思った、だろう。」
「・・・」
まじめな顔をしていれば、もしかしたら生きていたかもしれない。
「ガルルは、もっとマシな・・・顔をして、いる・・・」
惚気にも近いその言葉は、つらいものでもあった。
「見当違い、だ・・・」
あの人とガルルは違う。
似ても似つかない。
もうあの人はいないのだと、認めなければいけない。
「・・・ねぇ、ゾルル君。」
黙っていた大佐は、俯いたままでその名を呼ぶ。
「どうしてそういう事、言うかな?」
辛いのだ。
あの人が、死んだとは思えないのだ。
綺麗な雪の中で
綺麗な姿のまま
綺麗な動機を胸にしていて・・・
生きていても死んでいっても、何も変わらなかった。
自分の中で、ただ一人の存在のままだった。
どこかにあの人の面影があって、
それを追いかけながら、これまでも生きてきた。
墓には花も添えたことが無い。
恐ろしくて
行くことができない。
「怖いじゃないか・・・どうして、あの人がいない世界で私が笑えるんだい?」
笑わなくてもいいじゃないか。
でも、笑っていたいじゃないか。
「あの人は、綺麗なままで残しておきたいんだよ。あの人だけがいれば、私はそれでいいんだ。」
一人で窓の外を眺めていたって、沢山の仕事をしていたって、客が来なくたって、電話が鳴らなくたっていい。
ただ、あの人の存在だけが確かなら、それで。
「死んだ。確かにあの人は死んだよ・・・だから、ガルル君を見ていたいんだよ。」
面影だけでもいい。
ずっとずっと、追いかけ続けていたい。
そう言った大佐を、ゾルルはジッと見ていた。
「何故、だ?何故、今を、見ない・・・」
「見てる。考えている。でも、あの人がいない。」
「貴方を心配、する人は・・・たくさん、いた。」
あの宴会を、柄にもなく羨ましいとまで思った。
自分にはガルルしかいない。
そして目の前の男は、そのガルルにも心配されているではないか。
俯いていて見えない大佐の表情が、既に笑ってはいないことをゾルルは知っていた。
そして、それが何故だかとても納得いかなかった。
「大佐。」
ゾルルは両手を伸ばして、大佐の頭を抱え込んだ。
慰めるような優しい包容ではない。
けれども、しっかりと自分の存在を刻み込むような、強い包容だった。
「・・・苦しいよ。」
知るか、と思いながら、ゾルルはその腕に力を込める。
「墓参り、行けば、いい。」
「話し、聞いてた?」
「綺麗だ・・・外は、雪だぞ・・・?」
「・・・」
きっと彼の墓も、白いことだろう。
そこに赤い花を添えて、笑えばいい。
綺麗じゃないか。
「ガルル君と一緒に、来てくれるかい?」
「・・・アイツは、置いて、行け・・・」
「どうして?」
ガルルは何も分からないだろうから。
大佐を悲しませることしかしないから。
お節介で、強すぎるから。
「俺は、行く・・・」
「・・・ありがとう。」
そして微笑んだ大佐は、そっとゾルルの腕を解いた。
ワインを一気飲みしてから、立ち上がる。

「何の花がいいかな。」

そう言って笑う貴方こそが
きっとあの人にとっての花だったことだろう。


不満そうなガルルを置いて、ゾルルは軍の墓地に来ていた。
思ったとおりに雪は降り続いていて、景色を真っ白に染めていた。
「大佐・・・」
ひっそりと、目立たないところにその墓はあった。
ガラスの板には、亡き人の名前と、大佐という階級。
そして階級章が刻み込まれていた。
「あぁ、ゾルル君。」
正装にコートを羽織った大佐が、先に来ていた。
墓の前には花束とワイン。
そして、チェスの駒。
「黒のキング・・・あの人の使っていた駒だよ。」
「そう、か・・・」
ゾルルは、片手に持っていた花束を、その隣に添える。
この場にあるどの墓より、綺麗な墓だと思った。
「その花束、なんか凄いね・・・」
ゾルル持ってきたのは、赤い花だけが詰め込まれた花束。
白い雪に、それは映えるものだった。
「赤は、綺麗・・・だ。」
「それは私も同感だな・・・」
刻まれた名前をジッと見つめたまま、大佐は微笑んだ。
その笑顔が花となり、彩を加える。
そんな大佐を見て、ゾルルは目を閉じた。
そして大佐も、そっと目を閉じて、そこに眠る人に語りかける。

ずっとずっと
貴方だけを見てきました

仕事をしている貴方の姿
世界を憂う貴方の瞳
チェスをしているときの、無邪気な笑顔
最後に自分を見てくれた眼差し
銃口に向けた笑顔
飛び散った鮮血の一滴も

全てを、刻み込みました。

貴方は行ってしまった。
沢山教わりたいことがあったのに・・・
まだまだ、言いたいことがあったのに・・・
でも
貴方が残してくれた虚無が
とても嬉しかった。

出来ることなら、もう一度貴方に会いたい。
そして、笑いあいたいのに・・・

私に出来ることは、何でしょう。
この顔を使って、ずっと笑顔でいることですか?
体中の水分を使って、泣き続けることですか?

出来ることなら、この両手を使いたいのです。
ぎゅっと、強く強く、抱き締めたいのです。
けれども今になっては・・・

あぁ、この両手を空高く上げて

伸ばしても、かきすくめても、貴方にかすりもしませんね。





「大佐・・・?」

ゾルルの呼ぶ声に気がつくと、泣いていた。
いつもの笑顔のまま、瞳を閉じて

幸せだったのだ。
最後まで、貴方が笑っていてくれたことが嬉しかったのだ。

ありがとう
さようなら

教えてくれた事、何一つ忘れません。
貴方のことだけは、この頭の容量がゼロとなったとしても、胸に刻んで・・・
絶対に、忘れません。

「私は、泣かないものだと思っていた・・・」
「俺もだ。」


―泣くな・・・―


風に混じって聞こえた声に、目を開ける。

「大佐・・・」


―またいつか、どこか遠い場所で・・・チェスでもやろうじゃないか・・・―


―次こそは負けないからな・・・―


「勝たなくてもいい・・・傍にいてくれれば、それで・・・」

「大佐・・・空・・・」

ゾルルの声に頭を上げれば、降っていた雪はいつの間にか止んでいて、
眩しすぎるほどの太陽が顔を見せていた。

それがあの人の、本当に最後の笑顔。

大切な人に見せるために隠れていた、日の光。

大佐は手を伸ばす。
伸ばして、伸ばして・・・届かないことくらい、分かっていた。
その指先を、風が撫でていくだけ。

泣きたい衝動を堪えて笑った顔が届くようにと
せめてもの願いだけを込めて・・・


その笑顔だけが

未だに2人を繋いでいた


__________________________


やっと書き終わりました!!

思ったよりも自分が大佐大好きだったんだと思いましたね。えぇ。

アニケロで大佐が出てきた瞬間に顔が変わりましたもん。

・伸ばしても、かきすくめても、貴方にかすりもしませんね。 2(大佐メイン)

2008年12月21日 10時36分07秒 | ☆小説倉庫(↓達)
積もりに積もった雪を踏み鳴らして、大佐は町を歩いていた。
空からは未だ止まぬ雪。
酒に異常なほどの免疫を持つ大佐にとっては、先ほど飲んだ酒が身体を暖めるなんて効果を発揮するわけも無く、冷たい外気が頬を切るような痛みを感じた。
煌びやかな店の中には、母親にプレゼントをねだる子供や、サンタの格好をした定員たち。
温かみのある風景に、自分一人が浮いているような感覚に陥る。
けれどもそれも一瞬の感覚で、すぐに仕事や学校に通う、こういったイベントに関係のない人々とすれ違った。
あの酒臭くなった自分の仕事部屋にいれば、こういったイベントも縁の無いものではないのだ。
けれども、大佐はそれを望まなかった。
どうしても、そういう気分にはなれなかったのだ。
酒は致死量飲んでも酔うことは出来ない。ただ死ぬだけ。
そんな自分は、あの場所にいても仕方が無い。
確かに酒は好きだが、その効果でテンションの上がった先輩達の昔話を聞くのは御免被りたいところだし、
何より、笑顔を保っていられる自信が無かった。
「お兄さん、ちょっと寄ってかない?」
キャッチセールをしている女性に、否定の意味で微笑み返す。
これだけの笑顔でも、大分疲れるのだ。
それにしても、自分は未だにお兄さんと呼ばれる歳なのだろうか。
少し疑問に思いつつ、年月の流れる速さを感じた。
そして再びあの人を思い出し、苦笑した。
こんな雪の日は、何でもかんでもあの人に繋げてしまう。
悪い癖だ。
いったいどれほどの時が経てば、この記憶は薄れるのだろうか。
もぅあれから、大分時が経ってしまった。
それなのに、一瞬の動作も、あの人の瞬きの数も数えられるほどに、鮮明な記憶が消えない。
いつもどこかで、よみがえる記憶。
近いのに遠すぎて・・・
触れることも出来ない、ただの映像。
その記憶の中で、自分は笑うことも出来ずにただ存在するのみだった。

貴方がいないのに

私はどうして笑うことが出来るでしょう

「で、どうして私はまだ帰ってはいけないのですか?」
大佐のいなくなったその仕事部屋で、ガルルは困り果てる。
酒臭い。
匂いだけでも、吐き気がする。
「君は大佐と親しいだろう?」
「はぁ・・・」
「それでだね・・・大佐を慰めてあげて欲しいんだよ。」
「はぁ?」
大佐の先輩だという人々は、神妙な顔つきでガルルに詰め寄った。
その勢いに、押されそうになる。
「な、なんで私が・・・」
「だから、親しいだろう?彼と。そしてあの人に君は似ている。」
それはあまり嬉しい言葉ではない。
けれども、ガルルは大佐の寂しそうな表情を思い出して・・・嫌そうな顔は出来なかった。
確かに自分はその人に似ていたのだ。
そして大佐は、その人をずっと思い続けている。
苦しんでいる。
それなのに、どうして自分が彼を見捨てることが出来るだろうか。
「そうですね・・・大佐とは、親しいですよ。」
「うん。だからね。傍にいてあげて欲しいんだ。せめてこの雪が溶けるまで。」
こんな雪の日に、その人は死んだ。
少しずつ、老いて枯れていく花のようではなく、椿のように、その美しい姿のままで、地に落ちた。
白い雪に、赤はさぞ映えたことだろう。
「大佐は、その人が殺されるのを見てしまったんですか?」
「・・・そうだよ。」
「なのになぜ、前大佐の告発が遅れたんです?普通はすぐに逮捕されるでしょう。大佐になる前に。」
ガルルのその質問に、彼らは難しい顔をした。
「うん、そうだね・・・その疑問は正しいと思うよ。私達も分からないんだよ。」
「アイツは、彼が大佐になって暫く経つまで、そのことを誰にも話さなかったんだ。」
「ある日突然、『あの人を殺したのは彼だ』って告発してね・・・証拠も自分で提示してきたよ。」
その行動は、誰にも理解できなかった。
脅されていたのかと聞いても、首を振るだけ。
曖昧な微笑みは、あの頃からずっと得意だった。
「不思議な奴だな。アイツは。」
その言葉に頷かなかった人間は、いなかった。
―トントン
扉がノックされた。
シリアスな空気は一変して、皆が慌て始める。
ここは大佐の部屋。
本人もいないのにこんなところで宴会を開いているのが見られたら・・・
それは訪問者が誰だったとしてもまずい状況だ。
「えっと・・・」
「どうする?」
ひそひそ語り合う上官を見ていると、嘆かわしい。
とりあえず居留守を使おうと決め込み、その場の全員が口を塞いだ。
―バタン
けれども、扉は開けられた。
「あ。」
「あ!」
「あれ?」
上官の部屋に許可なしで入るなど、どんな輩か。
それは自分達の失態を棚に上げただけの無責任な考えではあったが、誰もがそう思った。
けれどもその流れる銀髪を見て・・・誰もが、納得した。
「何を、している・・・?」
呆れ顔で扉の前に立ち、ガルルを迎えに来たゾルルは溜息をつく。
ガルルが酒を飲めないことを知っている彼は、気持ち悪いほどの酒の匂いに顔をしかめた。
「ゾルル!!」
ガルルは嬉しそうな顔をして、一目散にゾルルの元へ駆け寄った。
とりあえずこの空間から早く抜け出したい。
あまり長い時間ここにいては、おかしくなりそうだった。
「助かったよ、ゾルル。」
こっそりとそう言うと、ゾルルは俯いてポツリと一言呟いた。
「・・・お前が、帰ってこない・・・から・・・」
それはちょっとした義務感。
大佐の部屋に出かけていったガルルが帰ってこないのなら、それは迎えに行かなくてはいけないだろう。
恋人として、家族として、一兵士として。
「なんだ、君も帰ってしまうのか。」
「えぇ。お疲れ様でした。」
「じゃあ、大佐の事・・・頼むぞ。」
最後に告げられたその使命に、ガルルは真面目な顔をして敬礼をした。
それは命令でも指令でもなく、ただ純粋に友人を助けたいという仲間意識。
余計なお世話かもしれない。
けれども、あの顔を見て何もしないでいられるだろうか。
「行こうゾルル。」
頷いたゾルルと共に部屋の外に出て、ガルルは大きく息を吸った。
新鮮な空気で酔いを醒まし、これからすべき事のために、頭を覚醒させた。
「・・・何か、あったのか?」
横を歩くゾルルが心配そうに尋ねる。
流石はアサシンと言ったところだろうか。
空気を読むのが早い。
「大佐が、どうした?」
彼らの言葉が気になっていたのだろう。
ゾルルの問いに答えるため、ガルルは少しペースを落として歩いた。
そして数秒考える。
「大佐は・・・今日のような日に、大切な人が殺されたらしい。」
「・・・」
ゾルルが、「それがどうした」というような目で見ているのが分かる。
「・・・少し長くなるが、良いか?」
頷いたゾルルに微笑んでから、ガルルは話を始めた。

「また負けたか・・・」
ガラステーブルの上の駒が崩される。
悔しそうに呟いた大佐に、目の前の少佐は苦笑した。
「前回よりも苦戦しましたけど。」
「よく言うよ。」
大きな溜息を一つついて、大佐は立ち上がる。
それに合わせて、少佐もその身体を引き伸ばした。
「あんな会議に出席するよりも、ずっと頭を使うだろ?」
「そうかもしれませんね・・・そうですよ、どうして会議を抜け出したんですか?」
最初の質問に戻った少佐に、大佐は困ったような顔をした。
答えづらい質問ではないはずだ。
少佐は答えを待つ。
やがて、メアリーの視線も加わった威圧感に耐え切れなくなった大佐が、口を割った。
「嫌いなんだよ・・・あの会議。」
「何故です。」
「俺達は、何のために指令を出す?殺すためじゃなかったはずだ。」
顔は笑顔をつくろっていた。
けれども眼差しは、悔しさや苦々しさを映し出していた。
「それなのに、奴等の言う事はただの殺人計画でしかない。あんな会議は必要ないだろう。」
「確かにそれは同感ですが・・・」
「良いんだよ。俺は俺のやり方を貫く。」
「反感を買ったら命を狙われるかもしれないんですよ?」
「それもまた良いじゃないか。」
あっけらかんとした大佐の態度に、メアリーは溜息をつき、少佐は目を丸くした。
「それでも、良いじゃないか。」
どこか遠くを見るような眼差しが、いつもの大佐とは違う雰囲気を作り出していた。
殺されていいはずが無い。
死ぬことなんて、誰も望まない。
少佐には分からなかった。
何が良いのか。
彼は何を諦めたのか。
いくつもの思考回路を使って考えて、そして数分が経った。
「分かったかい?」
大佐は、優しい眼差しで少佐の頭を撫でた。
その手の温かさに、ほっと心の緊張が解ける。
「貴方は生きることを諦めたわけじゃない。でも、どうして殺されても良いんです?何のメリットがあるんです?」
少佐の素直な質問。
いくつもの思考回路と頭脳を持つ彼でも分からない、感情。
「これは経験が物を言うんだろうね。君はまだ分からないだろう。体験したことが無いから。」
経験を問われると、どうにも頭が上がらない。
少佐は軍に入ってそれほど経っていなかったし、実戦も何もまだまだ浅かった。
「ここで仕事をしていると、どうしても人に殺人を命じることしか出来ないんだよ。」
それはとても寂しいことだ。
「出来るだけ死傷者を少なくするために頑張りたいところだが、もちろん、ゼロにすることは出来ない。」
自分の無力さを責め立てる日もある。
「そういうことを考えるとね、思うんだ。」
「・・・殺すより、殺されたい?」
少佐はまとめたことを言葉にする。
それはある意味、自己犠牲かもしれない。
その答えに、大佐は嬉しそうに笑って、また少佐の頭を撫でた。
「よく出来ました。」
殺すより、殺されたい。
そう聞くとなんとなく顔をしかめたくなる。
けれども、決しておかしい事ではないはずだ。
「殺すくらいなら、殺されるほうがマシだ。」
それほどに、大佐は人が好きなのだと思った。
少佐は深く頷いて笑う。
「やっぱり、貴方に着いて抜け出してきて良かったです。」
「そうかい?」
「えぇ。」
メアリーは溜息をついていたけれども、それでも少佐は嬉しかった。
やはりこの人は素晴らしい人だと、そう確信できたから。

「・・・と、いうことだ。」
ゾルルに一通りの話を伝えると、ガルルは白い息を吐いた。
いつの間にか町に出て遠回りをしながら家路についていて、寒さも尋常ではない。
同じように白い息を吐きながら、ゾルルは俯いていた。
「それで、大佐を慰めてくれるように頼まれてな・・・」
「大佐が、望まなくても・・・か?」
「・・・望まないかどうかも、分からないからな。」
ゾルルは不満そうに、肩に積もった雪を払った。
「人が亡くなるというのは、辛いものだろう。誰にとってもな。」
そうだろうか。
ゾルルは思う。
自分は恐らく、大切な人が死んだら、何も感じられなくなる。と。
「しかも殺されたんだからな・・・相手を恨む気持ちも分かる。」
恨んでいるかどうかなんて、それこそ分からないだろう。
勝手に同情をするガルルに溜息をついて、ゾルルは空を見上げた。
紙吹雪のような雪が、ひらひらと落ちる。
これから更に積もるだろう雪は、しんしんと体の熱を奪い去っていく。
積もった雪は、綺麗だ。
「混乱していたんだろう。大佐も。」
「そう思う、か?」
ゾルルは素直な疑問を口にした。
「白い雪に、広がる・・・血・・・綺麗だ・・・」
その言葉を聞いたガルルは、驚いたように口を開いた。
「それが、大切な・・・奴の血なら・・・なおさら、だ。」
ゾルルには、それが不思議と正解のように思えた。
むしろそれでは足りないくらいに残酷な、他の思いがあったようにすら思える。
あの微笑みが、決定打。
「大佐が、まさか・・・」
あの大佐に限って、そんなことは無いだろうと、そう言ったガルルを一瞥してから、ゾルルは立ち止まった。
「ゾルル?」
「先に、帰れ。」
不思議そうに首をかしげるガルルに目もくれず、ゾルルは角を曲がった先へと消えた。

「あーあ・・・」
自宅に戻った大佐は、わざとらしいほどの溜息をついた。
暖房をつけると、窓が曇り始める。
そんな窓際に立って、見えなくなる前に町の景色を眺めた。
相変わらず賑やかで煌びやかな、普通の光景。
各々が幸せな時間を過ごしているという真実。
ここには大切な人がいないという、現実。
「飲んじゃおうかな~・・・」
ふらりとキッチンへ行き、ワインボトルを2本とグラスを持ち出す。
そして窓際へ戻ると、白く曇ったガラスにぐるぐると絵を描いた。
キング、クイーン、ナイト、ビショップ、ポーン・・・
それぞれの役割なんて無視して、適当な位置に書き並べる。
あの人とのチェスは、いつだって自分の勝利で終わった。
一度くらい勝たせてあげるべきだったかもしれない。
そんなことを思いながら、ただただその落書きを眺めた。
あの人がいなくなってから、そういえば数えるほどしかチェスなんてしていない。
そもそも、自分と張り合える頭を持った人もいない。
そういう面では、クルル曹長も貴重な人材だ。
一度手合わせしたい。
グラスに赤いワインを注いで口に含むと、大佐はうっすらと微笑を浮かべた。

―ピンポーン♪

突然鳴ったチャイムに、びっくりしてワインを噴出しかける。
「え?」
滅多に人が来ないこの家。
来る可能性がある人物として幾人かを思い浮かべるが、このタイミングでやってくる人物は思い浮かばない。
慎重に扉の前に立つ。
「どちら様~?」
いつものように軽い口調で尋ねた言葉に、ドア越しに返答が返って来ることを願った。
「・・・ゾルル、だ。」
確かに返答は返って来たものの、それはそれで逆に不安を煽る。
「ゾルル君?」
なぜ今日に限って彼がこの家を訪れてくるのか。
それは先ほどまで関わっていた人々に関係あるに違いなく、用件が和やかな会話であるわけもない。
恐らく、聞いたのだろう。
今日という日の事を。
「今あけるからちょっと待っててね。」
そういえば、インターホンなのに相手の顔を確認せずにドアの前に立ってしまうなんて意味が無い。
この家には常に閑古鳥が鳴いていることを、改めて思い起こさせた。
「はいはーい、いらっしゃーい。」
扉を開けると、コートを羽織って肩に雪を積もらせたゾルルがいた。
いつものように無表情で、何を考えているのか分からない。
「大丈夫?寒くない?」
こくりと頷いたゾルルの右頬は赤い。
強がりだと分かっている大佐は、苦笑して肩の雪を払い落としてやり、室内に招き入れた。
「これ・・・」
前を歩いていた大佐に、ゾルルはラッピングされた包みを手渡した。
開いてみると、包まれていたのはワイン。
嬉しそうに微笑んで、大佐はキッチンからグラスをもぅ一つ取り出した。
「飲めるかい?」
「あぁ。」
意外ではない。
彼がお酒を飲んでいる姿を見たことはないものの、アサシンは比較的酒に強く仕込まれている。
飲めなくては、仕事にもならない。
「ガルル君がいるから、あんまり飲まないのかな。」
「アイツは、香りでも・・・酔う。」
そうだね、と相槌を打ってから、大佐はワインを注ぐ。
先に出ていたワインもそのままにして、ゾルルの持ってきた土産の香りを楽しんだ。
「で?何の用かな?」
向かい合ったソファーに座ると、大佐は足を組む。
それは大佐にとって話を聞く姿勢で、頭をフル回転させ始めるときの癖でもあった。
「ガルルが・・・すまな、かった。」
「?」
謝られるようなことは何一つされていない。
身に覚えの無い謝罪に、大佐は戸惑った。
ゾルルは更に続ける。
「貴方を、何も分かって・・・ない・・・」
自分だって分かるわけではない
けれどもゾルルは、その痛みくらいは感じ取ることが出来たつもりだった。
少なくともガルルよりは。
「的外れ、だ。」
厳しすぎるほどのその発言は、大佐の予想を越えた。
「彼が、何をわかっていないと思うんだい?」
ゾルルは溜息をついた。
大佐の傍にいると、分からなくなる。
全ての表情が笑顔だと思ってしまう。
けれどもそうじゃない。
ガルルは大佐に近すぎて、分からないのだ。
必要なのは、哀れみじゃない。
哀れまれることは、なんの役にも立たないと大佐は知っているはずだ。
そしてガルルは、大佐の悲しみが彼の無残な死を見たことから来ていると思い込んでいる。
そうじゃない。
「雪・・・血・・・美しい、風景だ。」
その言葉に、大佐はガルルのようには驚かなかった。
ただ微笑んで、ワインを飲んだ。
ゾルルが美しいと思ったその光景が、大佐の目にどのように映ったか。
それは悲惨な光景でも、衝撃的な光景でもなかった。
「うん。私はね・・・雪が好きなんだよ。」

寒い寒い、雪の日だった。
大佐がいないと言われて、またどこかでサボっているのだと思った少佐は、捜索を手伝っていた。
ケロン星は雪。
そして軍の船の中庭も、雪だった。
どこか嬉しそうな女性達を横目に、少佐は大佐のいそうな場所を考える。
しかし今回は、近くを通った先輩や同期達に尋ねても、なかなか見つからない。
いつもなら自分が真っ先に大佐を見つけるのだ。
けれどももぅ、誰かが見つけているかもしれない。
そう思った少佐は、大佐の自室へと踵を返す。
そしてその途中だった。
冷たい空気が、首筋を撫でた。
びっくりして辺りを見渡す。
真っ白な通路に扉などは無く、いつものようにせわしなく動く軍人達も、何事も無いように歩いていた。
「気のせい・・・?」
首筋に手を当てて、俯く。
嫌な予感がして、胸が騒いだ。
「大佐!」
声を上げて、走る。
誰か見かけた人がいれば、声をかけてくれるはずだ。
さっきよりもきょろきょろと視線を動かしながら、少佐は走り続けた。
「おい、君!」
「!!」
後ろから呼び止められ、振り返る。
妙齢の男が、横の道を指差していた。
「大佐なら、俺がみたときはそっちに曲がって行ったぞ。」
「あ、ありがとうございます!!」
深々と頭を下げ、少佐はペースを上げて走った。
長く続く道。
それが途絶える頃には、冷たい風が体温を奪っていた。
「大・・・!!」
人気のある中庭と正反対の場所にある、寂しい庭。
そこでも例外なく雪は降っている。
そこに大佐の姿を見た少佐は、声を上げようとして・・・けれども出来なかった。
「大佐・・・?」
小さく呟いて、物陰に隠れる。
大佐の向かいには、自分もよく知る人物の姿。
中佐という階級を持つ男だった。
何かを話し合っているように見える。
2人の頭にはうっすらと雪が積もっていて、長い時間そこにいるのだと分かった。
「!!」
突然、中佐は懐から拳銃を取り出した。
それは古いもので、けれども随分な殺傷能力を持っているものだった。
それを見た瞬間、大佐は大きな溜息をついたようで、白い息が宙に消える。
いつもは笑っているその顔が硬いものになっているのを見て、少佐は心臓が止まる思いだった。
けれども、頭は冷静に沢山のことを考える。
彼らが向かい合っている理由
話し合っていた内容
銃を向けた意味
これから起こるだろう、悲劇
「大佐・・・」
呼び戻すように呟く。
すると、大佐は視線をこちらへと向けた。
それは偶然だったかもしれない。
けれども、それによって彼が少佐を見つけてしまったのは、不幸だった。
「っ!」
暫く少佐を見つめてから、大佐は中佐に向かいなおした。
それが何故だか悲しくて、
苦しくて
不安で
怖かった。
大佐はもう一度大きな深呼吸をしてから、
微笑んだ。
いつものようにやわらかい笑みを、銃口へと向けた。
殺そうと思えば、今この場所で中佐を殺すことも、大佐には出来た。
少佐はそれを知っていた。
けれどもそれをしないことも、分かっていた。


―パンッ―




アニケロ感想。

2008年12月20日 10時53分33秒 | ☆Weblog
昨日の夢に、大佐が出て来たんすよ・・・
そんで今朝ケロロを見たら・・・

大佐だ!!!

大佐が喋ってくれた!!凄い喋ってくれた!!!
そしてケロロ小隊に「メリークリスマス」って!!!!
後ろにいた兵の2人が驚いて顔を見合わせてるのとかに萌えたw
絶対困らせるようなことしまくってるんだろうな~(ニヤニヤ

キルル出動!!

何あのキルル!!超可愛いんですけど!!
黒いよ!!可愛いよ!!

ケロロが本部に送った「メリークリスマス」の意味が「地獄で会おうぜ」って・・・
それはいくらなんでもその~・・・
え?大佐ってそんな悪なポジションなの?
そしてモアちゃん最強ww

結局プレゼントはキルルではなくてスモモちゃんのぬいぐるみでしたが、
パッケージがキルルってどうよ。

大佐お茶目!!

「これで士気も高まっただろう。」って!!
確信犯!!
てかマジでプレゼントスモモちゃんですか!!(爆笑
大佐!!

そういや、大佐って赤目なんすか・・・?

これはアレだろ。
ガルルに渡すプレゼントとのギャップを笑うべきなんじゃないか?
ガルル小隊には絶対に彼、もっと良い物渡してるよ。(違

次回は何だっけ。
あれ?

大佐に興奮しすぎた。
自重する。

そして予知夢に感謝する。

加わった!!

2008年12月19日 19時14分11秒 | ☆イラスト
学園モノに、新しい仲間が加わりましたよ!!

その名も、「上野 飛鳥」!!



かわいこちゃんデスv

そしてメインメンバーの「轟 裕真」は、見た目が変わりました!!



やんちゃ君になりましたよw
こういうキャラなんですよw
何の問題も無いですよww(何が

これから・・・頑張り、ます。